どれだけそうしていただろうか。
動けない俺たちを
幸か不幸か、その間に五感はほぼ全快といえるくらいに回復することができた。
「リーザ、動けるか?」
「……」
返事がない。
だが胸を伝って感じる彼女の脈拍や呼吸に乱れはなく、体温も平時と変わらない。どうやらさっきの
「……どうすっかな。」
さっきまで恥ずかしいくらいパニックになっていた俺も、今ではスッカリ冷静さを取り戻せている。
また、ヒタヒタと獣の足音が背後から聞こえてくる。
「パンディット、そこにいるのか?」
クーンという甘えた鳴き声が返ってくると、足音は真っ直ぐに俺たちの所へとやって来た。
「さっきはありがとな。」
「働きっぱなしで悪いんだけどよ、出口までの道は分かるか?」
すると働き者の狼は服の
別の、重要な『何か』を知らせようとしているのかもしれない、と。
「何かあったのか?」
聞いてやると狼はウーと小さく鳴いた。
俺たちが蹲っている間に、当初の「目的」らしいものを見つけたのかもしれない。もしくは、入り口では見つけられなかった「隠し通路」か。
「石の森」や「閃光」と大がかりな仕掛けが用意されていたフロアだ。そのどちらか、もしくはもっと重要な何かがあっても不思議じゃない。
はたしてパンディットがそれらと
閃光の衝撃で落としてしまった道具も、狼は当然のように掻き集めていた。
その中から手探りで
そうして帰ってきた遺跡には、「閃光」がつけた深い深い
「……景気良くやりやがって。」
俺たちが何をしても傷一つ入らなかった石壁は、戦車か何かが走ったかのようにボロボロに
俺たちを
石櫃の
――――メチャクチャだ。
一歩間違えれば遺跡自体が丸々
……そもそも、あの「閃光」はいったい何を
初撃は俺たち目掛けて飛んできたようにも見えた。だがそれ以降は、フロアのあちこちを無差別に焼き払っている。まるで絵心も知らない子どもが走らせたクレヨンみたいに。
これを「侵入者への罠」だなんて説明されても納得がいかねえ。もっとこう……、何かのはずみで起こってしまった「
そして俺たちを
「ちょっと
幸い、人並み外れて発達した筋肉が壁になったらしく、傷はどれも浅い。
「帰ったらちゃんと手当てしてやるからな。」
視界が悪く、細かい破片まで取ってやることはできなかった。
何もかもが
ある
……コイツが仲間でいてくれて心底良かったと思う。
傷つきながらも
その
おそらくコイツは俺たちよりも正確に俺たちの『力』を把握しているだろう。そして、自分がすべきことをその場その場で、驚くべき速さで考え、導き出している。どんなに追い詰められた状況下でもその冷静さを
――――まるで道具か何かのように。
その人は恐ろしく強く、恐ろしく
「『人間』は皆、オマエを殺す化け物だ。」
数十人の血が足元に
それでも、死体たちが
「人間は化け物だ。」
飼い慣らされた「
今でこそ―――俺に気を
それでも彼を「恩人」と
「強くなれ。」
彼はいつだって言葉少なだ。目を見たってそれを補ってはくれない。でも俺は彼にそれを指摘したことはないし、不便に思ったこともない。
そしてその時も俺はその一言に
――――やがて狼は立ち止り、ウォーンと
鼻が曲がりそうになるほど、「閃光」の臭いが
「コイツが、さっきの閃光を撃ったってのか?」
堂々と俺たちの目の前に現れたソレには、卵形の頭部と細く伸びた
ソレは、この遺跡で見かけた何よりも
何より、俺たちが目の前まで近付いているってのに、ピクリとも反応しやがらねえ。
壁から出ているコイツの全身をよくよく観察していると、この大惨事を
……コイツのそれもリーザが言ったような
「リーザを頼めるか?」
押し当てられる体に彼女を
「……マジかよ。まだ動いてやがる。」
真夏の太陽に
コレが何なのかは分からない。だがコイツは今もなお動いていながら俺たちを攻撃してこない。単にオーバーヒートしてしまったのか。他に理由があるのかどうか分からない。
コイツはあれだけ沢山いた墓守全てを焼き払った。その結果、俺たちにどういう影響が出るのかも分からない。
コイツは俺たちを助けたのか?それとも俺たちを殺そうとしたのか?コイツはいったい誰と敵対してるんだ?コイツの
そもそも、パンディットはどうして俺たちをコイツのところまで引っ張って来たんだ?
