聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

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ラッパ吹きの行軍 その九

「止まれ。」

「!?」

無機質(むきしつ)なほどに白い水銀灯(すいぎんとう)のギラギラとした光の下、連絡(れんらく)通路(つうろ)の出口に、無駄(むだ)(しわ)()()らかした明王(みょうおう)のような(ツラ)の男が(ツラ)一面(いちめん)(かげ)を落として俺たちを(にら)み、()(かま)えていた。

「キサマらが報告(ほうこく)にあった侵入者(しんにゅうしゃ)か?」

「…テメエは身内(みうち)全員の名前でも(おぼ)えてんのかよ?」

「何?」

「何のために制服(せいふく)があんのかって言ってんだよ。」

俺は今、着ている「軍服」をこれ見よがしに主張(しゅちょう)した。

「……」

「そういう(わけ)だからよ。大人(おとな)しくそこを通してくれれば今回は見逃(みのが)してやるよ。」

「…ふははは、面白(おもしろ)い奴だ。だが残念(ざんねん)だったな。私が化け物である以上、そんな即席(そくせき)の”口説(くどき)文句(もんく)”で尻尾(しっぽ)()る訳にはいかんのよ。」

「つまり?」

無論(むろん)、NOだ。まあ、(うら)んでくれるな。これも運命というやつよ。」

「エ、エルク、後ろにもあの人が!?」

ポコに言われ、来た道を振り返ると、瓜二(うりふた)つの男が一挙手(いっきょしゅ)一投足(いっとうそく)(たが)えない動きで『壁』を出現させ、前後の通路を完全に(ふさ)いだ。

「キモいトカゲも出シおっタぞ!」

二人が()らした数珠(くびかざり)()から、同じ太さの赤銅色(しゃくどういろ)両生類(りょうせいるい)がゾロリと()()てきた。

「さあ、いくぞ。あの(かた)のお膝元(ひざもと)までやって来た実力、失望(しつぼう)させてくれるなよ?」

「おオ、こイヤ!!」

 

見窄(みすぼ)らしくなってはいるものの、スメリア国固有(こゆう)聖職者(せいしょくしゃ)、「修験者(しゅげんじゃ)」の()()ちをした男は足の指でしっかりと地を(つか)み、鈍重(どんじゅう)()()えにその一歩一歩は地から『(ちから)』を吸い上げ、修験者自身の『力』を(ふく)()がらせていた。

「いテコましタるわー!」

腕の接合部(せつごうぶ)から機関銃(きかんじゅう)を出現させたヂークは問答無用で(なまり)の雨を()(そそ)がせる。

ところが、修験者が数珠(じゅず)(くう)をひと(あお)ぎすると、数珠の一粒一粒が(つゆ)(はら)うかのように強襲(きょうしゅう)する雨を全て打ち落とした。

「ポコ、お前はヂークと一緒(いっしょ)に前の奴らを(たの)んだ!」

「う、うん!」

すかさずポコはトランペットを構え、渾身(こんしん)の一撃をヂークに続いて修験者に(たた)()む。

「ほほう、珍妙(ちんみょう)(わざ)を使いおる。」

しかし、夫婦(めおと)のように修験者の横にピタリと張り付いていた赤銅色の両生類が大口を開けると、『音の弾』を飲み込んでしまった。

「ええっ!?」

「エエい、取り乱スナ二等兵!」

「…に、二等兵?」

「こコはワシに(マカ)せとケ!」

ヂークは標的(ひょうてき)に向けていた射線(しゃせん)扇状(おうぎじょう)に広げ、周囲(しゅうい)施設(しせつ)破壊(はかい)し始めた。

通電中(つうでんちゅう)機器(きき)放電(ほうでん)し、貯水(ちょすい)タンクは(あた)りを水浸(みずびた)しにする。

「フハはハッ、ココカらが本番ダぞ!」

「…古典的(こてんてき)な手を。」

ヂークが次の一手を打つよりも早く修験者が何事(なにごと)かを(とな)えるとトカゲは牙のない大口で水浸しの通路に(あご)()()てた。

「アババババ、ババ…、し、シ、死にサラセ~!」

(みずか)らを避雷針(ひらいしん)にして機器の放電を一つにまとめたヂークベックは()れた通路を導線(どうせん)にして敵を感電死…、させるつもりだった。

「大道芸人形よ、本物の戦場は初めてか?」

「…アれ?どウナッとんジゃ?」

ところが、ヂークの(はな)った電流は修験者に線香花火(せんこうはなび)程度(ていど)放電(ひばな)()びせるだけで、そのほとんどは突如(とつじょ)として(あらわ)れた氷の壁に(さえぎ)られ、明後日(あさって)へと走り去っていた。

