「この通路の途中に、階段が隠されてるみたい。」
「分かった。」
狼の鼻を頼りに、俺たちは下へと
……俺たちは、あのロボットを解放する手助けをすることにした。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。」
「心配?俺が?」
「あのロボットさんはイイ人よ。進んで誰かを不幸にしたりはしないわ。」
「……どうだかな。」
「どうだってイイ」なんて無責任なことは言えない。でも正直なところ、可能性は
人間の言うことを聞かない機械なんていない。そういう意味で言えば、ずっと俺たちの
だが、機械は人間以上に何を考えているか読み取れない。
味方のフリをするにはうってつけの役者なんだ。いつ
「だったら、どうして助けようなんて思ったの?」
「……なんでかな。……
あれだけの『
すると、彼女は横目で俺の顔色を
「
「俺とアイツが?どこが?」
リーザやシュウならともかく。人間でないものと比べられ、俺は反射的に声を荒くしてしまう。
「エルクはあのロボットさんより、もっと強い『力』を持っているじゃない。それなのに、私や夢の中の彼女に縛れて生きたいように生きれてない。……やっぱり似てるわ。」
「……」
リーザはそう言うが俺自身、最近の自分の『力』の無さに失望してばかりいる。
それどころか、何度リーザを危険な目に遭わせたか分からない。何度『炎』に
――――俺は誰も護れてない。
「どんなに立派な翼を持ってたって、卵の
「……何だよ、急に。」
ふと、金髪が匂った気がした。彼女の育った
「私は、多分、エルクに会ってようやく殻にヒビを入れることができたの。とってもキレイな世界が見えた気がする。」
「……それで?」
「エルクは今、あの船の中で私を見つけた時と同じ気持になっているんじゃない?」
「……」
「あの時、アナタは私を信じてくれたわ。」
でも――――、
「お金のためじゃなく、自分の命のためでもない。……私のために、あんなムチャをしてくれたんでしょ?」
……少し、違う。
俺は、「
……あのまま放っておくのが、恐かったんだ。
それはやはり、自分のためじゃないかと思う。
「じゃあ、私がこんな髪をしてなかったら、エルクはあの時、私を放っておいたの?」
「……変なこと聞くなよな。」
俺はバカだ。そんなことをしたってムダなのに。どんなに隠そうとしたって、彼女には伝わってしまう。
俺はただ、言い訳をしたいだけなんだ。
「ウソつき。」
「……」
「私は世間知らずだわ。
「……」
――――時を
ロボットの言葉を聞き届け、解放を決めた俺たちだったが、ソイツの下半身に喰らい付く遺跡の壁は思った以上に固く、ちょっとやそっとじゃビクともしない。
少し離れたところで試してみたところ、『
理屈は分からないが、ロボットの放った『閃光』が遺跡に仕掛けられた魔法もどきを無力化したらしい。だからといって『力』任せに壁を壊したならロボットも一緒にフッ飛ばしてしまうのは間違いない。
パンディットならあるいは。あれやこれやと
「
下の
その言葉を頼りに俺たちは今、どこまで続いているのかも分からない遺跡の底を目指して潜り続けている。
たとえ掘り起こすことに成功しても、「心臓」がないとなると再起動させられないかもしれないと思ったからだ。「この世に一つしかない人形」かもしれないとなるとなおさらだ。
人形の言葉を信じることに不安がない訳じゃない。
俺はシュウと違って情に流されやすく、頭が固い。
それでも、そういう経験があっても、今はあの人形を信じてもいいと思ってしまうのはもはや「性格」という名の「本能」が俺を動かしているからなのかもしれない。……根っ子の部分が疑うことを嫌うんだ。
そんなことを考えていると、この
「……どうやらここからが本番みてえだな。」
ここまで何事もなく進んでこれたのは見逃されてきたからだ。だけど、ここからは違う。
「『声』はさっきの
不死者ってことか。
「まあ、定番で言えば
「……それって人の骨が
それは俺の「『
「何だよ。見たことでもあんのか?」
「……うん。」
実際、そんなに珍しい怪物でもない。
ゾンビに次いで、
インディゴスで俺たちを襲った
すると、手足を落とすことは言わずもがな、頭を飛ばしたって胸を破壊したって白骨兵の動きが止まることはない。
剣を持つ手を落とせば、落とされたそれが剣を振りかざしてくる。頭を飛ばせば、飛ばされたそれが地を
不死者の原動力である魔力が
そうなると数で攻められた場合、一個一個を完全に停止させることが難しく、押し切られてしまうこともある。
それでも『炎』に制限が
「それだけじゃないみたい。……エルク。他に、何かいるわ。」
階段を降り切ったところで彼女は
「……言われてみれば、なんか
潜るほどに遺跡の闇は濃くなり、
確かにそんな気配がある。いや、気配なんて
白い傭兵たちの
……そして、この視線には覚えがあった。
「……どうする。引き返すか?」
気付けば俺はリーザに尋ねていた。ドロリと絡み付く視線が『悪夢』に似ていて、思わず弱音が出ちまった。また一人、『炎』の中に
「いいや、気にすんなよ。何でもねえ。」
彼女は、そんな俺の問いに目を丸くしていた。そして
「エルクはもう、私のことを分かってくれてるのだと思ってた。」
「……なんか気に
「ううん。ただ、エルクはまだ私を普通の、人間の女の子みたいに思ってるところがあるみたいだったから。……何となく。」
「バカなこと言ってんなよ。なんも間違ってねえ。リーザはれっきとした人間だろうが。」
「……それは、優し過ぎるよ。優しくて、好きだけど……、でも、それは
「じゃあ、リーザはこの先にいる相手全部を相手にして無事でいられる自信があるってのかよ。」
気付けば俺はまた、同じことを繰り返していた。
心の底では分かってるんだ。だからこんな場所にまで彼女を連れてきたんだ。
「第一、リーザはまだその武器に慣れてないだろ?」
リーザには
「お前に、命を
足音も視線も、ジリジリと
一歩前へ踏み出したリーザは振り返り、覚悟の表情を俺に見せた。
「……エルク、見てて。これがアナタの目の前にいる女の、本当の姿よ。」
とうとう、黒塗りの
「お、おい何してやがんだっ――――?!」
足が、体が動かない。……リーザか?!
