聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

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巫女の砦 その四

「エルク、顔の火傷(やけど)(いた)まない?」

「火傷?…あ。」

ククルに指摘(してき)されて初めて左頬(ひだりほお)の皮が(かた)く、デコボコになっていることに気が付いた。

「ナンジゃ、気付トらんかッたノカ?」

「……」

「見るか?」

何のために持ち歩いているのか。ヂークベックは(どう)()()手鏡(てかがみ)を隠し持っていた。

「……」

頬から上瞼(うわまぶた)にかけての皮がほんの少し(ただ)れ、眼球の丸みが(のぞ)いていた。

…いよいよ化け物()みてきたな。

 

自分の目でそれを見てようやく、頬や(まぶた)()()る感覚があることに気付いた。

()れていると、そこだけ「別の生き物」のように脈打(みゃくう)っているようにも感じられる。

それなのに、「気持ち悪い」とは少しも思わない。

ただ、どうしてだか悲しい気持ちになる。ここ最近、かまってやれてない茶太郎に(おぼ)える罪悪感(ざいあくかん)()てる。

 

「どうしてここだけ?」

全身を確認(かくにん)しても指摘された部分以外は火傷の(あと)はおろか、()()んできた古傷も綺麗(きれい)サッパリなくなってる。まるで、あの時の爆発がなかったことのように。

「……」

「…なんだよ。別にアンタが責任(せきにん)を感じることなんかないだろ。これは俺のミスなんだからよ。」

「言いにくいこと」の中身(なかみ)なんてそう多くない。だいたい想像(そうぞう)がつく。

それにどちらかといえば、それを他人の口から聞きたくない。彼女の気遣(きづか)いはありがたかった。

「それに、本当ならとっくにおっ()んでたんだ。その、なんだ…、」

…俺は、感謝(かんしゃ)すべきなんだろうか?

あのまま死んでた方が俺にとっては幸せだったんじゃねえかとも思ってしまう。

 

…いや、これでいいんだ。

指輪(ゆびわ)をつけた手で火傷に()れ、俺は俺のやるべきことが残っていることに気付いた。

 

「もっと時間を()ければ(なお)せるかもしれないけれど…。」

「…いや、いいよ。別に顔で(もう)かるような商売をしてる訳でもねえし。むしろ”童顔(どうがん)”だってバカにされることもあったしな。この方がおれにとっちゃあ生きやすいかもしれねえぜ?」

「…本当にいいの?」

「ああ、かまわねえよ。」

もう…、いいんだ。こんな話を続けてたって誰も(よろこ)ばねえだろ?

 

(あらた)めて鏡の中を(のぞ)きこんでみる。

パッと見ただけじゃあ、(うつ)ってるソイツが自分だと認識(にんしき)できない。拒絶(きょぜつ)する自分がいる。

しばらくは鏡と向き合って、この化け物(ブサイクな)(ツラ)()れる必要がありそうだ。

 

 

「なあ、下山(げざん)の方法って徒歩(とほ)しかねえのか?」

もっと(みの)りのある話をしようと、俺は話題を(ひね)りだした。

「今は私たちの船も出払(ではら)ってるし、この村には山羊(やぎ)もいないの。」

彼女を悪く言うつもりはないけど、あの天下の「アーク一味(いちみ)」がこの重要拠点(きょてん)への移動に「徒歩」と「船」しか用意していないなんて考えにくかった。

「そうね。もう一つ、仲間が用意してくれた方法があるのだけれど、それはこの神殿(しんでん)への一方通行だし、色々と条件(じょうけん)もあるの。私の『力』じゃあ、それをどうにかするこもできないから。やっぱり現状(げんじょう)は徒歩だけってことになるわ。」

「…そっか。いや、ちょっと急いでたから言ってみただけなんだ。我がまま言って悪かったな。」

それに、ただ気になっただけで、元々歩いていくつもりだった。

ただ、()(つな)ぎたかっただけなんだ。

 

