酒場の店主の言っていた”雨漏り亭”は、入り組んだ裏路地に面して建てられていた。
二階建てで適度な奥行もあるが、窓は一つとしてない。辺りは薄暗く、もはや「悪事を働いてくれ」といっているような宿屋だった。
「…モーリス?」
名前を出すと、熟年の女主人は悪びれる素振りもなく怪訝な表情で俺を
そして、「モーリス」を一切
「アンタ、あの男の
「ああ。」
「……その通路の突き当りの部屋にいるよ。」
女主人はこれから起こるであろう「面倒事」を警戒してか。部屋番号を言うだけでカウンターから頑として動こうとしなかった。
「あの男、ひと月以上ここに泊まってるけど、ほとんど部屋の中でゴソゴソと何かしてるのさ。まったく気味悪いったらありゃしないね。噂のレジスタンスなんじゃないかとも思ってるんだけど、下手に通報してアタシまで巻き込まれるのはゴメンだろ?だからアンタも、厄介事なら頼むから余所でやっておくれよ?」
「ああ。」
この様子ならこの女主人がモーリスと協力して「侵入者」対策をしているという線は薄いな。
それに、モーリスはことさら「身を隠す」という姿勢を取っている訳でもないらしい。
もしくは、見つかったとしても対処できる何かが仕掛けられているのかもしれない。
その予感が的中する。
「……」
部屋の前の脇に置かれた観葉植物の鉢の中から、リモート操作を主張するアンテナがソッと顔を覗かせていた。
爆弾、閃光弾、もしくはモーリスを援護するための盗聴器の可能性もある。
今のところモーリスの名前を出したこと以外、彼らを刺激するような行動は取っていないはずだ。
「モーリス、”栄光の杯”の店主からお前のことを聞いてきた。話がある。入るぞ。」
「……どうぞ。」
ユックリと扉を開けるとすぐそこに、呼び掛けに応じたにも拘わらず、こちらに目を遣ることもなく黙々と本のページを捲るスキンヘッドの男の姿があった。
「……」
無防備に思えた。
奥にもテーブルはある。もしもの襲撃を考えればそっちで作業をしている方が対処しやすいだろうに。
その状況に疑問というよりも、違和感を覚えた。
そこに何か「隠している」のか?
「アンタが、モーリスか?」
中は予想していたよりも雑然としていた。そして、
床に散らばる紙面には一目で「反ロマリア思想」を抱いていると分かる情報がこれ見よがしに書き連ねられていた。
何を考えている?レジスタンスは地下組織じゃないのか?こんなにも敵を挑発して何の得があるんだ?
「アナタは?」
モーリスはやはり
…背後の鉢も、今のところ火を吹く様子はない。
「シュウ、アルディコ連邦から来た。」
「…もしやアナタですか?先日、ロマリアの軍艦に密航したという恐いもの知らずは。」
……応答がおかしい。ゴーゲンから俺のことを聞いているんじゃないのか?
それとも、コイツはレジスタンスと無関係なのか?もはや名刺といってもいい紙切れをこんなにもバラ撒いているしているのにか?
「ロマリア市内に潜入したい。」
「ハッハッハ、いきなり何を言い出すかと思えば。面白いことを言いますね。あの”難攻不落の要塞都市”に?あそこに手を出して得をしたという人間を、私は未だかつて聞いたことがありませんよ。それは、軍艦に密航して運良く生き延びているアナタでも変わらないでしょうね。」
ロマリア市は郊外との境に50m近い巨大な壁を隙間なく建造している。
その壁を中心に、検問所、巡回兵、対空砲などが機能し、市そのものが一つの「要塞」のような体をなしている。
今までにも、あらゆる手段で市内に攻め入ろうとした組織があった。だが、その
さらにロマリア国は、他国からの攻撃の大義名分を与えかねないその惨状をテレビ、ラジオ問わず報道し、世界における「ロマリア」の立ち位置を威圧的に、誇示し続けてきた。
ゆえに、世界の誰もが知っている。ロマリア市が”難攻不落の市城”、”世界一巨大な処刑台”と呼ぶに値する恐怖の象徴であることを。
「そして、それをどうして私に相談しに来ているのか。私はむしろそちらの方に興味が湧きましたよ。」
「……」
薄暗くて分かりにくいが、奥のテーブルの前に何本かワイヤーが張ってある。
一応、戦闘になった場合の備えはしてあるようだ。そして、無関係の人間がソレに掛からないために手前のテーブルで待ち構えている訳か。
「酒場の店主はアンタならレジスタンスのことを何か知っているかもしれないと言っていた。」
「だとすると、話の順序がオカシイですね。これではまるで、私がその”レジスタンスの一員”であるかのようじゃないですか。」
「そう言っている。」
「残念ですが、ブタですよ。もしもここに捨ててある紙屑を見てそう思われたのなら申し訳ない。それはただの私の趣味ですよ。」
「……」
「誰一人攻略したことのないゴールがそこにある。それだけで人生を棒に振る
それが尋問された時の言い訳か?元ロマリア陸軍参謀の言葉とは思えんな。
「ですからどうか、私を”レジスタンス”などという命と思想の天秤を計り間違えた、ひ弱で愚かな者たちと一緒にしないでいただけますか?」
俺はガルアーノを想像し、
「…キサマも、ロマリアに尻尾を振る腰抜けか?」
ドンッ!!