「なんのつもりだ。離せっ!」
たった一本のナイフを片手に、彼女は悪魔たちと同じように彼らに歩み寄る。たった一匹の
ユラリと、先頭の
「バカ、戻ってこいっ!!」
それでもなお彼女は歩み寄る。
「エルクのせいにするのは間違ってるって分かってる。でも、だけど、エルクに会ってから私、今まで以上に近付いてる。」
あわや!……というところで傭兵の剣は
これも俺の目の
仕留めそこなった傭兵へ、彼女は最後の一歩を踏み出す。そして彼女の、ナイフを持つ手とは反対の手が、ソッと傭兵の顔を
『……オマエの敵は私じゃないわ。』
その声は鎧と剣の
空気の波を飛び越えてやってきたそのたった一言に俺は、
―――この後
不死者たちの『力』は、
たとえ彼女にその
気付けば彼女に
――――『炎』が……、白い『炎』たちが金髪の少女の『息』を浴びて
広がり続ける『炎』に息苦しさを覚えたのか。
「リーザ、伏せろ!」
「リーザッ!!」
……ところが、
――――後から思い返してみると俺はこの時、自分の『力』の存在を完全に
シナリオは、石の悪魔に使命の
槍を弾いた次の瞬間、悪魔はその象徴的な
床に散りばめられた傭兵の手足が悪魔の足を絡め取り、地へと引き
空を
羽音が、
そこから先は、地獄絵図だ。
悪魔が悪魔を狩り、悪魔が悪魔を
全てが完結するまでに10分と掛からなかった。
『……ごめんね』
少女の『言葉』に
――――頂点に立つものの『
「エルク……、エルク……。」
あまりの光景に俺は
固まったままの俺に、彼女は語り続ける。
「今はまだ、これが精一杯。……でも、多分、来年にはもっとたくさんのものが
ユックリと、俺に近付いてくる。
「私はね、魔女なの。誰も私の『言葉』には逆らえない。」
目の前に立った彼女は真っ直ぐに俺の瞳を見詰める。
「それでも、エルクだけは。アナタだけは私が魔女だって認めてくれない。」
――――悲し過ぎる。
……それは俺が野へ還そうとしてた野鹿のはずだった。『力』に
「でも、私はそれが嬉しいの。」
そんな彼女が悪魔を弄んでいた。命を切り刻み、屍の中に
金髪の少女は自ら『炎』の中に飛び込んでいた。焼かれることに身を
「名前なんて、関係ない。私が『救いようのない化け物』だって知って欲しいのはアナタだけ。」
彼女の
「……お願い。アナタだけは、『
――――これで何度目になるだろうか。悪魔の
※白骨兵(はっこつへい)=ゲーム中のスケルトンのことです。
※石の悪魔=石像=ゲーム中のガーゴイルのことです。
※闇間(やみま)
「暗闇の向こう」「暗闇という扉で閉ざされたその向こう」みたいな意味合いでつくった造語なのですが、この言葉、意外にも色んな小説でたびたび使われているのだそうな。
※囃子(はやし)
日本音楽の用語。能や狂言などで演者を引き立てるために太鼓や笛が演奏することを言います。
お祭りでいう、
※大翼(たいよく)
文字の通り、「大きな翼」という意味の造語です。
蝶形骨大翼(ちょうけいこつだいよく)という骨の名称としては既存の言葉があるみたいですが、「大翼」のみの扱いはないみたいです。
※プレス機
金属を、圧力を用いて変形・加工する機械のこと。