「エルク、アンタ、そのまま突っ立ってるつもりかい?」
「……」
炎の少年は
アレは不遇の中で支え合った大切な人たちを
ほんの少し前までは……、
運命が、彼の執念に味方したか。そのための『
そう、思っていた……、
……でも俺には、できない。
目の前に立ちはだかる本物の”世界”の強大さに心が押し潰されて…、縮み上がっちまったんだ。
俺は、どうしようもないガキだ。
彼女を
アレを目に映したまま立ち尽くしていると耳に馴染んだ声が聞こえてくる。
俺が灰にした
「逃げ回るしか能がねえのか?」
「一族の恥さらしめ」
そして、初めて恋した
「アナタはあの頃と何も変わらない、肝心な所で何もしない、弱い人……、」
それはまるで
…そう、これが俺の生きてきた『世界』の本当の姿。
俺はその一部でしかない。……敵うわけがないんだ。
――――それで、いいのか?
「……」
”世界”が、俺を見て笑っていた。
「今のキサマに必要なものはなんだ?改造する度に壊れていく親友か?自由に焦がれながら破裂する恋人の絶叫か?」
まるでレコーダーが鼓膜に植え付けられていたかのように、あの瞬間が脳みそに反響する。
『ゲハハハッ!これだ、これを待ってたんだよ。こうなる瞬間をな!夢にまで!』
『………イヤだ…、イヤだ、イヤだイヤだイヤだイヤだっ!!!』
落ち
「望め!キサマの望むものは全て用意してやる!何度でも、何度でもな!」
俺は思ったんだ。コイツを殺さなきゃ、俺はこの先ずっと同じような人たちを殺し続けるって。
「誰かを助けるため?世界平和?そんなもの、キサマにとっては方便でしかない。違うか?」
…そしてまた、夜が、眠るのが怖くなるんだって。
それが嫌なら、今度こそ、好きな人を護りたいなら、
「だがそれも恥ずべきことでない。そもそも
……え?
「黙れっ!」
精霊に
しかしそれらも”世界”の全身に
死が彼を呼ぶその時まで約束された痛み、化膿していく傷に比べれば体に負う傷害などに蚊に刺される程度のことでしかない。
”世界”はまさに、それら決して癒えることのない心の傷でできていた。
それらに無知な人間が「戦争」を始め、「戦争」が彼を産み落としたのだ。
食糧不足、資源不足、
人間は、「戦争」がそれら全てを解決することを知り、それら全てを悪化させることを知らずにいた。
その日、「戦争」を
そうして”その子”は少女の母の腹を裂き、産まれ
求められるまま”その子”は「戦争」に勝利してみせた。フォークを持つ
確かに、”その子”が少女に捧げた勝利は
その後、
自分は本当に彼女に「必要」とされて産まれたのだろうかと。
「戦争」は人間社会の求める万能薬だ。そして「戦争」は最強の矛を求めている。だから私は産まれた。
しかし、
――――なぜだ?
長い時を経て、私を見つけた「王」が私に教えたのだ。
世界が私を指して『
――――そういうことだったのだか
『悪夢』は気付いた。
――――私は、
自分の姿形、
――――私は『悪夢』にならなければならなかったのだ
醜い、醜い自分の本性を。
――――
「エルクよ、他人のために闘ってきた健気な勇者の憐れな末路を教えてやろう。」
「やめろ!」
”世界”は『悪夢』に染める。少年の
青年がどれだけ足掻こうと、”世界”の微笑みは揺るがない。
大事に大事に育ててきた子どもに”
「この男はもはや、人間ではないのさ。」
「!?」
「今のコイツは半分精霊に喰われておる。“世界を護るため”などという体のいい奴らの“私利私欲”に唆されてな。」
…精霊に、喰われる?
