――――パレンシアタワー、地下1階
パレンシア城地下通路からパレンシアタワーへの侵入に失敗したその晩、気弱な楽士と自称「世界最強の”家庭用ボイラー”」は、トウヴィル村の人質の囚われている牢獄から離れた独房に収監されていた。
「…エルク、大丈夫かなぁ。」
「魔法ハ正常に発動しタんじャロ?ナラ、ククルがなんとかしトるじゃロ。」
ポコはベッドに腰掛け、ヂークは床に寝転がり、何をするでもなくボンヤリと構えていた。
「確かにリーフの珠は使ったけど…。」
楽士は指を咥え、新しくできた友人の安否ばかりを気に掛けていた。
「心配シ過ギは体ニ良くなイラシいぞ?」
対して本来の性能を完全に忘れてしまった家庭用ボイラーは、天井の染みを数えながら眠りに就こうとしていた。
あまりに無関心で傍若無人なボイラーを見て、ポコはさらに不安を募らせる。
「…ヂークは、心配じゃないの?」
「心配?何の?」
「だからエルクのだよ。僕の話、聞いてるの?」
「そウか。ワシはてっキリ自分の心配をシろと強んドるノカト思っタわ。」
抑揚もなくそう答える頃、世界最強のボイラーは500以上の染みを数えていた。
「ええ、僕?」
「ダってお前、弱イダロ?」
「…そりゃあ、アークやエルクに比べたらまだまだかもしれないよ?でも、僕だってやる時はやるんだよ?」
「ソウか。だカらさッキハ大人しクアのジジイの話ヲ聞イトッタと?」
「…それは……、」
――――数時間前、独房の前
「我々を暗殺しようとする輩は少なくない。」
「え?」
格子越しに、アンデルはポコに機密情報の一つを口にした
「我々が公表していないだけでな。つい先日も、ミルマーナ兵に成りすました民間人がヤグンの演習所に爆弾を仕掛けたらしい。当然、未遂に終わったがな。」
ミルマーナ国を支配するヤグン・デル・カ・トル元帥は国の発展を理由に、国民の心の拠り所でもある大森林を見境なしに切り拓いている。
このことにより軍備は強化され国の安全は保証されているが、その軍備を維持するために物価は高騰し、国民の生活を圧迫していた。
ただの一杯の水ですら、砂漠の遭難者であるかのようなありがたみを覚えなければならないほどに。
そして、その水を切に求める彼らの愛する大森林は今、着実に「死」へと向かっている。
例え僅かでもこれらに異議を唱えようものなら、例外なく軍法によって極刑を与えられる。
ヤグン元帥とは対極の、大森林の恩恵を尊重するミルマーナ王家と共に生きてきた国民にとって、この方針は耐え難いものだった。
「愚かな連中だ。たとえライフルを眉間に撃ち込んだとしても、あの男の息の根を止めることなどできんというのにな。」
「…その人たちはどうしたの?」
「処分した。当然のことだろう?まあ、我々なりのやり方ではあるがな。」
「殺したの?」
「キサマがそれを知る必要はない。」
萌葱色の男は自分が始めた話であるにも拘わらず、関心のない冷めた表情で楽士を睨んだ。
それでも男はその話をし続ける。
「キサマは先程、私に向かって”民間人に罪はない”と言ったな。」
これこそが本題の入り口だとでも言うように。
「だが、どうだ?連中とて武器さえ手にしてしまえば何者かの命を奪いたい衝動を抑えられない。たまたま、その標的が我々というだけに過ぎない。」
「……」
「同じだ。奴らも、我々も、そしてキサマらもな。」
「…そんなこと……、」
「”罪”は、何かを成して背負うものではない。生まれながらその身に宿しているものだ。本能と同じようにな。それは血と感情を宿す者の宿命よ。」
「そんなこと、ない!」
「フン」萌葱色の男は子どもの根拠のない強がりに侮蔑の目を向け、嘲笑う。
「そこでだ、キサマに一つ助言してやろう。」
萌葱色の男は白檀の扇子で楽士の顎を持ち上げると、変わらない高圧的な表情で軟弱な楽士の心に彼の形を成す漆黒を吹きかけた。
