中では5人の闇が
「こんばんは。
「……よう。」
「リア、リアッ!!」
黒づくめの放った
愛らしい顔に
「お前たち、なんてことを……。」
もしも、オッサンに『力』があればこの瞬間に連中の一人くらいを道連れにしたかもしれない。でもオッサンは分かってる。
オッサンは分かってる。連中がどんな
「博士。こんなことしか言えない我々に芸がないと感じられるのかもしれないが、それでも敢えて言わせていただきたい。『我々は遊びに来たわけじゃない』貴方が首を縦に振りたくなるまで我々はその努力を
……目の前でまた、一つの『炎』が俺の顔色を
オッサンを取り囲む4人はユッタリと構えていながら俺たちへの警戒も
「
男は調子を崩さず、淡々と、
「必要であれば、我々の代わりに貴方の愛してやまないお嬢さんに説得して頂ましょう。
オッサンはリアを
「頼む……それだけは、止めてくれ。」
苦痛に
そして
だが、俺がそれを実行に移すことはなかった。そうなる前に彼女が俺の『
「リーザ……。」
「……ダメ。」
リーザもまた、手を出せないもどかしさに歪んでいた。
……リーザの判断は正しい。
俺たちに拳銃を投げて
5対3。少なくとも、
その時、俺が
「あ……」
『……どうした?』
万一、連中が俺たちの声を拾わないとも限らない。俺はリーザを背後に隠し、俺自身は彼女の『力』を利用して聞き返した。
すると、彼女の口からこの場にいるべきその役者たちの名前が出てきた。
「……
男は俺たちが何かを
「……必ず、
俺たちを血祭りにあげる
オッサンを
「我々が来たからには貴方には我々の
男は部下からもう一匹のドーベルマンを受け取り、その
「遅いか早いかの違いです。……護るか失うかの違い、と言った方が分かり
震えるオッサンを見下し、「クツクツ」と失笑したかと思えばまた、
「武器を突き付けられる弱者」「武器を手にした弱者」が取る行動を、男は
「さて、博士には少し時間を差し上げるとして。……君らはどうだね?」
銃に目を
「そろそろ君たちも
「ア?」
「半端な『化け物』のままでいることに限界を感じてきているのではないかと言っているのさ。」
……俺はまだいい。普段から『力』に振り回されるようにはできていないから。だが、リーザは違う。その
「私の経験上、『
「だったらどうしたってんだ。それで大人しくテメエらに首輪を付けられるとでも思ってんのか?俺からすれば、そんなクソ暑いスーツでコソコソ生きなきゃなんねえテメエらの方がよっぽど
すると、男は初めて声を上げて笑った。その笑い声は、表面的にはごく普通の人間のそれに聞こえた。だが、耳を
「『炎使い』、それはお前なりの
これ見よがしに片側の革手袋を
「日々を
そこには
――――
異母より産まれし兄弟……。されど、お前の「歩み」は我らの「歩み」。お前を焼こうとする幾千、幾万の『炎』は我らが代わりに歩こう。
『炎』に枯れたお前を
さあ、この手を取れ。この、両の手では支えられない幸せを
十の蛇が、俺の胸に
この時初めて、俺とは別の、もう一人の『
リーザの中に『野鹿』と『魔女』がいたように、俺の中にも、悪夢という麻薬に
でも……、
――――ダメだ、引っ込んでろ。今さら
胸に爪を立て、
皮一枚を焼いて、悪夢に
――――なんなら今ここで地獄を見せてやってもいいんだぜ?
