翌日の11時頃、約束の時間よりも
「やあ、早かったじゃないか。」
「少し、長い移動になるからね。少しくらいネジの
「長いってどれくらい掛かるんだよ?」
「車で半日くらいだね。」
……ここから半日ならプロディアスもその
「もしも、俺の身内に手ぇ出してやがったら真っ先にテメエから消すぜ?」
「そんなこと、私が知ったことじゃないよ。まあ、アタシとしちゃあそうあってもらった方が手っ取り早いし面白そうだとは思うけどね。」
「……」
眼光を
「アッハハハッ……、ワルいワルい。安心しなよ。少なくともアンタの身内には手を出しちゃいないさ。」
「だったら、プロディアスまで移動する理由はなんなんだ。まさか、市長の仕事が忙しいからってだけの理由じゃねえだろうな。」
「誰もプロディアスに行くなんて言ってないだろ?」
それは、「まんま」と言うか「
「じゃあ、
「あの男の
女は何一つ
こんなにあっさり場所を明かすなんて。
俺がその情報を外部に
俺たちなんかを相手にするのに「人質」を用意する
常識的に考えるなら俺たちは今、動かず、次に
戦力に大きな開きのある俺たちにとって
……だけど、俺は十分過ぎる程待ったんだ。
5年間、俺をいたぶり続けた『
なんせ、相手の『力』の
そうだ。これはアイツらにとって、ただの「
――――それに、
行ったところで『悪夢』の「答え」が
昨夜、現れたホームレスの「姿」を見てそう思った。
それは「答え」、というよりは「判決」に近いように感じられた。俺のこの5年間が有罪か。無罪か。
それでも、その判決が限りなく「有罪」に近かろうとなかろうと、ただ待たされるだけの苦痛に勝るものはない。
俺は、
俺はただ、これ以上「待つ」ことができなかっただけなんだ。
女は一時の娯楽を切り上げ、
「おいおい、運転できるんだろうな。」
「
俺にはその時の女が、
どことなく投げやりで、この仕事が
「エルク、大丈夫。彼女、ああ見えてあんまり酔ってないみたいだから。」
俺の、話をこじらせるような
「そういうことさ。大人にとっちゃあ酒なんてコーヒーや紅茶と大して変わんないんだよ。まあ、トマトジュースの坊やには分からないだろうけどね。」
「そういうヤツに限って酒に
リーザの機転に気付いていながら、どうしてだか俺はこの女の言葉を聞き流すことに関してひどく
だから余計にこの女にバカにされるのだと分かっていても、俺は女の憎まれ口を返さずにはいられない。
「ハハハッ、アンタの
「……」
「そうだよ。いるワケがないだろ。」
後ろめたさを覚えながら隣に目を
「アタシらはみんな狂ってる。誰も助けちゃくれないのさ。」
結局、俺たちがどんな
約5時間ほど走り続けたところで車はプロディアスへ続く大通りを外れ、山道を登り始めた。道は細く、
「関係者……ねえ。」
「なんだい、『化け物愛護団体、私有地』と書いてないのが不満かい?だから5年間も見つけられなかったんだって?そりゃあ悪いことをしたね。気を付けておくよ。」
「うるせぇな。黙って運転してろよ。」
「おいおい、こっちは酒を切らしちまったんだよ?ツマラナイことは言いっこなしにしてくれよ。」
まるで知人との酒を楽しむかのように女の口は
「じゃあ、
その、立場を気にせず
俺は前回で知った女の弱点をここぞとばかりに持ち出した。
口にした直後、リーザは振り返り俺の目を
そして、俺の必殺の言葉は女に
「……クソッ!!こんな仕事さえなきゃテメエはアタシの手で
女は
無言で、黒く
彼女の目を見て俺は、青髪の心の
――――俺の見る『悪夢』よりも恐ろしかった、と。
リーザは自分の中の『魔女』に必死で
……もしかすると、この女もまた、俺たちの知らないところで『悪魔』と孤独な
そう思うと、分かっていながらやってしまった二人への不義理を憎まずにはいられない。
「降りな。」
目的地に着く頃には
「こんな所にこんなもんがあったなんてな。」
その「
「サッサと入りな。」
シャンテは門番の二人に簡単な挨拶をすると、自分の家のように慣れた手つきで扉を開けた。
「どこまでも
もはや俺の中では、あの日、あの酒場で歌っていた青髪の天使と目の前の女とは別人なのだという感覚にさえなっていた。
その
中に入る瞬間、
あの奇妙な名前が屋敷中に
――――エルクコワラピュール
……もしかして名前じゃないのか?何か大切な約束の合言葉なんじゃないか?はたまた、呪いの言葉か。
――――エルクコワラピュール
……ジーン。俺とお前はいったい何なんだ。
「ついて来な。」
女に連れられ
手入れの行き届いた
足音が「静けさ」に飲まれ、また「静けさ」が深まる。
そうして気が付けば、いき過ぎたソレが俺の口を
「本当にここにテメエらのボスがいるんだろうな?」
「……」
だが、俺の暴言が尾を引いているのか。それとも、ボスの
それにしても人がいない。
例え、これが「罠」だったとしても、こんなことをする
戦力の
もしくは、挑発しているのかもしれない。
人質もいらない。その上、『力』すら必要ない、と。
あれこれと思い巡らせる思考の
この「罠」は本当に俺たちを
「広さ」は確かに『数』を広げるには都合がいい。だが反対に俺の『炎』も
それならまだ、光の届かない
……漂う「静けさ」の中に、どうにも
奥へと踏み入る程にその「空気」は
勢いが全てだった俺の
今、俺たちが相手にしようとしているのは実質『2億』という数の人間を
いくら俺が男の
……もしかすると、俺はとんでもないことを仕出かそうとしているのかもしれない。俺にとっても、彼女にとっても。
自分の手がジットリと汗ばんでいると気付いた時、今までの自分が言い知れない
ここまで来ておきながら、俺の足はどんどんと重くなっていく。そしてまた、あの冷たい魚の目が、真っ黒な窓の外から俺の目をジッと見詰めている。
本当に、これでイイのか?
