――――自分のケツに火の付く瞬間が、ハッキリとわかった。
ところが、二匹の
押し切ろうと止めどなく『炎』を叩き込むが、それでも「盾」はビクともしない。
『炎』がダメなら……
『エルク、ダメ!』
腰の剣に手をかけた少年が身を沈めると、狼が彼の行く手を
少女はプロディアスの炎を見ていた。
銀の魚と首のない女神、そして暴走する少年の姿。
「……もう、あんな想いはしたくないの。」
「お願いだから、落ち着いて。」
あれ以来、少女は神に祈ることを止めた。
あの時、少年は少女に「見捨てない」と
「……悪い。」
けれど、少女には分かっていた。出会った当初、初めて彼の『炎』に触れた時、
少年の目は、少女を見ていない。彼はずっと、ずっと『炎』を見続けている。今も、昔も。
嵐に
「素晴らしいっ。」
スタンディングオベーションさながら、紅い悪魔は満足げに二人へ
悪魔の手を叩く音は講堂に響き、少年たちを取り囲む。
「……バカにしてんのか?」
「フン、ワシの言葉をどう
「……」
「人の心を
悪魔は心の底から喜んでいた。子どもたちの
「ともすれば、これが本当の”
少女は少年の手を放さなかった。放せば今度こそ二度と会えなくなる。少女は少年の燃えるような
それでも、悪魔の
「この『壁』を突破したこともまた、
スーツの
「あの人たちが、私たちの『力』を
少年の疑問に少女が悪魔の後ろに
――――その瞬間、
狼の動きは素早く、俺の目が
……だけど、それが本物の狼でないことは初めから分かっていた。
「……ほう。」
悪魔もまたこうなることを
襲ってきた
「死ねぇぇぇ!!死ねぇぇぇぇっ!!!」
経験してきた苦痛の数だけ
だけど、俺だって色んな
「クソォッ、クソォォォオオオ!!」
ナイフを
どうしてだかは知らない。それでもあの悪魔は彼女が憎くて憎くて仕方がなかったらしい。
積りに積もった不満を晴らすように、悪魔は同類の
「ハハハッ、
「アアァァ!アアアァァッ、アアァァァァッッッ!!」
もはや言葉にすることも叶わず、彼女は
最愛の名を口にしたいだけなのに。彼と幸せに
声にならない叫びが彼に届くことはなく、その瞳からは宝石のような涙が次から次へと
――――歌は彼女を護らなかった。無限の命はたった一つの愛すら護ってはくれなかった。
――――今はただ、この世界の
何者も、彼女を楽にしてやることはできない。
涙や血、汗や
大人しくなったネズミを放し、少年は少女の手を借りて静かに立ち上がる。
なおも咳き込む悪魔が、共感を求めるように少年の名を呼ぶ。
「どうだ、エルクよ。この世界がどういうものか少しは理解できたんじゃないのか?」
バァンッッ!!
悪魔の呼び掛けと同時に「盾」の首が
「……クククッ」
バァンッッ!!
バァンッッ!!
バァンッッ!!
「ハハハハッ……!そうよ、エルク。それがキサマの本当の姿よ!」
「ガルアーノ……。」
そこには女と同じ顔があった。
「だが、まだよ!もっとだ。キサマならもっと
『黙りなさい!!』
少年の体を支える金髪の魔女は
「ところで、さっきキサマが燃やしたあのゴミ。ジーンはな、
『聞こえないの?黙りなさい!!』
『…黙るのはお前の方よ。』
「……え?」
少女は初めての経験をした。他人の言葉を『聞き』、『
「どうしてもキサマに
「どうして……?」
少女は困惑し、悪魔の『
「無理が
『……アイツが、俺のせいで?』
『いやだ。それ以上、エルクに聞かせないで!』
震える少年の『声』が、少女の困惑に
「それでもなお、キサマに会いたいと言い張りおる。
『…ジーン……』
最後まで、思い出されることもなく炭となった男は、悪魔に命も運命も差し出し、殺人鬼になってまで少年との再会を望んだ。
思い出してやることのできない少年には、そこまで追い詰めた彼の
ただ、自分が「悪」であることは理解できた。自分の『悪夢』が他人の『悪夢』を生んでいることに気が付いた。
そして今、悪魔に
「お願い、黙って!!」
悪魔は
「キサマはそんな男を殺したのさ。」
「やめてよ!!」
少年は、悪魔の『言葉』に
善と『悪』が混ざり合い、『過去』と
「ゴミはよく燃えただろう?……なあ、
パァァンッッ!!
