「お兄ちゃん、おはよう!」
翌朝も、俺はリンゴのように甘い声に
「エルクって、本当はこんなに
どうしてだろう。
体を起こすと、ほんのりと、小麦の蒸される甘い匂いがした。
「これ、リーザが作ったのか?」
「ううん、私は仕上げをしただけ。」
食卓には
「朝ご飯はいっつもおじいちゃんが作ってくれるのよ。」
「……マジか。」
あの、いかにも
「おじいちゃんはね、お料理も
「……なんじゃ。朝っぱらから
下に降りると、そんな朝の挨拶が俺を出迎えた。
リアの言う通り、本当に一日中仕事をしているらしい。それに、今日も今日とて嫌味なオッサンであることは変わりないようだった。
「朝飯、
別に、オッサンとの距離が
でも、なんだかんだで世話になっているのだから、なるべく
けれど、俺の気持ちを知ってか知らずか、オッサンはあからさまな溜め息をついて手元の資料に視線を戻した。
「そういうことをわざわざ口にする奴は好かん。気味が悪い。」
「そうかい、悪かったな。」
「用が済んだらサッサと出て行け。
……その言葉の、どこまでが
研究内容が
「言われなくても出て行くよ。その前に、一つ聞きたいんだ。」
そして、それは
「俺たちはアルディアに帰りたいんだ。この島を出る方法って何かねえのか?」
また、チラリと資料から目を
「昨日、それを調べて回っていたんじゃないのか?」
「いや、昨日も村の人間に色々聞いたんだけどよ。
「ならば、その二つを当たればいいだろう。儂に聞くな。」
どうしてだろう。島を出て行くと言っているのに、今度は引き止められているような気がする。
「もちろん、そうするつもりだぜ。だけど俺たちも
一体、オッサンは何を考えてるんだ?
「知らんな。儂らも自前の船でここまで来たんだ。その船も今はもう解体して村の道具に使っとる。」
……嘘は言ってない気がする。
昨日、村の中でエンジン付きのポンプを見かけたし、船の
ただ、また一つ確信した。オッサンの人見知り、もしくは人間嫌いというのは完全に「
人と話すことが苦手な奴がこれだけ
オッサンは計算高い男だ。足抜けしたであろう『組織』への
けれど、それ以上にオッサンは『何か』を隠している。こんな回りくどいやり方をしてまで隠さなきゃならない『何か』を。
「……リア、お前たちがここに住み始めてからどれくらい
食後、リアたちの家を後にし、俺たちは結局「鍛冶屋」まで案内してもらうことになった。
「ただし、リアを連れて
注意だけですんでいるってことは、とりあえず俺たちが
「うーん、リアが六つの時だから、五年目だと思うよ。」
「今までに、
「え?ないよ。どうして?」
「いいや、なんとなく。」
とりあえず、自分の
チラリと
鍛冶屋の所へと出掛けると聞いた村の女が、俺たちに自慢のパンと果物を持たせてくれた。
「ここに来た時は、たくさん、苦労したよ。」
ついでにリアと同じことを聞いてみると、想像していたよりもオッサンが苦労人だということが分かった。
元々、
オッサンの移住で
そんな状態での正体不明の研究者の登場が、島民たちにあからさまな不安を覚えさせてしまっても、それは仕方のないことだった。
それでもオッサンは
そうして、オッサンの涙ぐましい努力が実を結び、今では村長と同等の
中でも、生水をそのまま生活用水として利用していた彼らに、ろ
「ハカセ、リアをとても愛してる。子ども大事にできる男は、皆を愛せる。だからハカセ、いい人。絶対。」
さらに、孫のために懸命に家事を
今でこそ研究に
女は話しながらリアの頭を、自分の娘のように優しい手つきで
そして何より、村人たちの口から出てくるオッサンの話が彼女の自慢とでも言うように、
島の外から来た研究者、ヴィルマー・ヴィルト・コルトフスキー。彼は村の人間全てに愛される娘を育てた、愛すべき男だった。
その笑顔は俺に、「
※外交的=積極的に外部の興味関心を取り込もうとする性格。社交的な性格。内向的の対義語。