「でも、村の人を助けたら必要になるかもしれないから、一応(いちおう)(わた)しておくわね。」

そう言って彼女から受け取ったのはカワセミの羽と同じ色の石ころだった。

(てのひら)(おさ)まるサイズで、何かの植物が石をぐるっと一周するように(えが)かれていた。

「これは?」

「”リーフの(たま)”、さっき言った”一方通行”に使う石よ。」

使い方は、石を(にぎ)りしめた状態(じょうたい)でこの「神殿(しんでん)」、もしくは「ククル」を思い浮かべるだけで、特定の阻害(そがい)を受けない限り何処(どこ)にいようと一瞬(いっしゅん)でこの場所に戻れるらしい。

使用回数は一回に限られるが、半径(はんけい)10m以内の任意(にんい)の人物を同伴(どうはん)することができる点は今回の作戦にかなり有用(ゆうよう)に思えた。

というか、こんな便利(べんり)な物を作れるなんて。しかも、必要になるかどうかも分からない俺に渡せるほど数に余裕(よゆう)があるとなると、これを作った「ククルの仲間」の技術力と『力』は…、想像もつかねえ。

少なくとも俺はそんな職人(しょくにん)を耳にしたことがねえ。

「アーク一味」は「世界の力」じゃ()(はか)れねえ。

俺はそんなことを考えながら、ボンヤリと緑色の珠を見詰(みつ)めていた。

 

下山した後の、首都(しゅと)パレンシアまでの移動手段を確認した俺たちはすぐに神殿を()つことにした。

それなのに…、

「あの子の所には行かなくていいの?」

「…何の話だよ。」

「リーザよ。」

「……」

さっきまでの気遣いはどこにいったんだよ?

ククルはバカにでも分かる「お節介(せっかい)」を仕掛けてきやがった。

「あの子、うなされるアナタの(そば)(はな)れなかったわ。ずっと、泣いてたわよ?」

リーザは…、そういうヤツなんだ。

パンディットを(けしか)けて戦場をメチャクチャにするような恐可(おっか)ないヤツかと思えば、天使みたいに優しくて。護られるだけのナヨナヨしてるヤツかと思えば、俺でも尻込(しりご)みするような奴をビビらせるくらいに気が強くて…。

「でも、もう行っちまったんだろ?だったら、そっちはそっちで上手(うま)くやってくれればいいよ。俺がとやかく言うことでもねえだろ。」

こればっかりはどうしようもない。

俺にだって(ゆず)れない生き方があるみたいに、彼女にだって干渉(かんしょう)されたくない彼女だけの生き方があるんだ。

彼女から(もと)めらてもいないのに俺がそこに()()るのは…、それこそ余計(よけい)なお世話ってもんだろ?

「何か勘違(かんちが)いしてるみたいだけど、あの子はアナタのためにここを離れたのよ?」

「は?」

 

どこか、彼女に()てられた事実を受け流してた。

ミリルの時みたく傷つきたくなくて、少しでも早く彼女を忘れようとしてた。

 

「俺のため?」

「そうよ。」

ククルは、追い込まれると決まって逃げようとする俺の身勝手(みがって)(くせ)(しか)るように、ハッキリと答えてみせた。

「私があの子を(しか)ったの。泣いているだけじゃあ、何も解決(かいけつ)しない。いつかアナタの重荷(おもに)になるだけだって。あの子は今、自分の『過去』を清算(せいさん)しにいってるの。」

「……」

「アナタのところに戻ってきた時、アナタの手を引いて生きていけるように。」

「…だから、それが余計なお世話だつってんだよ。」

どうしてそんな時こそ彼女の(そば)にいてやれない俺自身が(にく)らしかった。

だって、そうだろ?俺は『お前の化け物』になるって約束したじゃねえか。そのために、色んなものを犠牲(ぎせい)にしたってのに…。

()()わなくて歯痒(はがゆ)いんでしょ?でもね、彼女だって同じ想いをしたのよ?眠るアナタに掛けられる言葉はない。いつ目覚(めざ)めるのかもわからない。だったら、アナタのためにできることなんてそう多くはないでしょう?」

「また、俺が悪いってのかよ?」

「良い悪いなんて関係あるのかしら?あの子は今、頑張(がんば)ってるじゃない。そして、アナタはそんなあの子の傍にいてあげたいんでしょ?目を覚ました今のアナタなら、あの子の苦しみがよく分かるから。」

 

…クソッたれ……

 