「我々の側に付け。」
「な…!?」
あらゆる「音」を耳にしてきた楽士の知るどの低音楽器よりも底冷えのする声が、親友と交わした楽士の『決意』を耳から冒そうと忍び寄る。
「なに難しいことはない。今まで通りアークの懐で活動しつつ、随時、私に状況を報告するだけでいい。」
「何を言ってるの!?そんなことする訳ないじゃないか!」
「そうすればトウヴィルの人間の命は助けてやろう。」
「え…、」
「エルクはトウヴィルに帰したのだろう?人質の処刑は明日、日の出と共に行う。もはや間に合うまい。それとも、今、ここで私の首を取ってみるか?」
楽士は愕然とした。
この程度の脅迫で『使命』を見失いそうになる自分に。
「言っただろう。人は”罪”を持って生まれる。それを成す形が人それぞれというだけのこと。キサマが村人を救い、我々と共に生きることも。仲間が気まぐれでみせた優しさに抗えず村人を見捨てることも。もしくはどちらからも逃げることも、同じキサマの”罪”の形だ。恥じることも悔いることもない。ごくごく自然なことだ。」
僕に、彼は裏切れない。
だけど村人を見殺しにもできない。していい理由にならない。
それなのに、今の僕には目の前の敵を倒す『力』がない。
「明日の日の出、それまでジックリと考えるといい。」
楽士は自分の「弱さ」に打ちのめされた。
――――現在、独房の中
萌葱色の怨敵は、あろうことか彼らの武器を取り上げなかった。
「この檻を壊したいなら壊せばいい。だがそれは同時に、キサマが護るべきもの全ての死を意味しているということを忘れるな。」
大臣は楽士を見くびっていた。
彼がどうあろうと、自分の思い通りになると。
「マあ、あんマリ気にせンことだな。」
家庭用ボイラーは天井を見上げたまま、まるで心理カウンセラーのように落ちこむ兵隊を慰めた。
「それヨリも、暇ならワシのたメに染ミヲ数えロ。実に有意義ダぞ?」
…ように見えた。
「…ハア、君は悩みがなさそうでいいね。」
「ワシは最強ダカらナ。」
「……ハア、」
楽士は「ロボット」に答えを求めるのを諦め、草臥れたシャコー帽を抱きしめて横になった。
「…アーク、僕、どうしよう……」
――――トウヴィル村を頂く山、中腹
俺は標高2000m近い山を垂直に駆け下りた。
道は憶えてる。案内役を気遣う必要もない。
貰った首飾りのお陰か、それともククルが余計に回復してくれたからか。全力で走っていても少しも疲れない。それどころか、本当に羽が生えたかのように体が軽い。
この勢いでいけば十分と掛からずに山を下りれる。
列車で仮眠をとって、コルボ市から寝ずに走れば今日中にはパレンシア市に戻れる。身分証明書がないから結局は不法侵入しなきゃならないけれど、騒がしいガラクタがいないってだけで随分と動きやすい。
――――パレンシア市内、PM11時
深夜だからか。市内は思ったよりも手薄だった。それとなくパレンシアタワーの情報を集めていても、憲兵が俺の潜入に気付くことはないだろう。
俺は注意しながらも少し大胆に動いた。
パレンシアタワーは四方を海に囲まれた孤島の上に建てられていた。
いくら夜中とはいえ、船で行けば丸見えだ。泳いで渡るにしても、この寒い時期におおよそ1㎞を遠泳すれば確実に体力を持っていかれる。罠だってあるかもしれない。
もしも途中で戦闘にでもなれば海中はかなりのハンデになる。
ポコがパレンシア城の地下通路から潜ろうとしていた理由がよく分かった。
だけど、もうあの通路は使えない。
あのやり手っぽい大臣がそのままにするはずがない。塞いであるか、さらに分かりにくい罠に造り変えてるか。何にしても、もはや俺一人で対処できないレベルになっているはずだ。
今のところ、ククルの言っていた「運び屋」を頼るしか方法はないように思えた。
「テメエ、エルクだな?」
「…誰だ、テメエ。」