…その感覚、もしかしたら知ってるかもしれない。もしかすると俺も、喰われ始めてるのかもしれない。
”世界”が無垢な少年に真実を突きつけ、下卑た笑みを浮かべる。
その笑みを目にした勇者の怒りは理性を
の表情は一段と険しくなった。
「どうした、何をそんなに怒っているのだ?キサマは騙されたんだろう?たとえ今はそれが
…アーク……、
「いやはや、
「黙れっ!!」
アークの表情が崩れた。堰き止めていた壁を打ち壊され、怒りとは裏腹なものが目尻から零れ落ちた。
「エルク、世界を歩き、貧富の差を見てきたお前なら分かるだろう。“愛”も“希望”も所詮は“金”と同じく有限だ。ならば奪うことも立派な手段の一つ。するとそこに戦争が生まれる。」
知ってるよ。強い奴が弱ぇ奴から何もかも奪っていく。だから俺はテメエみたいな奴をブッ潰せる賞金稼ぎが天職だと思ってたんだ。
だけど――――、
「精霊もその例に漏れなかった。それだけの話さ。」
別に俺は”精霊”を信奉するような人間じゃない。それでも、俺だってアイツらは世界の均衡のために存在してるもんだと思ってた。この『炎』だってそうだ。
それなのに――――、
「エルク、コイツの言うことに耳を貸すな!」
裏切られたと感じながらも、それでも希望は残っていると信じる勇者は、小さな希望が絶望に喰われることを怖れて声を張り上げ、デタラメに剣を振り回した。
「ハハハッ、奴らが博愛主義者だとでも思ったか?バカな。奴らは
…本当かよ……、
「それに気付いた勇者は今、奴らに呑まれまいと必死に
「……やめろ……、」
本当なのかよ、アーク……、
「そうでもせんとワシらを倒せんのだろう?
「……黙れ……、」
…お前も、大切な人の人生を、メチャクチャにしてんのかよ……、
「憐れだよ、キサマも神殿の姫君もな。」
「……ガ…ル、アァァノォォッ!」
少年は絵本の中の勇者を信じていた。
そんな
”
「…さぁ、エルク。キサマはどうする。」
”世界”が、終焉を招く――――
……全てを、飲み込め………、
薬指が熱を帯び、頬の火傷がチリチリと
紅蓮が逆巻き、世界を染める。
「エルク!?―――グッ!」
「アーク、余所見してんじゃね――――ガハッ!」
『
そして、”
「さあ、フィナーレだ!憐れな息子よ、俺を満足させてみろ!!」
――――それは、三千年という時を生きた”世界”にとってあまりにも刹那的な、しかし唯一「生」を実感させる瞬間だった
「グッ……、……フ…、フハハハッ!そうだ、エルク!燃やせ、燃やせ!!焼き尽くせっ!!」
『
「
視線の先に立つ炎に焦がれた魔女が、少年と同じものを見ていた。
あの人ではない女が、”
炎は杭に燃え移り、荒れ狂い、広がっていく。
”世界”は炎の嵐に呑まれていく。
「それを、俺が育てたっ!これほどまでに痛快なことが他にあるか!?」
笑う、笑う。
あの日、あの人に愛されて産声を上げた、あの瞬間のように……、
「フハハハハハハッ!!」
燃える……、
あの人を知るために創った
※夢の中で彼を追い回してきた『
エルクの悪夢を書いた1話と12話のタイトルで『金の膿』、『赤い膿』というものがあったのでそれと掛けてみました。
※薬指が熱を帯び、頬の火傷がチリチリと疼く
「薬指」は木製の指輪ことマジックキャンセラー(エルク専用の装備品)、「頬の火傷」はミリルがエルクに付けた自分のいた証。
どちらも166話の「炎の剣」で得たものです。
※全てを、飲み込め……
原作でエルクが初期から覚えている魔法、「ファイヤーストーム」を使う時に口にするセリフ「炎の嵐よ、全てを飲み込め!」からの引用です。
※ホンマの後書き
書いていて気付いたことですが、
ガルアーノにとって「世界が愛で満たされている」状態は、「世界が悪夢で満たされている」状態という思考になってる…みたいです(笑)
いわゆる、「歪んだ愛」ってやつかと。
母(マザークレア)に愛されなかった、捨てられたのは、自分(力)を必要とする『悪夢』が不十分だったからだと考えている……みたいです(笑)
そんで、母に愛されなかった分、エルクやリーザに『悪夢』を与えることでその時に満たされなかった
それにしても、今回もまた強引なまとめ方をしてしまいましたね(;´∀`)