聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

170 / 236
ラッパ吹きの行軍 その一

道中(どうちゅう)、ヂークをバカにする言葉を考えるのに(いそが)しかったお(かげ)か。軽い休憩を2回ほど(はさ)むだけですみ、翌日の午前中にはパレンシア市に着くことができた。

 

市の関所(せきしょ)が視界に入ると、俺たちは町の外壁(がいへき)(つた)うように迂回(うかい)した。

「なンジゃ、町ニは入らんノか?」

足の()えたドラム缶は、期待(きたい)していた(えさ)を取り上げられた仔犬ような()()俺を見上げた。

「何のために前の町で装備(そうび)(とと)えたと思ってんだよ。」

コルボ市でもそうだったが、どうにもヂークの疑似(ぎじ)人格(じんかく)は人間の子どもを()したかのように異常(いじょう)に好奇心が強い。

知らない物を目にする(たび)に「アレはなんだ」だとか、「これが欲しい」だとか…。

いちいちそれを(あきら)めさせなきゃならない俺は保護者丸出しにならなきゃならない。仕事でもガキの子守(こも)りは(ことわ)ってきたってのに…。

 

ククルからは、村人を救出(きゅうしゅつ)する依頼(いらい)()ねて当面(とうめん)の資金を()りている。

村に(たくわ)えがないことくらい分かってたが、仕方(しかた)なかったんだ。

現状(げんじょう)、俺は不法入国に当たるし、賞金稼ぎ組合(ギルド)にはたんまり金を(あず)けてはいるものの、組合自体がガルアーノの(つく)った組織なだけに迂闊(うかつ)に顔を見せる訳にもいかない。

スメリア国に当てにできるような知り合いもいない。っつーか、スメリア国に来たこと自体初めてだ。

そういうことで、少なくともバスコフが復帰(ふっき)できる状態(じょうたい)になるまで俺自身は一文無(いちもんなし)しってことになる。

「どレどレ、(フトころ)が寒いナらワシが温めテヤロウか?」

「いらねえよ。…それにしても、」

事情(じじょう)反省(はんせい)しながらも、視線を上げれば常に俺たちを見下ろしてるそれを見て、俺は感嘆(かんたん)の声を()らさずにはいられなかった。

 

派手(はで)にやったもんだな。」

町の外壁や森の木々に視界を(さえぎ)られながらも、その上半分は常に、凍結(とうけつ)した歴史的瞬間が()めていた。

町よりも一段高い台地の上に(きず)かれたスメリア国の繁栄(はんえい)象徴(しょうちょう)、パレンシア城。

それも今や歴史を(かた)るしか(のう)のない「遺跡(いせき)」って名の、失墜(しっつい)の象徴と()しちまってる。

「内側から爆破せんことにはあそこまで木端(こっぱ)微塵(みじん)には(こわ)れんぞ。」

ヂークの推測(すいそく)証明(しょうめい)するかのように、城の破片(はへん)はかなり(はな)れた所にまで()()っていた。

「…内側から、ねえ。」

幾多(いくた)戦火(せんか)にも()(しの)いできた堅固(けんご)城壁(じょうへき)は、現代アートみたく奇抜(きばつ)な形の瓦礫(がれき)の山を(つく)り、(あた)一帯(いったい)には()千切(ちぎ)られたドレスのように価値(いみ)()くした破片が散りばめられている。

かつて精霊より(いただ)いた栄光(えいこう)名誉(めいよ)の入り口であった城門を(くぐ)る者も今はなく、大地を横切る風に(むな)しく()でられるばかり。

(かろ)うじて原型(げんけい)(とど)めているものと言えば、城門へと()びる、長く(おごそ)かな階段、橋梁(きょうりょう)ぐらいだ。

 

ようやく着いた城跡(しろあと)には警備(けいび)の一人もおらず、完全な「()()」として放置(ほうち)されていた。

「金の()らない木にゃ関心(かんしん)もねえってか?スメリアも随分(ずいぶん)とドライな人間が多いんだな。」

「というよりも、大臣にそう命令されとるんじゃろ?」

「まあ、そうなんだろうけどよ…。」

スルトにも聞いたけど、「スメリア国王暗殺事件」以降(いこう)、大臣の方針(ほうしん)で城周辺に近付くことを(きん)じられているらしい。

 

それはそれとして……、

 

