「ヒエンの用意ができたぞ。」
「……は?」
当然、変わらない彼の顔色を
「スマネエ、シュウ。何言って――――」
「俺を問いただすより、その目で確かめた方が早い。……ただし、多少の覚悟が必要になるだろうがな。」
そう言って用意した車に俺たちを乗せると、彼は町外れにあるヒエン専用の
その
もちろん、その内容はガルアーノ関連。テレビ、ラジオ、新聞。あらゆるメディアがその話題を一面に
ただし、彼から聞いたその内容は俺の予想していたものと
「
ガルアーノは「使用人に書類を取りに行かせたところ、事後現場を発見した」、「
これについてメディアは「急成長を続けるアルディアを
それでも、あの市長をこき下ろすような発言は一切なかったという。
今回の件で増々
「結局、何が狙いなんだ?」
頭の悪い俺が根を上げ聞き返すと、意外にも彼は「ガルアーノの
「俺たちを
「でも、女神像の一件だってあるんだぜ?もしも町ごと何かの実験に使おうとしてんなら黙ってるわけにもいかねえだろ。」
「そしてまた、ミリアを後回しにするのか?」
運転中の彼は隣の俺にチラリとも視線をくれずに言い返す。
「……」
「目の前のことに気を取られるのはお前の悪い
今まで、彼は無駄に俺の『
どちらかと言うと、自分からは決して触れてこなかった。
「この国にいる賞金稼ぎはお前だけじゃない。市長の
違う。見えてないわけじゃない。ただただ、頭に血が
アレの顔がチラつくだけで頭がパンクしそうになっちまう。色んなヤツの悲鳴が聞こえてくるんだ。
そんなことは彼だって百も承知だ。分かった上で言ってるんだ。「お前は未熟だ」って。
「だが、ミリアを助けようとしているのはお前だけだ。……違うか?」
そんな俺が今の今まで賞金稼ぎをやってこれたのは間違いなく、こうした彼の
彼は常に俺の一歩先に立ち、俺の見える世界の形を
「一人で歩かなきゃ」自分の未熟さを思い知る
「とは言え、何かを仕掛けるにしては町への影響が小規模すぎる。まだ
少なくとも俺たちを
「ただし、連中の気が変わる前にお前がその重い腰を上げられればの話だがな。」
ここまで甘やかされて立ち上がらなかった日には、いよいよ彼に
「問題ねえよ。」
それに、今の俺には護るべきもんがもう一つあるんだ。
「終わらせてやるさ。一日でも早く。」
バックミラーに映る彼女は心なしかよそよそしく、それでも俺の視線に気付くとやんわりと
「……マジかよ。」
多少形が変わってるし、
「なんでここに?」
「何!?」
「て、てめえ、エルク!よくもヒエンを
トマトのように顔を真っ赤にした中年が
「わ、悪かったよ。でも俺だってそれなりに努力はしたんだぜ?それでも見つかんなかったんだよ。」
その
「んなこと聞いちゃいねえんだよ!このクソガキがっ!」
「ど、どうしろってんだよ。っていうかなんでここにあるんだよ?」
本当に、
「話をすり替えるんじゃねえ!!」
ギリギリと
「感謝シロ。わシがこのオンボロをここマで運ンでヤッタんジャぞ。」
ボディの
「……何なんだよ。アレ。」
闘犬に
「ヂークベックだよ。お前が苦労して掘り出したな。」
「……おいおい、オッサンまでどうしちまったんだよ。」
なんだかヒエンが「老人ホーム」か何かに見えてきた。
「久しぶり…という程でもないが、
ヴィルマー・ヴィルト・コルトフスキー。元ロマリア出身の科学者で、ガルアーノの組織に
「こんなとこ来て、リアは大丈夫なのかよ?」
何にしても今の俺にとって渡りに船と声をかけてみるが、「そうはいかん」と中年らしからぬ怪力が俺の胸元をグイッと引き寄せた。
「こっちの話がまだだろうが!」
「まぁ、主人。そう言ってやるな。
言い方が引っ掛かるけれど、捨てる神あれば拾う神ありだと思った。けれど、興奮する闘犬にその
「仕事どうのとかいう話かよ!俺ぁ
首をグイグイと
「主人、少しは落ち着け。そして、よく考えてもみろ。」
ヴィルマーのオッサンは
「機械は愛を
オッサンは知らない。
百人が百人
