怒っている時の私は、……誰かを呪っている時の私は、自分の
他の誰かの目を通してみる私はいつも……、死に神のよう。
「エルク……、エルク……?」
でも、私は出会ったの。こんな私でもキレイだと思える自分に。『化け物』でも、『魔女』でも、この人の目はそれ以外の私を見てくれる。怖がる反面、この目だけが私を飲み込む『
だから、護らないと。私も、彼を見失う訳にはいかないの!
彼を苦しめた者たちへの
「……エルク、……エルクッ!!」
駆け寄り、抱き上げた彼の体はひどく熱い。息も荒い。さっきの幽霊の魔法が抜けきっていないんだわ。
「パンディット、パンディット!!」
「お願い、力を貸して。」
足元をフラつかせながら戻ってきたばかりの狼に
鼻を鳴らし、息を
私に忠実で、私のことを誰よりも理解しているこの子は、決して私の期待を裏切らない。
たった一度通っただけの道を、ただの一度も迷うことなく駆け抜ける。ただの一度も立ち止まらない。
そして、
――――どうしてだろう
今まで一度だって私を傷付けたことなんてなかったこの子を。花の名前で私を呼んで、家族のように支え続けてくれたこの子の寿命を今、確実に削っている。死んでしまう可能性も低くない。
彼を助けるためだけに。
彼はこの先も私を傷付けるかもしれない。いつかは誰かの下に帰ってしまうかもしれない。
それでも私は、この人を死なせられない。
死なせてしまうくらいなら、他の全てを忘れようとしてる。
「もう心配ない。
けれど、そんなことをしなくても、博士が
「もともと丈夫な体だったことが幸いしたな。これだけの失血であれば普通は死んでもおかしくない。……あとは十分な休養と食事をとらせれば二、三日中でも意識は回復するだろうよ。それよりも――――、」
経験を
そうしてようやく、自分がバカな行動を取ってしまったことに気付く。
「その狼は、お嬢ちゃんのか?」
少し焼け
「……ごめんなさい。こんなつもりじゃ……。」
この人に私の素性を明かしちゃいけないことは分かってたのに。それでも、時間と場所を選んでいられるほど私は理性的でいられなかった。
ヴィルマーさんはひとしきり私たちを見比べると目頭を押さえ、深い深い溜め息を
「謝る必要はない。薄々、そうではないかとは思っておったことだ。……お前さんたち、あの施設の子たちだな?」
「……はい。」
「君は、私の心が読めるのかね?」
「……はい。」
「…………その『力』を、ワシらに使ったか?」
博士の声は、妙に落ち着いていた。自分が「被害者」だと言える立場じゃないことをよくよく理解しているからなのかもしれない。むしろ「私たち」という「被害者」を目の前にして、その罪に
だから、隠さなきゃならなかったのに。それさえも私は忘れていた。……忘れなきゃ、彼を助けられなかった。
「いいえ。……神に誓います。」
「……フン、神か。」
色々な緊張から解放されると、
「……ゴメンね。」
「
この子はこの子で私のワガママに
家族を想う胸が痛む一方、その
それは私にとっても、この子にとっても自覚があってやっていることじゃない。神様に与えられた『力』が、神様の言葉に従って動いているだけ。……どうしようもない。
この『力』がある限り……。私たちが『生きて』いる限り……。
「決めるのはお前さんに任せる。」
博士は透明な薬液の入った小瓶を私の手の平に乗せる。博士のことを知ってから私は、この瞬間をずっと
意味もなく込み上げる、「
「ワシにはお前さんたちに少しでも生き易い選択肢を提供する義務がある。」
博士からの説明はなかったけれど、私にはその薬がどんなものかよく分かっていた。
その薬の効力は私の中の『魔女』を
「エルクには、効くの?」
どうしてそんなことを聞いてしまったのか。……分かりきってる。
彼から『力』を奪えば、彼女への道が断たれるかもしれない。そんなバカみたいな
そんなことで彼が彼女を
博士は私の問いに力なく首を振り、寝込む彼を
「可能性は低い。お前さんの『力』と、この小僧の『力』では体系が違う。ワシが見付けられたのは、お前さんのような遺伝子そのものが『力』の
言うにつれ、博士の顔には
「……どうか許してほしい。」
それは、私たちに向けた言葉じゃない。
この5年間、いいえ。博士があの施設で試験管を手にしたあの日から今までの、
「ヴィルマーさんは……、リアちゃんを幸せにしてあげてください。」
もしかするとまた、私は醜い顔をしているのかもしれない。
自分でもそれが本心なのか、精一杯の
分かってて口にした言葉だからこそ、醜く聞こえて仕方がない。
こんな私はイヤだ。助けて……。お願い、助けて……。
………………エルク………………………………
………………………………リーザ………………?
………………温かい
「……リー、ザ。」
「エルク?……エルク。」
天使が、俺を見下ろしていた。
「エルク……、エルク。」
ポタリ、と温かい
「……泣いてんのか?」
「泣くなよ。……置いて行かねえって言ったろ?」
ソッと手を伸ばし、仔犬のように愛らしい彼女の頬を
それでも天使の頬は濡れている。顔にたくさんのシワを寄せて、俺の頭を抱きしめる。強く、強く――――。
「……イテぇよ。」
金髪の天使が、子どものようにむせび泣いた。……俺のために。
彼女の体が熱くて、思わず頬が濡れる。
「エルク……、エルク……。」
彼女は祈るように俺の名前を呼び続ける。まるで俺が彼女を助けたかのように。