……分からない事ばかりだ。
「……エルク?」
「気が付いたか?」
「どこにいるの?」
底なしの暗闇からようやく息を吹き返した彼女は、松明の光に目を細め、頼りない手を泳がせた。
「……ここ。」
弱った魚を
彼女は闇を払う光の
「その人、誰?」
「?……ああ、もしかしてコイツのことか?」
「……人、じゃないの?」
「ああ。ロボットだ。」
「その人…ロボットさんの声、この遺跡の魔法の言葉と似てる。でも、私たちの敵じゃないみたい。」
多くの墓守に管理され、それをみんな焼いちまうようなヤツだ。この遺跡にとって重要な存在だってことは間違っていないだろう。
そして今のところ―――リーザの言うように―――、
そうなってくると、この兵器のために造られた遺跡を墓守たちが制圧しているのか。それとも、この兵器が墓守たちの遺跡に封印されてるのか。それがこの後の展開を決めるカギになるかもしれねえな。
「……何か分かった?」
「うんにゃ。コイツがさっきの『閃光』を撃ったってこと以外は何も。」
機械いじりは好きな方だ。専門的なことまでは分からないが、それでもパッと見、コイツに特殊な部品が使われているようには見えない。それどころか、「
パンディットの
「……クの…セン…シな…るや?」
「
言葉と共に、数十体の墓守を一瞬にしてなぎ払った兵器とは思えない弱々しい光りが、小さな瞳に
「
おそらく機械としての寿命が近いんだろう。言葉がいちいち
「戦士?ってかアークって、あの犯罪者のことか?」
アーク・エダ・リコルヌ。
その
コイツは俺をその連中の仲間だと勘違いしてやがるのか?
「アー…ク、世界の
「よく分かんねえな。とにかく俺は犯罪者の仲間でもねえし、世界を救うヒーローでもねえよ。」
不思議と、機械と喋っている感じはしない。
言葉の一つ、一つに。喋り方の一つ、一つに、言葉にはしにくい
「我……、
そうは言っても、もしもコイツがあの犯罪者の兵力の一つだとするなら、ここでコイツを起こしちまうのはヤバいんじゃないのか?
「エルク、大丈夫。少なくとも、今の私たちにこのロボットさんは必要だわ。」
「何で分かるんだよ?」と聞きたい気分だったが、そんなこと分かり切ってる。リーザに言われるとそんな疑問も俺の
でも、たとえコイツに
「
それとも、「七勇者」なんて
そんなの、できるワケねえ。
さっきの「閃光」だって、あれがコイツの通常装備なら
それを、俺やオッサンたちの私情でホイホイと解放しちまってもイイもんなのか?シュウならここで完全に壊しちまうんじゃねえか?
「我がネ…ムリ……は終わ…りを告げ…た。『ホノ……オ』の
……コイツは
「エルク……、大丈夫だから。」
いや、まだだ。「犯罪者」の名前をいの一番に口にするようなヤツだぜ?
……俺のことを気安く『炎』なんて呼びやがって。
「お前、ここを出たら
「閃光」の臭いに警戒しつつ、
「我……がシメ…イは……、黒き
「……」
その時の弱々しい光りに支えられた瞳には、「自我」を
一方で、忠実に「
血と炎で赤く燃え
数え切れない無数の返り血を浴び、全身に
その「
その「
そこに、一人の人間がいた。
※墓守=ゲーム中の「マミー」のことです。
※狼の鳴き声
イヌ科の動物ですが、「ワン」とは鳴きません。「ウオー」とか「オーン」と鳴きます。
ですが、人と長く接していたり、人に飼われた犬と接していたりすると「ワン」と鳴くようになることもあるらしいです。
実は、犬も本来は「ワン」と鳴かなかったそうなんです(@_@;)
どうやら人の耳が彼らよりも良くないことを知った犬たちが、人間の耳に合わせた結果「ワン」と鳴くようになったのだとか。……マジ、ビックリっす。
ちなみに、野生の猫も「ニャー」と鳴くことはほとんどないそうです。子猫でなく、発情期でもない飼い猫の「ニャー」は、人間の注意を引くためにあるんだとか。
※基板
機械が何らかの機能を発揮するために必要な板状の部品のこと。緑色の板にハンダで色んな部品がくっつけられたあれ。(だいたい目にするのは緑色。たまに青や黒もあったりするのかな)
※媒体
情報や病気などを一方から他方へと伝達するもの。情報で言えばCDやUSBなんか。病気で言えば蚊やカラス。要は仲介するもの。
今回、エルク君は、ロボットが魔法陣の代わりとして機能しているんじゃないのかと考えたんですね。
※アーク(Ark)
ゲームタイトルや、主人公のアーク(Arc)とは綴りが違いますが、私たちの世界でいうアーク(Ark)には
○「聖櫃」(もしくは「証の箱」「掟の箱」「約櫃」)
十戒を刻んだ石板を収める箱のことのようです。この石板はかの有名な「モーセの十戒」に出てくるアレですね。
○「方舟」
特に、あの大洪水から逃れたという「ノアの方舟」を指す……のかな?
この二つの意味があるみたいですね。どちらもキリスト教、旧約聖書の関連用語。でも、せっかくなので雰囲気作りのために流用させてもらいますー(●´ω`●)v
※巣床(すどこ)
渡り鳥の寝床みたいなイメージで作った言葉です。「拠点を持たない人」みたいな意味でとってもらえれば助かります。