「あのよ…、」

加齢臭(かれいしゅう)は自分じゃ気付かないって言うし、コイツも自分が出してる「違和感(いわかん)」に無頓着(むとんちゃく)なんだろうな。

もともと気になってはいたけれど、石畳(いしだたみ)の橋を歩いているとその音はいよいよ耳に付いて仕方なくなっていた。

「…まあ、無理を承知(しょうち)で言うんだけどよ。」

「ナんじゃ?」

ヂークは無垢(むく)な中年よろしくバカ(づら)で首を…、体を(かし)げた。

「その騒々(そうぞう)しい足音はなんとかならねえの?」

ブリキ人形のヂークが足を運べばガシャガシャと行進曲のように(にぎ)やかな騒音(そうおん)容赦(ようしゃ)なく辺り一帯に()()るんだ。

それが気になって仕方がなかったんだけれど…、その一言が余程(よほど)気に入らなかったのか。ヂークは頭頂部(とうちょうぶ)の小さな煙突(えんとつ)…を()した冷却装置(れいきゃくそうち)――元がボイラーなんだから「煙突」でも間違ってはいないんだけど――からプシュッ、プシュッと蒸気(じょうき)()きながら怒り散らした。

…いったい今の()()りのどこにそんな熱量がいるんだよ。

「バかもン!この重厚感(じュウコうカん)ノアる足音がカっコいインじゃロうが!」

まあ確かに、戦場であれば「ロボットの足音」ってのは敵の「恐怖」を(あお)れたりするかもしれねえけどよ…。

「誰もいねえところでイキってどうすんだよ。無駄に敵に居場所(いばしょ)を教えるだけなんだっての。」

「敵」なんて言ったけど、俺たちの視界の中には人っ子一人いない。憲兵(けんぺい)もいなければ観光客もいない。

…いないけれど、別の厄介(やっかい)な『気配』は常時(じょうじ)、俺たちの周りに()(まと)ってやがるんだ。

その『気配』のせいで野生動物たちも、この格好(かっこう)()みかに寄り付けないでいる。

まあ、そんな訳だから目立たないに()したことはないんだよな。

俺自身、ロボットを同行させる経験なんてなかったもんだから、そんなところまで気を回してなかったんだ。

まあこの場合、「保護者(もちぬし)」の俺が悪いんだろうな…。

 

……!?

「止まれっ。」

「もがっ!」

…「芸が(こま)かい」と評価(ひょうか)してやるべきかどうかはさて置き、ハッキリとした気配に気付いた俺はヂークの口――と思われるところ――を(ふさ)ぎ、物陰(ものかげ)に隠れた。

声を(ひそ)め、今にも暴れ出しそうなポンコツに「不審(ふしん)な気配」を()げた。

「…本当じャ。ナニかおるゾ。」

ったく、コイツにゃ、索敵(さくてき)機能(きのう)ってもんがねえのかよ?

それにしても、何者だ?

……素人(しろうと)か?随分(ずいぶん)と物音立てやがる。…まあ、こっちにもバーゲンセールみたいに「気配」をばら()きやがるドラム缶がいるんだけどな。

…そのドラム缶の気配(サービス)にすら気付いちゃいねえ。それに、どうやら一人っぽいな。

 

つい先日、ロマリア国の戦艦(せんかん)襲撃(しゅうげき)されたとかでロマリア軍が警戒(けいかい)のためにスメリア国内を彷徨(うろつ)いてるって話をコルボ市で聞いたけど…。

新兵(しんぺい)じゃあるまいし。さすがにこんな無防備(むぼうび)なロマリア軍もいないだろ。

 

ポンコツを待機(たいき)させ、(えもの)(かま)えながら物陰伝いに「気配」に近付いた。

そして、標的(ひょうてき)視野(しや)に入れる直前―――っ!?