 

「どんなに幼稚(ようち)な手であろうと敵を(あざむ)けたならそれは無類(むるい)(さく)と言えよう。どうだ?その機械仕掛(じか)けの明晰(めいせき)な脳みそなら当然、この反語(はんご)も理解できるだろう?」

言い終わるや、ヂークの足元から赤銅色のトカゲが這い上り、()れたレモンより毒々(どくどく)しい黄金色(こがねいろ)の瞳が無機質な機械人形の瞳を(のぞ)()んだ。

「うワわワ、二等兵、ワシを助ケロ~!」

トカゲの()く息はヂークの体を(またた)()腐食(ふしょく)させ、吸い付く手足は「(こと)なる命」の『力』さえも無差別に(うば)っていた。

パンッ、パンッ!

「…うわっ!?」

矢のように(するど)い『音』は今度こそ吸収(きゅうしゅう)する間も(あた)えず見事(みごと)にトカゲを()()としたが、間髪(かんぱつ)()れず輪から()(はな)たれた(たま)が、さながら弾丸(だんがん)のようにポコを射抜(いぬ)こうと(おそ)いかかった。

「コワれる、こワれル……」

そしてポコの援護(えんご)(むな)しく、トカゲがもたらした腐食はヂークの機能(きのう)(おか)し、確実(かくじつ)に戦力を()()していた。

ところが、二匹、三匹と新たなトカゲを数珠から呼び出し二人を圧倒(あっとう)しているにも(かか)わらず、修験者の顔には(あき)らかに敗戦(はいせん)の色が浮かんでいた。

 

「なんとも(にく)らしい光景(こうけい)じゃあないか。」

エルクの相手をしていたはずの、もう一人の修験者が(ほうむ)られていた。閻魔(えんま)のごとき炎を(まと)った少年の手で、(あや)しいトカゲもろとも火達磨(ひだるま)へと変えられていた。

「エルク……。」

ポコは自分の知らない戦友の姿に足を(すく)ませ、見惚(みと)れた。

南無阿弥(なむあみ)。」

残された修験者はポコとヂークを捨て置き、トカゲたちを目眩(めくら)ましにして少年へ数珠を放った、放たれた(たま)は人を()(つぶ)すほどに肥大(ひだい)し、珠がエルクを(かこ)うとギロチンの()を落とすかのように加速度的に輪を(ちぢ)めていく。

ズズンッ……

「……」

 

(おとり)となったトカゲは()()えで()(つぶ)され、(あた)りに紫色の(はらわた)血糊(ちのり)がぶちまけられた。

戦場を知らない小市民なら、そのグロテスクな光景に胸を焼くにちがいない。

「人の身でその(いき)(たっ)することが可能なのか?」

しかし、多くの(にく)を解体してきた修験者にとってそれはカンバスに()いた「草原」と大差(たいさ)ない。それが彼の心を動かすことはない。

「我々がどんな思いで……、」

彼が今、打ち震えているのは、ようやく歯も()えそろったというような年齢の少年が振り下ろした、たった一振りの剣線(けんせん)だった。

「誰がそれを教えた?」

珠は鉄の硬度(こうど)(ほこ)っていた。その一つが今、たった一本の、何の変哲(へんてつ)もない剣に真っ二つに()(くず)されていた。

「キサマは、(とお)そこそこの年端(としは)もいかぬ(わっぱ)なのだぞ?!」

切り口は鉄を打つ工程(こうてい)(さかのぼ)るかのように煌々(こうこう)と燃え、チョコレートのように()けだしていた。

 

「これで、終わりかよ?」

炎を纏う少年の声は鬼気(きき)(せま)怒気(どき)に満ち満ちている。

「いつの時代も変わらぬものだな。」

「……」

(たい)して、「真理」を求めるために「人」であることを捨てた悪鬼(あっき)は、魂を代償(だいしょう)にしても()えられない壁を見せつけられ落胆(らくたん)を隠せずにいた。