左頬を(さす)りながら、(くちびる)を噛んでいた。

「会ってあげないの?」

「…アンタらの()しを返してからな。」

リーザ…、きっと会いにいくよ。だから、もう少しだけ待ってて。

今の俺に「約束」なんて言葉、なんの価値(かち)もないけれど。

それでも、君の濃厚(のうこう)天使の羽(バターブロンド)(ちか)うよ。今の俺は、君だけの『化け物』だから。

「強がりね。アナタも、リーザも。」

「……」

 

余計な、でもこの因縁(いんねん)(つな)()めておく大事な()()りを終え、俺たちはようやく神殿を後にした。

 

火傷の痕は()えて隠さなかった。隠しても普段(ふだん)の生活に支障(ししょう)はなかったけれど、やっぱり仕事に()(つか)える可能性が高かった。

視界を(けず)るし、使わなかったら視力が落ちるかもしれない。

だから、この仕事を()めるまでは、この「火傷」もプラスにしていかなきゃいけない。

なに、シュウが小指を落としたことに(くら)べたら、犬の(クソ)を踏むよりも楽なことだ。

 

そして、この村で目を覚まして初めて神殿を出た俺を待っていた光景(こうけい)もまた、この「火傷」がいかにちっぽけな(なや)みかってことを教えてくれた。

「…こりゃあ(ひで)えな。」

神殿の外に出て一番に目に入ったのは、さすが「アークの拠点」という惨状(さんじょう)だった。

壊滅(かいめつ)とまでは言わないものの、村のほとんどの家屋(かおく)半壊(はんかい)していた。

「『結界』って、今もちゃんと機能(きのう)してんのかよ?」

「ああ、これは襲撃(しゅうげき)(あと)じゃないんだよ。」

神殿を出ると、下山の案内(あんない)をするという村の若い男が待っていた。

「あ?襲撃じゃなかったら、どうしてこんな有様(ありさま)になるってんだよ。」

「そもそも、この村はこんな山の上になかったんだ。」

なんでも1年前、アークらがパレンシア城での例の事件を起こした直後、このトウヴィル村を(ふく)一帯(いったい)突然(とつぜん)隆起(りゅうき)し始め、(わず)か十数分の内に標高(ひょうこう)2000mを()える山を形成(けいせい)してしまったらしい。

…ちなみに俺はそんなニュースは聞いたことがない。

こんだけの大きな変化(ビッグニュース)を国の外に()らさないなんて、どんな小細工(こざいく)すりゃ可能なんだよ。

 

村の崩壊(ほうかい)は、その突発的(とっぱつてき)地殻(ちかく)変動(へんどう)原因(げんいん)だという。それだけの大災害(だいさいがい)にも(かか)わらず、死者は一人も出なかったらしい。

「それ、マジかよ?(ぎゃく)によくそんだけの被害(ひがい)(おさ)えられたな。」

「それがこの国の恩恵(おんけい)、『精霊の加護(かご)』によるものなんだってククルと長老たちは言ってたよ。」

(くわ)しく話を聞いてみると、ククルが、『精霊』を信奉(しんぽう)するその年寄(としよ)り連中を中心に説得(せっとく)することで今も村はアークを支持(しじ)しているらしい。

「精霊」と「アーク」、この二つが今のこの村の心の(ささ)えになってるんだ。

…ククルと(しゃべ)ってて「精霊」と仲違(なかたが)いしてるんじゃねえかって感じたのは俺の勘違(かんちが)いだったのか?

 

(コわ)レタ家の修復(しュうフク)ハしナいのか?」

ベッドで寝てた俺とは違って、ポンコツは村人といくらか交流(こうりゅう)していたらしい。

ブリキの案山子(かかし)が口を()いても、スルトと名乗る若い男に(おどろ)様子(ようす)はなかった。

「できることはしてるんだけどね。今はまだ資材(しざい)()りなくて中途半端(ちゅうとはんぱ)なままなのさ。」

「中途半端」なんて(ひか)えめな言い方をしてるけど、俺の目には雨風を(しの)げるだけの、今にも倒壊(とうかい)してしまいそうな()()小屋(ごや)にしか見えない。

