聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

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魂の帰郷 その十二

「すまんが、頼まれてくれるか?」

待ち人を(たず)ねると言い、リーザと(わか)れた後、ゴーゲンは三匹の小人たちにちょっとした頼み事をしていた。

「キィ?」

「お前さんらなら嫌というほど知っておるじゃろう?儂のことなら心配いらんよ。」

「キッキッキ!」

「ホッホッホ、言うではないか。では、今度の掛け金のスメリア産白魚(しらうお)のハチミツ()け、三倍でどうじゃ?」

『キキィ!!』

まるでそれを待っていたかのように、三匹は異口同音(いくどうおん)(こた)えた。

「全く、その意地(いじ)(きたな)さは誰に似たのやら…。じゃが、交渉(こうしょう)成立(せいりつ)じゃな。では、よろしく頼むぞい。」

そして、老夫の言葉を聞き終えるよりも早く三匹の小人たちは全速力で来た道を引き返していった。

「……さて。」

老夫は三匹の姿が見えなくなったのを確認すると、杖の足で床をノックし、ノックと同時に姿を消した。

 

 

――――(ふたた)び老夫が姿を現した場所は、有象無象(うぞうむぞう)気配(けはい)()()不穏(ふおん)な部屋

 

「…フン。」

そこにはいくつもの「試験管(しけんかん)」が、整然(せいぜん)(なら)んでいた。

縦幅はサメを、横幅はゾウさえも入れられるそれらは部屋の壁を(いろど)大仰(おうぎょう)装置(そうち)たちに(かこ)まれ、息をしていた。

水でない透明(とうめい)溶液(ようえき)()()まれた「何か」が、目に(うつ)るものが「敵」か「母」かを判別(はんべつ)している。

「どうだ?良い(なが)めだろう?」

水槽(しけんかん)に目を(くば)りながら設備(せつび)操作(そうさ)する、白衣(はくい)の若い男が振り返りざまに言った。

「この世界を(つく)ったという神に(くら)べれば子どもの遊びのように映るだろうが、これだけの”命”を意のままにできるとなれば、なかなかどうして全能(ぜんのう)(まが)いの高揚(こうよう)(おさ)えられんものだ。」

男は一つひとつの水槽(すいそう)(いと)おしそうに()でる。

「まだまだ能力値は低いが、今回の作戦が成功すれば良質(りょうしつ)なサンプルも見込める。(おの)ずと結果も付いてくるだろう。」

「…キサマが、この施設(しせつ)責任者(せきにんしゃ)か?」

所長(しょちょう)のゲオールという。」

白衣の男は尊大(そんだい)態度(たいど)で老夫に()(なお)ると、嘲笑(あざわら)うように聞き返した。

「ところでゴーゲン殿(どの)、私もアナタに一つ(たず)ねたい。私はアナタのことをなんと呼べばいいのだろうか。」

「……」

男の言葉に(みちび)かれるように、老夫は(しだ)(やなぎ)のような(まゆ)の下から(かがや)きのない黒真珠(ひとみ)(のぞ)かせた。

「ノル・ヴィラモアール・ヘクタ・ゴガールか?それともウルトゥス・フラド・アダンだろうか?…さて、どちらが今の本当のアナタなのかな?」

「……」

男の口にする二つの名は、老夫の黒真珠(くろしんじゅ)憎悪(ぞうお)の鍋に漬け込み、沸々(ふつふつ)()めていく。

「ククク…。アナタが、いや、()()()()()()気紛(きまぐ)れで助けた魔女がアナタのことを売ったよ。」

誘惑(ゆうわく)される「殺意」を(おさ)え、魔女(ちじん)から買ったという物語が男の口から出てくるのを辛抱(しんぼう)強く待った。

正直(しょうじき)、”驚かされた”の一言だ。“(ねた)み”もここまでくれば十分、悪魔(われわれ)の仲間と言っても良いのではないだろうか。」

目の前の(てき)見据(みす)えながら、内側の敵にも目を(くば)っていた。

 

……そう、あれは”妬み”だった。

 