「愛される者は愛されぬ者を凌辱(りょうじょく)し、迫害(はくがい)し、存在を否定する。」

「…あ?」

「世界に愛されているのさ。お前は。でなければそんな棒切(ぼうき)れであの質量の鉄球を両断(りょうだん)することなどできるものか。」

「愛されている」という言葉は少年の(かん)(さわ)った。

(たと)え、その(つるぎ)が数千度の熱を()びていようとも。物理的にも外法(げほう)的にもありえんのよ。お前も、それくらい分かっているのだろう?」

少年の、『異常な力』の指摘(してき)は少年を不快(ふかい)にさせた。

「今、お前がやってみせたそれは、世界のあらゆる決まりごとを()()げる、(ぞく)にいう『奇跡』というやつだ。いかに『科学』や『魔法(げほう)』を(きわ)めようとも決して(およ)ばぬ領域(りょういき)。」

 

修験者が手先で奇怪(きかい)(いん)(むす)ぶと、彼もまた『炎』を呼び出した。

「世界に(えら)ばれたものにのみ許された差別(さべつ)するための『力』。」

(まゆ)のように彼を(おお)う『(ソレ)』は明らかに少年の『(つるぎ)』に(おと)っている。

「『力』こそが『未来』そのものを(にな)唯一(ゆいいつ)無二(むに)の存在。キサマらの言う(あさ)はかな愛や知略(ちりゃく)知慮(ちりょ)なぞ、その前座(ぜんざ)()ぎん。」

それでも修験者は少年に(おく)することはなく、少年へと(あゆ)()る。

まるで、魔王の首を()()使命(しめい)背負(せお)った「勇者」であるかのように。

 

――――言いたいことはそれだけかよ。

 

鉄球を切り崩した『(つるぎ)』が、()ける少年に並走(へいそう)して閃光(せんこう)軌跡(きせき)(えが)いていく。

修験者もまた、(こし)()した直刀(ちょくとう)を抜き放ち、鬼の形相(ぎょうそう)で少年に(いど)みかかる。

しかし―――、

「クゥッ!」

修験者にとって少年の一撃は(くま)(こぶし)のように重く、刀と『(かべ)』で受け止めることが精一杯(せいいっぱい)だった。

それでも熊の拳の(いきお)いは(おさ)えられず、『(かべ)』をギリギリとこじ開けていく。

 

「俺が、この『炎』が世界に愛されてるって?」

(つるぎ)』は今にも修験者を()やし()くさんと(たけ)(くる)い、『(かべ)』を()(やぶ)る。

「なあ、知ってるか?」

けれども、少年の瞳は『(つるぎ)』よりも先に『(かべ)』を越え、修験者に斬りかかっていた。

「“白い家”に、俺と同じような『力』を持った人がいたんだ。」

(つば)()()いで()()()()に顔を焼かれても、少年は(まゆ)一つ動かさない。

「だけどその人は、たった一度の幸せも(つか)めずに死んぢまった。…俺が、殺したんだよ。」

あれよあれよという()に、少年の(いか)れる眼光(がんこう)肉迫(にくはく)する。

「それでもテメエは、この『(ちから)』が、愛されてるって言えんのかよ?!」

少年の(さけ)びが『(かべ)』を破り、修験者の刀を両断する。

 

間一髪(かんいっぱつ)で修験者は少年の『(つるぎ)』から(のが)れ、少年との十分な間合(まあ)いを取ると(にぎ)っている「鉄の(かたまり)」を見詰めた。

「…この刀にしてもそうだ。これには私の持ちえる最高の呪術を(ほどこ)した。だのにお前はまるで(はし)をへし折る気軽さで真っ二つにしてみせた。これはもはや(たん)なる力の差ではない。明らかな世界による『差別』の(あら)われだよ。」

「…言いたいことはそれだけかよ。」

少年の纏う『炎』が何かの形を取ろうとしていた。

「テメエのはただの寝言(ねごと)にしか聞こえねえよ。」

少年はまだ、それに気付いていない。

 

差別がどうとか。そんなの本人次第(しだい)だ。

俺にとっての『(コイツ)』は『悪夢』そのものだった。ない方がいいんだ。こんなもの。

『力』を持ってる奴なんて皆似たり寄ったりなんだから。差別なんて関係ねえ。皆、ただの人殺しなんだ。

だけどアイツらは違う。俺なんかよりずっと強い『力』を持ってるのに、ずっと「綺麗(きれい)」なんだ。

…自分でも何を言ってるかわからない。

 

『力』を持ってるからこそアイツらは自分たちの我がままが通せるんだとも思ってた。

だけど、そうじゃないって気付かされた。

ククルの抱擁(ほうよう)と流せない涙が、彼女たちにもどうしようもならないことがあるって教えてくれた。

それでもアイツらは護ろうとしてる。…色んなものを。

その姿がとても「綺麗」に見えたんだ。

 