俺のよく知るプロディアス市の連中なら三日と待たずにデモ行進で警官隊(けいかんたい)とのお祭り(さわ)ぎを()(ひろ)げちまうようなレベルだ。

「でも、いいんだ。ラジオでアークたちの活躍(かつやく)を聞いてるし。村に帰ってくる時には食料や資材なんかを持ち帰ってきてくれるから、そんなに気にならない。」

それでも平然(へいぜん)としてるここの村人たちは、何と言うか。「化け物」とは言わないまでも、「常人(じょうじん)」とも言えない、不気味(ぶきみ)な性格をしてやがる。

「冬ハ、寒ムくないのカ?」

全然(ぜんぜん)。それもククルの『結界』のお(かげ)でね。これだけ標高が高くても20度を下回ることはないんだ。」

「へえ、そりゃあスゲエな。」

それだけじゃない。現在(げんざい)のトウヴィル村は標高2000mにある。なのに(まった)く息苦しくなかった。それってのはつまり、平地と酸素量が同じってことだ。

結果的(けっかてき)に、一つの村を丸々、平地と変わらない環境(かんきょう)(つく)()えちまってる。たった一人の人間が。

これだけの超自然的『力』を見せつけたなら、それこそ「精霊の代理人(だいりにん)」として村の人間からの信頼(しんらい)を勝ち取れたのにも納得(なっとく)がいく。

事実、彼らの彼女に寄せる信頼は、猫がツナ缶に向ける眼差(まなざ)しのように熱い。

 

「そんなにスゲエ『結界』なのに、どうやって村の人間は奴らに(つか)まったんだ?」

すると、スルトの顔が(またた)()(ゆが)んだ。

「マーレス…、先代村長が裏切ったんだ!自分の命()しさに、大臣に仲間と情報を売ったんだ!」

今、その先代が目の前にいたら、コイツは「人を殺す」って行為になんの疑問も覚えなかっただろうな。

そんな目をしていた。

「…バカだな。」

どんな情報なのか知らねえが、たかが情報ごときで奴らが使い道のない人間を生かしておくもんか。

「ああ、アイツは(すく)いようのない()()()()()。」

「……」

 

――――この、裏切り者っ!!

 

俺は…、

「…ミリル、ジーン……。」

山に()きつける(かす)かな風に隠れ、

「なにか?」

「…いいや、なんでもねえよ。」

その眼差しが()える時がくるのを(ひそ)かに願った。

 

山道(さんどう)から(のぞ)む海は(さえぎ)るものがなく、()てまで()びる水平線は「自由」を(ひと)()めしているように見えた。

もしも俺に羽があったら、あの波間(なみま)(なぞ)ることができたらどんなに気持ちいいか…。

(ふもと)を急ぎ目指す皆の目を(ぬす)み、俺は広がる海原(うなばら)を少しの間、何もかも忘れて(なが)めいた。

 

 

「ちなみに、アンタはあの村の秘密とか知ってたりすんのか?」

いくら精霊が強力な『力』を持ってるったって、「地殻変動」はアイツらにとっても大きなリスクを(ともな)う。

変動後、生態系(せいたいけい)のバランスを(たも)ち、(ととの)えるのに膨大(ぼうだい)な『力』を長期間(ちょうきかん)()(つづ)けなきゃなくなるからだ。

場合によっては特定の精霊の消滅(しょうめつ)さえありえるかもしれない。

そんなリスクを(おか)してまで、彼らはトウヴィル村を外界(がいかい)から隔離(かくり)した。

そうしなきゃならない「秘密」があの村にはあるんだ。

そして、その「秘密」は間違いなくあのククルのいた部屋にある。

あの七本の石碑(せきひ)、そしてその(おく)(たたず)気配(けはい)。それがククルを(しば)ってる。

…とはいえ、それだけ重要な「秘密」をいち村人が知っている訳もなく、スルトも例に()れず俺の質問に対し力なく首を振ってみせた。

「…わからないよ。」

…まあ、当然っちゃあ当然だよな。

 