どうして彼を()えることができないのか。どうして私は彼よりも(おと)ったままなのか。

どんなに苦労を(かさ)ねても、(つい)ぞ彼に近付くことができなかった。

()える(かべ)は目の前にあるのに。私は彼の背中を見詰(みつ)めることしかできなかった。

それが()もり積もった時、それを私が自覚(じかく)した時、私は一つの『運命(レール)』に乗ってしまっていたのだ。

盲点(もうてん)だったよ。ノルはともかく、ウルトゥスは(すで)退治(たいじ)された魔物の名だ。今、アナタが指導(しどう)している勇者、アーク・エダ・リコルヌの手によってね…。」

()たしてあれは、私の意図(いと)したことだったのだろうか。

あの状態に(おちい)っていた私に自我(じが)はなかったはずだ。

だのに、アークがあの異次元の扉を開いた瞬間、私は「ゴーゲン」として目を覚ましていた。

「別に、私はアナタを非難(ひなん)している訳じゃない。むしろ尊敬(そんけい)(あたい)すると思っている。…上の者たちはアナタが何者であろうと頓着(とんちゃく)しない様子だったが、私は違う。」

彼の所持(しょじ)していた『石の欠片(かけら)』も手に入れることができたのは幸運だった。

初めて、全身に(みなぎ)る『力』を体感した時、私は「全てに勝利した」ような錯覚(さっかく)(おちい)っていた。

 

アークが私を(とら)える魔物を()つまで、私は状況に困惑(こんわく)していた。

だが、状況(じょうきょう)把握(はあく)することに成功した私は彼の記憶をつかい、「導きし者(ゴーゲン)」を(よそお)って勇者(アーク)に取り入った。

誰の目にも()まらない方法で、私は(ふたた)び「賢者(けんじゃ)」の称号(しょうごう)を取り戻したのだ。

「アナタだからこそ、この世に()(もど)った価値(かち)がある。だからこそ、()()()()()までして周囲(しゅうい)(あざむ)き、生きようとするその執念(しゅうねん)は何なのか。是非(ぜひ)とも教えて(いただ)きたい。必ずや、私がそれを満たしてみせよう。」

そして、彼らに同行して『石の欠片(かけら)』を収集(しゅうしゅう)し終えた時、私は自分の”罪”を理解した。

戯言(ざれごと)を。また一つ、キサマを消す理由が増えただけだ。」

「…信じてもらえないだろうが、」

たったひと時の感情で。

唯一無二(ゆいいつむに)でありたい」という欲求を満たす(あま)り、「家族」とさえ呼んでくれた人を(みずか)らの手で(あや)めた。

その矛盾(むじゅん)する(あやま)ちを。

 

「世界征服(せいふく)、キメラの研究。もちろんそれらも私を満たす重要な要因(ファクター)だ。だが、私が真に知りたいのはアナタの行動の意図(いと)。それだけだ。」

命が命を(うば)い、世界を支配(しはい)する。

それは『世界』が息をする上でなくてはならない行為(こうい)だ。

「なぜアナタほどの魔導士が魔に()ちた?当時のアナタはまだ若かった。ノルよりも(はる)かに。それでも実力は拮抗(きっこう)していた。いずれノルが()て、アナタの時代が(おとず)れることは約束されていたはず。」

だが私は、殺してはならない人を殺した。

私は今も、『世界』の首を()め続けている。

「それは今とて変わらない。アナタの『力』を(もっ)てすれば、人類を()べることすらできるだろうに。アナタは”ゴーゲン”として、”勇者”として”救済(きゅうさい)”という些細(ささい)偽善(ぎぜん)行為のために戦っている。」

アークと旅をして間もなく、『力』にも()れた頃、彼の記憶に私の「痕跡(こんせき)」見た時、私は自分のしでかした事の重大さに気付かされた。

貴方(あなた)もまた、(あやま)ちを(おか)苦悩(くのう)する人間の一人だったのだと。

「だというのにアナタは仲間に正体を()かさない。やはり、後ろめたいか?それとも、言葉(たく)みに彼らを(あやつ)らなければ、()げられない目的が?」

そして、貴方が”救済”の先に見ていた未来も……。

「どうか私が死ぬ前に教えてくれ。…いったいアナタの真の目的は何なのだ。」

 

 

 

 

ウルス、お前といる時だけは――――

 

 

 

 

 