「自殺」それは俺にとって一番楽な逃げ道なはずだった。だけど今はそれを怖れてる。『
「それを聞いて安心したぜ。」
「……どういう意味だ?」
「テメエらが、進んで病人になろうなんて言うキチガイだって確信できたからさ。」
強がる俺を見て男はまた、人に成り切れない笑みを
俺は気付いたんだ。俺が
もしも俺が今、『炎』になびけば、朝日と同じ笑顔をつくる彼女を海の底に
それだけは……、許さねえ。
それでも男は俺に十分な『
「リーザ、君はどうかね?君もやはり炎使いと同じ意見か?」
「そうではないだろう?君には我々との大事な大事な約束があったはずだ。違うか?」
「それは……」
それでも今は、奴らの甘い言葉に
俺たちの……ために。
「君にこそ、選択の余地などないと思うのだがね。なにせ君は一度、我々との約束を
男は
「君は、我々がそんな情けを二度目も掛けるほど慈悲深い人種に見えるのかね?」
彼女は応えない。応えられない。
今、戻らなきゃ殺されてしまう人がいる。でも今、戻ってしまったなら、それよりも沢山の人を殺してしまう。
その救いのないジレンマに唇を
……メキリッ
すると、この場で唯一、人の言葉を持たない化け物の前足が、彼女の唇を
「……お前。」
「……どうして?」
今まで、犬や機械よりも忠実に主人の意図を
化け物は主人の呼び掛けに耳を傾けない。振り向かない。毛を逆立て、牙を
男の、狼に向けられる視線は冷たく、笑みもピタリと止んでいた。
「フム……。それで?リーザ、君はその粗暴な友人の言葉に従うのかね?」
狼に迷いはない。ただ、ひたすらに、男たちの息の根を止めることだけを考えている。男はそれが気に入らないらしい。「
「人の命は不可逆だ。死んだものが
男の言葉は二人の間にある距離を増々広げていく。
後ろへ後ろへと
「……待って、パンディット。……お願い。」
おそらく彼女が完全に黒服の言葉を振り切ることはないだろう。それどころか、このまま男に喋らせていればいずれ
俺は、燃え盛る狼の勢いが
「おい、キチガイ野郎。俺がテメエにも理解できる言葉で答えてやるよ。」
足元に転がる駄犬をつま先で
すると、シルク帽の
「それはな――――、」
俺は、俺は――――、
「……『クソ喰らえ』だ!」
――――俺は……、『炎使い』だ!!
ドンッ!!
それは、一か八かに賭けた、開戦の合図……のはずだった。
パンディットが動き始めたのは、俺の放った銃声とほぼ同時。一瞬、
だが次の瞬間俺は、戦闘において絶対の信頼を寄せていた狼が、結局のところは「一匹の獣」だと思い知らされることになる。
「パンディット!」
狼は黒服の一人に行く手を
狼を上回るスピードとパワーを見せつけられ、俺の足はまた、噛み合わない『炎』に捕まってしまう。
それでも俺は『炎』を振り払い、黒服に向かって突っ込む。
そのためにも今、俺たちは「一か八か」のために時間稼ぎをする必要があった。だが――――、
「遊びに来た訳じゃない」
男の言葉通り、連中は俺たちとの戦闘を完全にシミュレートしてきているらしかった。
「!?クソッ!」
「ゲホッ、ゲホ」
「エルクッ!」
もんどり打って体勢を立て直すも、
「……大丈夫だ。」
直撃する瞬間、弾き返すように鉄球の先の空気を破裂させたが、それでも半端な重みじゃない。もしも反応が遅れていたら
だが、吹き飛ばされた衝撃で、
……完全に、出鼻を
心の
必死の思いで眩暈を抑え込み、男たちを探す。
そこには血気盛んな獣人が三匹、
「……、狼男か。」
パンディットに並ぶとも
当然、その
直径10㎝程度の鉄球を連結させた小振りなフレイルであるにも
「……あの晩のお前もそうだった。」
俺が撃ち込んだ鉛玉は男の額に命中していた。
ところが、
「
今は少しでもオッサンたちから連中の注意を
あくまで
「実力行使……無駄とまでは言うまい。お前はそういう生き方しか知らんのだ。お前の好きなようにすればいい。だがあと少し、お前は周りの力に頼り過ぎている自分に気付くべきだと思わんか?」
蠢く十指が少女の顔に
「止めてくれ、もう沢山だっ!何でも言うことを聞く。だからどうか、リアにだけは手を出さんでくれっ!!……キサマら、それでも人間か!?」
オッサンの悲鳴が俺をさらに突き動かした。
今の俺に三匹の狼男を突破する力なんかない。リアが近過ぎて『炎』もろくに使えない。それでも俺は息を止め、力の限り床を
「これはお前の放った銃弾の
「リア、リアッ!!」
ガァアアアッ!!