「でも…、」

この苦境(くきょう)において、スルトは彼らの力になれない「一般人(いっぱんじん)」である不甲斐(ふがい)なさを()やんでいた。

けれども、スルトの信仰心(しんこうしん)はその失意(しつい)()(つぶ)すほどに強い。

顔を上げ、俺に向けたその瞳には、将校(しょうこう)のスピーチに鼓舞(こぶ)された新兵(しんぺい)ように凛々(りり)しい光が宿(やど)っていた。

「でも、あそこは、ククルの神殿はこの世界を救う唯一(ゆいいつ)(やしろ)なんだよ。」

「マジで言ってんのか?」

それはさすがに言い()ぎだろ。確かにあそこが異常な空間だってのは(はだ)で感じた。

けれど、それは「世界の滅亡(めつぼう)」こそ(まね)くかもしれないが、同等(どうとう)の「救済(きゅうさい)」が差し伸べられるとは到底(とうてい)思えない。

『力』の質が違うんだ。七本の石碑の奥に佇んでいたモノを少しでも感じ取れたなら、それに気付けるはず。

でも、

「僕たちは、そう信じてる。そうでなきゃ、生きていけないんだよ。」

「……」

「そうでなきゃ、僕らはアークを受け入れられないんだよ。」

「……」

どうしてそうんな風に考えられるのか俺には理解できなかった。

それは本当にスルト自身の考えなのか?もしかすると、それもまた『結界の力』のせいなんじゃねえのか?

絶望(ぜつぼう)って感覚を麻痺(まひ)させ、無理やりにでも希望(きぼう)を持たせてあの村を維持(いじ)しているように思えちまう。

…「秘密」を護るために。アークって名の「救世主(きゅうせいしゅ)」を(かくま)うために。

 

「それじゃあ、僕はこれで。」

「ああ、案内サンキューな。」

山の麓で俺たちは(わか)れた。山からいくらか離れたところに駅があるらしい。本来(ほんらい)なら顔写真の付いた身分証(みぶんしょう)を見せなきゃならないが、首都もしくは首都近郊(きんこう)()りない限り、それをパスしても()()められないらしい。

車両(しゃりょう)を運転する人間が軍関係者じゃないってところが重要なポイントなんだとか。

今のスメリア軍は大臣に()たのか。弱い者イジメが特に酷く、粛清(しゅくせい)(しょう)して義務(ぎむ)を果たさないヤツへの暴行(ぼうこう)恐喝(きょうかつ)。場合によってはその場で銃殺(じゅうさつ)すら(おこな)われている。

そもそも「身分証」自体、スメリアが開国してからできた制度(せいど)で、現状、辺境(へんきょう)まで普及(ふきゅう)しきっていない。

だからこそ、公平(こうへい)だった()き王を(した)うスメリア国民は大臣の方針(ほうしん)を嫌い、彼らの目に付かないところで取り残された仲間に目を(つぶ)っている。

「…どこまで?」

「コルボ。」

「…そっちの鉄人形は?」

電車に乗ると、運転手は合言葉のように聞いてきた。

そして、打ち合わせ通り、ヂークは低知能の作業用ロボットという設定(せってい)を守って一言も口を利かない。

「軍が捨てたゴミから俺の村の変わり者が(つく)ったんだ。こう見えて力仕事に使えるんだぜ?」

「…手前の席に。」

「悪いな。」

コルボ市は首都から徒歩でだいたい3日かかる距離にある。あくまで()()()()()での話だけど。

 

