俺たちがプロディアスに入って2日目、町中を
いつもなら、俺が
それにしても見事にかち合わない。まるで
「ちぇ、これが一番簡単なミッションだと思ったのにな。」
「ねえ、本当にシュウさんはまだこの町にいるの?」
「……多分な。」
昨夜、
「
「エルク……、痛い。」
気づけば俺は、
「ああ、
リーザは顔を
それは俺たちの間に長い、長い沈黙を呼び込んだ。
「あ……、え……の」
ようやく口を開いたかと思えば、今度は告白の言葉が出てこない。
その間に落ち着きを取り戻した俺は、彼女の
リーザの目は、潤んでいた。
「リーザ。リーザは心を読めるかもしれないが、俺は目を見なきゃ、リーザが何を考えてるのか分からない。だから俺の目を見ながら答えてくれ。」
出会った
まだ彼女は全てを俺に
それは俺がまだ彼女の『何もかも』を受け入れていないように、彼女もまた俺の中の『化け物』を信じきれていないんだ。
でも、俺は『この子』を
「リーザ、俺はお前を護る。確かに、俺はまだ恐いと思ってる。」
それがたとえ俺の中の『化け物』を
「でも、俺は、その……、お前が好きだから。」
「……本当?」
「ああ、だから言いたくないことは言わなくていい。俺もそうするから。」
「……うん。」
俺は彼女を優しく抱き
「でもよ、本当に体調が悪くなったら言ってくれよな。一人で痛い思いすんのはなしだからな。」
彼女は高鳴る俺の胸に
「…………」
俺はこれまでに2回、リーザを泣かせた。そして、
「ねえ、」
町を出歩く時、リーザはミーナのところで
「息抜き、しても大丈夫かな?」
今日も今日とて、すでに5時間は歩いていた。そろそろ引き上げないと不自然か。
「……そうだな。今日はどこかで
奴らよりも先に尻尾を出したら元も子もない。だからといって遅れをとる訳にもいかない。明後日が『本番』とするなら明日の昼から、少し強引に動いてみなきゃならない。
「ん?どうした。」
リーザはまだまだ
「……もう少し、エルクとこうして歩いていたかった。」
それは俺だって同じ想いだ。
変装のために買い物や
「全部片付いたらまた、一緒に歩こう。」
彼女と出会えて良かった。言葉の変わりに返ってきた『それ』が俺にそう思わせてくれる。『それ』だけは、どんなに姿が変わっても彼女が『リーザ』だと俺に教えてくれた。
必ずリーザを護り切ってみせる。彼女の『笑顔』になら俺は何度だってそう叫べた。
「あら、
俺は
『この女は邪魔だ』
『化け物』の
「落ち着きなさいよ。
青髪の女は、俺の『暴力』に対して素直な降参の
この、込み上げる『殺意』は本物だ。目も血走っているに違いない。その気になれば女一人、
それだけの『殺気』を当てられていてもこの女は、「自分は死なない」と
「エルク、落ち着いて。」
こんな時、『それ』がなんであれ、『化け物』の
俺は乱暴に放したつもりだったが、女はそれを
こういう扱いに
「いきなり女に殴りかかろうなんてどうかしてるわよ。よく今まで事件を起こさずに生きてこれたものね。」
ここは食堂
俺は辺りに『連れ』がいないか目を走らせた。
「言っただろう。アタシに仲間はいないって。」
この女の言葉は何一つ信用ならない。目を配ったリーザの表情も『分からない』と言っていた。
「テメエ、何で逃げねえ。」
すると青い
「
「フザケてんのか?殺すぞ。」
魔女は『堪らず』といった様子で失笑した。
「どうしたんだい。まるで『怪物』にでも変身しちまったようだよ。そんなにアタシの『お勉強』が気に入らなかったのかい?」
奥歯が、割れるような音を鳴らした。
「エルク、今日はもう帰ろう。」
俺の
「まったく、アンタが悪いんだよ。」
魔女はあっさりと俺に背を向け、近づいてきた店員に
「
差し出してきた紙には、とある酒場の住所が書かれてあった。馬鹿にしてやがる。
「テメエに合わせる義理なんかあると思うか?」
せめて一発ブチかます。そう思っていた。その最高のタイミングを見計らっていた。
「おいおい、何のための『変装』なのさ。ここで何かしたらアンタの計画がパアになるんじゃないのかい?」
このタイミングで告げられた女のその言葉は、完全に俺の意表を突いた。怒りが
結局はリーザに引っ張られる形でその場を後にした。
「クソッ!せめて顔にブチ込んで歌えなくしてやりたかったのに。」
「エルク、恐いから止めて。」
「……悪かったよ。」
それにしてもあの女、
町で
それは女が俺たちの『この顔』を
……それとも、ただの偶然か。
連中から接触してくることは予測していたが、
「エルク……、」
彼女はスッカリ『不安で一杯』のリーザに戻っていた。
「あの人に、会うつもりなの?」
「そのつもりはなかったんだがな。そうしなきゃならない『用事』ができちまったみたいだ。」
リーザのハの字に下がった
「あの人、やっぱり危ないと思うの。」
「そりゃどういう意味だ?俺がケンカで負けるってことか?」
「……もしかしたら、そうかもしれない。」
バカバカしいと思えた。この5年の間で、町を
……でも、リーザの忠告は一般人のそれとは違う。
俺は一度、深呼吸をして頭を働かせるように努めた。
そうだ。何も腕っぷしだけが『力』じゃない。あの女にしかない特殊な『能力』があったとしたら――――。
俺の性格上、経験したことのない
それでも、俺が
「どうしてだか、分かるか?」
リーザは弱々しく首を振った。
「ごめん。やっぱり見えないの。」
それもまた、不安要素の一つだった。なぜあの女はリーザの能力から
一番分かりやすいのは薬か何かを
はたまた、魔法か何かで
「多分、それはないと思う。」
リーザは『人形』の
「『人の声』は聞こえるの。ただ、何を言ってるのか分からないだけ。」
リーザいわく、聞こえてくる『声』は遺伝子のように個々ハッキリとした違いが『色』や『触感』等の
「それに、本当にボンヤリとだけど、あの人の心が見えたの。」
『俺よりも強い』らしい女の心。それへの関心は複雑だった。
するとリーザは、昨夜俺がしたように両手で頬を掴み、目を
「エルク。エルクには知っておいて欲しいの。」
リーザの声はいつもよりも低く沈んでいた。
俺は身構えていたが、リーザは何も言わない。そうしてしばらく見詰め合ったかと思えば、そのまま両手を背中に回し、強く抱き締めてきた。
「おい、リーザ。どうした、大丈夫か?」
返事はない。それに、少し震えている。まるで
誰にも打ち明けられない
「……かったの。」
ようやくこぼした声は、
「え、何だって?」
「……エルクの夢よりも怖かった。」