聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

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戦争を望む者たち その二

フレッドから鍵を受け取り、俺たちは店の貯蔵庫(ワインセラー)に入った。

直前に振り返るが、あの少年の姿はない。

「付いて来れねえならそれがテメエの実力ってことだ。そうだろ?」

「…ああ。」

「それに、アイツだって酒に生かされる人生なんてまっぴらだろうよ。」

「…そうだな。」

トッシュは「死にたがり」を嘲り、「脱走兵」に良心を痛めた。

彼は、一度も振り返らなかった。

 

さすがロマリアと言うべきか。こんな寂れた町でもワインセラーは量でこそ充実していないものの、豊富な品揃えに先進国らしさを感じさせた。

それに、良くできたカモフラージュだった。

部屋全体を視野に入れた時、ワインセラー然とした部屋の一角に違和感を覚えた。

「…これか?」

左隅の、酒瓶の陳列された棚に近付いてみると足元に僅かに不自然な溝が掘り込んである。

「すげえじゃねえか、よく分かったな。そりゃあ経験かい?それとも勘かい?」

だがどうやらもう一つどこかに仕組みがあるようで、手動で動く気配はない。

「まあまあ、そう慌てなさんな。ソイツを動かすにはもう一つ手順があるんだよ。」

言いながら、トッシュは一番奥にある酒樽の(コック)を90度捻った。

すると――――、

 

カチンッ、ズズズ……、

 

歯車の噛み合う音に合わせて棚が床ごと沈んだ。そうして仰々しく現れた通路の先には地下へ続く階段があった。

「妙なところで(こだわ)るんだな。」

ものを隠すだけなら他にも安価な方法がある。だが、物を上下させるのは外観に痕跡を残しにくい利点がある、良い着眼点ではあった。

それにしてもこの仕掛けは、限りある軍資金を浪費しているように思えてならない。

「俺じゃねえよ。俺が来た時にはもうアイツらが造ってやがったのさ。まあ趣向はどうあれ、秘密基地としての性能は俺が保証するぜ。」

気分を害していたはずの赤髪の顔がニヤけていることに気付いた。

「…楽しんでるのか?」

「ハハッ、俺もここに来るのは数えるくらいだけどな。こういうデカい仕掛けを動かすと、どうにも男心が(くすぐ)られるもんだろ?」

ウソではないのかもしれない。だが、無理をしている。おそらく()()()()()彼らと付き合ってきたのだろう。

ここは彼にとって決して居心地のいい場所ではない。だから酒場(うえ)に――監視も兼ねているのだろうが――入り浸っているんだ。

「俺ならこれにかけた施工費の半分を武器につぎ込む。」

「そう言うんじゃねえよ。男にゃロマンってもんがあるだろうがよ。ツマらねえ野郎だな。」

「……」

「あんだよ。なんか文句でもあんのか?」

彼は彼なりに、努力していた。彼らが衝動的にならないよう、組織のトップを演じるために自分を殺し続けてきた。

「…いいや、なんでもない。」

無駄な犠牲を払わないよう……。

 

 

階段を下りると、武装した(しろうと)たちが思い思いにトッシュに声を掛けた。

「トッシュ、待ってたぜ!」「いよいよだな!」「こ、これは武者震いだからな!?」

「…ああ待たせたな、テメエら。ここまで来たからには最後まで気張れよ。」

あらかじめモーリスが根回しをしたのかもしれない。

彼らもまた、トッシュに対する「怒り」を覚えながらも作戦成功のために無理やり鼓舞しているようだ。

「トッシュこそ気合いが足りてねえんじゃないか?」「なんだよ、まだ酔ってんのか?」「ハハハ…。いやいや、案外それも戦場を生き抜くコツなのかもしれねえぜ?」

「バカ野郎、酒は勝った後に浴びるほど飲むのが最高な飲み方なんだよ。」

「ハハハ、違いない!」

 