「…ならば私が見せる『夢』に看取(みと)られて()くがいい。」

修験者が印を結ぶと(ばら)けた数珠一つ一つに梵字(ぼんじ)が浮かび上がり、少年に何事(なにごと)かを語りかけた。

「……ルク…、エルク……、」

「……」

聞き覚えのある声。耳について離れない声。そう思った瞬間、少年の目に『彼女』が(うつ)っていた。

その手で護ることのできなかった人、見殺しにした人、あの森で見捨てた『彼女』がそこに立っていた。

「どうしたの?どうして(だま)ってるの?」

少年にその『幻影(げんえい)』は見えていた。けれどもそれが『幻影』だとわかっていた。

二人を(くる)わせた”白い家”での現実(きおく)が、『呪術』ごときでは表せない本物の『悪夢』だったがために。

「私と話すよりも(たたか)う方が楽しい?人を殺してる方が幸せ?」

それでも『少女』のスカイブルーの瞳に見詰められると、声が少年の耳を(まさぐ)ると、少年は胸を()めつけられてしまう。

「違うでしょ?」

心が(みだ)されていく。

『彼女』の姿が、(おも)()がれ、生まれて初めて出会った「初恋(かのじょ)」のままであるが(ゆえ)に。

「そんなことよりも楽しいことがあったじゃない。」

唐突(とうとつ)に、脳裏(のうり)に眠っていた記憶が目を()ます。生々(なまなま)しく。(あざ)やかに。

一緒(いっしょ)に笑い合ったあの時が、私たちにとって一番幸せな瞬間だった。そうでしょ?」

少年は『金髪の少女』から目が離せない。

『彼女』が手を()ばす。

「…行こう?」

 

――――言いたいことは……、

 

少年は消え入る声で少女に語りかけた。

そうして少年は修験者の『術』を焼き払い、問答無用に修験者の頸椎(けいつい)()ねた。

「……南無三(なむさん)。」

『術』は一片(いっぺん)(すき)もなく『炎』で(つつ)まれ、落とされた修験者の首は世を呪い、()てた。

少年は物言わぬ化け物を見下し、吐き捨てる。

「テメエなんかに俺の『悪夢』がわかるもんかよ。」

あの手はもう(にぎ)れない。

もう、戻ってこない。…それで、いいんだ。

 

(しば)()ける想いに(とら)われていると、俺の不甲斐(ふがい)なさを(しか)るように甲高(かんだか)い声が(ほお)を打った。

「エルク、(すご)いや!あんなにスゴイ悪魔に勝っちゃうなんて!それに、あんなに大きな鉄球を真っ二つにしちゃうなんて、まるでトッシュみたいだったよ。」

…気を(つか)ってんのか?

何にしても、俺もさっきの戦いには思うところがあった。

 

あの時の俺は襲ってくる鉄球を押し返すくらいの気持ちでいたんだ。それなのに、ビビるくらいにスパッと斬っちまった。

それをやってのけた後、自分の『力』に驚きはしたけれど、その原因(げんいん)がなんであるかは()ぐに(さっ)しがついた。

「まあ、本気を出せば、な。」

軽口(かるくち)誤魔化(ごまか)したけど、『力』に()()うようにやってくるこの「昂揚感(こうようかん)」が俺に語りかける。

俺を「乗っ取る」かもしれないあの鬼の姿が(まぶた)に焼き付いてる。

 

俺を(はげ)ましてくれたポコは、腰を抜かして座り込んでいた。

「どうしたよ。ホラ、さっさと立てよ。皆を助けにいくんだろ?」

俺は手を差し伸べる。『彼女』が俺にそうしてくれたように。

「うん。」

「それよりソレ、どうするよ。」

足元に転がる、雑音(ざつおん)()じりに助けを求めるポンコツを足で小突(こづ)いてみると、ポンコツはやっぱり雑音混じりに抗議(こうぎ)の声を上げた。

最強(ザいギョヴ)、だゾ……!」

トカゲの吐息(といき)が思った以上に機械のヂークに致命傷(ちめいしょう)(あた)えたらしく、どうにも手を着けられそうにない状態に思えた。

さすがに見捨てる訳にもいかない。とはいえ、修理(しゅうり)できるような時間も技術もない。そう思って真剣に頭を(めぐ)らせていたのに……、

プシューッ!!

