「気に入らねえ……。」
「え?」
「気に入らねえって言ってんだ。どうして急にヒヨっちまったのか知らねえけど、俺は俺の好きなようにする。何でもかんでもお前の思い通りになるなんて思ってるんじゃねえよ。」
そもそも、リーザに言われるまでもなく俺は自分のことを『化け物』だと思っているし、彼女も同じ『
でも、今の彼女は異常だ。何かがオカシイ。
「……ゴメンね、エルク。急にこんなことを言い出したら誰だってそう思うわ。でもね、私はね、ずっと我慢してきたの。」
彼女の『目』に捕まったらオシマイだ。俺は一人、先を急ぐように歩き始めた。
けれども、俺の中の彼女を見捨てられない気持ちがその足を引っ張った。彼女に付け込まれた。
「この『力』が原因で父さんも母さんも殺されて。……でも、おじいちゃんが私をとても大切に育ててくれたから今まで何とかやってこれたわ。でも……、おじいちゃんは何処?」
逃げる俺の腕を彼女に捕まれ、俺はまた彼女の『言葉』に
「……うるせえって言ってんだろ。不幸
「……シャンテさんの言う通りね。……ゴメンね。変なこと言って
すると、俺を
……「シャンテの言う通り」……、あの女はリーザに何を言ったんだったか……。何にしたって、
歩きながら、彼女が今まで自分の『
『悪夢』を思い起こせば同時に『魔女』が目覚めてしまう。彼女を『
「我慢していた」その言葉の通りなんだと思う。俺が『炎』に
自分が『化け物』だからこそ。
それが『本性』だからこそ。
そして、彼女は俺にその
だけど、それは何かが間違ってる気がした。俺の中で何かが食い違っていた。
……どうしようもなく、
けれども、
俺も、『炎』に駆られて我を忘れてしまうことはあるが、それでも『炎』は俺を火種として燃やし尽くすことはない。俺も『炎』を
今の彼女のように赤の他人が主導権を奪い合うような感じじゃない。
まだ彼女のことを半分も理解しちゃいな俺だけど、それでも、今の彼女はやはり俺が助けた彼女とは『別人』だ。それだけは分かる。
例えば、その拒絶が自分の意思じゃなかったとしたらどうだ?
それはつまり、「リーザ」の『魔女』を欲しがる
この世の何処かにソイツはいる。ソイツを狩れば、彼女に付けられた
そう思えるほどに、今の彼女は受け入れ
……もしも、もしも、それが正しかったとしたら。もしも、もしも、その
家族が焼かれてしまったのは――――
女の子を置き去りにしてしまったのは――――
誰かが、そう仕組んだことなのかもしれねえってことなのか?
――――「人類キメラ化計画」
俺たちはまだ何も気付いちゃいねえのかもしれねえ。飼い主から逃げ回っているつもりなのは自分たちだけなのかも……。
恐る恐る、俺の手の中に彼女の手が
今度は自分の意思で振り返り、彼女の目を見る。
「……別に、置いて行くつもりなんかねえよ。」
今さらこんなことを言ったって、彼女を笑顔にできるなんて思ってない。それでも俺はやっぱり、彼女を放ってはおけないんだ。
たとえそれが、誰かに仕込まれた
進めど進めど辺りは変わらず暗く、敵はミイラか骨か石像のどれかだった。俺とパンディットはそれぞれ自慢の『力』をフルに使い、どうにかこうにか道を切り開いていく。
そして彼女もまた、自分がすべきことをしようと
「このまま進んだら右手に石像が道を
「……だったらここで少し休もう。」
残念ながら、俺もパンディットも10、20体の不死者たちを相手にして無傷ではいられなかった。俺の『力』と環境との相性が悪いというのもある。だがそれ以上に、頭の悪いミイラや骨はともかく石像の、俺たちの動きをよく
それでも今のところ
周囲への警戒を解かない狼の体をザッと確認し、必要と思える傷口からは適当に毒抜きをしておく。
「……ごめん。」
どうやら俺の「
「私、足手まといだよね。」
その弱気な言葉が腹立たしかった。
確かに、彼女の言うように絶体絶命の一撃が何度か彼女を襲った。その
「だから何だよ。俺は、足手まといはみんな見捨てなきゃならねえってのか?バカにすんなよ。」
『魔女』を目にしてしまったからか。今の彼女が余計に弱々しく見えた。
それでも、彼女の『力』を目の当たりにしてしまった俺は、彼女に差し伸べようとする手を無意識に隠してしまう。
小さな明かりを頼りにする彼女の金髪は陰っている。……俺が見たいのはこんな彼女じゃない。
「……この下にあのロボットの心臓があるわ。」
「分かった。あと一息休んだら先に進もう。」
……俺が言いたいのはこんなことじゃない。
「……うん。」
……何にしても、ロボットの方はギリギリなんとかなりそうだ。
ここに来るまでに5つの階段を下りた。体に違和感はないし、気になるような臭いもない。それどころか、
「吐き気や
「ないわ。」
これもまた、俺たちを操る誰かが仕掛けた罠なんじゃないか?