”ゴーゲン”は沈黙(ちんもく)した。

「…(くだ)らん。」

(なが)い、永い沈黙の(すえ)、彼は(のど)の奥底から()い、濃い(たん)を吐き捨てる。

「長々と何をくっちゃべるかと思えば。書庫(しょこ)と戦場でしか生き方を知らん、恥知(はじし)らずなジジイの過去が知りたいだと?」

途端(とたん)、老夫の苛立(いらだ)ちを(あらわ)すかのかのように右の(てのひら)煌々(こうこう)と燃え出した。

()けた鉄のように熱く、(あか)く。

「だからキサマらは悪なのだ。人の『悪夢』を好む、命(くさ)らせる存在なのだ。」

老夫は自らを(にく)んだ。

目の前の(おろ)かな男と同じように、『力』に魅入(みい)られてしまった(おのれ)に。

「我らが『悪』だというのは重々(じゅうじゅう)承知(しょうち)している。だが、分かち合うのに善悪(ぜんあく)は関係ないはずだ。私もアナタと同じ探究者(たんきゅうしゃ)の一人だというのに。」

「キサマが?!()()?!自惚(うぬぼ)れるなっ!」

 

瞬間、老夫の3000年の憤怒(ふんど)(ほとばし)った。

風が部屋のあらゆるものに(つめ)を立て、(さけ)びがあらゆるものを(くだ)いた。

 

ギィャアアァァアァァッ!!

 

()()れる暴風(ぼうふう)(まぎ)れ、老夫は(まばた)きも許さない速さで白衣の男の(ふところ)に入り、溶銑(ようせん)の掌が男の頭蓋(ずがい)(つか)んでいた。

たちまち、風は肉の()げる臭いで(あふ)れかえる。

黒い煙が男の顔面から()(のぼ)り、神の手から(のが)れようと悲鳴(ひめい)比例(ひれい)して藻掻(もが)いた。

ところが、老夫(かみ)微動(びどう)だにしない。

その()(えだ)のような腕からは想像もつかない万力(まんりき)で、(あくま)()るし続けた。

(またた)()に、錯乱(さくらん)する男の体は燃え上がり、散乱(さんらん)した(たましい)無き命に燃え(うつ)る。老夫を中心に、部屋が目を焦がすほどの(ひかり)(つつ)まれた。

「罪を知れ。それがキサマの望む探究者に(あた)えられた唯一(ゆいいつ)の真実よ。」

断末魔(だんまつま)は炎に溶けて渦巻(うずま)き、(ふたた)び老夫の耳に(とど)く頃にはもう、男の姿はそこになかった。

()(くる)う炎が全てを()()んだ。壁も天井も傍若無人(ぼうじゃくぶじん)()め取った。

「人は弱い生き物だ。キサマらよりも(はる)かに。それでも私は人間に勝利をもたらす。それが()()()()()せられた絶対の罪滅(つみほろ)ぼしよ。」

 

炎が()せ、「部屋」と呼ばれていた空間にただ一人取り残された老夫の姿は哀愁(あいしゅう)(つぶや)いていた。

「……」

(むな)しさに()(ひし)がれていた。

「ノルよ、私は必ずや、貴方の目的を()してみせる。貴方の全てを(もち)いて…。」

(たと)え、想い人の目的を遂げたところで、死んだ人間は(よみがえ)らない。

その運命(じじつ)だけは()()げられない。

それでも老夫の中で生きる「彼」は、その身体(からだ)に残る老夫の匂いに誰を頼ることもできない言葉を投げかけた。

 

(ふところ)から気付け薬を取り、一息(ひといき)()()すと、『炎』で溶けた扉を『すり抜け』老夫は続く部屋へと進んだ。

そこには所長(リーダー)の死を()()め、自分たちの死も覚悟(かくご)した悪魔たちが居並(いなら)んでいた。

「さすがだな。大魔導師ゴーゲン。あの所長をまるで雑兵(ぞうひょう)のように消してしまうとは。」

(あか)髑髏(どくろ)、黒い狼、異形(いぎょう)の魔術師…、その有象無象(うぞうむぞう)の中の一人が老夫に口を()いた。

「まったく、次から次へとゴミのように。」

「…そう言われても仕方ない。もはやアナタ相手に施設(ここ)を守りきることができないのは明白(めいはく)だ。だがその前に今一度、アナタに問いたい。…我々と(とも)に知を探求する気はないか?」

「くどい。キサマらの遊びが(わし)の何を満たしてくれるという。儂は儂の求めるものを()るだけじゃ。」

彼らの(おこな)いを否定しながら、その言い草はまるで彼らに何かを期待(きたい)しているようにも聞いて取ることができた。

 