…これは俺の直感だが、彼らはモーリスがトッシュを消そうとしたことまでは知らないように思えた。

声色や表情に、特有の「後ろめたさ」が感じられないからだ。

人の命を奪うことへの感情の変化は、一般人―――そう、ここにいるのはどうしようもなく、銃を持って(たかぶ)っているだけの一般人だ―――が訓練なしに隠せるものではない。

どうやらモーリスが「私たち」と口にしたのはトッシュを追い詰めるための方便だったようだ。

彼らはモーリスほど、トッシュを憎んではいない。

言い換えるなら、モーリスもまた彼らに(うと)まれている可能性がある。行き過ぎた指導者は往々にして孤立してしまうものだ。

「総大将もどこかでスタンバってるはずだ。勝てる戦に負けることほどマヌケことはねえ。いいか、絶対に勝鬨(かちどき)を逃すんじゃねえぞ?」

『オウッ!』

果たして、この組織(なか)のどれだけの人間が信念を一つに団結しているのだろうか。

その中でトッシュは、ただただ彼らの「寿命」を伸ばすことに(つと)めている。

「作戦会議だ。皆、奥に集まってくれ。」

それでも大なり小なり「復讐心」は一様に持ち合せているらしい。

「いよいよだ……、」実現する理想と恐怖を目の前にして各々が臭わせる「緊張」が、密閉した部屋に充満し始めた。

 

レジスタンス総員が見守る中、モーリスは中央の大テーブルに諸々の図面を広げ、あらかじめシュウから提示されていた作戦を全体に伝えた。

「…本当にやれるのか?あのゲバージを?」

世界最強の軍事国家ロマリアが誇る巨大蒸気機関車「ゲバージ」、その破壊が今回の開戦の狼煙(のろし)になる。

モーリスは「狼煙」がより能率的な味方の支援になるよう、より効果的に敵の裏を掻くよう全体の動きを全員に暗記させた。

 

明日、日の出と共にトッシュ率いるレジスタンスがゲバージ襲撃ポイントとは別の路線で騒ぎを起こし、軍の注意を引くところから作戦は始まる。

闇夜に乗じるという案もあったが、それを得意とするのはむしろ敵側だということで却下になった。

敵の注意がトッシュに向いている間、シュウは目標の路線で爆弾を設置する。

レジスタンス内に爆薬を扱うプロがおらず、設置はシュウ一人が担当することになった。仮に数人の護衛を付けたとしても、彼の移動速度、作業速度は尋常ではなく、作戦の枷になる可能性の方が大きいからだ。

爆薬の設置に成功した場合、列車をロマリア市と郊外を隔てる(トンネル)の手前で爆破する。

爆破と同時にトッシュたちは一時撤退し、モーリスは線路全域に仕掛けられた監視カメラを一時的に録画再生映像に切り替える。

線路が市内に通じる入り口は計8か所ある。

レジスタンスは複数隊に分かれ、混乱に乗じて別の手薄な入り口から極力戦闘を避けながら潜入する。

潜入に成功した部隊は、そのまま市内に潜伏しつつキメラ研究所方面へと進み、トッシュ、シュウ、アークのいずれかと合流、内部へ侵入。研究所の要所を破壊した後、一時、市内における「死角」へ戦略的撤退。

その後の敵の出方で城への攻め方を考慮する。そういう作戦だった。

 

この作戦は本来、どう甘く見積もっても今ここにいる人数、人材だけでは不可能だった。

だが今回、トッシュが連れてきた男がそこに大きな希望をもたらした。

ゲバージ、市内、研究所内部の構造と諸々の弱点。

男の実力と、それらの情報は、彼らがどんなに手を尽くしても得られなかったものだった。

さらには、それが「悪魔の(まゆ)」とも称されるロマリアの軍艦から奪取したものだとなれば、どんな弱腰な妄想家も歴史に残る絵画(ワンシーン)に描かれるかもしれない自分を夢見ずにはいられなくなっていた。

 