俺たちにあのロボットを掘り起こさせるための。もしくは、俺たちをこの遺跡に閉じ込めるための。もしそうだとしたら、考えたくはねえが、やはりオッサンたちも俺たちとは無関係じゃねえ。
「……どうする?」
俺の言葉は彼女
「私は、このまま進みたい。」
「……俺も、ここまで来て手ぶらで帰るつもりはねえよ。」
どっちにしても今の装備でこれ以上
想い合う腰は重く、何度も「
問題の階層は思っていたよりも視線が少なく、代わりに
「こりゃあ、
先へ進むと、お
「引き返す?」
「……場合によっちゃあな。」
得物を
「……コレヨリ先ヘ進ムコトハ」
「……
「こいつは……、幽霊か?」
ボウと煙のように現れたのはローブを
……いいや、どうやらそんな単純なモンじゃねえな。
どういう
加えて、この場は奴らのために
……かといって、ここで彼女の『力』に頼ってしまったら、
今さら戦闘を
「……
「……引キ返スガ、イイ」
その声は、
「会話できんのか?」
何かに縛られた幽霊の性格ってのはだいだい機械と変わらない。与えられた命令でしか動くことができず、余程の権限を許されていない限り、それは一方通行だ。
「テメエらはいったい何なんだ?」
ローブの男たちはまるで静止画か何かのようにピクリとも動かない。
「……コレヨリ先、混沌ノ聖域」
「……引キ返スガ、イイ」
言葉は通じているが、答える気はないらしい。もはや会話の取っ掛かりにもならないような「警告」で返してくる。
だが、
それはつまり、このフロアのどこかに俺たちにとっての確実な「勝機」が転がっているのかもしれないってことだ。そして、今のところそれだと思い当たるのは当然、ローブの二人が立ち塞がる通路の奥。「混沌の聖域」とやらにあるものだ。
ところが、ローブの男たちの威圧感は直接心に
……いいや、幽霊なら今までにもたくさん相手にしてきた。これもまた遺跡の仕掛けの一つに違いない。
「エルク……」
野鹿の、か細いその一言が俺に火を
狼の背中をトンと叩き、祭りの開始を伝える。
合図から一秒足らずで、俺たちは両サイドに控える二体の石像を破壊した。
何のことはない。人間も機械も変わらねえ。考える時間さえ与えなきゃ倒すのは大して難しくはない。
ただ、人間と機械で決定的に違うところは立ち直りの速さだ。奴らに不意打ち最大の利点である
残る石像に向き直るころにはすでに、奴らは攻撃の姿勢に入っていた。だが、一対一なら
俺は
「ダメッ!!」
入り乱れる雑音を
全身の感覚が
「クソッ!」
ペンデュラムのように正確な
普段なら革の肩当を付けているが、今、俺の左肩を守っているのはたった一枚の布切れだけだ。
「エルク!!」
転がり、離れたところで体勢を立て直す頃には、左肩を食い潰すように赤が布切れを染め上げていた。
「ああ……」
急な温度上昇に加え、疲労した体、敵の魔法。そして、大量の出血。体のあちこちが俺の命令を拒絶し始める。視界が急激に
完全な誤算だ。まさかあの双子がこんなにも早く魔法を完成させられるなんて。
その間にも、双子は両腕をかざしたまま、次の呪い唱え始めている。あの呪文が完成したら、今度こそ、終わりだ。直感が、そう告げていた。
「……ナメんなよっ!」
やけくそで
――――『トマレッ!!』
