聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

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魔女の祭壇

二人の少年が争っていた。

一人は少女を見捨てた少年。一人は少女から引き離された少年。

夢を語り、無邪気に笑い合っていた二人はそこにはいない。(おさな)く、柔らかい記憶は取り囲む『悪夢』たちの手によって(ゆが)み、(にご)ってしまう。

少女を見捨てた少年は『過去』を怖れ、引き離された少年は『過去』を憎んでいる。『力』はそのためにあるものだと彼らは思い込む。

立ち向かうべき『悪夢(やみ)』は途方(とほう)もなく大きく、小さな小さな少年たちの瞳には(みにく)い自分たちの姿しか映らない。

それが、()えられない。

直向(ひたむ)きな少年たちは(うたが)うことを知らない。『悪夢』さえ真実に映る。

それと気づくことなく、少年たちは闘う。自分たちの醜さを、真実に許しを()うために。

その相手が例え、()()()()()であろうと。

 

「キミは、彼の加勢(かせい)をしなくてもいいのかい?」

「こんな闘い、間違ってる。」

私にとって、彼はとても大切な人。だからこそ、彼を想うジーンに手を出すことが私にはできない。

「でも、もう止められない。あの人はエルクを殺すことでしか許せない。エルクも、自分自身も。」

私の『魔女(ちから)』は(たましい)(おか)す力。『過去』を忘れさせることはできても、『過去』を忘れたジーンはもう、彼を想うジーンとは別の生き物。

それじゃあ今苦しんでいる彼と何も変わらない。

「アナタたちがそうしたの。」

『過去』を憎むことでしか、ジーンでいられない。

 

「ククク……」

無力な魔女(わたし)を見て、(ゆが)んだ黒が笑ってる。

「……気味が悪い。」

「結構なことだ。理解できるような君であれば私も君に興味を抱いたりはしないからな。」

私がその歪みを大きくしてしまったのは知ってる。

だけど黒は、初めから歪んでた。あの島で会うよりも前。空港で会うよりも前から。

自分より強い女の人を(しいた)げる(よろこ)び。そこに私がより大きな穴をつくってしまった。

麻薬のように、黒の「生」を「人間」から遠ざけてしまった。

「とりわけ、君のような例外的な女は実に魅力的だ。これは(おさ)えようと思って抑えられるものではない。…君にも()()()()は分かるだろう?」

「……」

気付けば『過去』に向けていたはずの憎しみは目の前の「黒」個人に向けた嫌悪(けんお)に変わっていた。

「それを教えてくれたのは他ならぬ君だ。ありがとう。私の魔女よ。」

私が子どもだから。

黒は言葉で私を(あやつ)り、『魔女(わたし)の力』を一身(いっしん)に浴びようと下拵(したごしら)えをしている。

 

……できることなら今すぐにでも、私の中に(すべ)()んでくる「黒」を根こそぎ放り出したい。

でも、魔女(わたし)の『命令(こえ)』を(さえぎ)る何かがそこにある。『聞こえる』のに『言い返せない』。それがとても歯痒(はがゆ)い。

「君なら(すで)に気付いているだろうが、君やエルクには『制限』を掛けさせてもらっている。エルクはともかく、君の『愛』は(いささ)厄介(やっかい)だからね。」

この『感覚』は屋敷(やしき)に入った時から続いてた。

 

黒が、シャンテさんに向けて引き金を引こうとした瞬間(とき)、私は同じ(あやま)ちを()(かえ)そうとしていた。

パンディットに、その銃を腕ごと奪うように『命令』してしまっていた。

けれどもそれに気付いた時、彼は首を(かし)げ、私に『聞き返していた』。

「……助かった」そう思っている自分が許せなかった。

「『愛』なんて呼ばないで。」

「君が呼び掛け、誰かが君に従う。種族の垣根(かきね)さえ軽々しく越えてしまうその行為。これを『愛』と呼ばずになんと呼べばいいのかね?」

「従う」……まったくその通りだわ。

「……こんなもの、ただの『呪い』でしかない。」

「ハハハ、ならば呪われた隣人(りんじん)(たず)ねてみると良い。『お前は今、不幸せか?』とね。」

黒は私の家族を指差し、嘲笑(あざわら)った。

「おそらく彼は(かたく)なにこう答えるだろう。『とても幸せです、ご主人様』とね。」

……ずっと思ってた。

この子が私を家族のように想ってくれるのは、それもまた()()()()なんじゃないかって。

そうじゃなきゃ、私の『お願い』に対してこんなにも無抵抗な訳がない。

この子が私の名前を呼ぶ(たび)に胸が痛むこともあった。私はそれにも目を(つぶ)ってきた。

 