だが中には、想像していたよりも簡略化している作戦内容に「拍子抜け」というような顔を見せる者もチラホラいた。

「それだけ、なのか?」

「これだけでもかなり難易度の高いミッションですよ。」

「それは分かってるけど、奴らを甘く見過ぎなんじゃないか?こんなに簡単に俺らが付け入る隙を与えてくれるもんなのか?」

散々苦しめられてきた連中を相手にするんだ。当然の疑問だろう。

だが、作戦への疑惑は統率力に大きく影響する。成功するものも叶わなくなる。

俺とトッシュは「市内に侵入」した後に「合流」することなく彼らを置き去りにするつもりではいるが、この穴だらけの組織力ではそこに行き着くことさえ難しいかもしれない。

「そう思えるのはアナタが作戦を知っているからです。虚を突かれた人間の思考は案外単純なものですよ。」

モーリスもその反応を予測していたらしい。参謀らしい口達者な言葉で兵士(しろうと)たちを操りにかかった。

「今、アナタに向かってゴキブリが飛び掛かってきたとして、アナタはそれを瞬時にオモチャだと判断できますか?アナタはそれを投げつけてきた悪ガキを探す前に丸めた新聞紙を手に取るんじゃありませんか?」

一見、真理を突いたモーリスの言葉に反論していた者も思わず頷いた。それこそが「単純」なのだと気付かずに。

「そういうものです。この作戦は”最強の防壁を備えているはずのゲバージが爆破されてしまう”という予想だにしない状況を敵に突き付けることで判断力を奪うところが肝なのです。研究所はヤツらの軍事力の要。それを破壊すれば混乱は増々極まるでしょう。」

 

……不自然だ。

俺はてっきり彼らの意見を受け入れ注意喚起を促しつつ、士気を煽るのだと思っていた。

だが、今、コイツが吐いた文句はただ「楽観的視点」を与えるだけで、逆にこちらが隙を与えかねない。

これが元ロマリア陸軍参謀のやり方か?

奴の言葉で、俺の中に新たな「視点」が生まれた。

…モーリスは、彼らを殺そうとしているんじゃないか?

すると、疑念(やつ)がひけらかすように囁いた。

 

――――知っているか?この世にハゲは二種類いる

脳みそが機械でできてる”クセモノ”か、目標以外がゴミに見える”正直者”だ

俺も腐るほど騙されてきたもんさ。奴らは完璧主義者だ。奴らこそ、この手のゲームで王様(キング)を名乗り続ける化け物なんだよ

だから敢えて言う。…見誤るなよ?

 

…例えば、モーリスには他に頼れる軍が存在すると考えられないか?レジスタンスはその軍の行動を円滑に進めるための生贄だと。

実際、構成員の中に「ロマリア攻略」に適した能力を持っている人間は一人もいない。まるで大した問題ではないと言っているかのように無関心に思える。

もしくは、そもそも()()()()()()()()()()()とは考えられないか?

モーリスは()()、元ロマリア陸軍参謀だ。……いや、この線は薄い。奴の、トッシュにぶつけた憤怒の顔はここにいる誰よりも色濃い。ロマリア政府への憎しみは本物だ。

…ふと、あの老人の顔が(よぎ)る。「アーク一味」であって「アーク一味」でないような動きを見せるあの老獪(ろうかい)な魔導師の顔が。

 

なんにせよ決定的証拠がない。それを承知で今すぐにでも全てを吐かせるべきか?

最終的に俺とトッシュ、残るアーク一味でこの計画は進める。だが、想定外の障害が発生すれば当然、対処できない可能性も生まれる。

理想でしかないが、なるべく犠牲は出したくない。

…どうする?

