聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

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魂の帰郷 その九

少女の『悪夢』を名乗る老婆(ろうば)朧月(おぼろづき)を連れ、()(しず)む前に()()せた。

老婆らによる少女のための晩餐会(ばんさんかい)招待状(しょうたいじょう)を残して。

 

「追う?追うって、どうやって?」

少女に老婆の『声』を聞くことはできなかった。

影となって消えた老婆を狼の鼻で追えるはずもなく、少女に『悪夢』を()()める手立(てだ)てはないように思えた。

だが、その様子を待ちかねていた魔法使いがやんわりと手を()()べた。

「心配しなさんな。アレには(ひも)(くく)()けておいたわ。のんびり歩いたところで見失(みうしな)うことはないわい。」

「…じゃあ、早く追いかけましょう。」

「そう()くでない。お前さん、少し(あわ)()ぎじゃあないか?」

老夫はドアノブへと手を掛ける少女の後ろ髪を躊躇(ちゅうちょ)なく引いた。

「どうして?あの姿を見て、どうやって落ち着けって言うんですか?あの人たちはこの戦争を楽しんでる。おじいさんだって気付いてるんでしょ?あの人が…。今も村の皆があんな風に…。」

そうして(みちび)かれる結末(けつまつ)が恐ろしくて、どんな言葉を(えら)んでみても少女は文章を完成させることができないでいた。

 

そして老夫もまた、ボードゲームを楽しむ一人なんだと決めつけ、少女は苛立(いらだ)ちを覚えていた。

狼をけしかけ、その()らず(ぐち)をズタズタにしてやりたい気持ちで満ち満ちていた。

「今のお前さんを見たらあのババアはこういうじゃろうな。」

けれども、少女にはそれを実行する勇気がなかった。

(いま)だに(そこ)の知れない力を()めている老夫に対し、まだまだ半人前の少女のそれでは太刀打(たちう)ちできるはずもない。

仮に老夫の口をズタズタにできたとしても、少女や獣たちの命が無事である保証(ほしょう)はどこにもない。

 

少女の荒々(あらあら)しい敵意を前に老夫は余裕(よゆう)を見せた。

「飛んで火に入る夏の虫、とな。」

見せつけた。

 

そして、少女も自分が無謀(むぼう)なことを口走っているとわかっていた。

頭では「もっともだ」と理解できていた。

それでも、言葉や文字を(なら)べただけで冷静になれるほど私は薄情(はくじょう)な人間じゃない。

道理(どうり)人情(にんじょう)区別(くべつ)できるほど、少女は分別(ふんべつ)のある年頃(としごろ)ではなかった。

「皆が助けを求めて(さけ)んでいるかもしれないって時に、私だけここでのんびり休んでろって言うんですか?!」

「ワシは落ち着けとしか言うておらんじゃろうに…。そんな状態(じょうたい)で本当に大切なものが護れると思っておるのか?」

「だったらどうしろって言うんです!?皆が死んでいくのを受け入れろって言うんですか!?」

もはや真面(まとも)な会話ができないほどに、少女の心は(みだ)れてしまっていた。

泥沼(どろぬま)()まっていく少女の(なさ)けない姿を見て、老夫はあからさまな()(いき)()いてみせた。

その上で、取り乱す少女のための気付(きつ)け薬を召喚(しょうかん)する。

 

「坊や、そこに()るのだろう?入ってきなさい。」

「え?」

老夫に言われて初めて、少女は壁の向こうにある部外者の『声』に気付いた。

唐突(とうとつ)指名(しめい)に小さな部外者は(たじろ)ぐも、老夫の言葉に背中を押され、上目遣(うわめづか)いにソッと入ってきた。

「リッツ…。」

「ごめんなさい。でも、全部見てたよ。」

初めこそ後ろめたさで声を(ひそ)めていたが、目の前で起きた非日常が少年の胸を(くすぐ)り、そこに『魔女』の(しもべ)たちがいるのも(かま)わず気付けば鼻息を荒くしていた。

「やっぱりお姉ちゃんってスゴイんだね!あんなおっかない化け物も追い払っちゃうんだもん!…おじいちゃんは何もしてなかったけどね。」

「コレコレ、坊や。ワシは大魔法使いじゃぞ?こんな小さな部屋で(あば)れてみい。アッという()にペシャンコじゃぞい。」

少年は眉間(みけん)(おさな)(しわ)を寄せ、(ほお)(ふく)らませた。

「だから、坊やじゃないって言ってるじゃん!」

 

