一言の警告もなく、
そうした彼の機械
「エルクの様子はどうだ?」
少年の名前を耳にして初めて、少女は
「……大丈夫。まだ少しフラフラしてるけど、
少年の小さな体に『
そうならないために、少女は初めて自分の意思で少年に『首輪』を掛けた。
「そうか。なら急ぐぞ。ここにはもう面倒事しか残ってない。」
生きているか死んでいるかも
「……」
「どうした、急げ。」
けれどもそれ以上に、少女には許せないことがあった。
「……どうしてもっと早く来てくれなかったの?」
フツフツと込み上げてくる
「……『声』が聞こえているんだろう?なら分かってるはずだ。」
確かに、少年少女が激しく暴れている一方で、影もまた悪魔たちの
事実、彼はいとも
「邪魔がなく、確実に
「ウソ。本当はもっと早く助けに来れた。それなのに……、アナタは迷ったんだわ。本当に私たちを助けて良いのか。」
少女は、少年の恩人を疑っていた。
彼もまた、人の皮を被った悪魔なのではないだろうかと。
少女の
さらに
彼と少年がいれば殺人鬼や暗殺者に
だが彼はそうしなかった。二人の隣に並ぶことはせず、
――――それは
影は自身に問い掛けながら、少女の問いに答える。その顔にはどこか少年の
「お前の思う以上に人の心は
影は酒場で青髪の女と対峙した時のことを思い出していた。
「目に見えるものが全てじゃない。」
「……じゃあ、私たちは何を信じたらいいの?」
「信じる必要はない。……少なくとも俺に関して言えば。」
彼は自分が「人間」であることを否定し続けてきた。
転がる
殺人鬼でさえ笑う。
――――殺して奪う
物心つき始めた頃はそれが普通で、「人間」はそうやって生きるものだと思っていた。しかし、2年、3年と年を
――――もしかすると、「俺」は周りの奴らとは違うんじゃないのか?
「家族」や「愛」、「友人」などの言葉に触れる
――――「俺」に、この世界を生きる資格などない
それが二十歳を過ぎ、悲鳴や銃声でしか言葉を
彼は死ぬことの恐ろしさを知っていた。
毎晩、その右手にあるナイフが涙ながらに語ってくれたからだ。
彼は「自分」という生き物が「人間」として生きる
毎晩、隣で眠る亡骸が
彼らから学べば学ぶほど、「人間」と「自分」が違った存在に見えてならなくなっていた。「自分」がまるで別世界の生き物のように思えてならなかった。
ゆえに彼は『影』になることを望んだ。
超人的身体能力と、物事に
そこに、彼のための生きる実感や
消えていく「人間」の数だけ彼の魂は
ただ、ひたすらに『影』であることだけが、世界と彼との
そんな
「敵と感じた時、殺せばいい。俺もそうすることしかできない。」
「……」
「付いて来たくないのならそれでも構わん。だが、
ドンッ!
「アァッ!」
二人の目を盗み、青髪の女が少年に手を伸ばしていた。
影が女の肩を撃ち衝撃で吹き飛ぶも、女の
「グゥッ」
「ソイツをっ!
彼女は今、ナイフの一本も手にしていない。その上、目的に先走り、未だに「死」から完全な復活を
それでも、彼女は追ってくる。「愛」を歌えなくなった彼女はそれ以外の歌を歌う他ない。『死なない姫』はそうすることでしか生きられない。
追ってくる。電気を手に入れたネジ巻き人形のように、
歌姫は熊のような怪力に押さえつけられてなお、前へ前へとにじり寄る。
その
「……この人は殺させない。」
そう口にする
「だったら、死ぬ気で守りな!その体でな!!」
女の叫びには、
「アタシはお前らを許さないよ。追い詰めて、追い詰めて、ズタズタにしてやる!!」
「……」
その時点で少女は生きた心地がしなかった。まるで、
ゴキリッ
女を押さえる狼の前足が彼女の背骨を折った。少女からの命令ではなく、自分の判断で。
「……アァッ!」
「パンディットっ!?」
女は
「何してるのっ!?」
「いや、それでいい。行くぞ、リーザ。」
下半身が
狼に背を押され、少女もようやく影に続いて歩き出す。
「見てろ、お前ら全員、皆殺しにしてやる!!」
少年の
「気にするな。ああいう手合いは自分の人生を他人のせいにする。相手にすればするほど飲まれるだけだ。」
「……」
影は不思議に思っていた。必要以上に気を
少年に肩を貸し、離れようとしない