とある酒場を後にしようとすると、酒臭さを隠そうともしない、親しみのある柄の悪い出で立ちの男が話しかけてきた。
「さあ、誰だろうな。」
男は俺を挑発するような面で答えた。…いや、苛立ってるのは男の方のようにも見える。
「ナメてんのか?悪いけど今はチンピラの相手をしてられるほど暇じゃねえんだよ。ブチ殺されたくなかったら今すぐ失せな。」
ククルの言っていた「運び屋」なのかもしれない。でも俺にはソイツの前情報が一つもない。
だから今までの経験でしかソイツを見分けられない。
「暇じゃねえのは俺も一緒だよ。ここ最近、ジジイの後始末で忙殺されるムカつく毎日さ。見込んだ男はヘマして俺の立場を悪くするしよ。マジでムカついてんだわ。」
男はヤサグレた風貌ではあるけれど、「戦闘」には慣れていないように見える。
それに「後始末」なんて言葉、「運び屋」の口からは中々聞かない。…もしかして、本当にただのチンピラなのか?
「……」
いいや、ただのチンピラじゃあねえ。
酒臭さの中に、ほんの僅かだけど上等な香水の臭いが混じってる。過去にこの臭いをさせてた奴は皆、女と革張りの椅子に腰を下ろすことだけが自慢で、断じてこんな小汚い野郎が付けられるようなもんじゃねえし、こんな小汚い野郎を傍に置くような人種が付けるようなもんでもない。
俺の表情の変化に気付いたのか。男は失笑しながら続けた。
「見た目よりも勘は良さそうじゃねえか。だけどあんまり俺のことを探らない方が身のためだぜ?もしも、残りの人生を日陰暮らしにしたくなかったらの話だけどな。」
「生憎、そんなんで手を緩められるほどお行儀良く育てられてねえんだよ。それに、そん時はテメエも巻き添えにしてやるから安心しろよ。」
男の足元に唾を吐き、相手を扱き下ろすゴロツキ特有の笑みを浮かべてみせた。
「あぁ、あぁ、近頃のガキは目上を敬う心の美しさってものを忘れちまったらしい。」
「そうみたいだな。だけど、人の殺し方ならウンザリするほど知ってるぜ?」
俺は、男が反応できない速さで得物の先端を突き付けた。
反応こそできなかったものの、男は少しも動じずに俺を睨み返す。
「…どうした?オラ、殺れよ。」
「……」
「出来ねえことを吐く奴ほどダサいものはねえよなぁ?」
店内の常連客連中は、こんな騒ぎに慣れてるのか。自分たちに害が及ばないと分かると、煩わしい日常から解放してくれる愛すべき赤ブドウと戯れる時間に戻っていった。
「そりゃ全部、テメエ次第だぜ。」
「なんだそりゃあ?バカか?今朝のテメエのオ○ニーの回数でも当てれば許してもらえんのかよ?」
「このアル中がっ。テメエの脳みそはどこまでおめでたいんだ。」
落ち着けよ、俺。テメエもよく知ってんだろ?こういう手合いの奴は何かにつけて俺が「いきり立ってるだけのガキ」だって弱者の立場を自覚させたがるんだって。
そうして頭に血が上ったイノシシを罠に掛けようとするんだってよ。
…だけど、もしも本当にコイツが「運び屋」じゃなかったらマジの蹴りを一発くれてやる。絶対にだ。
「そのハイハイしかできねえような脳みそでよく考えて答えろよ。テメエは、俺に、何の用だ。」
すると、男は俺の思う以上に真面目な顔つきで考え込んだ。
だからこそ次に出てくる言葉がまた、クソ詰まらねえ冗談の続きなんだって予想できた。
「4…、いや7回くらいか?それで収まらねえからってこんな火遊びをされたんじゃあ、テメエの女はさぞ苦労してるだろうな。まったく、ご愁傷様って言葉しか出てこねえぜ。」
「…!」
…クソ!ダメだ。ムカつく。今すぐそのビビガみてえな顔を潰してやりたい。
でも、ダメだ。落ち着け。いつもならこれくらい聞き流せてるだろ?ギルドの連中にはもっとヒデェこと言われてきたじゃねえかよ。
コイツが「運び屋」だろうとなかろうと、今、ここで下手に騒ぎを起こしちまったら間違いなく憲兵を呼び寄せちまうんだぜ?