振り下ろされた拳に、日曜大工で作ったかのような粗末な木製のテーブルが悲鳴のような
「アナタに何がわかる!?」
…こんなにも簡単に釣り上げられるものか?これは尋問でもないんだぞ?それともこれも茶番の一つか?
モーリスは初めて感情をもって俺を睨み付けた。
「……失礼。ただ、余所者のアナタには理解できないでしょうが、今のロマリア人は誰も彼もが”レジスタンス”のように理想の国を求めて
…本当に、あの老魔導師から俺の話は通っていないのか?ここにきて両者に関係がないということも考えにくいが、そのリスクがあるのだとしたら早めに確かめておかなければならない。
「俺はゴーゲンから紹介を受けている。」
「…ゴーゲン、というのはあの”アーク一味”の?彼らと”レジスタンス”に何の関係が?」
拳銃を抜き、銃口を突き付け、
「下手な芝居は軍相手にするんだな。俺は別にキサマらの味方すると決めた訳じゃない。邪魔になるならロマリアよりも先にキサマらを潰してもいい。」
「…私は警告しましたよ?」
モーリスの目付きが変わった。その目は、当たりだ。
「なら、これは俺からの警告だ。サッサとキサマらのアジトに案な――――」
パスンッ、ガタガタッ!
スキンヘッドは袖に隠し持っていたサプレッサー付きの拳銃で先制を仕掛けてきた。さらに、俺にヒットしたかどうか確認する間も惜しみ、木製のテーブルをひっくり返すと例のワイヤーの下をくぐって、奥のテーブルまで避難した。
「なっ―――!?」
だがその動きは全て予測済みだ。
俺は一発目を躱し、モーリスとは逆にワイヤーの上を飛び越えて先回りしてみせた。
だがどうやら、ようやく元軍人であるプライドを発揮する気になったらしく、俺を視界に捉えるや、急所目掛けて拳を振りかざしてきた。
「グッ!」
「…!?」
俺は拳を躱しつつ関節をキメ、そのまま床に組み伏せようとした。ところがモーリスは無理やり関節を外して俺の腕を掴み返すと、反対の肘に巻きつけておいた仕込みナイフで斬りかかってきた。
…その教本通りの戦い方に懐かしさすら覚えた。
「グッ!」
仕込みナイフを受け流し、銃のグリップで顎に一撃を入れる。
練度が高いとは言い難いが、コイツの戦法はロマリア軍特殊部隊で叩き込まれる内容そのままだった。…それなら……、
押さえ込んだままモーリスの靴を剥ぎ取り、遠くへ放り投げた。
「…さすがに、見抜かれてしまいましたか。」
やはり、靴にも何か武器を仕込んでいたか。部屋に窓がないことが致命的だったな。即座に対応できる援護体制がない以上、これ以上はどうしようもない。
「退役して
「…よくご存知で、
…どうやら本当に俺の来訪の理由を把握していないらしい。そうなると「アーク一味」との関係性もいよいよ怪しくなってきたな。
…もしくは、もう一方のリスクを
簡単にボディチェックをしてみたが、リモートのスイッチは持ってないようだ。あるいは靴底に仕込んでいたのかもしれん。
「
コイツが俺を「ゴーゲンと接触した人間」ではなく「賞金稼ぎ」だと言い張るのは、「レジスタンス」と「アーク一味」の繋がりを探るために用意したロマリア軍側の
「ククク…。なるほど、そうきましたか。ですがアナタはよほど賭け事に向いていないようですね。残念ですが、私は正真正銘、モーリス・ウォン・バリー。レジスタンスの一人ですよ。」
たとえ本物であったとしても、もう少し
「証明できるのか?」
「ハハハッ。シュウさん、今のロマリア国内でどれだけの人間が身分を証明できるかご存知ないんですか?」
「……」
ロマリア国は――主にロマリア市に及ぶ被害を抑えるための――治安維持の理由で全国的に「身分証明書」の所持が義務付けられている。