「うわぁぁぁ!!」

ソレは唐突(とうとつ)に、悲鳴(ひめい)を上げながら瓦礫の向こう(がわ)から飛び出してきた。

咄嗟(とっさ)()退(すさ)り、(あらた)めて物陰からソイツの出方(でかた)(うかが)う。

…飛び出てきたソイツが無防備()ぎて、不気味だった。(わな)の臭いがプンプンと(ただよ)い、素直(すなお)に攻撃に(てん)じられなかった。

周囲(しゅうい)の変化を(さぐ)るけれど、例の『気配』が(ざわ)ついてること以外は特に気に留めるものもなかった。

 

飛び出したソイツは派手に転がり瓦礫にぶつかると、体を丸めて(ふる)え始めた。

「……」

…遠目だけれど、本気で悶絶(もんぜつ)しているように見える。

「おイ、あれ、大丈夫カ?」

「…どうだろうな。」

罠がどうとかいう前に、(はげ)しく間抜(まぬ)けなヤツだってことはハッキリした。

「痛ててて……」

ぶつかる勢いと音からヘビー級ボクサーのストレートを顔面に受けるくらいの衝撃(しょうげき)があったはずなのに、相当に打たれ強いのか。その間抜けはすぐに立ち上がり、(もう)(わけ)程度(ていど)に辺りを見渡(みわた)余裕(よゆう)をみせた。

 

…そのまま眠っててくれた方が、俺の幻想をブチ壊さなかっただろうに……

 

「…おい、おいおいおいおい……。あれって、まさか……、」

俺はソイツの顔に見覚えがあった。

「ドウシた?」

見覚えがあって当たり前だ。仕事上、知ってなきゃオカシイし、なんだったら新聞を読まねえホームレスだって知ってるかもしれない。アレは、それだけの有名人だった。

「まったくもう、嫌になっちゃうなあ。」

…そんな間抜けな声も聞きたくなかった。

「…お前、ポコ・ア・メルヴィルか?」

俺は姿を(あらわ)し、思い当たる名前を口にしてみた。

「え!?…って、なんだぁ。人かー。まったく、(おどろ)かさないでよ。」

俺の声に反応(はんのう)してヒョッコリと顔を(のぞ)かせたのは、()えない面構(つらがま)えの軍楽隊(ぐんがくたい)だった。

「…マジか……。」

反応して欲しくなかった。

虚脱感(きょだつかん)(かた)が抜け落ちていくようだった。

「ナんジャ、知っトるヤツか?」

「アイツは…、」

()()ってくる緑黄色(りょくおうしょく)のロングコートにボロボロのシャコー(ぼう)(かぶ)ったこの小太りの間抜けは…、

「…アークの仲間だよ。」

ポコ・ア・メルヴィル。「アーク一味(いちみ)」の構成員(こうせいいん)の一人だけど、スメリア軍に所属(しょぞく)していたということ以外、特記事項(とっきじこう)のない不気味な奴だった。

実際(じっさい)に会ってみると…、ただただギルドの鑑識眼(かんしきがん)に疑問を覚えるばかりだ。

 

この野郎、ほんの数m駆け寄ってきただけで息切れしてやがる。

「君、なんで僕の名前を知ってるの?」

プックリとした輪郭(りんかく)にボサボサの髪。女みたいにナヨナヨした表情。まさか、アーク一味の中にこんな(とぼ)けた奴がいるなんて思ってもみなかった。

もちろん、こいつにだって1000万相当の賞金が()けられてる。…こんな奴にも、だ。

いくら手配書が何割()しか()()()()するように作られてるっつったってよ…。

つい先日、(かく)の違う女を()()たりにして「アーク一味」への評価(ひょうか)を上げてしまっただけに、この落差は俺にとって「希望」の一つを(うば)われたような気分にさえさせられた。

「俺は、エルク。…()()()()()。」

別にそう名乗るつもりはなかった。ただ、コイツの雰囲気(ふんいき)()られて、気が抜けちまったんだ。

「えっ!?じゃ、じゃあ、僕を(つか)まえに来たの!?」

などと言いつつ、ポコは半身(はんみ)になって俺たちから逃げ出そうとしていた。

「ああ、(わり)(わり)ぃ。別に、そういうんじゃねえよ。」

正直(しょうじき)、指名手配は何かの間違いだと思ったし、足手(あしで)(まと)いになるとさえ思った。…でも、こんな奴でもククルたちに村人の救出を(まか)されてるんだよな。

そりゃあ、あの式典(しきてん)で見た『(かみなり)』が(じつ)はコイツが(はな)ったものでしたなんて言われたら、俺も考えを(あらた)めるけどよ…。

 

「…そうだな。」

俺は考えるのも面倒(めんどう)になって、()()えず彼女の名前さえ出せばいいくらいの気持ちになっていた。

「ククルに言われて来たっていやぁ良いのか?」

「え!?君、僕たちの仲間なの!?」

「いや、それもちょっと違うんだけどよ。」

「ヨく(オどろ)く奴ダ。」

…初めて意見が合ったな。

ってかよ、曲がりなりにもここ、敵の縄張(なわば)りだろ?そんなにデカい声出して…、警戒心ってもんがねえのかよ。

「良かったぁ。僕、ちょっとここの地下に用があるんだけど、一人じゃちょっと心細くって…。」

単独作戦(ひとり)が怖い?

