その男、八幡につき。   作:Ciels

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 体調崩してました


テニスと恋心

 

 

 

 

 戸塚の依頼が転がり込んできてから数日が経った。

俺たち奉仕部は総出で(と言っても三人とおまけ一人だけだが)彼の練習をサポートし、技術の向上に努めていた。

しかしまぁ、数日の練習で劇的にうまくなるわけがない。

それに戸塚も自覚している通り、あまりテニスが強くないのだ。それでも戸塚というだけで許されてしまうのだが。

 

 

「あっ!」

 

 

と、そんな事を考えていると戸塚が転んだ。

立ち上がろうとする可愛らしい戸塚だったが、膝には擦り傷があった。

 

 

「彩ちゃん大丈……」

 

 

「おい戸塚!大丈夫か!おい雪ノ下、救急箱持って来い!」

 

 

近くにいた由比ヶ浜よりも先に戸塚へと駆け寄る。

 

 

「なぜあなたに命令を……」

 

 

「いいから持って来いよ馬鹿野郎!ほら!」

 

 

「……分かったわ」

 

 

雪ノ下に反論を許さず、俺は命令した。

彼女もそれに素直に従い、保健室へと駆ける。

クライアントが怪我をしたのだ、あいつだって何だかんだ言いつつも優先的に戸塚の為に動くだろう。自分が提案した練習メニューで怪我されて練習できなくなったりでもしたら、あいつは自分を許せないだろうしな。

 

戸塚の膝の傷に手をやる。

そこまで痛そうには見えないが、今までの疲労も祟っているのだろう。

 

 

「他に痛いところないか?」

 

 

「大丈夫……僕、雪ノ下さんに呆れられちゃったかな」

 

 

ふと、戸塚が悲しそうな顔をしてそう言った。

 

 

「なんでそんな事思うんだよ」

 

 

「だって、いつまで経っても上達しないんだもん……そりゃあ見捨てたくもなるよ」

 

 

いつになく弱気な戸塚。

それをフォローしたのは珍しく由比ヶ浜であった。

 

 

「それは無いと思うよ!ゆきのん、頼ってくる人を見捨てたりしないもん!」

 

 

それに便乗する様に、材木座が笑って言った。

 

 

「そうですよ戸塚の叔父貴。ああ見えて、雪ノ下の姉貴は面倒見いいですから。ね?兄貴」

 

 

なぁにが叔父貴だこの野郎、馴れ馴れしく呼びやがって。

そもそもこいつ奉仕部じゃねぇくせによぉ。

 

 

「ね?じゃねぇよ、お前が戸塚の名前呼ぶんじゃねぇ馬鹿野郎」

 

 

「えぇ、ちょっと兄貴、酷くないっすか?」

 

 

「酷くねぇよ馬鹿野郎。いいから、お前なんか飲みもん買って来い」

 

 

「ヒッキーって中二には厳しいよね……」

 

 

何か知らないが由比ヶ浜に呆れられた。

なんだこいつら、いちいちうるせぇ奴らだな。

 

材木座に飲み物を買わせに行かせたので、とりあえず休憩と称し戸塚をベンチまで運ぶ。

肩を貸してやるが、その際俺は異様なまでに戸塚に密着してみせた。

汗かいてるのになんていい匂いなんだろうか。

 

 

「比企谷くん、近いよ……恥ずかしいって」

 

 

あまりにも匂いを嗅ぐことに必死になり過ぎて、戸塚の耳元まで鼻を近づけていた。

恥ずかしいと言う割には、戸塚の顔はまんざらでもないような気もする。

 

 

「いいじゃねぇかよ、役得だよ役得」

 

 

「もう、比企谷くんったら……」

 

 

ベンチに座ってもなお、俺と戸塚は密着したままだ。

これは上原関係なく、ただの比企谷 八幡だったとしてもこうしていたかもしれない。

 

肩を抱き寄せ、頭を撫でる。

最初こそ戸塚は驚いていたが、次第に自ら頭を寄せるようになったため、遠慮なく撫でた。

こいついいシャンプー使ってんのかな。

 

その間由比ヶ浜がじっとこちらを見ていた。

 

 

「なに見てんだよこの野郎」

 

 

「べっつにぃ!ヒッキーのスケベ!」

 

 

「なんだこの野郎!」

 

 

「うっさいしこの野郎!馬鹿野郎!」

 

 

「馬鹿が人に使う言葉じゃねぇだろ!なめてんのか!」

 

 

「バーカバーカ!バカヒッキー!」

 

 

「このやろ!待てコラ!」

 

 

そうして唐突な追いかけっこが始まる。

片方はテニスラケットを振り上げ、もう片方はデカいメロンを揺らして走る。

 

そんな光景に戸塚は笑った。

まるで子供を見ているようだったからだ。

しかしそれと同時に、ちょっとばかり由比ヶ浜に嫉妬も覚えていたことに、彼は気が付けなかった。

 

 

 

 

 

「はぁー、はぁー……」

 

 

「はぁ、はぁ、この野郎、疲れんだよ、馬鹿野郎」

 

 

雪ノ下でもないのに息が上がっている。

見た目によらずこのデカ乳娘はかなり体力がある。

 

二人で息を切らして座り込んでいると、戸塚が言った。

 

 

「仲良いんだね、二人とも」

 

 

にっこりと笑ってそう言う戸塚。

由比ヶ浜は息を切らしながらもそれを否定した。

 

 

「べ、別に仲良くなんて……」

 

 

「そうだぞ戸塚、こんな馬鹿と仲良いわけねぇじゃねぇか、なぁ?」

 

 

「なんで私に聞くし!?」

 

 

そんな時だった。

 

 

 

「あれ~?隼人ぉ、なんか面白そうなことしてるよ~?」

 

 

聞き覚えのある甲高い声がコートの外から聞こえた。

 

 


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