だが一方で、ロマリア国は格差社会を意識づけるために首都のみを極端に優遇している。
そのため、周辺の町々では法令が機能しないことが多く、国に対する反逆行為でもない限り問題が起きても滅多に対処されることはない。
辛うじて巡回の憲兵が場を収めることはあるが、それ以外は自分で身を守ることが常識という国だ。
結果的に、単純に証明書を盗まれてしまうこともあれば、人身売買まがいの遣り取りで
「他人に成りすますこと」も「自分の名を名乗ること」も大して変わりはない。それがロマリア国の現状だ。
「仮に本物だとして、どうしてこのタイミングで正体を明かした。俺に偽装を疑ってくれと言っているようなものだとは思わなかったのか。」
「どうして?…ククク、それは改めて聞くようなことでしょうか?正体を明かさなければアナタは私を殺していた。そうでしょう?」
「…言い方を変えよう。なぜ今まで隠していた。」
ごまかしの余裕を与えないために再度、きつく腕を締め上げた。
だが、元将校であっただけに尋問への耐性は高く、呻き声をあげる以上に弱点を表に出さない。むしろ、挑発する余裕さえあるようだ。
不敵な笑みを浮かべながら俺の問いに流暢に答え始めた。
「いえなに。アナタが頑なに”合言葉”を
…なるほど、確かにソレをあの魔導師に確認しなかったのは俺に非があるかもしれない。
「それに、私はゴーゲン氏からアナタのことを伺っていなかったもので。」
ようやく繋がりを認めた、のか?
それにしても、あの魔導師は何を考えている。俺を試しているのか?自力で彼らに認められろと?
そんな手間をかけられるほど余裕のある戦いではないだろうに。
問答では素性を
「ですが、ゴーゲン氏の
…どうやら「手違い」という考えはないらしい。
「我々が信頼のできる同志であるかを試しているのだと思います。」
「…それと今の俺の状況とどう関係している。」
「私たちはまさに、”アーク一味”の信頼を逆手にとった計画を進めようとしていたのです。そこでアナタという餌をチラつかせることで我々がどちらに傾くのか見守っているのでしょう。」
「……」
争った痕跡を片付けるとモーリスはまた入り口近くのテーブルに座り直し深く息を整え、
「トッシュ・ヴァイア・モンジの抹殺です。」
この口調、声色、挙動。おそらく「レジスタンス」の総意ではないだろう。
この「モーリス」という元ロマリア軍の男が、かなりグレーゾーンな人間だということだ。
「…それは、お前たちのリーダーじゃないのか?」
「そうです。今やアレが我々のリーダー。だから困っているのです。」
コイツが「レジスタンス」を捻じ曲げているのではないかということ以外に疑わしい点は見られない。
「抹殺」は本気だ。それを証明するように、モーリスは俺に
「彼らの支援には心から感謝しています。今のような体制がとれるようになったのも、彼らのお陰と言わざるを得ません。しかし、まさかその結果、”動かない頭”を
…つまり、復讐の機会を窺い過ぎるあまり、彼らの内に溜まった「怒り」が限界に達してしまったというところか。
「それで”彼らの仲間を殺す”メリットはなんだ?まさか俺にロマリア軍を名乗れという訳じゃないだろうな。」
ロマリア軍がトッシュを殺したとなれば、仲間を殺された「アーク一味」はより彼らの望む作戦を強行しようとするだろう。つまり、俺に噛ませ犬になれと言っているのだ。
当然、コイツらは俺の身の安全を保障するという体で掛け合ってくるのだろうが。
…俺も、無謀にも彼らを利用しようと考えていた。それであの子が少しでも長く生き延びられるのならと。
だが、あの青年の顔を思い出す度に決意が揺らいでいく。
それで本当に事が上手く運ぶのか?逆に、俺たちが敵に利用されているんじゃないのか?