しかし、そうやって恐るおそる歩み寄ろうとする影を相手に、少女は
「アナタはそうやって殺した人の顔を忘れられるね。」
「……」
少女が何を言おうとしているのか。
「…それでも、忘れなければならない。俺たちのような人間は特に。」
彼の確かな
彼の闇に関わった人間の多くは一年と
引き替えに、彼のナイフは常に血で
「アナタと私たちを一緒にしないで。」
少女は受け入れられなかった。
むざむざ自分たちを紅い影の「言葉」に
何より、彼が人を「殺す側」の人間だということ。
愛する彼に近しい人だからこそ、
――――ふと辺りを見渡すと、俺は森の中を歩いていた。野鹿に肩を借り、
『……リーザ、もういいよ。』
「エルク、大丈夫?」
彼女の声に反応した彼がチラリと俺を
「あぁ、ゴメン。」
だけど彼は何も言わず、向き直り黙々と歩き続ける。
……
そして、
――――ミリアは、白い家に……
「それで、これからどうするの?」
頭がハッキリせず、野鹿が誰に向かって言っているのか分からなかった。
「エルク。」
彼が促してやっと自分のことだと気付く。
「……ああ。最後まで、やってやるよ。」
やってもやらなくても『
それが一番、俺の
俺の決意を聞き届けた彼の背中が、小さな溜め息を
「……だったらまず
「ヒエン?プロディアスのどっかじゃねえのか?奴らのアジトってのは。」
マフィアのボスが黒幕だと知った俺は無意識に都心に目を向けてしまっていた。けれど、問題はそんなに単純じゃないんだ。続く彼の言葉を聞いて改めて思い知らされる。
「
「……ロマリア。」
シュウの持ってきた
もう、疑いようがない。あの市長は、ロマリアの関係者なんだ。俺たちは今、世界最強とも言われる「軍事国家」を相手にケンカを
そこまで聞いて初めて彼の溜め息の理由が分かった気がした。
「だが、あの男の言う”白い家”は西アルディアにある支部のことだ。そして、今はそこまでしか分かっていない。」
「西アルディア」はアルディアという国の西半分を指す。東と違い気候が荒く、好戦的な
「スマネェ。ヒエンは――――」
彼にヤゴス島からここまで帰ってきた
ヒエンが
「そうか。なら別の足を用意しておこう。お前は休んでおけ。」
彼は
昔からそうだ。彼は口数少なく、用件しか言わない。それでも彼は俺の気付かないうちに色んな世話をしてくれている。
そういう彼らしさが俺を安心させた。
「ビビガにはまだ黙っといてくれよ。」
アイツは普段、ガサツでデリカシーの欠片もないようなヤツだけど、ここぞと言う時に俺の足元を照らしてくれる。
放任主義のくせに変に鼻が利きやがる。
ありがたいことだけど、それが心配なんだ。
「……そうだな。ヒエンが返ってこないと分かったらお前を殺しかねんからな。」
「……」
彼の口から冗談を聞くなんていつ以来だろう。思わず、俺はアホみたいに口を開けて彼を見詰めていた。
「どうした。」
それでも顔に出さない彼が妙に
「いいや、なんでもねぇよ。」
「……悪いな。」
……迷惑ばっかかけて。
「……気にするな。」
――――謝らねばならないのは俺の方だ
リーザの言う通り、俺はお前を助けるのを
あの時の、お前の『力』は
お前の世話を焼いている内に俺は『影』の
お前を育て始めたお
仕事以外で、街中で他人に声を掛けられた時は驚きで言葉も出なかった。だが、
――――こういう生き方も悪くない
あの時の俺は「お前が俺の居場所を奪うかもしれない」という不安で引き金をひくことができなかった。
だが、歌姫の悲鳴を聞いて俺は大事なことを思い出すことができた。
砂漠でお前を拾った俺は、……愛そうと
吹き荒れる砂漠の真ん中、
立ち尽くすお前は
「ダズ……ゲテ……」
ボロボロになったお前の唇から、どこかで聞いた声が忍び寄ってきた。
それが何かに気付いた時、俺はお前が『
次に出てくるのは
「ダズ……ゲテ…アゲテ……」
小さく、弱々しい手から……ひどく、熱いものが流れ込んできた気がした。お前の目はとっくに死んでいるのに、それでも俺の目を捉えて放さない。
今にも
すり寄る「死」には目もくれず、一心不乱に。
気付けば俺はその小さな身体を
…………
俺は生まれて初めて、受け入れた。熱く、苦しい感情を……。