少女の関心が二人の茶番のような口論(こうろん)に向くことはなかった。

少年が「ここにいる」ことが、彼女は何よりも許せなかった。

無垢(むく)()(まま)好奇心(こうきしん)に対する彼女の怒りは、もはや老婆や老夫に向けるものと大差(たいさ)なくなっていた。

何もかもが自分の希望の逆を進もうとする現実にムシャクシャし始めていた。

「リッツ、私には近づかないでって言わなかった?どうして私の言うことを聞いてくれないの?」

口ばかりの老夫相手に威勢(いせい)の良い少年も、血と涙を流すまいと奮闘(ふんとう)する少女の前では委縮(いしゅく)せざる()えなかった。

「だって、お姉ちゃんはやっぱり悪くないもん。悪いのはさっきのお化けたちなんでしょ?」

「それは……」

「お父さんとお母さんのことでウソを言ってた時は嫌だったけど。だけど僕はやっぱりお姉ちゃんの味方だよ!」

……味方?

「だから、ダメだって言ってるじゃない。」

味方って何?

エルクは…、私の何?

「僕にだって何かできるよ?」

「ダメだったら!」

「ヒッ!?」

少年の肩を『力一杯(ちからいっぱい)(つか)むと、少年は初めて少女に『魔女』の表情を見た。

初めて、子どものケンカにない本物の『力』に()れ、その恐ろしさを体感した。

 

…そうよ。

私もいつかアナタの言う「お化け」になる。

だから、これでいいの。

 

そうして見せた少年の顔は、少女も良く知っている。

ここに来るまでに散々(さんざん)見てきた。

「…本当にお願い。もう、近づかないで。今度は本当に殺すかもしれない。私がそうしたくなくたって、私は私を止められないかもしれない。今のアナタならわかるでしょう?」

「……」

「誰も、殺したくないの。」

……ウソつき。

「だから、(ほう)っておいて。」

……ウソつき。

「…お願い。」

 

『魔女』への恐怖と好きな人の助けになりたいのにという我が儘がせめぎ合い、少年は動けなくなってしまった。

「行きなさい。でないと、力尽(ちからづ)くでも追い返すわ。」

白い毛皮の甲虫(こうちゅう)と、ピンクの大男が一歩少年ににじり()った。

二人に人間の表情はなく、(あき)らかな『化け物』として少年を威嚇(いかく)していた。

「……!」

またも走り去る少年の背中を見送るはめになった少女にはもはや誰が悪いのかわからなくなっていた。

 

「安心しなさい。この麓の町に下るまであの子を護るよう『魔法』をかけておいたでのう。」

その嘘の優しさを皮切りに、老夫は少女を問い詰め始めた。

「どうして少年を追い返す必要がある。」

「そんなの、危ないからに決まってるじゃないですか。」

「どうしてそう言い切れる。」

「どうしてって、おじいさんはあの子が化け物たちと戦えると思うんですか?」

無論(むろん)、思わんさ。」

「だったら…」

「だったら、ワシがなぜお前さんを引き止めたのか。聞き分けが悪いのはどちらか。今のお前さんになら分かるな?」

…「してやられた」少女はそう思わずにはいられなかった。

まんまと老夫の台本の通りに(えん)じてしまった(くや)しさに反論(はんろん)の言葉も思いつかなくなり、ただただ老夫の言葉を受け入れるしかなかった。

 

おじいさんが『魔法』か何かであの子をここまで連れてきたんでしょう?

私を説得(せっとく)する材料(ざいりょう)にするために。

でなきゃ、とてもじゃないけどあの野盗(やとう)たちの目から(のが)れてきた説明がつかないもの。

(かろ)うじて聞こえる老夫の『声』がそれを(みと)めていた。

「言っておるじゃろう?お前さんには一刻(いっこく)も早くワシらの(がわ)に付いて欲しい。そのためにすべきことをできるだけ前倒(まえだお)ししたにすぎん。」

 

(ひど)い理由だと少女は思った。

「わからんでもいい。ワシを(にく)むならそれも良かろう。じゃが、今は子どものように(おのれ)の身の回りだけに気を(くば)って良い時ではない。”世界”がお前さんの『力』を必要としておる。」

その「世界」に私の大切な人はどれだけ残っているの?

