遺跡の中は不気味なほどに開けていた。少なく見積もっても、社交ダンスのホールとして使っても余裕がある。
当然だが明り取りのための窓などない。ならば本来、夜よりも深い闇で閉ざされた場所になるはずのそこにはまるで神話をモチーフにしたような――――誰のためとも知れない――――薄明かりが
そして、それらを背後に従え、俺たちを出迎えたのは例の「監視者」と命名された
俺には台座に書かれた文字なんて読めないが、眉間に皺の寄った
「怖いくらい静かね。」
彼女の言うように、そこは幻想的な明かりに
そこかしこで石壁から
「明かりの
「監視者」の視線に気を配りつつ、ウィスプの一つに近付いてみる。
降り積もったばかりの
それらはまるで、それ自体が生きているかのように何の支えもなく自立している。まるで、闇の中に
「これ……、光ってんのか?」
近付いてみると、暗闇の中に立っている時には光っているように見えたそれらはただただ、闇の中にあってなお
「この中にあの人たちが入ってたってのね。」
歩き回ってみると、このフロアの棺の口は全て開いていた。どうやら昨日一昨日、俺たちが倒した連中がこの中に入っていたんだろう。
残された棺には襲ってきた宿主たちのような悪意は感じられず、むしろ神秘的な印象を臭わせる。てっきり遺跡の毒ガスの正体は、腐った墓守たちの寝床に溜まる肉片か何かが化学変化の
……っといけねえ、いけねえ。
未知に
「エルク、見て。階段だわ。」
山育ちの彼女は俺よりも先に明かりの先にあるものを嗅ぎ分けていた。
「どうする?」
まだフロア全体を見回ってない。万全を期すなら1フロア、1フロア図面を頭に叩き込むくらい
「進もう。」
だが俺の心配を
「……なんだか妙だな。」
「どうしたの?」
明らかに石像の数が少ない。俺たちが見かけたのは精々入り口付近の2体くらいだ。オッサンの話じゃあ、10体以上はいてもオカシクないニュアンスだったんだが。
それに――――、
「空気が、キレイだと思わねえか?」
「……そういうえば、そうかも。」
俺たちは
試しにマスクを外してみると、やはり中の空気はかなり澄んでいた。なんなら湿度の高い
「歓迎されてるってことでいいのかな?」
「どうだろうな。」
歓迎される意味も理由も分からない。
俺たちが、墓守が
下りるまでもなく、今までよりも沢山のウィスプがそこにいるのが
「ヤな感じだな。」
ウィスプで
「恐いの?」
「……それって、バカにしてんのか?」
「ううん、なんかカワイイなって思っただけ。」
「……やっぱバカにしてんじゃねえか。」
ほんの少しムッとなったが、お陰で全身の力がイイ感じに抜け、笑う余裕もできた。
「じゃあ、行くぜ?」
「うん。」
…………まるで光の森だ。
これまでのように、
そして今度こそ、それ自身が光っていると認識できるくらいに、白銀にも近い
それらは1トンはあろうかという石の
「この地を
だがもしも、コイツらの「眠り」を
この明確な「警告」をするためだけに、俺たちは
見えているだけでも20や30は
いくらパンディットが抜きん出て優秀とはいえ、さすがにこの状況で
「エルク、あそこ。何かいる。」
薄暗い景色に目が慣れてしまったせいか。俺には彼女の指差す、森の木々が
「……人の頭みたいなものが見えるわ。それに……、何か言ってる。」
リーザの様子とこの状況から、それがコイツらの「警告」の原因なんだろうが、この
せめて、この「仕掛け」を解除する方法を見つけなきゃ話にならないんだ。
――――その時だった
「!?リーザ、伏せろッ!!」
いち早く反応した狼に押し倒されると同時に、耳をつんざく
「何なんだ!?」
体が焼けるように熱い。狼を押しのけ確認するが、閃光が直撃した
閃光の
強い光と闇を同時に受けたのが良くなかった。さらには、
手を伸ばして触れた野鹿を素早く引き寄せ、混乱が収まるまでその場に小さく、小さく
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイッ!!
考えをまとめられない状況に
目も耳もイカれてる。今の俺はコウモリの一匹だって
一発目の閃光はパンディットが反応してくれたから良かったものの、パンディットも今の攻撃で五感をヤラれたはずだ。二撃目は
『力』がッ……。せめて『力』が使えれば。
自分の身体が何をしているのか分からなくなっていた。彼女を
「……リーザ、いるか?」
「……いるわ。」
「エルク、私はここにいるわ。」
彼女の
※墓守=ゲーム中のマミーのことです。
※出元(でもと)
出所(でどころ)の意味で使われていることがありますが、本来、こんな言葉はありませんのであしからず。
※鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)
鬼火は怪談話で定番の、墓地でフワフワと漂っている火の玉(人魂)のことです。
ウィル・オー・ウィスプ(will-o'-the-wisp)はその海外版と思ってもらっていいと思います。
名前の意味は「松明持ちのウィリアム」だそうです。
なんでも、生前悪さをしたウィリアムは死んで地獄行きが決まった時、言葉巧みに神様を騙し、生まれ変わりました。そこでも悪さを働くものだから神様が天国へも地獄へも行けないようにしました。
それを見ていた悪魔が、煉獄を彷徨う彼を憐れんで明かりとして燃える石炭を一つ渡したそうです。
この明かりがウィルオーウィスプの正体なのだとか。
※サンタクロース
ミッキーは言わずもがな。アークの世界に夢の住人がいるかどうかわかりませんが、表現として使いたかったので僕的にはいることにします♪
※期する(きする)
期待や決意。または期限を定めること。
※石櫃(せきひつ)
石でできた
※残滓(ざんし)
取り除かれた後に残っているもの。残りかす。
※深黒(しんこく)
濃い黒。
なんとなく「漆黒」の使用を避けてしまう自分(笑)