だから、これが黒の(わな)だとも気付かずに私は口を滑らせてしまう。

「この子は私の『呪い』に付いて来たんじゃない。この子の意思よ。」

「そうなのかね?しかし、君の言葉を借りるなら、君は今までその隣人を呪い、いくつもの困難を乗り越えてきたじゃないか。まるでその命が()()()()であるかのように。」

「…それは……、」

 

 

言い返せない。

南国の遺跡で命の危機に(ひん)した彼を護るため。その代償(だいしょう)として、この子を選んだのは自分の意思だった。

あの瞬間、私に躊躇(ちゅうちょ)はなかった。

その後も私はこの子を犠牲(ひつじ)にし続けた。愛する人も、そうでない人も護るために。

……軽んじてる。私はこの子を『命』として見ていない。

「私は……、」

 

 

 

 

見下ろす少女をよそに、狼は敵から一時(いっとき)も目を離さない。

けれども、彼は(つね)いかなる時も彼女を想っている。()める時も、(すこ)やかなる時も。

 

――――リリー、私は……

 

 

だからこそ、『彼女』にだけ聞こえる優しい『声』が、彼女に一つの決意を迫る。

「私は……、」

褐色(かっしょく)の瞳が(わず)かに青味を()びる。一枚の仮面を(かぶ)ったかのように、彼女の表情から(ぬく)もりが()せていく。

「………()()()、それで私を言い負かせたつもり?」

「……ほう。」

少女に特異性を求める黒服は、『彼女』の新たな産声(うぶごえ)に思わず溜め息を()らした。

「私は『魔女』だと言ったはずよ。」

「つまり?」

 

私はこの子を信じるしかない。……この子と、あの人を。

 

「この子は私という”魔女”を(さば)く一本の(くい)。」

彼女は自分に言い聞かせる。

リーザ・フローラ・メルノは命を軽んじる”悪い魔女”。

それと知らず多くの人を『呪い』、何度となく犠牲にしてきた。今までも、これからも。

「私は誰にも(ばっ)せられない。この『力』は何者も寄せ付けない。だからこそ、この子は私の一番近くで私の”罪”を見届けてくれている。そして私がそれを求めた時、この子は私がこの子にそうしたように躊躇(ちゅうちょ)なく私を罰してくれる。それまでは、どんなことがあろうと私の(そば)を離れない。」

それは(ひとえ)に――――

「この世にたった一人の”家族”として。」

 

 

彼女の演説は、(かたわ)らで激しい戦闘のある最中(さなか)であっても(いや)しい黒服の胸にしっかりと響いた。

黒服は残された右の手で胸を叩き、彼女に(いや)らしくも不快な賛辞(さんじ)(おく)った。

「イイじゃないか。実にイイ。必死の言い逃れは見苦しくもあるが、『魔女』を受け入れる瞬間に浮かべた君の表情は実に見ごたえがあったよ。」

今の彼女は男の卑しさを然程(さほど)不快に感じることはなかった。彼女の中で何かが吹っ切れていた。

その()わり(よう)が男をさらに興奮させる。

「だが残念なことに、君との楽しいお喋りもそろそろ終わりにしなければならない。いやはや、”仕事”というものは与えられた者の”義務”であり、”名誉”でもあるが。今の私の本音を言わせてもらえるなら、これほど(わずら)わしいものは他にない。」

男が右手を掲げると、背後に(ひか)える男たちが(そろ)って(ふところ)から(くろがね)の狂犬を取り出し、その牙を全て彼女に向けた。

「なに、殺しはしないさ。君は我々の大事な、大事なモルモットなのだからね。」

しかし、『彼女』を受け入れた彼女の瞳は揺らがず、冷え切っていた。

「バカね。そもそもお前たちじゃ役不足だというのに。」

 