「あの坊やもお前さんの身内も、そこに”世界”があってこその話。そうは思わんか?」

今、助けに行かなきゃ、その人たちだっていなくなるのよ?

今なら、私一人の犠牲(ぎせい)ですむかもしれないのに?

「こんな所でお前さんを失う訳にはいかんのじゃ。」

アークだって、ククルだっているじゃない。

今まで散々、アナタたちだけで「世界」を()(まわ)してきたじゃない。

「それでもお前さんはワシの制止(せいし)を聞かず、行くか?わざわざ連中の毒牙(どくが)にかかるために。」

どうしてアナタはそんなに私一人にこだわるの?

「であるならワシもワシの『力』を護ることのために使わねばならなくなる。」

その時、少女は思った。

 

それなら、アナタが皆を助けてくれればいいのに。

 

その時、少女の中の疑念(ぎねん)確信(かくしん)に変わっていた。

老夫は老婆とその仲間たちを圧倒(あっとう)する『力』を持っている。

もしかしたら何らかの制約(せいやく)があるのかもしれない。

けれど少女は老夫に、それを()まえても()(あま)優位(ゆうい)があるように思えてならなかった。

 

「……どうするね?」

それでも、私は…

「行かなきゃ、みんなが…死んじゃうもの。」

私は死を覚悟(かくご)しておじいさんを否定した。

だって、私は間違ってないもの。

皆が助けを求めてるのは「今」なんだもの。「世界」は皆を助けた後だっていいじゃない。

皆のいない「世界」を助けたって、私に意味なんかない。

「私の世界」は、そこにしかないんだもの…。

 

(たと)え、おじいさんがこの世界の特別な『何か』だったとしても、私は『魔女』。

みすみす言いなりになんてならない。

 

そんな私の無知と(おご)りに(あき)れ、おじいさんは何度目になるかわからない大きな溜め息を吐いた。

「まったく、世話の焼ける…。」

トントン

(つえ)で床を二度突くと、おじいさんの足元(あしもと)でフワリと風が渦巻(うずま)いた気がした。

直後、私の足元から白く(にご)った煙が()(のぼ)ってくる。

「待って!こ…れは…?み、んな……」

そこで、私の意識は途切(とぎ)れた。

咄嗟(とっさ)に『命令』したのに、パンディットも、ケラックたちも、誰もおじいさんに立ち向かわなかった。

皆…、おじいさんの側に立っていた。

 

 

 

 

……目が覚めた時、そこにある天井(てんじょう)が自分の家だと気付くのに数分かかった。

あの時のままなのに。花が()れて少し(ほこり)()もっているだけなのに。一年と()っていないはずなのに。

そこが自分の部屋だってわからなくなってた。

『寝息』に気付いて顔を倒すと、ベッドに()()うように弟が眠っていた。

衣擦(きぬず)れの音に反応して、彼は目を覚ました。

「…どうして?」

私は味方になってくれなかった彼を問い詰めた。

「エルクだったら……。」

言いかけて、自分が救いようのない恩知らずだってことに気付いた。

この子が()けつけてくれなかったら、皆を助けにいく前にあの門番に殺されてたっていうのに。

私がリッツに(いだ)いていた感情と、この子たちが私に向ける想いは少しも変わらないのに。

私だけが正しいように思えて…。

「…ごめん。」

彼は私を()めなかった。

おじいさんの魔法から護らなかったことを(あやま)ることもなく、私が無事(ぶじ)ならそれでいいとまた眠りに()いた。

 

おじいさんの言う通り、今なら私の本末転倒(ほんまつてんとう)さがよくわかる。

誰よりも私の(そば)にいたこの子だって、私に感化(かんか)されず、わかってた。

(そむ)けるはずのない『命令』にさえ背いてみせた。

それだけこの子は、いつだって()()()()()()(あん)じてる。

私の身勝手(みがって)自己犠牲(じこぎせい)なんかとは違う。

本当に私が望む先を見てるのはエルクでもおじいさんでも、祖父(おじいちゃん)でさえもない。

この子、ただ一人だけなのかもしれない。

 