弱音()きながら女みたくハニカミんで頭を()いてんじゃねえよ…。そのご立派(りっぱ)な軍服が泣いてるぜ?

「でも、三人なら安心だね!」

「あ、ああ。…あ?」

「何ガ?」

そう、それ。「何が?」だよ。

「ってか、勝手に話をまとめんなよ。」

徽章(きしょう)を複数持ってるくらいだから、元々いくらか場慣(ばな)れした兵士だったんだろ?

それなのに見ため童顔だし、言動もガキっぽいし、…俺より若いんじゃねえか?

でもまあ、アークの仲間だし、プライベートでも軍服着てる奴はコンプレックスの(かたまり)だって聞くしな……。

 

「さ、出発しよう!」

「……」

ポコは、いわゆる人の話を聞かないタイプの人間らしい。

俺たちの異議(いぎ)を、当然のように無視をかまし、()()って号令(ごうれい)をかけると、今さら行進(マーチング)よろしく元気一杯に手足を振って一人、ズンズンと進み始めた。

「ドウスるんジゃ?マだ引キ返せるぞ?」

「…まあ、いいんじゃねえの?」

何とも言えない気分のまま、俺たちは「世界の敵」の連れになろうとしていた。

 

ってか、本気で俺のことを信じてんのか?「ククル」の名前を出しただけだぜ?

不用心にも程があるだろ。

コイツ、本当に「アーク」の仲間か?

 

「おっと、おっとっと…、」

「おいおい、大丈夫かよ。」

威勢(いせい)良く進んでいたのは初めだけで、奥へ進むにつれ、ポコは瓦礫の角にコートを引っ掛けたり、足を取られたりしていた。

「危ないから気を付けてね。」

「ソリゃ、お前じャ。」

「え?そうなの?」

「まズ、そのムダな内蔵脂肪(なイぞウシぼう)ヲ1ミリでモ()ギ落トしてカら物ヲ言え。」

「ヒドいこと言うなあ…。」

もはや、俺専用の拡声器(かくせいき)みたく代弁(だいべん)するポンコツに、不覚(ふかく)にも「愛着(あいちゃく)」のようなものを感じ始めていた。

 

そうこうしながらも俺たちは何事もなく城の奥に進むことができた。

「ところでアンタは何を探してるんだ?」

通路(つうろ)だよ。」

「通路?」

「物」じゃなくて「道」…。しかも、わざわざ敵の陣地(じんち)に飛び込んでまで探してんだ。

敵の本拠地(ほんきょち)にでも(つな)がってんのか?

「パレンシアタワーってわかる?実はあそこの地下に繋がってるんだ。」

「パレンシアタワーか…、っておい。お前、一人で()()むつもりだったのかよ?」

「別に戦いに行く訳じゃないよ。捕まったトウヴィルの人たちを助けに行くだけ。」

あ、あぁ、そういやそんな話だったな。

「それに、ボク一人じゃあ(かえ)()ちにされちゃうよ。」

だろうな。

「タワーの見取り図は?どこに収監(しゅうかん)されてるか分かってんのか?」

「大丈夫、牢屋(ろうや)は地下2階にあるはずだよ。」

「…なんだよ、“あるはず”って。」

「だってボクたちお(たず)(もの)なんだよ?これだけの情報を集めるのにも相当苦労したんだから。」

…なんだか、「アーク一味」の力量がどんなものなのかよく分からなくなってきたな。

 