共食いと気付かず牙を剥く駄犬のように。
「…シュウさん、
もはや「グレーゾーン」であることすら隠そうとしない。
「それは、相手の理性を破壊する過激さです。」
…コイツの言っていることは間違っていない。
戦う相手に限らない。関係あろうとなかろうと、より多くの人間の深層に自分たちの思想を刻み付けることこそ
そして、「過激さ」はそのための最低な
「そうして理性を失くした人間を操るのはそう難しいことでもありません。それがたとえ『化け物』と呼ばれる異形の人種であろうともね。」
「…そのための罠の一つがこの部屋の紙切れか?」
俺は床に散乱している情報の塊を指して言った。
「そうです。軍がこれらを見たなら私を尋問するでしょう。私が適当に白状し誘導すれば、奴らは必ず弱点を見せる。…ああ、私は耳の裏に盗聴器を仕掛けているんです。かつての同僚に頼んでね。」
その「同僚」というのはおそらくキメラ研究所の人間だろう。
「そうして欲しい情報を手に入れたなら私は自爆します。すると敵はこう思うでしょう。レジスタンスは幹部さえ捨て駒にする狂った連中なのだと。」
確かに狂っている。トカゲが尻尾を逃がすために頭を切り落とすようなものだ。
「ロマリア軍には『化け物』が多く在籍しています。ですが、その中には純粋な人間も確かに存在するのです。だからこそ、”狂気”は奴らの傲岸不遜な行軍を一歩後退させる役に立ちます。その一歩は”戦争”というボードゲームにおいて、私たちの勝利を叶える数少ない希望なのです。」
コイツはもう「自らの思想に酔いしれる
なぜなら、「正しい行い」が
テロリストの先導者としての素質はある。だが、
「ですが敵も私を警戒していたのでしょうね。罠に掛かってはくれませんでした。そして今や、その必要もなくなりました。」
テロリストがこの世を正した試しはない。ただの一度も。
コイツはそれを見失っている。
「この計画が進めば”アーク一味”は総力を尽くすでしょう。猛進する
「そのためには共闘の同志を一人、犠牲にするのもやむを得ないと?それをあの魔導師が許すとでも?」
「先程も言ったはずですよ。我々は試されていると。」
…それはつまり―――、
「そうです。むしろこの作戦は、コーゲン氏が望んでいるものだと私は思います。」
確かに、レジスタンスに力を貸すように促した老魔導師の気配には裏があるようにも感じられた。
だが、俺にはそう決めつけるだけの情報がない。
一方のモーリスにはその推測に至る根拠があるようだった。
「ゴーゲン氏とアーク一味は方針が違います。具体的なことは私にも図りかねますが、ゴーゲン氏が世界各地で一味の作戦にない行動を取っていることが確認されています。」
「……」
それは、スメリア国でのあの竜狩りも含まれるのか?
「それがどうした。それがあの老人の趣味でないとなぜ言い切れる。」
「ハッハッハッ!遺跡探窟、邪教徒との接触、古代兵器の調査、そしてドラゴンの討伐。確かに、あの人に限って言えばそれは趣味なのかもしれませんね。ですが、アナタという
暗殺者…、それは俺の風体からの憶測か?それとも……、
「かのチュカチュエロ少佐の懐刀。まるでこの作戦のために用意したかのような人選ではないですか?」
「……」
「…おっと、そう怖い顔をしないでください。確信があった訳ではありませんよ。ただの鎌掛けです。」
そう言う割にはかなり断定的な口調だった。それに…、
「アナタはロマリア軍特殊部隊の戦法を熟知していました。これまで特殊部隊は対峙した敵を一匹残らず始末してきたというのに。そしてもう一つ。私がまだ軍に在席していた頃、私を含めた数人が、少佐の手数の多さに疑問を持ち彼の身辺調査をしました。すると、どうやら公表されていない子飼いの部下が一人いるらしいと知ったのです。」
「…それも鎌掛けか?」
そもそも軍では俺のことはおろか、あの男の部隊自体、公表されていない。大佐以上の人間でなければ知っているはずがない。
あの男が裏の仕事をする前からの知人でもない限り。
「…シュウさん、私たちは”待つ勇気”などという
モーリスは俺の「機密情報」への追及を無視し、改めて俺を説得しにかかった。
「つい先日、先ほど触れた古代兵器が何者かに奪われました。本来ならその兵器の回収をもって、いよいよ城に攻め入るはずだったのです。ところがどうです?たった一つの兵器が揃わないがために我々はまたバカの一つ覚えのように足踏みを強要されているのです。あの臆病者のせいで。」
…エルクの話ではヤゴス島にもアーク一味と繋がる人物がいたらしい。
ということは、この男の言う「兵器」がヂークだという可能性は高い。迂闊にその名は出せない。
「それがアーク一味を裏切る理由か?」
「…戦場に義理や人情など持ち込む方が卑怯なのです。敗者には何も与えられない。ならば犠牲を払ってでも勝つ。それが道理ではないですか?」
「……」
「どうか、あの男を討ち取り、我々を自由にしてください。」
モーリスは握り合わせた手を額に当て、祈るように懇願した。
「…なんだい。あのろくでなしを連れて行ってくれるんじゃないのかい?」
女主人は期待を裏切った俺に不満を覚え、あからさまに顔をしかめた。
「レジスタンスだかなんだか知らないけどね、さっさと出ていって欲しいもんだよ。」
「…そうだな。」
俺はハッキリとした答えを出すこともなく、宿屋を後にした。
「アンタが武器を選り好みするとはな。よほどの大物か?」
「…ああ。」
俺は――こと、暗殺において―――、初めて「殺すこと」に躊躇していた。
相手は「超」の付く大物だ。そして、その首は必要不可欠だという。……本当にそうか?