……もう少しだけ…、様子を見よう。

 

「もしも、作戦が失敗した場合、どうすればいいんだ?」

辛うじて先を見据えることのできた誰かが言った。

「当然、撤退するしかありません。その際のルートはこの下水道を使います。」

モーリスはシュウが戦艦で得た情報を元に書き起こした、下水道を含む地下通路を記載した地図にいくつかの赤線を引いた。

「なんで攻める時には使わないんだ?」

「これを使うのは最終手段です。我々が地下も把握していると敵に知られれば、アナタの言ういざという時の退路を潰されるかもしれないでしょう?それに配置されている人間が少ないだけで必ずしも安全という訳でもないんです。」

理には適っている。だが、それはなぜか俺の疑いを増々強くさせる。

「最悪、列車や研究所といったロマリア政府の運用している機能の一部を不能にさせるだけでもロマリア政府転覆に王手をかけたことになります。」

モーリスは作戦後の展開にも注意深く目を凝らしていた。

 

今回の作戦で一時的にでもロマリア政府に存続への危機感を与えることができれば、「軍事国家ロマリア」は世界中に散らばったロマリア勢力を召集するだろう。

当然、ロマリア国に潜伏することは難しくなるが、これは同時に「ロマリア」の支配力が弱まる国も生まれるということだ。

そこから同じく各国に潜伏しているレジスタンスと協力してアーク一味が国を奪還する。

ロマリア国から解放したとなれば、国の権力者はアーク一味との協力を検討するだろう。そうでなかったとしても、ロマリア国への認識を改め、抵抗勢力となってくれる。

最終的に、協力に応じた兵とアーク一味で、要所に籠城するロマリア勢力を各個撃破する。

ロマリア国が世界一の産業国である以上、長期戦は望ましくない。一台のゲバージが復帰するだけでも形勢逆転の切っ掛けになりかねない。

おおよそひと月前後で全世界のロマリア勢力を殲滅する必要がある。

これは、異常なほどにフットワークの軽い「アーク一味」という精鋭が存在するからこそ可能な展望だ。

 

これが、()()()()()()()この戦争に勝利するまでの全容だ。

 

 

「それで、どうやってゲバージをブッ壊すんだ?今までアレを襲って成功した奴はいないんだぜ?」

ゲバージは戦車の砲弾でも容易に沈まない重装甲で身を固めている。さらには列車を援護する兵士たちが要所々々に待機している。

そんな鉄壁の守りを備えるゲバージだが、それでも弱点はあった。

「皆も想像しているように、あの列車の構造は明らかにアンバランスで少し力を加えれば簡単に横転するように思えます。まるで私たちのような勢力が狙うように仕向けていると思えるほどに。」

ゲバージの全高は、先進国のオフィスビルほどもある。軍艦の士官室で手に入れた情報ではおおよそ40m。これに対し、支える車体の幅は9mほどしかない。

「けれどもゲバージは、これまでどんな悪天候の中でも安定して運行し続けてきました。」

「つまり、そこに仕掛けがあると?」

「そうです。それはゲバージの奇抜な見た目や硬い装甲などの派手さの陰にヒッソリと隠されていたのです。」

それは、あたかも別の目的でそこにあるかのように偽装されていた。

線路の変形を防ぐために敷き詰められているはずの「砂利(バラスト)」。これに強力な『吸引』の魔法がかけられていた。

これにより線路の一部が破壊されようと、強風が車体を横殴りにしようと横転しないのだ。

 

だが、横転しないことだけを目的にしたこの『魔法』は一つの弊害を生んでいた。

下方向に『吸引』することで列車そのものの推進力にブレーキを掛けててしまうのだ。

しかし、モーリスも言っていたように軍はゲバージを敵勢力への罠として流用することを推していた。

これは多方面に敵をつくる性質を持った「ロマリア」にとってこれに対処する貴重な労力を軽減させると見込まれていたからだ。

そうしてこの『魔法の砂利(バラスト)』は設置個所、緻密(ちみつ)な力の調整することで採用された。

もしもシュウの情報によりこの場所が特定できていなかったなら「ゲバージの破壊」は作戦として成り立たなかっただろう。

 