それでも私は、一緒(いっしょ)(たたか)って欲しかった。

私の考えがどんなに間違っていても。

エルクだったら……

 

目覚めて数分、私は弟の頭を()で、踏みつけないように(また)いでベッドから出た。

ドアまで近づくと、(みょう)蒼白(あおじろ)い光が隙間(すきま)から()れていることに気付いた。

物音はなく、おじいさんの(かす)かな『寝息』だけが聞こえてきた。

「……」

パンディットは少しも警戒(けいかい)してなかったし、危険はないんだろうけれど…。

それでも私は若干(じゃっかん)緊張(きんちょう)を覚えながら扉を押した。

 

するとそこに、私の知らない世界があった。

 

部屋の壁が、タンスが椅子(いす)(つくえ)が…。部屋にあるもの全てが「浅瀬の蒼」(オーシャンブルー)(かがや)いていた。

暖炉(だんろ)の火は()いていないのに部屋は(まばゆ)い光で満たされていた。

老夫は部屋の中心で、木の枝で眠る(ヒョウ)のように、(ちゅう)に浮かぶ杖に横たわり眠っている。

杖は「空気」という波に乗る流木(りゅうぼく)のように、赤ん坊をあやすように、ユックリと上下している。

そして、部屋中で発光する蒼い光たちは銀河をつくる恒星(こうせい)のように、老夫という「世界の(かく)」に向かって渦を巻き、(そそ)がれていく。

蒼い光は、まるで(こわ)れていく老夫を()()()()()()()()()―――()(かえ)された砂浜を(なら)すように―――、老夫の(かわ)いた皮膚(ひふ)()()んでいく。

 

光に(つつ)まれる老夫は「世界」という際限(さいげん)のない力強さを見せつける一方(いっぽう)で、その光なしでは(かたち)(たも)てない泥人形のような(もろ)さも垣間(かいま)見せた。

そもそも、彼ほどに()(ほそ)った老人に化け物を相手にできる力などあるはずもなく。

ともすれば、「光」が本体で、「老夫」という(うつわ)(あやつ)っているのかもしれない。

そう錯覚(さっかく)させてしまうほどに、その光景は「老夫」という生き物を()()げていた。

 

「銀河」を知らない少女はそこに「沈没した神殿」を見ていた。老夫は神殿を守るように永い時を揺蕩(たゆた)う「大魚」。

南洋(なんよう)(あたた)かな青に(つつ)まれ、揺蕩う神秘的な光景は少女の心に巣食(すく)っていた老夫への疑心暗鬼(ぎしんあんき)を溶かしていった。

 

戸惑(とまど)いながらもリーザは一歩、部屋に足を踏み入れる。

すると、踏み入れた少女の一歩を中心に広がる波紋(はもん)が光を追い立て、全ての光が老夫の持つ数珠(じゅず)へと(かえ)っていく。

光が消えると、そこは少女の見慣(みな)れた「メルノの家」に戻っていた。

「……おお、目が覚めたか。」

眉に隠れ、(ひら)いたかどうかもわからない老夫の瞳は少女を(とら)えるとスルリと杖から(すべ)()り、椅子に腰かけた。

「…いつも今みたいな眠り方なんですか?」

少女の疑問は初々(ういうい)しく、老夫は思わず笑みをこぼした。

「いやいや、ワシもここ最近、大きく動き回っておってな。疲れが()まっておったんじゃよ。普段は老いぼれらしく大人しく眠るさ。」

老夫が答えても少女は(ほう)けた顔で老夫を見詰めていた。

「少しばかり(おどろ)かせてしまったか?」

少女は出会ったばかりの時、彼を悪人だと感じていた。

戦争を好む悪魔と同じ(たぐい)の生き物なのだと。

けれど―――、

「……おじいさんは…」

「ん?」

「…いいえ、なんでもありません。」

けれども、蒼い光に包まれる姿を見た今、彼に抱いていた確信的印象は大きく変わろうとしていた。

 

「大丈夫か?」

「え?」

「気持ちは、落ち着いたか?」

「あ、はい。すみませんでした。」

「なに、(あやま)る必要はない。(つか)まっておるのはお前さんにとって大切な人。取り乱すのは仕方のないことじゃないか。むしろ、もっと穏便(おんびん)に理解させられなかったワシに()があろうよ。」

