どうやら俺はまたドジを
血が足りないせいか。不安定な五感に加え、気を失った時のことをハッキリと思い出せない。
そこへ彼女の話を頼りに浮かび上がる遺跡での
「……そういやリアは?」
窓の外は暗い。この時間だともう眠っているんだろう。
もしかすると、俺がこんな状態だから心配させてしまったかもしれない。
「今、パンディットがいるでしょう?だから博士が
彼女の口から狼の名前が出て初めて、そこにソイツがいる異常な状態に気付いた。
「……オッサンは?なんて言ってた?」
「何も。リアちゃんを助けた私たちが今さら村を
「……ふーん。」
「あのロボットは?」
「……ゴメン。エルクのことに夢中になっちゃってスッカリ忘れてたの。」
頼まれた「心臓」を目の前にして、俺たちは何もせずに帰ってきたらしい。
「まあ、気にすんなよ。」
俺なんかが言えた義理じゃないが。
それに、まだ自分の目で確認した訳じゃないが、あれだけ深く
おそらく、リーザが何かしてくれたんだろう。看病も含め、色々と。
「それに、悪かったな。……その、色々と。」
いくら今までに
「そんなことない。私の方こそ、ゴメンね。……色々と。」
リーザはリーザで、
「謝んなよ。リーザにはだいぶ助けられてるしよ。今だって……。」
いくら『力』があったって、俺たちはまだまだどうしようもないガキなんだ。
間違えて、ぶつかって、お互いに支え合うことでしか前に進めない。
どちらからともなく、俺たちは抱しめ合う。お互いの『声』が聞こえるくらいに強く、そして優しく――――。
「……エルク、少し、散歩しない?」
耳元で、彼女はポツリとこぼした。
「いいけど、どこ行くんだ?」
「海。私、一度も海を見たことがないから。」
「一回も?」
「うん、一回も。だから、いいでしょ?」
未開の島だけあって、海もまた都会の
逆に、白い砂浜や、そこらに転がる岩や木々は海と夜空の青をほんの少し
そして、彼らの
「これが、海なんだ。……イイ匂い。」
……この神秘的な景色を前にして、真っ先に出た感想が「匂い」だなんて。
「変かな?」
「ちょっとな。」
「でも、エルクも凄くイイ匂いだと思うでしょ?」
「……まあな。」
彼女の助けが働いたのかどうかは分からない。でも、意識してみると、彼女の言いたいことが少し理解できた気がした。
華やかな星空には香辛料のような、
そこには単調なようでいて、いくつもの顔を見せる香りがあった。
手頃な岩に腰掛け、目を閉じてみる。すると、リーザの教えてくれた香りに身を任せてみると、俺は熱帯の海に漂う心地良さの中にいた。
「エルクはアルディアに戻ったらまず何をするの?」
目を開け隣を
「ん?そうだな……バターを塗りたくったベーコンエッグトーストを吐くまで食うかな。」
ベーコンエッグは俺の「好物」であり、「日常」の代名詞でもあった。
あの
「クスクス……、エルク、本当に好きね。ベーコンエッグ。」
「そりゃあな。高カロリーってのは合法のドラッグだからな。」
「あら、じゃあもっとお肉お肉してた方が良いんじゃない?」
言われるとさざ波が、油の中でジュージューと。食欲を
「リーザ……、俺にはこの両手で
そう、沢山は要らない。
生活も、家族も。
「金も、評判もな。それともリーザは俺に、アツアツのステーキを手掴みで
「フフフ……そうね。でも、エルクならきっとできるわよ。」
「……そうかもな。だったら俺にもお返しにリーザの髪を
「いいけど、エルクに触られたら私の髪、チリチリになったりしない?私、アフロなんて嫌よ。」
「おいおい、俺はプロだって
すると彼女はあの笑顔で笑ってくれた。
「だから俺にはトーストがちょうどイイんだよ。」
それが、今の俺のこの手に収まる大切な家族。
「この手もな。」
一人ぼっちのそれに、ソッと重ねる。
「リーザは?」
月も星も海も砂浜も、みんな持ってる。寄り添い、支え合ってる。俺は今まで、それが
ずっと……、ずっと……、それが欲しくてたまらなかったんだ。
「私は……」
――――リーザ、お前は?
翌朝、改めて俺たちは置き去りにしたロボットを迎えに行くために遺跡へと向かうことにした。
「まだ傷も
みっともない姿ばかり見せる俺が、「
だが、なかなかどうして。毎回、毎回俺たちの身を
「そういうオッサンもな。」
「……偉そうに。今度はちゃんと成果をもって帰れるんだろうな?これ以上の
その聞き飽きたセリフに思わず笑みがこぼれる。
「問題ねえよ。ボスっぽいヤツは叩いてあるし。まあ、ちょっとした散歩みたいなもんになると思うぜ。」
「ほざきおる。
「心配性だな。」
「お前が不用心なだけだ。」
そしてお約束のように、最後は目を合わすまいと俺たちに背を向けてしまう。
「帰ってきたらまたリアと遊んでくれる?」
小さな小さな妖精の笑顔は思った通り、一目見ただけでケガの痛みも吹き飛ばしてしまった。
「そうだな。今度はうんと付き合ってやるぜ。」
吹けば
「……少し
「あーあ」と溜め息を吐きながらこぼした彼女の
「いやいや、リーザもそう思うだろ?」
「さあね。」
彼女は俺を置いてさっさと先に行ってしまう。俺はその後を追う形になり、なんとも
※芳醇(ほうじゅん)
香りが良く、味にコクがあること。「醇」は「熟成して味が濃いこと」。「芳」は「良い香りを漂わせること」を意味します。
※鞴(ふいご)
金属の加工や精錬の際、炉に風を送り、燃焼を促進させる器具。送風機。「もののけ姫」でたたら場の女の人たちが踏んでたあれも「ふいご」の一種。
……キッチンの窯で使う送風器具も、「ふいご」で合ってる気がするんですけど、なぜかネットで拾えません。間違ってたらスンマセンm(__)m