涙を流す理由を知った時、俺は死んでいった連中の言葉の意味が初めて分かった気がしたんだ。
お前は『化け物』を助けたんだ。
それなのに俺は……、本当にすまない。
……エルクが
その時、俺はどうするだろうか。
俺は――――
一つの「答え」を出せば次の「問い」が。
もはや
一つの「答え」を出せば次の「問い」が。
しかし今の彼の目の前には
少しずつ、彼もそこにある光を認め始めていた。
だからこそ、黒装束の男は
砂漠の少年が「進む」と決めたからには。
「足は
「……」
「ミリアを、
「……ああ。」
彼が何を言いたいのか、なんとなく
そうあって欲しくない。これ以上は
けれどそれはとっくに手遅れな話だということに、今さらながらに気付いた。
俺自身が、この5年間、毎晩のようにその光景を
だけど……、もしも……、
「助けるわ。今度こそ。」
言いながら、彼女は力強い瞳で俺を見詰めた。俺は彼女の『魔法』に掛かっていくのがわかった。でも、たとえそれが
「彼女は俺を想ってくれている」
それはだけは間違いないことだから。
だから、気付けたのかもしれない。その瞳からは俺に対する
「…ああ、助けるさ。今度こそ……。」
あの歌姫への無念を感じた。
「気を付けろよ。」
「……無論だ。」
そうして彼は闇夜に溶けていった。
今の時代、民間で
離陸許可を
国に認められた機関、さらにはその機関から認められて初めて、個人への航空機の所持と離陸の許可が下りる。
そういう面倒な手続きを
つまり、
いくらシュウでも2、3日はかかる。そう思っていたのに……。
翌日の昼、彼はその
「ヒエンの用意ができたぞ。」
「……は?」
※幽鬼(ゆうき)
幽霊のことですね。
※戦犯者(せんぱんしゃ)
「戦争犯罪者」の略称です。
国連の定める戦争の法律に違反した人のことを言います。
○戦争を計画した人、関わった人→「平和に対する罪」
○非戦闘員(一般人または捕虜)に政治的、人種的、宗教的危害を加えた人→「人道に対する罪」
○残虐な兵器(程度が分かりませんが)、禁止兵器の使用→???の罪
報道や映画で耳にする「A級戦犯」の「A級」というランクはA、B、Cとあり、「指導者」、「命令した者」、「実行した者」のように分けられているみたいです。
※稚さ(あどけなさ)
本来は「邪気なさ」と書きます。「稚さ」は「いとけなさ」と読みます。ですが意味はどちらも「無邪気でかわいらしい」です。
もちろん私の我がままです(笑)
※一両日中(いちりょうじつちゅう)
今日から明日にかけて。明日までにという意味です。
※シャンテの『不死』
原作、アークザラッドⅡというゲームにおいて、彼女に『不死』という設定はありません。原作を知っている人にとっては意味不明だったと思います。なので早めに解消しておきたいと思います。
今回、彼女をお話に組み込むあたって一番悩んだのが、「どうやったらエルクたちと一緒に行動するだけのポテンシャルを持たせられるか」でした。
一応、ゲーム中では「回復魔法(キュア)」や「攻撃魔法(ダイヤモンドダスト)」「補助魔法(サイレント)」など、後方支援に優れたキャラでした。
でもいざその魔法を持たせてお話に組み込もうとすると……、違和感!!なんだかとって付けたような『力』にしか思えなくて、キャラを書く上で魅力が感じられませんでした。
だからと言って、チョンガラみたいに裏方さんに徹してもらうのも違うかなと。
そこで「歌」に並んでアークザラッドⅡというゲームにおいて彼女の一番の特色といえば……リザレクションッ!!
これは復活の魔法ですね。本来はプレイ中に戦闘不能になった味方キャラを復活させる能力なんですが、そんな能力をそのまま起用してしまったらお話が崩壊しかねないので、今作では自分自身にかかった『呪い』、『不死の身体』というような形で使わせてもらいました。
彼女にはエルクやシュウのような戦闘力も、リーザのような多方面に応用の利く特殊能力も持たせていません。
ただ死なないだけの身体。痛みもあります。生き返るまでにも時間が必要なので戦闘においてその能力を活かすのは難しいでしょう。
そんな難儀な『力』をもって、彼女がこれからどう立ち回るのか……乞うご期待ですm(__)m