「……なんだか不気味な顔をしてる。」
町中を
「不気味」と
一枚布を巻き付けただけの
控え目に差し出された両手は蓮の花のように口を開け、その
女神はその玉を見下ろし、
彼女は軍事大国ロマリアと経済大国アルディア、両国の
輸送直後、どの新聞会社の一面も彼女の話題で埋め尽くされていた。
仕事に
それを抜きにしても――リーザの『超感覚』とは違って、俺のは単なる『直感』なのだが――、「不気味」という感想には
『大きな建造物』や『施設』は何かと事件やら
ソイツがいくら、『
そして俺たちは今日、『ソレ』とはまた別の『
「一応、あの女に会う前に、何か分かったことがあったら聞いておきたいんだけどよ。何かあるか?」
まだリーザが実戦においてどこまで動けるのか分からないが、これまでの機転のある動きを見る限り、不安という不安は感じない。
でも、リーザは違っていたらしい。
「あの……、パンディットは、連れて行っても良い?」
「そうだな。俺もそれが良いと思う。」
あの女が、リーザの言うように、俺の『力』でも対応できないような奴なのだとしたら、リーザを守りながらは戦えない。
俺の『力』の巻き添えを食うかもしれないし、あの女が一人で来るとも言い切れないからだ。
昼の町中に
「
「うん。だいぶ手に
リーザには
「確認だけど、覚悟はあるんだよな?」
「役に立ちたい」だとか、「足手まといにはなりたくない」なんて理由しかないのなら、俺は『
『プロ』相手に『素人』がヘタに武装するのは
それでも、『覚悟』一つでそれを許そうとしているのには、俺なりの理由があったからだ。
もちろん戦闘でのリーザの能力への期待もある。
けれども、その能力が原因で彼女は俺と同じような『
ここに至るまでの詳しい事情はまだ聞けてないが、今までの彼女の様子を見てきて、彼女の『それ』は今でも
「……もちろん、あるわ。」
だったら俺は一刻も早く『それ』を終わらせてやらなきゃならない。同じ『悪夢』に
彼女の笑顔を
しかし、そうはいっても戦闘経験のないリーザにナイフで接近戦をさせることには抵抗があった。
武器を選ぶ際にそう言うと、リーザは「いざっていう時に無防備なのは危なくないの?」と返してきた。
もっともな意見だし、俺自身も彼女を戦場に立たせることに賛成したのだが、職業柄、『素人に武器を持たせる』ということにどうしても心から納得することができなかった。
それ以前に、戦闘において俺が誰か
インディゴスを出る時にもナイフを持たせはしたが、あれも『
だが、今回リーザが選んだのは相手に明らかな『戦意』を伝えるような武器だった。
なにせ相手は、こちらの攻撃を受けるために立ち止まってくれたりはしないのだから。
特にククリナイフは癖のあるナイフで、刃が内側へ『くの字』にカーブしている。基本的には
さらに内側に曲がった刃は、
だから、
でもそれは俺の『女』や『牧羊』に対する偏見でしかなかった。
もしくは、単にリーザが特別過ぎる『人』なのだ。それは能力の有無ではなく、『才能』……いいや、動物的『本能』がそうさせているのかもしれない。
常に周囲に気を配りかつ、視線は
ククリを振り回す彼女の姿は、まるで
その一撃は10cm幅の木材なら簡単に叩き斬ることができたし、こちらからの不意を突いた攻撃にもまずまず的確な反応をみせた。
暗殺者のような、素早く間合いを詰めてくる相手では多少の危険もあるかもしれないが、それでも余程の使い手でもない限り、一対一でむざむざ捕まるようなことにはならないだろう。
銃の基礎知識、注意点、整備方法も教えてはみたが、教える側の俺自身がそれと相性が悪いせいか、ナイフほどの成長は期待できそうになかった。
それでも十分合格点なのだが。
「一応このナイフの『投げ方』も教えておくけど、投げなきゃならないくらいに追い詰められたら、それこそ逃げ回ってくれた方が俺は安心できるってのも憶えておいてくれな。」
「分かったわ。私だってエルクの邪魔にはなりたくないもの。」
返事こそ素直だったが、リーザの性格を考えると、逃げてくれるかどうかは五分五分のように思えた。
リーザのことだから、自分自身が戦うことを止めても、逃げずに機転を利かせて俺を
「それよりエルクはどう思う?」
「何が。」
「本当にシャンテさんは悪い人なのかな?」
「なんだよ今さら。リーザも『危ない』って言ってたじゃないか。」
「それはそうだけど……、何だか悪い人じゃないような気もするの。」
あんなに警告を発していたリーザが手の平を返してきたことに、
「……まぁ、
実際のところ、あの女が俺たちの直接の『敵』である可能性は6割程度だった。
結局は、偶然俺たちとの
それでも俺があの女を疑うのは、マフィア連中から逃げるリーザを
今思い返してみれば、俺はすでにその『何か』の
昨日の、俺の『殺気』が本物かどうかくらい、あの女にだって分かったはずだ。それなのにあの『余裕』。それは『何か』を背中に忍ばせ、
リーザが止めてくれなかったら、
あの女とまともにやり合うなら、まずその『何か』を知らなきゃならない。
「マフィアってのはリーザが思うよりもずっとヤバい連中なんだぜ?
俺は当たり前のことを、確認するように言った。だが、リーザの表情に折れる気配はない。リーザなりに何かしらの根拠があるのかもしれない。
「あんな
「
「でも、『声』は聞こえないんだろう?だったらそれは何だよ?『女の勘』ってやつか?」
「……。」
皮肉を言うつもりなんてなかった。でも、
「じゃあもしもだ。もしも、あの女がイイ奴だったとして、リーザはあの女が頼んできたら仲間にでも入れるつもりなのか?」
「……違うの。私はあの人を助けたいの。」
話が噛み合わなかった。だが理由はすぐに分かった。
なぜなら俺は『
村社会で育ったリーザは『自分の安全』よりも、『集団の安全』を重要視しているのかもしれない。時には自分の身を危険に
しかし俺がそれを許す訳にはいかない。
何にしても、逃げ回っているはずのあの女が2日も3日も
何かカラクリがある。『自由』と引き替えに俺たちを売る条件があったとしてもオカシクないし、そうでなかったとしても、あの女自体が『
この国で『マフィア』を名乗る連中は大小関係なく全てが、
つまり、この国にいる限り、『
「……
「そう考えない方が得策」と言った方が良いのかもしれない。敵であれ、味方であれ、『アレ』は油断できない女だ。
「……そう。」
理解されないことが余程
俺は、戦闘になるならないに関係なく、交渉の場での注意事項と非常時の対処法を
指定した時間が
だが、『利点』という点で都合が良いのはこちらも同じだ。箱物は対応次第で
それでも、こちら側は人手も敵の情報も不足している。地元という地の利も、奴ら相手では『ある』とは言いきれない。
状況としては俺たちの方が圧倒的に不利だった。それでも奴らが俺たちの行動を軽視する気配は感じられない。
もしかすると、これもリーザの力を試すための奴らの『実験』なのかもしれない。
「やあ、待ってたよ。」
俺の細心の注意を
グラスの中身は透明だが、グラスの内側や氷は無数の
……どう見ても、女は酔っ払っていた。
作中で使用した『遠心力』という言葉ですが、実際にはそのような言葉はないようです。本来は『慣性力』と言うそうです。
ですが、分かりやすさと読みやすさを考慮して敢えて『遠心力』を使わせて頂きましたので、あしからず。