何も作戦が決まってない状態でそれをやっちまったら、それこそ何もかも台無しにしちまうんだぜ?
ポコも人質も逝っちまう。ククルとの約束も守れねえ!
それでもいいのかよ?なんとか堪えてみせろよ!
「まあ、ひとまず落ち着けよ。ククッ、一人じゃ満足できねえってんなら俺がイイ女紹介してやるよ。だからまずテメエの趣味を教えろよ。気の強い年上?金髪の幼女――、ウグッ!」
……おいおい、俺の声、聞こえてねえのかよ?
腕が勝手に、クソ野郎の首を鷲掴みにしていた。眉間が、頭痛がする程に深い皺を彫り込んでいた。
「あんまり調子に乗るなよ。燃やすぜ?」
こうなっちまったら俺はもう抗えない。せめてこのクソ野郎が死なない程度に付き合ってやることしか。
そうして掴む手に『炎』を、燃えない程度に呼び寄せた。
「アッッチィッ!」
常連客はクソ野郎の締め上げられてる姿を見て笑ってる…、そう思った。
「おい、そこの悪ガキ。それぐらいで乗せられてんなよ。ソイツの思う壺じゃねえか。」
「…あ?」
まるでそれが合図だったかのように、打ち合わせのないクソ野郎の作戦は動き出した。
「全員、動くな!」
完全武装のスメリア兵が10人余り、店の中に雪崩れ込んできた。
尾行された覚えはない。そんな失態なんかしない。つまり……、
「ペール・ペールマン!キサマが先のロマリア軍艦密航の手引きをした運び屋だな!」
銃を構えるスメリア兵、俺の時とは打って変わって騒然とする客ども。
「…テメエ、さっそく失態かましやがって。」
「ヘマ?そう思うか?」
酒臭い男は、どう見ても戦闘員の素質はない。そのくせ、この危機的状況の中でもニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべてやがる。
「…計りやがったな。」
「加えて、スメリア国への謀反を企んでいるとの通報があった!よって、この場にいる者全てを容疑者とみなす!大人しく連行されるなら良し!逆らえばこの場で銃殺する!」
予想外のトバッチリに、常連客はスメリア兵らに名指しされた男に呪いの言葉を吐きかける。
「ペペ、テメエ、やりやがったな!?」「俺たちは関係ねえ!」「開放しろ!」
スメリア兵は威嚇射撃で粗野な常連客を手早く黙らせたけれど、その様子にはどこか焦りがあるように見えた。
「黙れっ!キサマらの主張など聞いてない!」
警戒態勢を保ちつつ、数人が俺たちに近付いてくる。
「おい、この後はどうするつもりなんだよ。」
「は?何言ってんだ。さっきテメエが自分で言ってたろ。そのハイハイしかできねえような脳みそで、よく考えろよ。この程度の窮地も切り抜けられねえようじゃあ、アルディコ連邦の『炎』の名が泣くぜ?」
「…後で憶えてろよ。」
俺は、改めて敵の装備と陣形を確認すると、間髪入れず行動に移った。
「…何だ!?」
どうやら敵は俺が何者かまでは知らないらしく、『炎』に対して何の対策もしていなかった。
目眩まし、銃口の変形。そこまで完了してしまえば、混乱した兵隊なんて町のチンピラと大して変わらない。
俺は相手が冷静さを取り戻すよりも早く全員ねじ伏せた。
「ヒュー、さすがにプロの戦闘ってのは迫力が違うね――、っとぉ!」