一個人(いちこじん)見出(みいだ)した答えは知識とは呼べん。ただの感想文(エッセイ)だよ。」

分かっていた。

老夫が自分たちになびかないことくらい。

それでも研究所の男たちは老夫の叡智(えいち)に希望と未来を見ていた。

彼らの主人が()す征服や創造(そうぞう)よりも、そこに彼らの求めるものがあるように思えてならなかった。

見解(けんかい)の違いだな。」

しかしこれが、人類(じんるい)超越(ちょうえつ)した彼らでさえ変えることのできない『悪夢(げんじつ)』というものだった。

「いいや、真実だ。アナタが我々と同じ言葉を使っているならばの話だがな。」

「科学者ごときが魔導師に”言葉”を説教(せっきょう)するとは、なかなか皮肉(ひにく)()いているではないか。」

「…残念だ。アナタはまだその道を(あきら)めてはいないはず。だのに、アナタと共に学ぶことも許されない。残念としか言いようがない。」

 

老夫はまた、痰を吐き捨てると悪魔たちを(さば)くべく(つえ)(かま)えた。

その所作(しょさ)を合図に何匹かの悪魔たちもまた各々(おのおの)得物(えもの)に力を(みなぎ)らせる。

「知ったような口を…。先程(さきほど)炭屑(すみくず)にも言ったが、探究者が行きつく先は”罪”だ。死にたくなければ今すぐここを去り、獣として生きよ。」

それは意図せず口から出た、老夫の本音だった。

そして、その(いた)らない優しさが彼らの逆上(ぎゃくじょう)を買うのは仕方のないことだった。

 

「なぜだ?!なぜアナタは人間の肩を持ち、我々に牙を向ける!」

彼らは「戦争」が(にく)くて(たま)らなかった。

「…何を今さら―――、」

「戦争」が、彼らの「未来」を形作る多くの貴重(きちょう)なものを徴収(ちょうしゅう)する。

資源、サンプル、先人の遺物(いぶつ)……。

「同じ人間だからか?3000の(よわい)()ても、アナタはまだ自分を人間だと言い張る気か!?」

そして今もまた、その「肉体(かたち)」すら二の次にしてしまう彼らから「神」とも呼べる人材を(うば)っていく。

(かしま)しいにも程がある。儂が何を護るか。それは儂が決めることだ。」

彼らが悪魔であるが(ゆえ)に。「戦争」が、彼らを巻き込んでしまったが故に。

「……いいだろう。ならばせめて、我々を(そで)にしたことへの後悔(こうかい)をその胸に(きざ)ませてもらおう。」

その「本分(ほんぶん)」を(まっと)うすること以外に、彼らの『運命』は用意されていない。

 

(はる)か昔より「戦争」は、地べた()う兵隊たちの上に混乱(さけ)恐怖(くすり)の雨を降らせ続けてきた。

「リーザのことか?儂らをバラバラにすれば勝てるとでも思ったか?」

「例え()()れなくとも、その高慢(こうまん)な鼻を折ることぐらいはできるかもしれない。」

だからこそ、知識(かれら)は「戦争」を憎む。

戦争は、「未来」を(こわ)すことになんの躊躇(ためら)いも持たない。

だからこそ、知識(かれら)は「戦争」を憎む。

戦争は、どれだけの時で(いや)しても、彼らに『悪夢』を見せ続ける化け物でしかない。

そして戦争の前では戦争(それ)を憎む彼ら、さらには世界を創造(そうぞう)する「神」でさえも力を振りかざすだけの一匹の悪魔(へいたい)に変えてしまう。

 

世迷言(よまいごと)を。ならば、ホルンを(おそ)ったババアと同じセリフを今一度言ってやろう。」

歯を()いた老夫のその表情は、怒りとも笑みとも取れない。

「キサマらでは役不足(やくぶそく)よ……。」

彼は誤魔化(ごまか)していた。

同類(どうるい)でありながら、「戦争」に加担(かたん)する一人であることを。

「恥」の(かたまり)である自分を(なげ)き、(ひと)り『決して(くだ)くことのできない壁』に頭を打ち付けていた。

いっそのこと、『壁』が全てを奪ってくれたなら…。

血に(にじ)黒真珠(くろしんじゅ)も、手の(とど)かぬ(おのれ)若気(わかげ)には、憎しみに(まみ)れた殺意をぶつけることしかできない。

 

……数分後には、部屋を()()げる紅色(べにいろ)の天上天下が老夫(かみ)の世界に生温かい雨を降らせていた。

 

 

 

 

――――同刻(どうこく)発狂(はっきょう)する魔女(リーザ)雄叫び(うた)()う魔術師が真実を目にし、動揺(どうよう)していた。

 

……そんな話は聞いていない。

どうしてお前にそんな真似(まね)ができる?!