過去に線路を支える柱を襲撃する者もいたらしいが、柱の周囲には隊舎があり、線路以上に警備の目がきつく、直径10mを越える柱を破壊するにはトッシュのような規格外の戦力でもない限り現実な作戦にはなりえない。

たとえトッシュを投入して柱の破壊に成功したとしても壁の内側への入り口はトンネルと同じく100m頭上にしかない。

すると、戦力の中核を担うトッシュが戦場に復帰するまでに大きなロスを生んでしまうため、この案は却下された。

 

 

そうして、あらゆる情報を駆使した作戦会議は()()()()()()()()()

「…俺は作戦開始からすぐに爆弾が設置できるように目標付近に潜伏しておく。」

「途中まで送るぜ。」

どういう訳か。トッシュは急に理に敵わない行動を取り始めた。

「お、おい。トッシュ、アンタは俺たちと一緒に動くんだろ?」

「敵の動きを探る意味も含めてブラッと回ってくるだけだよ。すぐに戻る。」

「……」

俺はトッシュの同行を許すべきかどうか迷った。モーリスの問題も解決していない。今、アジトを離れるべきではないように思えた。

そう思った矢先、悩みの種は畳みかけるようにやって来た。

 

「は、放せ!」

そこに、見張りの手に(つま)まれた赤いドブネズミがいた。

「……おい、どうしてソイツを中に入れたんだ?」

「店の中で俺たちのことを(わめ)いてやがったんだ。あのまま放置したら巡回するロマリア兵に怪しまれちまうだろ?」

「だからって…、チッ、放してやれ。」

「大丈夫か?コイツ、前も俺たちを嗅ぎ回ってた奴だよな?ロマリア軍のスパイとかじゃねえか?」

「コイツがそんなタマかよ。」

図体(がたい)ばかり屈強な男たちが泥だらけの少年を取り囲んだ。

「どうすんだ、トッシュ?」

「今さら一人、二人変わらねえ。作戦は明日なんだぜ?用心に越したことはねえよ。」

「おい、余計なこと言うなよ!」

たった一つの予期せぬ事態を前に、レジスタンスは乱れた。

まるで新米兵士の集まりのように。

 

――――ほら、どうする?何か、気が変わってきたんじゃないか?

 

今さら現れたドブネズミに()()()()()はなく、トッシュは容赦のない眼差しを向けた。

しかし、俺に足を撃ち抜かれたドブネズミにはもう、脅しは利かない。ドブネズミもまた、「ロマリア兵(ひと)を殺したくてしかたがない」というような目の色に染まっていた。

まるで、もう一人の「モーリス」がそこにいるかのように。

「……」

「俺はダニエル・ドミトリ、ウラン工場の工員。怪しくねえよ!頼むから、仲間に入れてくれよ!俺だってアイツらに復讐したいんだ!俺だって皆のロマリアを取り返せるんだ!」

とはいえ、ネズミはネズミ。青臭い殺気に酔っている声が空しく響いた。

 

「…じゃあ、テメエに何ができるってんだよ。」

トッシュの声は静かだ。

だがソレは現実に数えきれない化け物を斬り殺してきた。

たかがドブネズミごときがこの「静かなる(うな)り声」を前に冷静でいられるはずもなく、膝を震わせ、喉を詰まらせ、なけなしの自尊心を振りかざすばかりだった。

「わ…、分かんねえよ!でも、俺は若いし体力もある。足だって速いんだ!何かの役に立つに決まってるだろ?」

見境のなさを含めれば、確かに少年の「執念」は目を見張るものがあった。

若者の叫びに揺らぐトッシュの表情を見たのか。レジスタンスの参謀は思わず横槍を投げ入れた。

「トッシュ。断っておきますが、たった今、作戦会議が終わったっばかりだということを忘れないでください。」

「……」

「雑用でもなんでもいいよ!頼むよ!」

大人たちの理不尽に負けじと声を荒げるも、すでに彼らのリーダーは決心した顔に落ち着いていた。

 