「こリャ、ゴミとハナンじゃ!」

コルボ市で降り、一通(ひととお)りの装備(そうび)(そろ)えた俺たちは一目散(いちもくさん)にパレンシア市を目指して()()した。

「似たようなもんだろ?それより、さっきはよく我慢(がまん)できたな。()めてやるよ。」

「そりゃバカにしトるじャロ!?」

「そうか?俺はようやくお前の良い所を一つ見つけられたと思ったんだけどな。」

「ワシは世界最強ノ機神(きしん)じャぞ?!悪口以外の何もノデモナいわイ!気の()けタ(ぬる)メのビールのよウナ(あつか)いをしオって!」

「ハハ、そうだな。いや、気の抜けたビールでも最悪()っぱらえれば十分役目は果たしてるんじゃねえか?」

「…オ前、金欠(きんけつ)ヲ理由にワシに劣化(れっか)シたオイルを差シタりせンジャロウな?」

「金欠?何だそりゃ?聞いたことねえ言葉だな。そりゃあ、俺みたいに有能(ゆうのう)な賞金稼ぎ様にご縁(えん)のある言葉かよ?」

「有能な賞金稼ぎというのはこんな風に町から町へ走って移動する者なのか?」

「俺の足に付いてこれるか、お前の機動力(きどうりょく)のテストをしてんだよ。」

「バカもん!ワシが本気を出せば、さっきの電車の10倍は速く移動できるわい。」

ヂークは自家発電式のエネルギーを消費して、バックパックに偽装(ぎそう)したロケットエンジンを動かしてる。

エンジン自体は小型だけど、その推力(すいりょく)は確かにさっきの電車の()じゃない。ただ、ボディがそれに()えられるかどうかは(はんはだ)だ疑問だ。

「そうだな。俺もそう思ってるよ。」

「…信じておらんじゃろう?」

「信じてるよ。お前がさっきの電車より10倍速く俺を温めてくれる家庭用ボイラーだってな。」

ムキになって俺を追い回すヂークを、木々や(やぶ)を利用して(かわ)し、俺たちは()()()()()()()()()()()()()()




※トウヴィル村からの移動手段
原作ではトウヴィル村には空からのアプローチしかできないため、シルバーノア以外の移動手段としてはククルの『テレポート』がありますが、あまりに便利すぎるので今回は自力で山を下りてもらうことにしました。
原作マップを見る限り登山道はなさげなんですが、道がある設定でお願いしますm(__)m
ただ、都合上「リーフの珠」システムだけは採用させていただいてます(どっちやねん(笑))

※山羊(やぎ)
険しい山道も渓谷も難なく渡ってしまう忍者のような獣たちです。
人が乗って山道を移動しているような動画は確認できませんでしたが、彼ら単体であればかなり傾斜のキツイ山肌も素早く移動できるらしいです。
私としては、もの○け姫の「ヤ○クル」をイメージしています。

※茶太郎
たぶん、ビーグル犬です。
ギルドのお仕事を解決するとエルクの家に配置されることになるアークの隠れマスコットキャラです。

※カワセミ
「水辺の宝石」とも呼ばれる彩の綺麗なスズメより少し大きい鳥です。
主だった羽毛の色はコバルトブルー(翡翠(ひすい)色)とオレンジですね。
このコバルトブルーは羽毛に備わった色素によるものじゃなく、CDの裏面やシャボン玉、タマムシに見られるような「構造色」によるものです。
簡単に説明すると、「色素」による色彩の決定条件は「色素」がどの色の光を吸収し、どの色の光を反射するかです。
一方、「構造色」による色彩の決定条件は、どの色の光を反射するかではなく、入射する光を()()()()()()()するかによります。(「構造色」には3種類ありますが、そこは省きます)
波長(それぞれの色の光)によって反射する角度が違うため、見る角度によって色が変化するのが最大の特徴ですね。(光を分解して反射しているため、「透明」でも「無色(しろ)」でもなく「有色」が着いて見えるんですね、多分(笑))

※リーフの珠(リーフ【leaf】=木や草の葉)
原作では、もう少し後で別キャラクターからもらうアイテムになっていますが、ここでククルが渡さないのはなんだか不自然に思えて、今回、ゲットする運びとなりました。
(原作はストーリーの進行をスムーズにするために後回しにしたのかもしれません。)

いつもの余談になりますが、
世界各地、古くから「植物」を文様(唐草模様=アラベスク模様)、柄として描く風習があり、始まりはエジプト、メソポタミア。そこからシルクロードを経て世界に広まったとされています。
ありきたりかもしれませんが、これらの文様には「永遠」や「生命」、「母性」の象徴という意味が込められていたそうです。
また、日本で描かれているような麻の葉には、丈夫でどんどん伸びていく様子から「子どもが健やかに成長する」というような意味もあるそうです。

余談プラスですが、
オリーブの木で作られた冠がオリンピックのメダリストに贈られることからも分かるように、「オリーブの木」には「勝者」「英雄」などの意味がある他、「平和」や「知恵」という意味もあります。
「知恵」の方は省きますが、「平和」は「ノアの方舟」という物語から由来します。