 

魔術師の命が小さな魔女の叫びで溶けていく中、その目は使命を(まっと)うできずに息絶(いきた)えた(しもべ)無残(むざん)な姿を(とら)えていた。

 

…あのジジイの仕業(しわざ)に違いない。

 

『あああぁぁああぁぁぁっ!!』

 

だが、小娘は気付いていない。ヤツの化け物たちも動けない今、状況は変わらないはず。

そうだ、何も…、変わらな……!?

 

ヘモジーたちだけでなく、その場に居合(いあ)わせる魔術師やドラゴンと同様(どうよう)に、息すらままならないはずの狼が、身を(よじ)じらせ、少女へとにじり寄っていた。

そして(つい)に少女の(もと)辿(たど)りつくと、粗削(あらけず)りで(たよ)りない足首に思い切り牙を突き立てた。

「アァッ!」

痛みに()えかねた少女は足首を()む狼を力任せに()()ばす。

しかし、それでも押し寄せてくる「痛み」と「狂気」は少女の意識を簡単に焼き切ってしまった。

 

倒れる少女を見届けることもなく、狼は足元の覚束(おぼつか)ないまま、魔術師に襲い掛かり、(やわ)らかい頭蓋(ずがい)()(くだ)いた。

(よろい)のような(うろこ)(おお)われたドラゴンの首を()()いた。

 

 

 

 

――――新たな惨劇(でんせつ)の首を、たった一匹の狼が()ねた。

 

 

彼女に「苦痛」を与えるものを、狼は許さない。

意識を失ったままの化け物(なかま)と、三つの亡骸(なきがら)(かた)る「静寂(しじま)」に見守られながら狼は(ふる)える足で少女の下へと歩み寄った。

 

 

……リリー

 

 

狼は少女が(こご)えないよう抱きしめた。

目を覚ました彼女が泣きださないように……、

 

抱きしめた。




※ゲオール
原作には登場しません。

※ゴーゲンの正体
話の序盤も序盤で「?」が浮かんだことかと思いますww
ゴーゲン含め、3000年前に登場した「七勇者」に関しては分からないことが多いのに、どうしても避けては通れない問題だったので、かなりこじ付けではありますが自分なりに設定をもうけてみました。

「今回の七勇者設定の焦点」
原作のグレイシーヌ国、図書館にて七勇者の解説がわずかにされています。
そこにはグラナダ、ソル、バルダ、ワイト、ゲニマイ、ハト、ゴーゲンという七勇者たちの名前が書かれています。
ですが、鍛冶屋でアイテムを鑑定すると、「ラークの紋章」には「七勇者の一人、魔術師ノル」の名が。「魔力の数珠」には「七勇者の一人、魔導師ウルトゥス」の名が出てくるのです。
……9人いるじゃん!みたいなね。
(以下、9割が自己解釈です。原作とはほとんど関係ありません。)

「自作の設定」~~~~~~~~~~~~
ゴーゲン(肉体)の本名は、ノル・ヴィラモアール・ヘクタ・ゴガール。
3000年前に起きた人類滅亡の前兆を調査するために派遣された使節団に加わり、聖騎士グラナダ他6名と共に聖櫃をスメリアに持ち帰った男。
「ゴーゲン」は3000年前の時代で、最高位の魔導師にのみ許された敬称。
(中国の歴史で、(しん)の始皇帝から天子にのみ「(ちん)」という敬称が許されている感じです)

ノルは天性の才覚をもってあらゆる知識を発掘し、あらゆる現場でそれを発揮してきた経緯の下、実質的な魔導師の長として名を()せていた。
一方、ウルトゥス・フラド・アダンという名の青年もまた、類稀(たぐいまれ)な才覚で次世代を担う魔導師の長として有望視されていた。