「……本当に、君には幾度となく驚かされる。君の口からそんな言葉を聞くなんて。まるで……そう、『別人』だ。悪くない。いや、まったく悪くない。」

彼女は、もう何度目になるか分からない『支配者』の感覚に慣れ始めていた。

「だが、『制限』はまだ君たちを正確に縛っている。この状況で、私には君の言葉がよく理解できない。だから、ぜひとも私に教えてくれないか?」

かつて、少女はその『魔女(ちから)』に怯えていた。その『力』でもって何もかもを思い通りに()()()()()()『自分』がいる光景を悪夢(ゆめ)に見ては身を(ちぢ)こませ、震えていた。

だが今ここに、『彼女』の微笑(ほほえ)む姿から逃げ(まど)う幼い少女はいない。『彼女』のもたらす複雑で鋭敏(えいびん)な『感覚』が、少女であった頃の感覚を麻痺(まひ)させていた。

「だからお前は役不足なのよ。」

微笑む彼女は見る人間が見れば「悪魔」に映ったかもしれない。

それは、男たちがいたずらに見せた「大人の世界」を受け入れた結果なのかもしれない。同じ世界で生きる彼女もまた、世界に馴染(なじ)む「大人」になってしまったのかもしれない。

 

「お前たちはもう、死んでいる」男の耳には彼女の言葉がそう言っているようにしか聞こえなかった。

半信半疑で振り返ると、(たちま)ち男は彼女の言葉を理解する。

自分たちの敗北を。生きて、ここを出ることが叶わなくなったことを。

 

誰にも見られることなく。誰にも聞かれることなく。()()()()()()()()、彼らは「狩る側」から「狩られる側」へと立場を変えられていた。

 

男が目にしたのは歌姫を(かか)えた6人の部下。

「……お前たち、残りはどこへ行った。」

片腕の男に指摘(してき)されて初めて、彼らは(ざわ)めいた。それは、彼らと()()()()との圧倒的な力の差を表していた。

 

 

私は、間違いなく10人の部下を連れて来ていた。

お互いが視野に入るほど近くにいたというのに、どうやって?これも彼女の『力』か?

……いいや、違う。早過ぎる。『魔女』が表に出ているとはいえ、彼女はまだまだ幼い。その上、『制限』の働いているこの状況でそんな高度な『力』が使えるとは思えない。

だとするなら、他にも彼女たちに味方する誰かがこの屋敷に侵入しているということか?それも、かなり特殊(とくしゅ)手練(てだ)れでなければならない。

……いや…、まさか、あの男がそうだとでも言うのか?

 

人間にしては驚異的(きょういてき)な身体能力だと警戒しているつもりだった。

だがヤツは『能力者』でもなければ我々のような『化け物』でもない。ただの人間が、この私に気配を感じさせることなくここまでの仕事をやってのけられるものだろうか?

「お前は私たちを見くびり過ぎだわ。殺し合うのに『人間』だ『化け物』だと区別をつけている時点でお前に勝ち目はなかったのよ。」

ただの『人間』が、『我々』の領域を侵す?オカシな話だ。

我々はそれをさせない絶対的な『力』を得るためにこんな『生き方』を受け入れたはず。それを……、

「それに、私やエルクがその気になればこんな『制限』、意味なんかない。私たちは、それこそお前の言う()()()()()()()()なのだから。」

 

……私は、人間が伝説の(つるぎ)をもって竜を()()るお伽噺(とぎばなし)が嫌いではなかった。

剣ではないが、私もそれを手に入れたような気になっていた。それだけ多くの犠牲を払い、大きな力を手に入れた。

だが……、人間が、竜に(かな)うはずもない。

分かっていたことだ。

あれは、『竜』を見たことのない男が描いた絵空事でしかない。

間違いない。

 

――――私は今、本物の『竜』を見ているのだから

 

 

男は失望していた。彼女に抱いていた歪んだ欲望も忘れ、ただただ絶望していた。

自分の、揺るがない存在価値が崩壊(ほうかい)していく瞬間を()()たりにしたがために。

男にとって、生涯(しょうがい)最も長い「沈黙」を耳にした気がした。

「……だが、やるべきことはやらせてもらうよ。」

勝利も逃走も許されない。

残されたのは、ただただ決められたセリフを、決められた役柄(やくがら)を演じるだけの「操り人形」。

「退場」までの道のりを直歩(ひたある)かされるだけの、モノ。

男は羽織(はお)っていたロングコートを脱ぎ捨てる。

精一杯に(あらが)い、「自分の意思」を主張する。まるで、人間のように。

 