ある時、神は人々の悪行や傲慢に怒り、地上を洪水で呑み込んでしまいます。
神から信頼を得ていたノアは、事前にこの「災害」のことを知らされ、地上の動物のつがいを一組ずつ船に乗せて避難します。
「災害」が訪れてから40日後、ノアは状況を確認するためにハトを飛ばすと、ハトはオリーブの若葉を咥えて戻ってきました。
「若葉」を見たノアは洪水が止み、地上に「平和」が戻ったことを知るのです。

~まとめ~
「ククルの神殿」の全体像は分かりませんが、正面玄関のグラフィックは「ピラミッド」を連想させる造りをしているように思えます。
私は「ノアの方舟」=「シルバーノア」だと思っていますし、
オリーブと似た月桂樹(ローリエ)には「純潔」の象徴があるらしく、「ククル」を指しているように思えます。
私の話では「スメリア」は「日本」設定なので「子どもが~」の意味も含むとなると、

「リーフの珠」は、ククルもしくは神殿の「純潔」「母性」「生命」など、「子どもを支える、守る」というような場所へと導く「魔法のシルクロード」なんじゃないかと思いました。


…なんとなくですけど、月桂冠を被るアークって結構イイ絵になる気がしません?

※君の濃厚(のうこう)天使の羽(バターブロンド)
風になびき、夕日を浴びたリーザの「金髪」を表現しています。
…確か、前にもどっかで書いた覚えがあるんですけど……、見つけられないf(^_^;)

※トウヴィル村の住人
原作において、この時点では村人は全員スメリア国に捕えられて無人の設定ですが、色々な都合上、私の話では捕まったのは住人の一部ということにしています。
さらに、「地殻変動」による死者はいないと書きましたが、原作のトウヴィルを見てみると「墓標?」のようなもの(卒塔婆(そとば)のようなもの)がいくつも見掛けられます。
……あれって何なんでしょうね(笑)

思い切って「地殻変動で亡くなった人たちの墓」って設定にしてもいいんですが、そうすると村人からアークたちへの信頼は中々確立できないんじゃないかと思って「お墓説」は保留にしました。

※卒塔婆(そとば)
お墓の後ろに立てかけられる長さ1~2mほどの細長い板です。
礼拝の対象となる塔(お釈迦様のお墓、もしくは仏塔)を模したもののようです。
細かいことは省きますが、これを立てるだけで亡くなった方への良い供養になるらしいです。

※掘っ立て小屋
礎石(そせき)(建物を支えるために用いられる石)などの土台をつくらず、直接地面に柱を突き立てて造る小屋(建築物)。
粗雑な造りの家。

※「事実、彼らの彼女に寄せる信頼は、猫がツナ缶に向ける眼差しのように熱い」
「熱い眼差し」と「厚い信頼」をかけてます。
なんとなく言っておきたくて(笑)

※スルト
原作にはいないキャラクターです。

※マーレス(トウヴィル村の村長)
原作では「アークⅠ」の冒頭にのみ登場しました。名前は創作です。

※社(やしろ)
神様の降りるところ。現れるところ。祭ってある建物(神社)。
昔は特定の清められた場所を指していたそうです。

※コルボ市
原作マップに「コルボ平原」というフリーバトルエリアがあります。
このコルボ市はその近辺にある町だと思ってください。
日本地図にあてがめると、だいたい栃木県の辺りにあります。

※スメリアの列車
公式販売されていたトレーディングカードの中に「スメリア」の設定が書かれたカードがあり、カードの画には路面電車(別名、チンチン電車)のようなものが描かれていました。
電車が走るってことは電線が必要なんですが、原作のトウヴィル村でも電線、電柱が描かれていたので、スメリア国の細かい所まで走っていてもおかしくないと思います。

※ヂークのボディ→家庭用ボイラー
公式の設定で、ヂークの体の一部はヴィルマー博士の家にあった「ボイラー」を流用しているらしいです。

※ホントの後書き
……長い。後書きも含めてほぼ2話分ある。
その分、ミスも多くあるかもしれませんが、今回はご容赦くださいm(__)m
(正直、にらめっこに疲れました(笑))

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