俺に必要なのは、ガルアーノがいるであろう研究所への潜入と、東アルディアの政権を乗っ取る手段であって、最強の軍事国家ロマリアの「陥落」じゃない。
…そうだ。本来ならレジスタンスの協力もアーク一味の力も必須ではない。
ガルアーノの殺害に成功したなら、同時にバスコフらが独自の
ロマリアの息のかかったマフィアの掃討はほぼ不可能だろうが、アルディアを動かす権力をバスコフが握り、それを維持する程度の護衛を俺が担えば彼らの命がすぐに危険に晒されるということはなくなる。
ロマリアは、アーク一味がなんとかするはずだ。
……そうだ、方向性を見失うな。
俺は世界を救いに来ている訳じゃない。バスコフやリゼッティ、そしてエルクの安全を確保するためにここにいる。
ここにはもう老魔導師もいない。レジスタンスとアーク一味の駆け引きに付き合う必要などどこにもない。
「……」
それでも俺は「狙撃銃」を調達した。どうしてだか、そうしなきゃならないような気がした。
口惜しいかな。俺一人ではガルアーノに敵わないと痛感しているのだ。
――――しくじればケガをする、散々キサマの体に叩き込んだことだ
「……」
もしも、俺がガルアーノを殺せなかったなら、「ケガをする」のは俺じゃない。
だから俺は従うしかないんだ。あの老魔導師の言う「聖戦」が用意した「運命」に。
――――殺せ、それだけがお前を一歩前へ進ませる
暗殺に失敗する度に、あの男は俺の体のどこかを撃ち抜いた。のた打ち回る俺を見て、男は俺に唾を吐き掛けながら言った。
「キサマは俺が踏み外したおかげでようやく生き残っているだけの虫けらだ。」
この男が本当にロマリア軍のため、ザルバド将軍のために動いていたのか分からなかった。気に留めたこともなかった。
あの時はただ、どうしても殺せない奴を「悪魔」としか認識していなかった。
解放された後も、俺の中で人間は「
――――そうだ。だったら
「……フッ、」
笑わせるな。先に死んだのはキサマだ。
虫も踏み潰せずに死んだキサマの言葉をこれ以上聞き入れてやる
今度は俺がキサマに教えてやる。
キサマが支えていた男は、国もろとも虫けらに滅ぼされる憐れな将軍だったとな。
止めたければ俺の足を撃ち抜けばいい。いつものように。何も難しいことはない。そうだろ?
「……フン、」
俺は
※モーリス・ウォン・バリー
「モーリス」以外の名前、「元ロマリア陸軍参謀」という設定は創作です。
※二つのテーブル
原作のモーリスの部屋でもテーブルは2つあります。まじなんで?(笑)
※ブタ(ハズレ)
ポーカーで役のない手札を日本では「ブタ」と言うこともあります。
ポーカー用語では「ハイカード」と言うそうです。
※将校
軍組織において「少尉」以上の階級を持つ軍人のことです。
実を言うと、未だに「参謀」がこの組織図のどの辺りに位置する役職なのかハッキリとは分かっていませんf(^_^;)
(かなりの高官であるのは間違いないと思います)
なので、なんとなくの雰囲気で察して頂けると助かりますm(__)m