「そンナンで大丈夫か?」

「そりゃあ、ちょっと心配だよ。でも、急がないと数日中に皆が処刑(しょけい)されるらしいんだよ。」

「いつなのかハッキリと分かってねえの?」

ポコは力なく(うなず)いた。

おそらく、こっちの不安を(あお)るためにわざと曖昧(あいまい)な情報を流したんだろう。

そうして(あせ)った子豚を鼻歌()じりに仕留(しと)めるつもりなんだ。

…もしそうだとしたら、(ここ)にだってそれらしい監視(かんし)がいてもいいハズなんだけどな。

「仕方ねえな。取り敢えず行けるところまでは行った方がいいだろうな。」

「え、ホント?ホントに一緒(いっしょ)に来てくれるの?」

…どうやら、さっきまでの能天気(のうてんき)な言動も俺の言葉を無視したのも、不安で強がっていただけらしい。

子豚は目をキラキラと(かが)かせながら俺を見上げた。

「ただ、下手(へた)に深入りはしない方がいい。人質の命が最優先だからな。」

「うん、そうだね!」

「……」

「いイのか?」

「…ああ。」

気乗りはしねえけど、俺がシッカリと注意を払ってれば、そうそうデカいミスはしねえはずだ。

 

「しっかし何でこうも見事(みごと)()れたままにしてるんだろうな。」

()(ひかり)が真上から(そそ)がれる城内、更地(さらち)にするでもなく(ほう)ったらかしにされている。

鳥の(ふん)やら風で飛んできた枯葉(かれは)なんかが舞い込み、かつての威厳(いげん)もまた、完全に()()てていた。

ただ、物取りが入ったのか。金目の物は何処(どこ)にもない。

「王様が()くなった後、アンデルがパレンシアタワー建設(けんせつ)を言い出したんだ。そのために人手も王様の残した財産(ざいさん)も全部そっちに回されてるんだよ。」

パレンシアタワーってのは、崩壊したパレンシア城の()わりとして造られてる行政(ぎょうせい)機関(きかん)拠点(きょてん)だ。

どういう理由か知らないが、前スメリア王以外に王族の血筋(ちすじ)の者はおらず、王家に全ての権力が集中していたスメリア国は今――その経緯(けいい)(さだ)かじゃないが――、それら全てを現大臣が()()いでいる。

だから、こんな好き放題(ほうだい)ができるらしい。

「…ふーん。」

それで金目の物だけは回収(かいしゅう)されたってことか。

「それでもお金が()りないって言って、国民からもお金を集めてるんだよ!?」

「……」

「許せないよね!」

…まあ、言いたいことはよく分かる。ごくごく()(とう)なことだ。

いいや。だからこそ、なんだろうな。コイツの一般人(いっぱんじん)臭さは。どうにも、「こっち(がわ)の人間」って感じがしない。

「僕が”アーク一味”のポコです」ってのも実はウソなんじゃねえか?

ここまでのコイツの動きを見ていて、連中と戦闘ができるほど()()()()しているとは到底(とうてい)思えない。

戦場に(まぎ)()んだだけの「子豚です」って言われた方が何倍も納得(なっとく)できる。

「それはあまりにも失礼(しつれい)じゃろ。」

「は?俺、声に出してたか?」

「いや、そんな顔をしとるなと思っただけじゃ。」

「……」

先頭(せんとう)を歩く子豚はこっちの遣り取りに全く気付かない。

 

「こっから地下にいけるはずだよ。」

瓦礫の積もる階段を指してポコはそう言った。

元々、ここがコイツの職場だったからか。原型(げんけい)のない城内でも迷うこともなく目的のものを見つけ出した。

「…これ、進めるのかよ。」

「大丈夫、大丈夫。ホラ、人が通れるくらいの隙間(すきま)があるでしょ?」

「いや、あるにはあるけどよ。(くず)れるんじゃねえの?」

俺が()さした天井部分は風もないのにパラパラと亀裂(きれつ)から砂礫(されき)(ほこり)()らせていた。

唯一(ゆいいつ)の出入り口だし、地下に(もぐ)ろうって俺たちにとっては十分に注意を払わなきゃいけねえことだろ。

だってのに……。

「クスクス、エルクって意外と怖がりなんだね。」

「……」

「おい、言われとるぞ?」

「ウルセエな。行きゃあ良いんだろ?行きゃあよ。」

…ダメだ、全く当てにならねえ。

 

ククルの(たの)みは聞いてやる。でも、コイツには何も期待(きたい)しねえ。

俺はそう(ちか)いながら、慎重(しんちょう)に階段を下りていった。

 

 