「なになに?!」

「ワシ、復活!」

冷却(れいきゃく)装置(そうち)みたいなものが作動(さどう)したかと思えば、致命傷のはずだったトカゲの腐食(ふしょく)(ほこり)(はら)うかのように吹き飛ばしてしまった。

「やイ、エルク、ヨくもワシのスペシャルハイパーウルティカデンジャラスボディを()リオっ――――!?」

俺は、(へこ)ませたポンコツの頭をさらに凹ませた。

(となり)でポコが小さく首を(かし)げた。

「…デンジャラス?」

…そうだった。コイツの言うこと()すことにはもう何も考えねえって決めたんじゃねえか。

そのはずなのに……。どうして俺は無駄(むだ)だと(さと)ったことを()(かえ)してしまうんだよ。

俺は、込み上げる()(いき)(おさ)えられなかった。

 

 

「エルク、ボク、変なんだ。」

ポンコツに一通りの制裁(せいさい)(くだ)した後、人質の所へ向かう道中(どうちゅう)、ポコはずっと何かを言いたそうにしていた。

(はげ)ましの言葉とは違う何かを。

俺にはそれが何か、なんとなく予想がついていた。

「さっきね、ほんの少しだけ、ほんの少しだけ!…エルクが怖かったんだ。」

「……」

「エルクが炎に包まれてる姿を見て、ボク、気付いたんだ。エルクはアークよりも強いんだって。」

「!?」

…何言ってんだ?俺が、アークよりも強い?アンデルとまともに向かい合うこともできなかった俺が?

「ううん、もしかしたらゴーゲンだって倒せちゃうかもしれない。」

ゴーゲンってのは一味の主犯格の一人で、懸賞金もアークに次いで高い50億の魔法使いだ。

例え、何かの間違いで俺が賞金首になったとしても「億」を超えることなんて、まずありえない。だからこそ、俺にはそれがポコなりの下手(へた)くそなジョークなんだと思った。

だけど、ポコはそう言わない。「本心だ」という表情を崩さない。

「…エルクはアークを殺しちゃうかもしれない。そう思っちゃったんだ。」

想像した。

俺が、世界最強と言ってもおかしくない犯罪者の首を落としている姿を。

 

アークと直接(ちょくせつ)会ったことはない。

”白い家”から俺を助け出してくれたらしいけど、言葉は()わしてない。

俺にとっちゃまだまだ赤の他人だ。

だけど、ククルやポコにとってアークはとても大切な人なんだ。俺にとっての『彼女』と同じなのかもしれない。

そう思うと、ポコに(そそのか)されて描いた妄想(もうそう)が吐き気を(もよお)すほどに最悪な絵面(えづら)に思えた。

 

「だけどね、」

そう言い直すポコの顔は、悪いものを吐き出してスッキリした()(ぱら)いみたく()()れとしていた。

「だけど今はそんなことないんだ。今はエルクが隣にいてくれるだけで凄く心強いんだよ。何も怖くないんだ。ほ、本当だよ!」

俺の顔色を見て(あわ)てて()(つくろ)うポコの姿は素直(すなお)愛着(あいちゃく)がもてた。

 

だけど、ポコの言い分はもっともだ。

「俺、お前らと会ってなかったら多分、ポコの言う通り、アークを倒そうとしてたかもしれねえな。」

もともと、俺の村を襲った軍艦(シルバーノア)は「アーク」なんじゃねえかって思ってた。

だけど偶然(ぐうぜん)必然(ひつぜん)か。ククルやポコに会えた俺は「アーク」が悪党(あくとう)じゃねえって知った。

この出会いがなかったら、ガルアーノか誰かに(だま)されて良いように利用(りよう)されてたかもしれねえ。俺と『彼女』がそうだったように。

「だけど俺はこれから変わるのさ。」

アンタらから色んな事を学ぶんだ。シュウやビビガたちと一緒(いっしょ)に賞金稼ぎをやってるだけじゃあ知れなかったもの。

「お前らと一緒に闘うって決めたからな。」

戦争の中でも色褪(いろあ)せない、アンタらの「強さ」を。

 

――――炎の子は決意を言葉にした。

彼らの背中に()せられて。彼らのようになりたくて。

まだ「強さ(それ)」を「愛」と呼ぶことのできない(おさな)さを残しつつ――――




※修験者=原作のモンスター「修験者」のことです。
※赤銅色の両生類=原作のモンスター「メデューサリザード」ことです。
「トカゲ(硬い鱗のある爬虫類)」と表記しましたが、「イモリ(粘液をまとった皮膚の両生類)」のイメージでお願いします。
具体的には「アカハライモリ」という種類のイモリです。