ロングコートは男の「人間」という皮を道連れにし、横たわる影の中へと飲まれていく。

そうして(あら)わになった男の体は()(えだ)のような、触れれば今にも折れてしまいそうな頼りない体格をしていた。

しかしそれは、(こと)「殺人」において極限にまで()()まされた「抜身(ぬきみ)(やいば)」。

大地を()れば風に溶け込み、姿を(くら)ませる。肉を突けば、全てを()()けて(ぞう)一刺(ひとさ)しにできた。

 

男の名は「暗殺者」。忍び寄り、(さと)られることなく命を奪う悪魔。

 

「暗殺者」を名乗るに相応しい(マスク)が、男の顔を(おお)っている。

両の目に小さな丸穴(まるあな)穿(うが)たれただけの()()()いた能面(のうめん)は、対峙(たいじ)する者にあらゆる『幻惑(げんわく)』をみせる。一目その面を見たなら、音も光も臭いさえも男の意のままに操られる。

目の前に()ながら、男は何も感じさせない。『無音』と共に命を()る。さながら幽霊(ゴースト)のように。

 

残された十指(じっし)が、何処(どこ)からともなく次々にナイフを取り出す。その全てが禍々(まがまが)しいまでの「殺意」を(はら)んでいた。

 

「暗殺者」の臨戦態勢を合図に、控えていた男たちもまた、醜い身体を解き放つ。

膨張(ぼうちょう)する身体は土色に変色し、丈夫(じょうぶ)なスーツを引き裂く。腰まで伸びる髪はヤマアラシのように硬質(こうしつ)な、赤茶けた髪へと変質する。そして、(ひたい)(いただ)一本角(いっぽんづの)は、より(ごう)の深い力を渇望(かつぼう)するように黒のソフト(ぼう)を乱暴に()退()けた。

 

次々に明かされる異形(いぎょう)の姿を前にしても、彼女は(まゆ)ひとつ動かさない。

(さら)される「殺意」や「脅威(きょうい)」に打ち震えている訳ではない。

(おと)れる(うんめい)を受け入れている訳でもない。

「……」

目の前にあるソレはもはや『彼女』にとって無価値な『人形』。(むち)を振るえば悲鳴を上げる『奴隷(どれい)』でしかないと知っていた。

震える必要などない。怯える理由がない。

「人を(あざけ)んで。(もてあそ)んで。……幸せ?」

彼らが彼女にもたらした日々。無数の十字架が彼女を(ののし)る日々は、『彼女』に生きる実感を与え、育て続けた。

「生きるためには他人(ひと)を呪わなきゃいけない」

「幸せになるためには他人(ひと)を殺さなきゃならない」

そうして、『彼女』は行き着く。

 

 

――――『私』は、罵る人形の胸にこの十字架を刺してあの人を護る。あの人が『私』を()()()()()()()()

 

 

竜の瞳に打ち震え、暗殺者は彼女の問いにユックリと答える。

「ああ……、私は幸せだったさ。これまでも……、君がもたらす今この瞬間も。」

フラリ、フラリと覚束(おぼつか)ない男の足取りは、必殺の瞬間(とき)と、逃れられない末路(まつろ)(ふる)えていた。

「……」

 

そこから先はまさに一方的な「虐殺(ぎゃくさつ)」。『彼女』は指一本、彼らに触れることなく死へと追いやった。

 

「……!?……これは…、なんてことだ。私までもが、玩具(がんぐ)に過ぎないと言うのか。」

暗殺者の手足が銅像のように固まる。

暗殺者(かれ)の分身ともいえる『(かげ)』が彼の手足を(しば)っていた。彼ではなく、『彼女』の言葉に(したが)って。

「これが、君たちの言う悪夢なのだな。」

(またた)()に、男の全身が『彼女』に侵されていく。訪れる何もかもを受け入れるように脱力していく。

(おぼ)れていく。深い、深い沼の底へと。

「確かに、これは不快(きわ)まりない。」

 