階段はすぐに途切(とぎ)れ、うまいこと傾斜(けいしゃ)になってる瓦礫を(すべ)()りることになった。

ところが、滑り降りている最中(さいちゅう)(うす)()(まと)っていた『気配』が途端(とたん)に意識を持って俺たちに襲い掛かってきた。

「う、うわわぁ!」

「な、なんじゃコイツら!」

「チッ!」

薄い間は見逃してやろうと思ってたのによ。

俺は全快(ぜんかい)した『炎』で『気配』を的確(てきかく)(にぎ)(つぶ)していった。

数はそんなに多くないし、大した敵でもない。少しばっかりイタズラができる程度の地縛霊(じばくれい)みたいなもんだ。

「アークの仲間なんだろ?お前もなんかしろよな!」

「ちょ、ちょっと待ってよ。」

「敵がいちいちテメエの都合(つごう)に合わせてくれると思ってんじゃねえよ!」

ポコはもぞもぞと(ふところ)に手を突っ込んで何かを探していた。

「ちょっと待ってってば!」

なんだ?(じゅう)か?そんなもんが『地縛霊(レイス)』たちに効くと思ってんのか?

それがコイツの『力』を引き出す引き金(トリガー)なんだとしても、いや、だとしたら尚更(なおさら)、すぐに抜けるようにホルダーに入れとくもんだろ、普通。

とことん(あき)れた奴だ。なんだったらウチの粗大(そだい)ゴミよりも使い物にならねえんじゃねえか?

なんでだ?なんでこんな奴がアークの仲間をやってられるんだ?

なんでククルはこんな奴を信用してるんだ?

 

―――だがこの後、俺はその認識(にんしき)を180度、改めなきゃなくなる。

「アーク一味」って集団の底知れない『力』を。

俺はまだ、「アーク一味」のことを何も知らないんだってことを。嫌という程…。

 

小太りの男が懐から取り出したのは、銃でもなければ刀剣(とうけん)(たぐい)でもなかった。

それは、一本の金管楽器(ホーン)だった。




※感嘆(かんたん)
溜め息の出るほどに感心すること。褒めたたえること。
逆に、溜め息の出るほどに悲しむ意味もあります。

※賞金稼ぎ組合(ギルド)の活用法
原作では、仕事の斡旋所としての役割しかありませんでしたが、私のお話の中でのギルドはざっくりと「ハンター(賞金稼ぎ)」たちのお世話所みたいなイメージです。
なので、ハンター専用の銀行みたいなシステムもあります。お金を預けたり、引き出したり。
遠方で連携を取っている仲間への連絡手段にも使われますし、場合によってはその国から令状を突き付けられたハンターを匿う保護施設になることもあります。
命をかけるハンターたちのための「何でも屋」であるため、職員は有能揃いです。

※重厚感のある足音とは?
重々しい足音。SF映画でロボットにお約束の「プシュー、ガシャン」というような、冷却ガスと駆動音などなどのことです。
……なのですが、アークⅡにおける「(なご)ませ役」を背負わされたヂークの運命なのか。
原作で彼を動かせば「ピコピコハンマー」のような音しか鳴りません。
(ジャンプの時だけ辛うじてロボットっぽい)

※スルト
原作には登場しません。

※橋梁(きょうりょう)
川や運河の上にかけられる橋。

※軍楽隊
行軍の際の合図を出す任務を持った軍隊。
または国家行事(公務)における音楽を担当する吹奏楽団。
一般的には30~80人規模の編成らしいです。

※シャコー帽
料理長の帽子のように長い円筒形をした帽子。羽や金属の徽章(きしょう)(身分や職業を示すもの)で飾られた帽子。

※アーク一味の賞金
ハッキリと明記していなかったので、ここで設定しておきたいと思います。
(ちなみに原作ではアークのみ賞金が提示されていて、その額は100万ゴッズでした。)
(話の流れで変更するかもしれません。)

アーク、100億G
ゴーゲン、50億G
ククル、25億G
その他の一味、各1000万G
(1G=1円の感覚でお願いします)

※ポコの軍服
原作のキャライラストに、胸に徽章(きしょう)(身分、職業、その者の技能や功績を表すワッペンみたいなもの)があるんですが、
イラストを見る限り、かなりの数の徽章を持っているように見えます。
モンスター討伐に駆り出されるくらいだから…。ポコくん、もしかして君ってば、「落ちこぼれ」じゃないの?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。