この女がインディゴスに流れてきた時期。プロディアスに逃走する際に俺とリーザを引き離そうとしたこと。追われているにも関わらず一ヶ所に
俺が思うにコイツこそが、市長が
そして、おそらくコイツの本当の目的は『大事な
それが完遂されるまでは何があろうと、コイツはロマリアの何らかの機関に守られている。俺には手の負えない本物の
もしくは、この女自身がロマリアの人間であるのなら、本人がそれに並ぶ実力を持っているのかもしれない。雰囲気だけとはいえ、一瞬でもシュウの『臭い』を感じさせた女だ。可能性はある。
全部俺の
ただ一つの疑問は、これだけの機密事項をペラペラと口にして『関係者』たちが全く動く素振りを見せないことだ。
それが許されるほどに、この女は重要な人物ってことなのか?
「なんでテメエがそんなこと知ってんだ?」
シュウがいたなら、自分から
リーザと一緒に歩くようになってから俺は、俺たちはもう幸せになってもいい頃合いなんじゃないかって思うようになっちまったんだ。
『復讐』なんてさっさと終わらせて、移り変わる天気や仕事の失敗で
それだけでいいんだ。
だから今は
「バカだね。アタシがくれてやるのは『情報』だけさ。引き換えにアタシが貰うのはアンタたちの『苦痛』と『後悔』。……
どんなにそいつが『強く』ても、どんなにそいつの足が『速く』ても、取り敢えず、闘うしかねえんだ。
リーザが生きてぇって言うなら、俺だって――――
「エルクは誰にも殺させない。私は貴女とは違うから。」
「小娘が、
「貴女こそ、そんなにエルクを気にかけるのはナゼ?自分に似てるから?
リーザは完全に女の
心と体が別々に動いているような女だと思っていた。けれども、今の女は確実に全身で『本物の感情』を表現している。
「それがアンタご自慢の『力』ってやつかい?
最後の一言にリーザの表情が
また、あの薄ら笑いを浮かべる。
「そうかい。そうやってアンタは
「……シャンテ、貴女、このままじゃ良い死に方しないわ。」
そしてどうやらリーザは選ぶ言葉を間違えたらしい。女は豆鉄砲でも食らったような顔をして固まったが、しかし次の瞬間には、店中に響くほど大きな声で笑い始めた。
「そうかい。そりゃあ気をつけなきゃいけないね。でもね、その言葉、そっくり返させてもらうよ。」
女はスッカリ『余裕』を取り戻していた。
まただ。女が『余裕』を取り戻す手掛かりが隠れていたんだ。リーザが間違えた、たった一言の中に『何か』が。
「なぜ?」
顔にこそ出さないが、リーザも女の不気味な『余裕』には不安を覚えているらしかった。
「リーザ、アンタは度胸があるよ。闘い方も心得てる。でもね、過信してるよ。アンタは人の心を読めるのかもしれないけれど、
女の中でリーザに対する脅威の度合いが極端に下がっていた。
「どんなに強がったってアンタもヤッパリ子どもだね。」
ついさっきまで牙を
「自分がどんな顔をした化け物なのかも知らないなんて、論外だよ。」
どれだけこの女の顔に鉄拳を叩き込もうと思ったことか。だが、それはできなかった。殴り掛かるための拳をリーザが握りしめて放さなかったからだ。
リーザは闘っていた。「言われなき『差別』」と泣きつく一方的な被害者の顔を一瞬たりとも見せない彼女は俺よりも
「貴女の忠告、ありがたく受け取ります。それで、貴女はどうするの?逃げるの?闘うの?」
「……面白いね。アンタ、本当に
「じゃあ聞かせてもらおうか。アンタはどうやってアタシを
「何も。貴女と同じことを言うだけ。……貴女も私と同じように自分が見えてない。今みたいなことを続けてたら貴女は
俺が後ろから引き寄せなかったらリーザの両目は
女の目は
「ここまでだな。俺たちは引き上げさせてもらうぜ。」
今の騒ぎでさすがに周りが
だがこの場でただ一人、話を収めきれない虎がいた。
「なぁ、教えておくれよ。アタシの何が見えてないんだい?」
虎は、なんとか
「……貴女はもっと優しい人なんでしょ?」
女はよほど面白くなかったらしい。荒い息を整えることも忘れ、背中を向けた俺たちになおも爪を立ててきた。
女はまだ手札を隠し持っていたのだ。
「アンタ、『炎のエルク』でしょ?」
「……だったら、なんだってんだ。」
「しっかり守ってやんなよ。その子はもう、地獄に片足突っ込んでるから。」
「まだ俺たちにチョッカイ出してくるつもりか?」
「いいや、残念だけどアタシはこの辺でトンズラさせてもらうさ。今夜辺り、アンタの
『保護者』と言われて思い浮かぶ顔は幾つかあった。だが、虎を殺せる『保護者』なんて俺の周りには一人しかいない。
「……まさか、
「名前も名乗らなかったよ。」
「その男に、何か言われたのか?」
「アンタたちに近づいたら殺すんだとかなんとか。ゴキブリみたいな
……シュウは俺たちの行動を
それに、シュウはこの女を「殺す」と宣告して、女は「殺される」と
だったらなんで生かしてるんだ?泳がせているのか?何のために?……分からない。
「じゃあな。ゴキブリ共々、精々
負かしたい相手ではなかったが、どうにかこうにか気分は晴れたらしい。
女は、握り潰した札束をテーブルに置くと、
「エルク、見て。」
考え事を
さっきの騒ぎでナフキンが飛んだらしい。
それだけだった。