勿論、手加減はした。だけど半分本気で、クソ野郎の顔面目掛けて槍を投げつけた。
「そうカッカすんなよ。俺だって命張ってこの仕事してんだ。多少のお茶目にくらい目を瞑れよ。」
「多少?俺たち部外者様の被害はどう落とし前つけてくれるんだ!?」
近寄る俺を無視して、物陰から叫ぶ「被害者の会」にペールマンは札束を投げて寄越した。
「奢りだよ。呑み直すも良し。女と寝るも良し。人生で最高の夜を過ごしてくれよ。」
「最高だぜぺぺ!」「次期スメリア王はテメエだよ!」「ペペ王、万歳!」
「……」
煽てられてイイ気になってるペールマンの喉元に、俺は短剣を突き付けた。
「これ以上の茶番はナシだ。テメエの仕事をするか、俺の手でコイツらと一緒にここで一晩過ごすか選べ。」
俺は足元に転がるスメリア兵を指して言った。
「短気だな。」
「暇じゃねえって言ってんだろ。」
「…天下のアークがこんなガキに頼らなきゃいけねえくらい切羽詰まってんのか?だとするといよいよアイツらの終わりも近いな――ッ!?」
ペールマンの喉元から、赤い蛇が刃先を静かに滑っていく。
「選べ。」
ペールマンは溜め息を一つ吐き、物怖じせず俺の短剣を素手で退けると気絶しているスメリア兵の通信機の送信ボタンを押した。
「こちら”赤い街の雉”、コード805882。至急、応援を求む。」
『こちら”白檀の塔”、何があった。』
「密告のあったペール・ペールマンに私兵があることが発覚。かなりの手練れで部隊の8割が重傷を負った。作戦の続行は不可能と思われる。」
『了解、応援要請を申告する。確認した敵の数と特徴を可能な限り報告せよ。』
ペールマンは慣れた様子でデッチ上げた情報をペラペラと報告し続けた。
「…そういう訳だ。これでタワーと本土との行き来が増える。その中なら、どんなマヌケでも白旗振りながら帆船に乗っていったって余裕で渡りきれるだろ?」
だいぶ話をすっ飛ばしたが、おそらく「木を隠すなら森の中」の状況をつくってやったから堂々と正面から船で侵入しろって言いたいんだと思う。
「あとはテメエの腕次第だ。じゃあな。」
ペールマンは俺に、状況に応じたコードネームと識別番号をメモした紙を寄越すと、眠っている兵隊を踏みつけながら去っていく。
「おい、テメエは一人で軍隊から逃げ切れるのかよ。」
ペールマンは振り返り、
「…テメエはこれまでにもプロ相手にいちいち気遣いをしてきた口か?」
「……」
「だとしたら、とんだ天狗野郎だな。クタバレ。」
中指を立てながら去っていった。
計画通り、町中に「ペールマンと手練れの私兵」を捕えるための兵隊が続々と現れた。
酒場で「私兵」にやられた兵隊はペールマンの同業者たちの手で隠蔽されたらしく、しばらくは状況が混乱する。
俺は気絶させた兵隊から服を奪って変装し、「私兵と交戦したため物資を補給する」名目でパレンシアタワーに船を走らせた。
「…プロ、ね。」
すぐに管制塔から識別番号と帰還理由を求められた。
けれども、ペールマンのメモ通りに返答するだけで何一つ疑われることもなく切り抜けられた。
…当然のプロ意識というか、職人気質というか。
釈然とはしない。
だけど、確かな腕があってこそのプライドなんだと、俺は少しだけ反省した。