村を出たばかりの彼女であれば、暗殺者(おとこ)一太刀(ひとたち)も浴びせることなく、くびり殺されていた。

しかし、今はその真逆の立場を(きず)いている。

その身を()がす隣人に出会った彼女は、彼を護るための『力』を求めた。

際限無く。

貪欲(どんよく)に。

「いつの間に君はそんな高度な『力』を身に付けたんだね。」

決して(かか)げられることのないナイフ。窒息(ちっそく)していく殺意(じが)

暗殺者(かれ)は自分の名前を手放し、五感を手放し、考えることさえも手放してしまう。

 

――――音が消え、光が消え、時が止まる。

 

「……お前たちが私たちを怖がらせるから。『彼女』がお前たちの相手をしにやって来るのよ。」

見下す女の瞳は、煮えたぎる鍋の中のカエルを見るような冷たい色をしていた。

「全部、お前たちのせい。」

 

 

その言葉を最後に、視線も(さだ)まらない土色の大男たちが彼を取り囲み、一層(いっそう)深い(ぬま)に彼を沈めていく。

 

やがて、(かげ)()(かた)める静寂(せいじゃく)を打ち破るように一人の拳が(うな)(ごえ)を上げ、(ぬま)を叩く。

 

ぐちゃり

 

(ぬま)から赤黒い(しお)が上がり、臓と肉が飛散(ひさん)する。

 

……続いて、隣の男が(ぬま)を叩く。

 

ぐちゃり

 

隣の男が、その隣の男が、その隣の男が……、

 

ぐちゃり……、ぐちゃり……、ぐちゃり……、ぐちゃり……、

 

そうして赤く染まった沼の上で、大男たちは自分たちの額に無口な狂犬を突き付け、何一つ語ることもなく次々に引き金をひく。

響き渡る慟哭(どうこく)を重ね、沼が海へと(かさ)を増す。

 

 

 

 

 

生み出した海を眺め、彼女は思う。

 

――――私は何をしているんだろうか

 

少女は思う。

 

――――これで、あの人は私を愛してくれるの?

 

 

 

 

犯している矛盾(むじゅん)が、少女に新たな十字架を背負わせる。

それでも少女は魔女であるしかない。それでも殺し続けなけねばならない。

この世界に生まれたのであれば。彼を愛し続けたいのであれば。

 

堪らず彼の笑顔を求め、少女は振り返る。するとそこには――――、真っ赤な炎に焼かれる化け物がいた。

一途(いちず)に想い続ける醜い、醜い化け物。

彼女は感じる。燃えていく化け物の苦痛と嗚咽(おえつ)が。鏡のように彼女の瞳に投影(とうえい)されていた。

 

「……助けて、エルク。」




※一片(ひとかけ)
ひとかけらの意味。
本来は「一欠け」と表記するのですが、「ニンニク一欠け」と表記すると「欠」のイメージが良くないとかで料理本などで「一片」と表記するのが浸透したのだとか。
「一片」の正しい読みは「いっぺん」もしくは「ひとひら」です。

※遊興(ゆうきょう)
平たく言えば「遊んで楽しむこと」。特にお酒や大人の遊びなんかに使われることが多いみたいですね。

※『制限』
「ホブゴブリン」の特殊能力、ディストラクションという魔力を低下させる魔法のことだと思ってください。
片腕の黒服が連れていた10人全員が「ホブゴブリン」です。人数がいればその効果も大きいということで大勢連れて来ていた訳ですね。

※紺青(こんじょう)
青の一種です。洋名では「プルシャンブルー」といい、深い紺色といった感じの色です。

※リリー(lily)
『白百合』の意味。パンディットが親しみを込めてリーザを呼ぶときに使う名前。

※暗殺者
原作でいう「ニンジャ」クラスのことです。その中でも、片腕の男は「ニンジャマスター」というモンスターに分類されます。
ちなみに、『幻惑』という表現で「コンフュージョン(これはまんまやね)」や「分身の術」を表したつもりですf(^_^;)

※慟哭(どうこく)
悲しみのあまり、声を上げて泣くこと。

P.S.
今回、どうしてもエルクパートとリーザパートを噛み合わせられなかったのでこんなAパート、Bパート的な投稿になってしまいました。
読みにくいかもしれませんが、ご容赦ください。

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