「あ、お兄ちゃん起きたんだ!」
気が付けばそこに彼女はいない。俺は一人
「リアのお
いつかテレビで見た、スメリアの「お茶くみ人形」のようにお
「お兄ちゃん、スープ、飲める?」
「あ?ああ。」
俺はまだ彼女の
そうして出来た妙な間を埋めるように、できるだけ心を込めて「サンキューな」と言い、盆の上の
受け取ったそれは、やけに色が薄く、
「これ、
それはまるで、野菜や肉をコトコトと煮込んだポトフのような甘みとコクを感じさせた。
「本当、
おそらく、調理の手伝いをしたのだろう。女の子の顔に浮かぶ満面の笑みには、
「この村の人は皆、病気になったらこれを飲むのよ。」
確かに、全身の血が息を吹き返したかのように
「そっか。えぇっと……」
「エルク、この子はこの家の主人のお孫さん。リアっていうのよ。」
「そっか、リアか。なんか色々世話になったみてえだな。助かったよ。」
「ヘヘヘ」とリアは笑い、俺の腕に
「もっと元気になったらリアと一緒に遊ぼうね。」
「そうだな。」
言いながら、ここまでのやり取りで俺は八割方の確信を得ていた。
リアは島の外から来た俺たちが物珍しくて興味があるという風じゃない。近所の
肌は日焼けして少し荒れてはいるが、色素の薄い
「でも、その前に、リアのじいちゃんと話をさせてくれないか?」
この小麦色の女の子の祖父とやらは、少なくともこの島のじゃない。もっと北の人間だ。
……血の
「おじいちゃんに会いたいの?」
「あぁ、世話になったしな。礼の一つでも言っとかなきゃだろ?」
すると、喜んで呼んできてもらえるかと思いきや、女の子は腕を組んで「うーん」と
「なんだ、どっか出掛けてんのか?」
それか、
「ううん。違うの。」
「じゃあ、どうしたんだよ。」
「……おじいちゃん、いっつも研究してるの。リアが遊ぼうって言っても『今は忙しいから』って言うの。」
「研究者」か。予想外って程でもないが、
こうやって
「ずっとって、一日中、研究してんのか?」
「そんな日もあるよ。そんな時はね、リアは友だちの家にお呼ばれするの。村の人は皆、おじいちゃんのこと『ハカセ』って呼んでてね、リアとおじいちゃんにとても優しいのよ。」
その答えは少し意外に感じられた。
余所者が
それに、その「ハカセ」の
「リアは、この島にじいちゃんの友だち…、一緒に研究してる人がどれだけいるか知ってるか?」
すると、リアは不思議そうに俺を見上げる。何か
「……おじいちゃんはいっつも一人だよ。オザルがお手伝いしてるけど。」
……孫は村への
「じゃあさ、リアには
リアから難しい
「え、お兄ちゃん、もう起き上がっても大丈夫なの?」
「当たり前だろ。それに、お姉ちゃんがあんなに元気に動き回ってるのに、俺がいつまでも寝込んでたら
ヒエンの
だから、この『回復力』もリーザの『力』の一つなんだと
だが、それとこれは話が別だ。
俺も体が動く以上、することはしなきゃならない。シュウがどこまで予定を済ませちまってるかは分からないが、これ以上寝込んでたら、間違いなくシュウの足を引っ張っちまう。
すると、俺の目の前で、小麦色の小さな頭がブンブンと左右に
「お兄ちゃんはカッコ悪くないよ。」
「どうしたんだよ。」
「私、村の人たちから聞いたから知ってるの。お兄ちゃん、お姉ちゃんの
「……え、何が、何だって?」
リアが言うには、島に流れ着いた俺は敵か味方か分からない村人たちに対し、気を失っていたリーザを
「だからお兄ちゃんはカッコ悪くなんかないよ。」
「お、おう。」
子どもに
何はともあれ、一生懸命励まそうとした女の子にもう一つ礼を言わない訳にもいかない。
「……ありがとうな。」
小さい頭、クセッ気のある髪を優しく
「お兄ちゃん、顔、真っ赤……」という
「じいちゃんに何も
リアに用意してもらった服に着替え、
「大丈夫だよ。夕方までに帰ればおじいちゃんは怒らないもの。」
何とも、研究者らしい
「だからって、口出しはしないのね。」
不意に俺の
「そりゃあ、
フフフ、と
リアの家を出た直後、
けれど、それは俺の予想とは違っていて、
「何だ、こりゃ。」
そこには、もう
その異様な光景はまるで、戦場のバリケードのようでもあった。
「おじいちゃんの荷物だよ。」
「これ、全部か?中身は?」
まあ、聞かなくても大体の想像は付いていた。
「分かんない。研究に使うものだから、絶対に触っちゃダメだって言われてるの。だから、お兄ちゃんも触っちゃダメだよ。」
「……あぁ。」
小分けに運び出すとなると回数が必要だし、一度に
どっちにしろ目立っちまって、それだけで組織に
……もしくは、もともと
こんな
まさか、ここの村人に戦争をさせようなんて考えてねえだろうな。
パッと見た感じ、「村の
「こんなに
「そうよ。おじいちゃんは村の皆のために色んな物を作って、とても感謝されてるのよ。」
小麦色の女の子は今日一番の笑顔を俺たちに見せつけた。
……よっぽど、その「おじいちゃん」が
その日、俺たちは小さな女の子の、小さな手に引かれて、
※銃創(じゅうそう)=銃弾による傷。