『!?』
その場の全員の動きが乱れた。
男はリアから
狼男たちは
「……これは……、想像以上だ。」
俺の目が男の姿を
「それが、お前の言う『愛』か?……実に
横たわるリアの前に、神の
怒りと殺意を剥き出しにした牙と顎はもはや、
さらには、逆立つ毛皮の周囲をチラチラと舞う光の粒。鉄球と、それに備わった力という力全てを丸呑みにした三本の
それらは全てこの化け物に備わっていた『力』。しかし今、それら全てはこの化け物の『器』から
そして、それら全てを命じた『
「……お願い、出て行って。」
『
「……そうか。君は博士から薬を受け取っていないのだな。」
「……」
それは同じ『化け物』であるが
ついさっきまで優位に立っていたはずの狼男たちが完全に
「私のミスだな。博士なら必ず君に薬を渡しているものと思っていたのだが。」
「……出て行って。」
リーダーであるはずの片腕の男でさえ彼女の言葉に
それはつまり、今や、あの
「時にエルク……。」
ところが一つの仕事を
「例のロボットは無事に掘り起こせたかね?」
「……」
俺の沈黙を
「博士……、貴方は本当にアレで我々に
男が合図すると、オッサンを取り巻いていた三匹と一人はオッサンを解放し、男の背後まで
オッサンは脇目も振らず、『執行人』に
それでも、男はこの場にいる人間に記憶させるために一人話を続ける。
「どこでその
話しつつ、男は噛み千切られた片腕を拾い上げる。驚いたことにそれはまだ男の意思で動いていた。さらに、今まで気付かなかったが男の傷口からは
それは暗に、俺たちもまた、そういう『化け物』の仲間であることを見せつけているようにも思えた。
「確かに、かつて我々には『機神』とまで呼ばれる兵器、ヂークベック
「……ワシは……知らん。何も、知らん。」
やっとの思いで
「貴方も
男は気力を失くしたオッサンを相手になんかしていない。これは、俺たちを含む、オッサンの周りでウロチョロする反抗勢力へ
「今さらたかが一機、多少強力な兵器を復活させたところで、貴方がこれまでに生み出してきた化け物たちを従える我々に何ができるだろうか。」
ウソだ。もしそれが本当だってんなら、あんな大掛かりな
「……御伽噺に
残された役目は全うされたらしい。狼男たちはまた黒のスーツで身を固め、『人』の姿に戻っていた。
「本当なら今晩にでも貴方に
帰り
「それまではどうか、変な気を起こさぬよう祈り申し上げておきます。」
言い残すと、男たちは何事もなかったかのように静かに部屋を後にした。
※狼男=ゲーム中の「コボルト」のことです。
※ドーベルマン=拳銃……何で?
本当に何となくです。警察犬や番犬とかのイメージが強く、見た目的にも屈強な「兵士」ってイメージもあったので。
※酷々(こくこく)=途切れない残酷さ。少しずつ、噛みしめさせるような残酷さ。淡々と説き伏せるような残酷さ。(造語です)
※フレイル
ここではフレイル自体の説明を省きます。ただ、今回コボルトが使ったフレイルは一般に「モーニングスター」と呼ばれる棘付きの鉄球を繋いだ武器に分類されます。ですが、今回は棘なしです。懐に携帯する必要があったので棘なしです。……ストーリー的にもエルクが致命傷を負ってしまったら後が続かないので棘なしです!!
そんでもって、鎖は魔法で補強されています。だからどんな豪速球にも耐えられます。……こういう点では魔法って便利だな(笑)
※「なあ、
コーチェブニキ(кочевники)=ロシア語で「遊牧民」の意味です。
『化け物(家畜)』を従えるリーザへの皮肉です。「黒い服、暗殺者、マフィア」から連想される国ってイタリアかロシアだったりしません?
だいぶ偏見ですがf(^_^;)
※「光の粒」
リーザの力で強制的に戦線復帰させられたパンディットに使った表現ですが。「光の粒」は、本当の意味でのダイヤモンドダストです。空気中の塵が凍るっていうアレね。