その男、八幡につき。   作:Ciels

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On the list2

 

 

 昨日の事を思い出してなんだかイライラしてくる。

ちくしょう、殺すとは言ったけど本当に殺すわけにはいかないし……

俺が塀の中にぶち込まれたら小町と戸塚に会えなくなる。

それはマズイ、非常にまずい。

出所する前に死んでしまう。

 

俺がくだらないことで必死に悩んでいると、由比ヶ浜が机の前にやって来た。

見上げると、大きなおっぱいの上に由比ヶ浜の笑顔が浮かぶ。

 

 

「ヒッキーは何もしなくていいからね!」

 

 

「なんだお前、何かいい案あんのか?」

 

 

そう尋ねると、由比ヶ浜は前の席に座る。

そこお前の席じゃないだろ、という注意はするだけ無駄なのでしない。

 

 

「とりあえず女子に聞いてみる!クラスの人間関係なら女子の方が詳しいし!」

 

 

得意げに語る由比ヶ浜。

 

 

「共通の嫌な奴の話したりすると、結構盛り上がって色々話してくれたりするし!」

 

 

「それじゃあお前らが嫌な奴らじゃねぇかよ」

 

 

なんだって女ってやつは人の事ねちねち陰で言うかなぁ。

まぁチェーンメールしちまうような男もいる事だしお互い様なのだろうか。

それにしても、男はここ数年の技術でそう言う風に変化はするが、女は変わらないもんだ。

普通は逆って言うが、俺はそうは思わない。

 

 

「と、とにかく!私やるから気にしなくていいよ!」

 

 

確かに、ここは由比ヶ浜に任せるべきなのかもしれない。

だって俺が聞き込みすると職質されるか平塚に呼び出されそうだもん。

 

 

「じゃ任せるわ」

 

 

すると由比ヶ浜はとっておきの笑顔を作り、

 

 

「うんっ!」

 

 

と頷いて席を後にした。

そしていつも一緒に絡んでいる女二人の下へ駆け寄る。

一人は俺がぶっ叩いた三浦とか言う女王様、もう一人は時折何か騒いでいる眼鏡の女の子だ。

犬が飼い主に向かって走っていくようなそぶりでそっちへ向かうと、由比ヶ浜は聞き込みを開始する。

 

 

「いやはや~、てかさ、戸部っちとか大岡君とか大和君とか、最近微妙だよね~!」

 

 

「馬鹿野郎……」

 

 

思わず口癖が出てしまう。

なんだってあいつは急にターゲットをディスり始めてんだ馬鹿野郎、これじゃ怪しむだろうが。

三人を話題に出すとしてももうちょっとなんかあんだろうに。

 

どうやら由比ヶ浜の言動をおかしく思っていたのは俺だけではなかったらしい。

眼鏡の子がちょっと引いた様子で言う。

 

 

「結衣ってそういう事言う子だったっけ……?」

 

 

「あーさ、そういうのってあんま良くなくない?友達の事そう言うのってちょっとマズいっしょ?」

 

 

正論だ。

普段の行動はどうしようもないが、今だけはあの金髪縦ロール野郎に同意する。

 

 

「あぁいや!違くて!その……気になると言うか!」

 

 

必死に由比ヶ浜が弁解をしている。

いやその言い方はまた別の問題があんだろ由比ヶ浜。

 

 

「なになにぃ~?あいつらの誰か好きなん?」

 

 

イジワルそうな顔で由比ヶ浜に迫る金髪野郎。

あーあ、面倒くさいことになってんなぁ、と思って少し笑っていると、

 

 

「うるさいし!あんま調子乗ってっとブッ飛ばすよッ!」

 

 

急に、由比ヶ浜がキレ始めた。

突然の転調に笑いを止めて目を見開く。

それは怒鳴られた金髪と眼鏡の女の子も同じだった。

 

クラス全員が由比ヶ浜に注目する。

その様はまさしく、この間由比ヶ浜を助けた時とまるっきり同じだった。

 

ハッと、由比ヶ浜は自分がしてしまった事の大きさに気付いてわたわたし出す。

そして、

 

 

「な、な~んちゃってぇ、てへっ」

 

 

いくらなんでもそりゃキツイだろ。

そう思わずにはいられない返しだった。

 

しばし教室を静寂が包む。

どうすっか、助けに入るか?いや今入ったら助けになんねぇどころか火に油を注ぐことになりかねないからなぁ。

大友と村川、笑ってんじゃねぇよ。

 

 

「……だ、だよねぇ!あ、あはははは」

 

 

「そ、そうだよ、あはははは」

 

 

なんだそりゃ、無理矢理すぎんだろ。

いつの間にか教室の空気も元に戻っている……こりゃ疲れるわ。

俺だけがおかしいのだろうか?

 

だが、由比ヶ浜の受難はこれでは終わらない。

 

 

「でさ、結衣の好きなヤツってだれよ?いるんしょ?」

 

 

一旦落ち着いた俺の心はまた慌ただしくなる。

 

 

「だからうるせぇって言ってるしッ!ぶち殺すぞ優美子ォ!!!!!!」

 

 

「ヒィッ!?」

 

 

また由比ヶ浜がキレた。

もう今回は笑うしかない。

 

 

「……ウソウソ!そんなに怖がらないでよ~」

 

 

「こここここ恐がってないし!ないし!」

 

 

キャラが完全に崩壊している。

どっちもおかしい事になっているが、面白いので観察しよう。

つーか、あれは本当に切れているのだろうか?

それともああいう芸なのか?

 

 

「気になってるのは……あれだし!三人の関係性!」

 

 

取り繕ってそんな事を言いだす由比ヶ浜。

お前それ犯人に聞かれてたら怪しまれんぞ。

 

だが、意外な人物が絡んできた。

それは、あの静かそうな眼鏡の女の子。

 

 

「分かる、分かるよ。結衣も気になってたんだ。実は私も……」

 

 

あれ、ここに来て進展したか?

俺は懐から学生手帳を取り出す。メモの部分なんて入学してから一回も使ってねぇからな、ここが使いどころだ。

 

 

「そうそう!なんかギクシャクしてるっていうかさー……」

 

 

だから本題をいきなり言うんじゃねぇよ、いろんな人間がこの教室に居るんだからよ。

 

 

「私的に、絶対……」

 

 

メモに書き込む準備は万端。

彼女の眼鏡が光る。

……やっと聞き込みらしい事が出来る。

 

 

「戸部っち受けだと思うのッ!!!!!!」

 

 

戸部は受け。

そこまでメモに書き込んで、あ?っと声を出した。

なんだ受けって。

 

あまりの大声にクラス中があの眼鏡を見る。

 

 

「え?」

 

 

由比ヶ浜のマヌケな声が漏れる。

三浦は頭を抱えている。

 

 

「大和君の強気攻め!大岡君は誘い受けね!あの三角関係絶対なんかあるよね!」

 

 

興奮した様子で由比ヶ浜に攻め寄る。

教卓まで追い込まれると、興奮した眼鏡は逃げ場のない由比ヶ浜にさらに攻撃を仕掛けた。

 

 

「でもねでもね!?きっと三人は隼人君狙いだと思うのッ!!!!!!」

 

 

つまりあれか、あの眼鏡は腐女子ってやつか。

んで、あの取り巻き三人はホモで葉山のケツを狙ってると。

シャブやってんのはあの眼鏡じゃねぇか。

由比ヶ浜すまん。

 

その後、眼鏡が鼻血を噴き出したりしたがそこは割愛。

畜生、初めて生徒手帳に書き込んだもんがホモネタとか小町に縁切られちまうじゃねぇか。


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