「…おい、ダニエル。俺たちがどんな人間に見えるよ?」

数歩、彼は得物の間合いに少年を入れて尋ねた。

少年自身は何も理解していない。しかし、喉はそれが何を意味しているか間違いなく理解していた。

「……強いんだろ?武器だって沢山持ってる。知ってるよ。」

先程にも増して生唾が気管を塞ぎ、筋肉の震えは止まらない。それでも少年は「声」を発し続けた。

それが自分の中に流れる「血」であるかのように。

その瑞々しい命が脈打つ限り、吐き出し続けなければならないという使命感に駆り立てられていた。

「そんなことしか言えねえ奴だからテメエは使えねえんだよ。」

 

死に急ぐように――――

 

「な、何が間違ってるんだよ!?アンタらがいればロマリア軍なんか目じゃねえ。ホントのことだろ?!何が違うんだよ!」

遂に、赤髪の侍は牙を抜いた。

どんな愚鈍な獣でさえも、そこに「何」がいるか気付けるように。

 

「俺たちはな、人殺しなんだよ。テメエの言うように俺たちは今のロマリアが気に喰わねえ。だからロマリア兵を殺してる。だけど、関係ねえ奴らも殺してきた。何人殺したかなんて数えたこともねえ。分かるか?テメエは偶然生きてるだけなんだよ。」

「ハア、ハア……、」

ドブネズミの鼻から水が滴り、全身の筋肉が強ばっていた。視線は目の前の「(もの)」から離せずいた。

もう一歩、ソレが彼に歩み寄る。

「試しにヤッてみるか?ここで俺たちの誰か一人でも殺せたら仲間に入れてやらなくもないぜ?作戦に穴が開いちまうからな。」

「あ…、あぁ……、」

とうとうドブネズミは二本の足を失くし、惨めに、崩れ落ちた。

 

「ホラな、使えねえ。猫や犬の方がテメエなんかよりよっぽど殺し合いに慣れてるだろうよ。」

気怠(けだる)げに赤毛の虎が牙を収めて初めて、少年はそれが「演技」だと気付いた。

取り繕うように、空しく喚き出した。

「…う…、うるさい!そう言って俺をバカにする奴なら嫌ってくらい見てきたよ!でも、アンタは違うだろ?そうだろ?そうだって言ってくれよ!」

「…ウルセエな。俺たちはベビーシッターじゃねえんだ。便所の場所も覚えられねえ奴の面倒なんか看てられるかよ。…おい、誰かちゃんと掃除しとけよ。」

温かな水が、腰を抜かした少年の周りを憐れに囲っていた。

 

「クソ…、クソ、クソッ!後悔すんなよ!俺がいれば良かったって後悔すんなよ!」

面談を終えた小汚い少年の自由を、大人たちがテキパキと縛り上げていく。

「口も縛っとけ。ってか、コイツ足、撃たれてんじゃねえか。」

少年には喚くことしかできなかった。

他に、敵うものが何もなかった。

「ダニエル、テメエは越えちゃならねえ線を越えたんだ。テメエは今、町の工員でもチンピラでもねえ……、」

 

――――俺たちの敵だ。

 

言い残して、侍はアジトを後にした。




※勝鬨(かちどき)
戦いに勝った時に一斉に上げる喜びの声。「勝ったぞー!」『オーーーー!!』みたいな。

※ゲバージの破壊
今回、この屁理屈を考えるのに滅法苦労しました。
そもそも、ゲバージがかなり不安定な形をしているのが悪いんですwww(あ、寸法は原作の設定そのままです)
これが列車の速度を保ちながら倒れないようにするにはやっぱり「魔法」的なものが必要になるだろうし、そんな仕掛けを付けたら逆に単純に爆破しただけじゃあ倒れないだろうし……、ああしんどかった……
それでもかなり強引な設定で乗り切ったと反省していますm(__)m

※ダニエル・ドミトリ
次々回、紹介いたします。

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