「そウだぞ。わシナンて3000年待ッたンジャからな。キサマが生キトる間に帰ってキたコとをもット喜バンか。」
そして、ポンコツは
「
そんなの初めて聞いたぜ。
「だいたいこれはウチの問題だ。よそ様がしゃしゃってくるんじゃねえ!」
ヴィルマーのオッサンは「
それをよく知るシュウは一切茶々を入れず、好きなように言わせている。
『聞こえている』リーザだって右へ
二人の様子から
だというのに連れのポンコツは一切空気を読まず、その頓珍漢なファイティングポーズも
「キサまハ
「……」
全く意味が分からない。だから誰も相手にしない。けれどその個性のあり過ぎる声はどうしたって耳についてしまう。
「おい、ジイさん。そのガラクタを黙らせとけよ。」
「悪いな。止め方を知らんのだ。」
「ったく、どいつもこいつも自分が造ったものへの責任や愛情ってものがねえのか?だらしねえ。」
さすがに
だけどビビガがこの調子じゃあ、その大人の対応がいつまで持つか分からない。
それに、この油に火を注ぐバカをなんとかしないことには―――、
「
―――遅かった。
「……おもしれえ。おら、ポンコツ、言ってみやがれ。俺がいったい何を分かってねえってんだ?」
熊やライオンも
マイナスネジのような、開いているかどうかも分からない瞳がギラギラと
「鶏ガ卵の世話を
……宗教か何かの
「そコにハ後も先もなイ。誰シもが卵でアり、鶏デモある。親や子もナク、兄ヤ弟もナい。しかシ鶏と卵ノ間には必ズ、神ヤ仏ですラ
それは打ち込まれたプログラムのようにツラツラと
「小僧がそノ足で卵ヲ踏みツケタと思うか?オンボロの空駆ケ巡る喜びを誰が与エテきタと思う?二人が卵のマま墜ちる不幸がどレほドノものか。キサマに理解できルか?」
「そんナコとモ理解デきんキサマが二人ノ世界を
どうしてだか、目の前で
「キサマが言っとルのハタダの
ポンコツが、自由を持て余す「人間」でもなく、命無き「物」とも言い難い「デキソコナイ」だからこそ、その世界がよく見えたのかもしれない。
「キサマがソの心臓を
「心」を持ちながら「命令」でしか動けない存在だからこそ、そこに
「……ろくに中身の詰まってねえガラクタのくせに中々骨のあることを言うじゃねえか。」
ビビガの目が、犬から人へと変わり、ポンコツの
「テメエの言うことももっともだ。神様ってのは
自分の世界をこの世で最も愛している中年が、こんなにも簡単に他人の
ビビガの人を見る目に間違いはない。だからこそ俺にはそれが信じられなかった。
俺はともかく、シュウだって認められちゃいないってのに。
……少なくとも、今の
……何にせよ、ビビガの顔に人間らしい肌色を戻してくれたことがありがた過ぎる。
ポンコツとの遣り取りに一段落ついて落ち着いたビビガが
「わ、分かってるって。悪かったと思ってるよ。」
俺は命知らずの機械ほど
「……当分は
「お、おぅ。」
「だがな、爺さん。これだけは言わせろ。」
途中、立ち止まり話し掛ける姿はもう、いつもの意地汚い「大家」の顔に戻っていた。
「
「当たリ前ジャ。ワシもリアやコのジイさんに付けタクてしかたガない。」
指差されたオッサンは
「リアってのはそのチューリップを描いた子ぉのことか?」
「ソうじゃ。カッコいイじゃロ?」
「いいセンスしてんじゃねえか。」
などと不可解な理解を深め合い、ビビガはヒエンの中へと消えていった。
※恥かむ(はにかむ)
当て字です。
※電気柵(でんきさく)
畑を害獣から守るために、張り巡らせた柵に電気を流したもの。
※マスティフ
犬の一種。セントバーナードや土佐犬のルーツにもなっている。軍用犬や闘犬として飼育されていたことから分かるように、体格が良く、攻撃的な犬種。現在、この攻撃性は改善され、一般家庭でも飼われている。
古代ローマでは熊やライオンと戦うこともありました(犬側は3、4匹ですがそれでも凄い)。
※産廃(さんぱい)
「産業廃棄物」の略。産業(農業や工業など)によっての活動によって生じるゴミのこと。
※鶏と卵
……どうにか上手いことを言わせようと頑張ってみましたが……(´;ω;`)