ホームタウン
海に顔をつける夕陽は、頼りない俺を心配するようにゆっくりと沈んでいく。
あの時、俺が町の安全よりも金をとるような人間だったら、今頃リーザはどうなっていたんだろうか。
不本意にも、俺は彼女を『化け物』と呼んだ。それは彼女を傷つけ、一度は手放した。
だが、俺は思い出すことができたんだ。助けを求める
でも、あそこで俺が彼女の願いを聞かず、黒づくめたちに彼女を渡していたらどうなっただろうか。どこに連れて行かれただろうか。
抱き合うように眠る彼女の頭を優しく
『もう絶対にこの手を放さない』悪夢の森を焼き払うように深く、深く心に
「……そろそろ頃合いか。」
立ち上がろうとした時、
太陽が沈み、辺りが薄暗く見通しが悪くなる時分、俺たちは堂々と
「お前が女連れとは珍しいじゃないか。」
「仕事さ。ギルドの紹介じゃないが、ちょうどこっちに帰る予定があったからな。もののついでさ。」
「それにしても、
「
町の入り口には名ばかりの
「聞いたぜ。空港をジャックした能力者をたった一人で倒しちまったらしいじゃないか。」
一番の気掛かりはそれだった。もしもここまで奴らの圧力が掛かっていた場合、検問員を
「
「その時まで金が残ってたらな。」
俺たちは無事にプロディアスに入ることができた。
「リーザ、悪いな。もういいぜ。」
リーザにはサングラスをかけ、できるだけ黙って
青い
小道具の一式は俺のことを「兄貴」などと慕ってくれる同業者となんとか連絡を取り、用意してもらった。
町に入っちまえば、
だがリーザは
「リーザ?」
「なんだか、こうやってパンディットに体を預けてるのが新鮮で。もう少し、こうしていたいの。」
障害者の真似事をさせるのに
「エルクの家までは遠いの?」
「そうだな、歩きだと1時間以上はかかるな。」
「……そう。」
「別に構わないぜ。あれだけ大暴れすれば今晩くらいは誰も俺たちを捕まえようとはしないさ。」
実際に追っ手を
「……ありがとう、エルク。」
リーザの笑顔は空港で会った時から比べれば
それに、パンディットの
本当に
前はパンディットに任せ、俺はリーザの後ろに付き、状況の整理とこれからの展開を予想することにした。
約半日前のことを思い出す。次々と蹴散らされる追っ手たちの
そして20人以上を重傷においやりながら、パンディットは傷一つ負っていない。
もしも誰かがこの事をギルドに報告すれば、依頼に
今回の被害状況を
面倒な連中が依頼を受けたとしても、一、二日の時間稼ぎさえできれば問題ない。その頃にはもう
依頼が
手助けこそないかもしれないが、立ち
そこは上手く立ち回るしかない。まあ、この
「あら、エルクじゃない。」
別に
「……その子どうしたの?目、見えないの?」
普段なら酒場に
『リーザ、悪いが知り合いなんだ。適当に相手してくれ。』
これまで通り、頭の回転の早いリーザは不自然な間を作ることなく相手との会話を
「あ、いいえ。私、目は見えるんです。ただ、体質的に明るいのが苦手なだけなんです。」
リーザはサングラスを
「ふーん、そうなんだ。それで、エルクとはどんな関係なの?」
「
「なによ。私だってアンタのお姉さんみたいなものだし、大事な人かそうでないかくらいは聞いておかなきゃでしょ?」
「……私、エルクさんに仕事でここまで連れてきてもらったんです。」
「仕事?
「
姉気取りの知人は、情が強い分、単純で
「でも――――」
「でも?」
「まだ、たった数日しか一緒にいませんが私、エルクさんがすごくイイ人だって知っています。」
どうやら、完全に合格点をもらったらしい。飛び付くようにリーザを抱きしめ、「大変だったのね」と
「アンタ、名前は?」
「リーザ・フローラ・メルノです。」
「エルク。アンタ、リーザちゃん泣かせたらタダじゃ済まないからね。」
たった数分の間にすっかりリーザに乗り換えやがった。
「ああ、それと―――、」
5年前、俺はその目の人に悪夢の話を打ち明けた。森を抜けてから初めて、しっかりと見つめることができた他人の目だった。
「アンタもあんまり無茶ばかりしないでよ。まだまだ子どもなんだから、もっとたくさん、遊ぶことも覚えて欲しいわ。」
外回りの
「イイ人ね。」
「まあな。」
「あの人、名前は何ていうの?」
「ミーナ・フィラーノ。
息の
「エルク、本当は今の人ともっとお話ししたいんでしょ?」
5年間、
話し相手もたいていあの人だったし、俺に
「……。」
また、クスクスと笑うリーザを横目に、俺は先を歩き始めた。
「エルク、この町の人たちに愛されてるのね。」
「止めろよ。気持ち
「私、エルクがそういう人で良かったって思ってるの。」
「何だよ、それ。」
「今までエルクの暗い部分ばかり見てきた気がするから、少し心配してたの。」
「いらねえよ。そんなの。」
「……迷惑?」
「そうじゃねえけど……。って、分かってるだろ。」
「ううん。ちゃんとエルクの口から聞きたかっただけ。」
「
「うん、一回聞ければ十分だから。」
『そういう訳でもないんだけどな。』
嫌じゃないのに
※ミーナはプロディアス酒場にいるお姉さんの名前です。フィラーノは勝手につけました。