※明王(みょうおう)
仏教における大日如来(だいにちにょらい)の化身の一つ。
悪魔を打ち払い、仏法を護る守護神。そのため、掘り起こされる仏像のほとんどが憤怒(ふんど)の表情をしている。
○大日如来
仏教における最も尊い存在。太陽神。宇宙の起源でもあり、あらゆる仏や菩薩(ぼさつ)の大本。

……間違ってたらごめんなさいm(__)m

※修験者(しゅげんじゃ)
頭頂に「頭巾(ときん)」と呼ばれる椀をひっくり返したような帽子をかぶり、金剛杖(こんごうづえ)と呼ばれる杖を持ち、(おい)と呼ばれる箱(衣類、食器などが入っている)を背負い、法螺(ほら)を鳴らしながら山を練り歩いて修行する人。
修験道を体得しようとする人。

○山伏(やまぶし)
修験者と同じ意味。太刀を帯刀していたこともあるそうです。
○修験道(しゅげんどう)
山岳での修業をつみ、超自然的な力を身に付けようとする密教の一つ。

※赤銅色の両生類は大口を開け、『音の弾』を飲み込んだ
メデューサリザードの特殊能力「ロブマインド」のことです。
原作での「ロブマインド」の効果は対象のMPを吸収するものです。
今回は「MP」の代わりに「魔法」そのものを吸収する仕様にしました。

※氷の壁
マザークレアの館で得られるメデューサリザードの追加能力「コールドブレス」のことです。
「水」と「氷」では電気の伝導率が違います。「氷」の方が「水」よりも電気を通しにくいです。
(一説には氷の伝導率は水の1万分の1らしいです)
そもそも「水」は溶媒として多くのイオンが溶け込んでいるので通電します。純粋な水「純水」は絶縁体なので電気を通しません。
本編の「水」は特定の用途に用いるために多くのイオンを含んでいます。

※トカゲの吐く息はヂークの体を瞬く間に腐食させ、吸い付く手足は「異なる命」の『力』さえも無差別に奪っていた。

「トカゲの吐く息」はマザークレアの追加能力「アシッドブレス」で、「吸い付く手足」はこれまた「ロブマインド」です。

※輪から解き放たれた珠が、さながら弾丸のようにポコを射抜こうと襲いかかった。
原作の「数珠」の攻撃モーションの中に珠が独立する瞬間があります。
なので、「数珠」は修験者の力次第で分解、独立して攻撃できる設定にしています。
ちなみに、この後の「数珠の巨大化」も原作のモーションにあります。
どういう『力』なのかと言われると……(笑)

※その剣が数千度の熱を帯びていようとも
分厚い鉄(それでも10㎝以下)を切断する工具として「サーマルランス」というものがあります。
このサーマルランスですら4000度の高温で時間をかけてゆっくり切ります。
なので、今回のエルクのように1m近い鉄球を瞬間的に断ち切るなんて、まさに奇跡の技です。
ちなみに、太陽表面温度は6000度です。
そう考えるとサーマルランスもかなり奇跡の代物に思えてきます。

※直刀(ちょくとう)
刀身に反りのない(曲がってない)刀。真っ直ぐな刀のことをいいます。

結局は私の記憶違いだったんですが、闇法師系統の装備に「剣」があったような。そんなモーションを見たような……気がしたんです。結局は私の勘違いだってんですが。

※剣線
剣の切っ先が描く一筋の線を意味する「造語」です。
太刀筋、剣筋と同じだと思ってください。

※外法(げほう)
仏教の教えに背く思想や行いのことですが、ここでは「魔法」のことを指して言っています。

※鍔迫り合い(つばぜりあい)
刀の鍔と鍔を打ち合わせ、押し合うことです。

※私が見せる『夢』
修験者の魔法「スリープウィンドウ」です。

※梵字(ぼんじ)
古代インドで使われていたサンスクリット語を表す文字(ブラーフミー文字が起源とされている)。
仏教に深く繋がりのある文字です。

※ワシ、復活!
パワーユニット「Pスティルウォーター」の特殊能力「リフレッシュ」です。

※ホンマの後書き
何てことのない戦闘シーンの一つなのに……(なんでこんなに尺とってんだww)。

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