「まずは
食事を終え、俺たちは本来の目的のために行動し始めた。
「そうだな。この格好じゃ逆に場違いな感じになっちまうかもしれねえが、まずはギルドに寄ろう。」
「せっかく変装したのに、良いの?」
リーザの言いたいことはよく分かる。
おそらくは町の誰も俺たちの正体に気づいてないだろう今の内に、身内に敵がいないかどうかを調べておいた方が動き
まあ、バレないに越したことはないから顔は隠して行くつもりだが。
「……って、読んでるんじゃないのか?」
リーザは人の心を読む。
「言ったでしょ。大体でしか分からないの。あとは雰囲気とか、周り人の動きとかで想像してるだけなの。」
……リーザは嘘をついている。言っていること自体は嘘じゃないのだろうが、その『大体』の程度が5割、6割の話じゃない。俺の
じゃなきゃ、つい今しがた俺がリーザとの関係を変な風に
だが、どうして『嘘』をついているかがいまいち分からない。それもこのタイミングで。リーザが俺のことをサル以下だと思っていなきゃ、今までの言動でバレていると分かるだろうに。
もちろん、
「まあ、いいか。」
一応、俺はリーザからの信用を得ているはず。それでもリーザが俺に内緒にしているのは、やはりそこに何らかの理由があるからなのだ。
……とりあえずはそう思うことにした。
「今回、俺はギルドに助けを求めるつもりだが、それは『エルク』としてじゃない。『エナート』と『リザベラ』としてだ。」
『エルク』と『リーザ』は動かず、アパートに
リーザを狙っているマフィア連中は俺たちが変装していることくらい、すぐに見破るだろう。
けれど、俺たちの本来の顔しか知らないその他の連中の間で、『エルク』と『エナート』、『リーザ』と『リザベラ』がイコールにならなければそれで十分だ。
俺の知る限り、賞金稼ぎたちの中に依頼内容の
リーザの言う、変装の『利点』はそこで活かせばいい。
ハイジャックの件といい、その後のインディゴスでの
おそらくは女神像の式典がある程度の
それはつまり、
「そもそも、テメエが昔逃がした
ビビガの当たり前の忠告がありがたかった。
「だったら今度は俺が追い回してやるさ。火の海の中を思う存分にな。」
それを言葉にするだけで、事に当たる俺の
もしも本当に奴らが俺の正体に気づいたのなら、なおさら
それでも『
その
もちろん口で言うほど簡単なことじゃない。ビビガの言うように、連中の情報操作の
だからまずは、その他の人手を集める準備をしなきゃならない。
今日は敵の動きと、『エナート』としての
「賞金稼ぎの人たちって、そんなに都合良く協力してくれるものなの?」
「どうだろうな。どいつもこいつも
今の俺の手持ちの金なら1億は用意できる。そんな大金では
「足抜けの手引き?」
「リーザにゃ悪いとは思ってるけどよ、ここは一つ、よろしく頼むぜ。」
『エナート』は『リザベラ』という恋人ができた。だからマフィアを抜けて、どこか遠い所で
ただし、この国で『マフィア』と言えば、大小あれ、どの組織も何らかの形で国と
だから、その意味を知る者ほど、おいそれとその言葉を口にしない。
つまり、『そこ』にいた人間が隠さず
例えそれが嘘であったとしても、『そのレベルに達した問題であることだけは
「とりあえず、金の
1億は大金だ。だが、それはあくまで俺たち庶民レベルでの話。マフィアたちからすればそれは、
連中は金よりも組織の統率を乱す者を注視する。だから例えそれが賞金稼ぎの手に渡ったとしても、それが切っ掛けで大事に発展することはあまりない。
募集人数に制限をかけず、5日後に町の入口で落ち合うことにすれば、依頼人として事前に顔見せをする必要もなく『本番』に
『5日後』というのは、4日後の女神像の式典直後が山場になると踏んだからだ。
「私と、エルクが、恋人ってこと?」
「ああ……、無理そうか?」
途中から、顔から表情が消えていたような気がした。もしかするとまた、拒絶されるかもしれない。そんな光景が頭を
「ううん、できる。」
応じてくれた彼女だが、やはりどこか上の空だ。
「リーザ、大丈夫か?風邪でもひいてるんじゃないか?」
「ううん、大丈夫。ちょっとはしゃぎ過ぎて疲れただけだから。」
彼女の能力のことを考えれば、彼女が『嘘』に
「……そういや、あれから傷の具合はどうだ?」
「大丈夫。もうほとんど良くなったから。」
毎回彼女は笑顔でそう言うし、平常では確かにそんな様子を見せないが、銃で受けた傷だ。そうそう良くなるはずがない。
となってくるとやはり、体調の面で何かを隠しているのかもしれない。
「リーザ、嫌ならいいんだが、家に戻ったら傷の具合を見せてくれないか?
リーザは答えを
「リーザは変に強がるから心配になるんだ。悪化してたり、何か別の病気になってたりしないかだけでも確認させてくれ。頼む。」
ここまで言ってようやく彼女は了承してくれた。
本当に他意はなく、
それにしても、長年の経験がモノを言うのか。ミーナの作った『エナート』と『リザベラ』の完成度には目を見張るものがあった。俺たちはどこにいても『エナート』と『リザベラ』として振る舞うことができた。
普通、顔の
「エナートさん。事情は分かりました。」
お
ギルドでは
だが、やはりギルド連中もベテラン
「と言いたいところですが……、お前、エルクだろう。」
そう確信した役員の男は、掛けていた老眼鏡を外し、緊張を解くように
「やっぱりここの連中には通じねえか。」
基本的にギルドでは依頼の内容に善悪を求めない。人助けから人殺しまで当たり前のように引き受ける。
しかし世の中、
そのため、ギルドでは
「いったい何のつもりだ?
さすがはギルド。まだビビガにしか今の状況を話していないし、それらしい尾行もなかったはずなのに、
何処からか情報を手に入れている。
男は生意気な子どもを相手にでもするように、やけに溜め息ばかりついている。
「分かってる。けどよ、一つ協力して欲しいんだ。」
まだ一言も
「……大体の事情は分かった。だが、こっちも商売だ。まずは洗いざらい説明してもらおうか。その上で協力するかどうか、
断られる可能性は低かった。だが、依頼内容に『リザベラ』が『リーザ』だと明記される可能性はあった。
説明の後、俺たちは部屋に残されたが、そう長く待たされることもなかった。
「……いいだろう。お前の言う『エナート』と『リザベラ』の依頼、受けてやろう。」
それは「これまでの
そう。『断られない』
「感謝するぜ。」
「だが、それ以上は望むなよ。お前も分かってるはずだが、そもそも『
「十分だ。ありがとう。」
帰りも、同僚たちの視線に捕まることはなかった。思った以上に俺の筋書き通りに事が進んでいる。それが逆に綱渡りの『危うさ』と『
「次はどうするの?」
リーザも緊張していたのだろう。長い深呼吸の後に
「『プロ』を探す。」
彼が、今回の筋書きにおいて最も不可欠な人物だった。この
心理的に