本当に、イイのか?
同じ言葉が木霊する。
――――エルクコワラピュール
……今ならまだ、何とかなるんじゃないのか?
二人で来るなんて
彼女を、『悪夢』にしてしまう前に。
振り向くと、窓ガラスの中からに見覚えのある『
――――私は、お前の弱さを忘れない
全身から
……ダメだ、引き返すしかない!
『彼女』に
いよいよ
「エルク……。」
――――どうして……、
同じ金髪の彼女でも、目の前の彼女はこんなにも俺を勇気づけてくれる。
……『彼女』も
――――「エルク……。」
……彼女だけは、護らなきゃ。彼女だけは、奴らに渡しちゃいけない。
ガチャリ
低い金属音が鳴り我に返ると、そこはすでに屋敷の奥深く。四方に窓はなく、色濃い「空気」が
「気は済んだかい?」
青髪の女が横目で俺たちを見遣り、屋敷の
「こっから先は、
それは、俺にではなくリーザへの、せめてもの
「私たちは、生きて帰ります。」
「……そうかい。」
聞き届ける女の表情に
※西アルディア
アルディア(アルディコ連邦)の土地環境はアメリカ合衆国によく似ています。(いくらか簡略化はされていますが。)
アルディアは、アメリカのロッキー山脈のようにアルデナ山脈を境に西と東で環境が大きく異なっています。東に人の住みやすい緑豊かな土地が広がっている一方で、西にはコロラド高原(台地)のような荒涼とした土地が広がっています。海岸沿いにはいくらか緑もあります。
(ちなみにコロラド高原は、アメリカの世界遺産グランドキャニオンのある場所です。)
(さらにちなみに、原作ゲーム上で町の設定がしてあるのは東アルディアのみです。)
※アルデナ山脈
公式設定の世界地図を見る限り、アルディアの東西の間には山脈が走っているみたいです。地図に載る規模の山脈に名前が無いのも不自然かなと思ったので、当たり障りのないような(笑)名前を付けさせてもらいました。
(地形に名前を付けておくと後々話も書きやすくなるんじゃないかと思ったので。)
また、山脈はアルディアの真ん中辺りで途切れていて、北にある方を「北アルデナ山脈」、南を「南アルデナ山脈」と呼びたいと思います(できる限り分かりやすくね!)。
ただ、今回は語呂の都合とシャンテの面倒臭がりな性格が重なり、「南北」を省いて書いています。今回、シャンテが言っているのは「北アルデナ山脈」のことです。
これはただの考察なんですが、東アルディアに住む西アルディアに用のある人はこの山脈の途切れが重要な侵入ルートになっているんだと思います。
※スキットル
ハリウッドの戦争映画とかでよく見かけるウィスキーなどの蒸留酒を入れる携帯用水筒のことです。ポケットに入るサイズで胴体が湾曲してるやつですね。
※ドン(don)
マフィアでいう首領。他にもボス(boss)やカポ(capo)などという呼び方があるそうです。
※「どこまでも太々しいヤロウだぜ」エルクの台詞
どうでもいいことだけど、「ヤロウ」は「野郎」で男に向かって使う言葉ね。この場合、女の人には「アマ(尼)」なんて言いますけど、普段から「女の人には優しく」と躾けられているエルクにそんな語彙は無いのです。……まあどうでもいいことだけど。
※リゼッティとバスコフ
リゼッティ=インディゴスで警部をしている人です。真面目で渋カッコいいいおじさんです。
バスコフ=同じくインディゴスで賞金稼ぎ組合(ギルド)の職員を務めている人です。
※「――――私は、お前の弱さを忘れない」
無理くりな挿入してすみません。第一話のエルクの悪夢に出てきた金髪の女の子(ミリル)のセリフです。
突然そんなもん持ってきても、印象付けもなにもされてないから読みづらいかな?とも思ったんですが、それが(唐突に出しゃばってくるところが)逆に『夢』っぽいかなとも思いましたしだいです、ハイ。
いくらなんでも……前後に説明くらいは書こうぜ?とも思ったんですが、なんかシックリこないので省かせてもらいました(笑)
※金髪、プラチナブロンド
ほとんど白に近い金髪のことです。
金髪にも色々あるようで、呼び方も様々。ちなみに、リーザの金髪は黄色味の強いバターブロンド。例えるならリカちゃん人形みたいな色です。
※深緋(こきあけ)
赤に分類される色の一つ。「こきひ」とも読みます。赤と黒の中間、紫に近い赤です。
※光明(こうみょう)
明るい光。見通しや希望の意味。仏様の心身から発せられる光のことです。