脳に
動けない俺が目にしたのはまたも、『魔女』の
彼女の手で石像に
狼が双子の間をすり抜け、通路の奥へと駆ける。
「……聖域ヲ
「……死ヲ」
両腕を失ってもなお効力を
しかし、そこはもはや死力をぶつけ、勝利を奪い合う戦場なんかじゃない。
そこは『魔女』の
『……お前たちが、死になさい』
それこそ、全知全能の神がもたらす絶対的な『力』としか思えない。
双子は
……
暗闇で
※
ミイラ=ゲーム中の「マミー」のことです。
骨=ゲーム中の「スケルトン」のことです。
石像=悪魔=ゲーム中の「ガーゴイル」のことです。
幽霊=ゲーム中の「レイス」のことです。
ローブの男=髑髏の幽霊=ゲーム中の「死神」のことです。
※補佐力
よく使われる言葉ですが、正しい言葉ではないのであしからずー。
※「魔法」はストーリーブレイカーだと思う件f(^_^;)
一般的なファンタジーの中でも「魔法使い」と「精霊使い」が区別されるように、ゴーゲンが使う「魔法」とエルクやリーザが使う「魔法」は若干性質が違います。
端的に言うと、「呪文」が必要なものとそうでないものに分かれます。
前者は知識を必要とする後天的なものに対し、後者は本能みたいに先天的に備わっている。という違いが魔法の発動に差別している。……と考えてください。
ちなみに死神は、そのものが「死の精霊」のようなものなので、「魔法」の発動に呪文は必要ありません。今回の呪文を唱えているような行動は一種の儀式だと思ってください。「神様にこの供物を捧げます」的な。
なのでエルクはそれを呪文と勘違いして計算ミスをしてしまったのです。
パッと見、魔法使いっぽいのが使ってる「魔法」は全部、要呪文のものだと思ってください。
なので、パンディットのそれも
……さらに、幽体のモンスターに「魔法」が効く効かないの区別は、「術者」の精神感応(テレパシー)のレベルによります。
本来、幽体はこの世とは別次元の存在なので、どんな攻撃も通用しません。
一方で、かつてこの世に存在していた、この世に密接に関与していた彼らは強い意志を持って、「魔法」を通じてこの世に干渉してきます。
エルクやリーザのように他人への関心が強く、心に働きかけようという意識の強い「術者」は、攻撃時にも無意識に相手に干渉しようとするため、幽体の存在する次元とこの世を「魔法」で繋ぎ、効果を発揮することができるのです……ヨ!!
(ここまでの言い訳のために、一晩悩みました(笑))
※松明の火
天然の洞窟では完全に密閉されて空気が循環しないというのは稀なことだそうです。人工物(トンネルや坑道)である場合はやはりそういう例もあるらしく、低酸素状態になってしまうらしいです。
ランタンを持っていると、低酸素地帯では火が小さくなり、メタンガスなどが流出しているところでは逆に火が大きくなるそうです。
※ペンデュラム(Pendulum)
意味は「振り子」。エドガー・アラン・ポーの著作「落とし穴と振り子」や、コーエーテクモゲームス製作のゲーム「影牢」などで登場した拷問器具のことです。
天井から伸びた鎖もしくは縄の先に巨大な鎌状の刃物を取り付けたもの。重力を利用した運動エネルギーで振り子のように揺らし、対象を切断します。