しかし、ウルトゥスはそれで満足できなかった。
ウルトゥスは幼少より周囲に自分より秀でた人間がいた経験がなかったため、自分の上に立つ「ノル」という存在に耐え難い苦痛を感じていた。
ノルの生み出したものを片端から手に入れ、学び、彼を越える日を追い求めた。

だが、その日はやってこなかった。
能力を買われたウルトゥスはノルと同じ使節団に加わるも、戦いの最中、致命的な傷を負い、さらに部隊から(はぐ)れてしまう。
戦場に残されたウルトゥスは、ノルへの執着心に付け込まれ悪魔に魂を売り渡してしまう。
化け物へと変貌したウルトゥスはグラナダらの前に現れ、一行を苦しめる。(ウルトゥス、人としての人格を失った状態)
一行はノルの提案により、(魔物がウルトゥスであると気付かないまま)ノルもろともウルトゥスを異次元に封印する。


異次元の中、ノルはウルトゥスに自由を奪われてしまうが、結界(マジックシールド)を張りつつ、相手の生命力を吸い取る魔法(ロブマインド)でいつ終わるともしれない延命措置を取り続けた。
その状態で1000年が過ぎようかという時、ノルは自身に違和感を覚え始めていた。
度々(たびたび)、脳裏に他人の記憶がよぎるような感覚があった。(吸収する魔法の影響)
そして、ノルは気付いてしまう。
自分と共に封印されている化け物が親愛なるウルトゥスであることに。

ノルは魔法に細工を施した。
自身の精神とウルトゥスの精神を入れ替えるように。

ノルはウルトゥスの心を宿した肉体に命を吹き込み続け、さらに2000年の時が経った。
化け物に乗り移ったノルに限界が訪れようとしたその時、封印はアークらによって解かれた。
ノルは化け物として、本能の赴くままにアークらを攻撃してしまうが、すでに瀕死の状態のため、力をつけて間もないアークらでも辛うじて撃退することに成功する。

その後、解放されたノルの体にはウルトゥスの心が宿り、ウルトゥスは自分の力でノルの体を乗っ取ったと勘違いする。
ノルのいない世界で人の心を取り戻したウルトゥスは、ノルの体に残った記憶も相まって自分の中の「悪」に(さいな)むことになる。

ウルトゥスは、聖櫃に現代の新たな勇者(力や悪夢と向き合う(こども))の一人として見出されてしまう。

七勇者の伝説がつくられる際、七勇者をノルとする派閥とウルトゥスとする派閥があり、この争いを収めるために「ゴーゲン(最高位の魔導師)」と個人を特定しない方法で一応の解決をみた。
また、七勇者になったゴーゲンに敬意を払い、以降、「ゴーゲン」という敬称は使われなくなった。
~~~~~~~~~~~~~~~

……という、かなり複雑な設定をつくってしまいました(^_^;)
詳細はフォーレス編が終わった後、Bパートにでも投稿できればと考えています。


※溶銑(ようせん)
銑鉄(せんてつ)という溶鉱炉で溶かした炭素を含む鉄のこと。

※くっちゃべる
「無駄に喋っている」「無駄話」の意味の北海道弁らしいです。

※しる
知る…学習や経験により、知識や情報を得ること。一般的な「知る」という行為の総称。
識る…得た知識を自分の中で噛み砕き、物事を理解すること。

※徴収(ちょうしゅう)
国家や団体がその権力(法律や規約)でもって対象者から必要な金銭や物品を押収、回収すること。

※若気(わかげ)
思慮分別に欠けている年頃の心情。後先を考えない血気盛んな気持ち。
一般的に「若気の至り」という「若い頃に犯してしまった過ち」という意味の慣用句で使われますね。

※三千世界
仏教用語。「全宇宙」の意味。

私たちの住む場所の周囲には四つの大きな島(四大洲)があり、その周りには九つの山と八つの海がある。
これを一つの「小さな世界」としています。
この「小さな世界」が1000個集まったものを「小千世界」といい、この「小千世界」が1000個集まったものを「中千世界」といい、この「中千世界」が1000個集まったものを「大千世界」と言います。
この「大千世界」は「三千大千世界」と言い換えられ、これを略した言葉が「三千世界」です。

ちなみに「三千世界」とは言いますが、実際には1000の三乗なので、10億の「小世界」ですね。

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