少年に、『
剣を持つ必要はない。手足を動かす必要さえ。『力』は、願えば全てを焼き尽くすことができた。
より
首の飛んだ
「ワッハッハッハッ!!どうよ、リーザ。これでもお前はその『炎』を
言われるでもなく、『魔女』は少年に呼び掛けた。
『エルク、お願い。私の所に帰ってきて。』
だが、少年からの応答はない。それどころか、彼がみるみる間に遠ざかっていくように感じられた。
『エルク、エルク……、エルク……、』
手の届かない距離に、少女の声が
悪魔は床に転がった赤のボトルを拾い、
「お前の弱点はそこだ。心を許した者にはその力を十二分に
悪魔の
「”ミリル”という魔法の言葉を使ってな。」
それが少女の
熊のように
しかし、狼の牙は悪魔の
その
「パンディットっ!!」
二匹の
「たかが狼一匹でワシをどうにかできると思ったか?『力』さえあれば何もかも
パァァンッッ!!
少女との
しかし、さしもの紅い悪魔も『
予想していなかった訳ではない。覚悟もしていた。
それでも
ただただ
――――その
一発、二発、三発……。
崩れゆく中、
――――俺は誰でもない、俺は強者に付き従う「影」……
紅い「影」は幾度となく自分に言い聞かせてきた。
たった一つの「未来」を
世界を
それでも「影」は自身の色を持たず、「影」の色であり続けた。
そうして彼は一つの「影」として一匹の悪魔に
それ以来、「影」は
血は十から千に、百から万に
紅い悪魔の
それでも
彼は自分の命に
彼が
そして彼は今日、
――――オマエの
「…ミリアは……、白い、家に…い…………」
少年の『影』に突き付けられた
しかし、十分に育った『炎』は確かに彼の影を背負っていた。
彼の望んだ第二幕が今、始まろうとしていた。
※口火(くちび)
物事、出来事の起こる切っ掛け、原因、要因。
※『壁』
前回の話で説明したかもしれませんが、原作でいう「サイレント(相手の魔法を封じる魔法)」のことです。
※怨歌(えんか)
呪いの言葉でつづった歌。
僕の造語……かと思いきや、「演歌」をそう表記することもあるらしいですね。
ちなみに、
社会風刺を歌ったもの……「演歌」(「演説を歌う」からきているらしいですよ)
男女の色恋を歌ったもの……「艶歌」
恨みつらみを歌ったもの……「怨歌」
※咢(あぎと)
あご。
※ジーン・カシュモア(14)
恒例のジーンの裏設定です。「カシュモア」は僕が付けました。
原作でのいたずらっ子な一面(エルクとミリルをからかうシーンより)、エルクよりも内向的な印象(ラクガキをしているシーンより)からエルクよりも年下にしました。
○能力
原作で明記はされていませんが、魔法で「ウィンドスラッシャー」や「トルネード」が扱えるあたり、さしずめ「風使い」といったところでしょうか。
本編でも書いているように、彼はどちらかというと失敗作。能力の発動が不規則で、感情に大きく左右されるところがあります。
(本作の8話「悪夢たちは彼の後ろ髪を引く その一」で遠距離から車を真っ二つにした時が彼の最高潮だったかもしれません)
ただし改造の結果、体力だけは大きく向上したため、さらに本人の希望により、腕に巨大な刃物を取り付けることになります。
ネットでチョロチョロっと調べてみましたが、「風で物を切る」というのはどうもできないっぽいです。「衝撃波」のような作用は生まれるものの、研ぎ澄ました空気が物を「切る」前にそこにある別の空気が邪魔ですぐにバラバラになってしまうらしいです。(そもそも、研ぎ澄ました空気って何?(笑))
真空がどうやらとか、カマイタチがどうだとかありましたが、どれもハッキリしません。
ただし、これは