少女自身、どうして謝っているのかわからなかった。

本音を言えば、今すぐにでも救出(きゅうしゅつ)に向かいたい気持ちは変わらない。

ただ、そうさせてもらえない現状(げんじょう)であることを把握(はあく)しただけ。

彼女を(おさ)()む彼らに悪意などなく、純粋(じゅんすい)に彼女の力になろうとしていることに気付いた。

だから大人しくしているだけなのだ。

その気付きの切っ掛けもまた、老夫を包んでいたあの蒼い光だった。

 

「どれ、()(のぼ)るまでもう少し時間がある。一つ、昔話でもしようかのう。」

「昔話?」

「そうじゃ。この村の女たちが『魔女』と呼ばれるようになった、たった一日の出来事をな。」

そんなこと、今さら教えてくれなくたって、この国に生まれた人なら誰だって知ってる。

(ふもと)の子どもたちは皆、両親からそれを聞かされるから、毎日の(いの)りの大切さを覚えるんだもの。

「神様」の大切さを知るんだもの。

おじいさんにそう伝えるけれど、おじいちゃんは話を()めようとはしなかった。

「彼らはその日、そこに()ったのか?一度でもお前さんらと酒を()わし、理解し合ったことがあるか?」

おじいさんは、まるで「暗黙(あんもく)の了解」を否定するような言葉を並べ始めた。

「出来事は、間に人を(はさ)めば挟むほどに(ゆが)んでいく。彼らが”生きる”ためにつくり変えられる。今、お前さんが知っておる”伝説”はそういった”道具(おとぎばなし)”にすぎん。真実ではないよ。」

…おじいさんは、そこにいたの?

それはいつの話なの?

「…それを知って、私は何か変わりますか?」

おじいさんは流れる顎髭(あごひげ)をユックリと()きながら答えた。

「人は、長い時間をかけ、積み重ねて成長していくものじゃ。たった一つ何かを知ったからといって簡単に変われるものではないよ。」

それは、「不幸」の多い私にとって救いになるのかどうかわからない。

だけど少なくとも、彼の力になるために「変わりたい私」にとって喜ばしくないことだっていうのは間違いなかった。

 

「ただ一つ言えるのは、お前さんは今ここで知りえる限りのことを知っておくべき、ということぐらいじゃな。」

全部?『伝説』は()()()()()()()()()()ってことも?

「どうして?」

「世の中には色んな人間がおる。」

急に、おじいさんは思い出したくない記憶を穿(ほしく)(かえ)すかのように溜め息を吐きながら続けた。

「無邪気であり続けるもの。人を(だま)すことに快感(かいかん)を覚えるもの。独占欲(どくせんよく)の強いもの。弱いもの。…様々(さまざm)じゃ。」

おじいさんが何歳なのかわからない。

だけど、こんなになるまで生きてきたおじいさんを、こんなにも『力』に護られてるおじいさんを(なや)ませるだけ多くの人がいるってことは十分に(つた)わってきた。

「お前さんがどんな人間になるのか。ワシにそこまで決める権限(けんげん)はない。それはお前さんにしか選ぶことのできんことだし、今、お前さんは大きな分岐点(ぶんきてん)に立っていることじゃろう。」

…私が?どんな人間になるのか?

エルクみたいに?祖父(おじい)ちゃんみたいに?

…それとも、おじいさんみたいに?

「そんな大切な時期(じき)に、それでもワシはお前さんをこの(みにく)い戦いに巻き込まなくてはならない。お前さんの『力』が必要なんじゃ。こればかりは譲ることができん。だからこそ―――、」

誰のために?

何のために?

「だからこそ、お前さんがここに居る間にワシが教えられることは教えておくべきかと、な。つまりはワシの一方的かつ身勝手な人情というだけのことよ。」

祖父(おじい)ちゃん……、

「前置きが長くてすまんのう。ジジイ、ババアは次の世代に残すことに必死で身勝手な生き物なんじゃよ。」

そう言って、私のための「昔話」は始まった。




※白い毛皮の甲虫→原作のモフリーのことです。
※ピンクの大男→原作のヘモジーのことです。


※銀河
銀河の形態には大きく分けて4種類あるらしいです。
渦巻(うずまき)銀河、楕円(だえん)銀河、レンズ銀河と、これらのどれにも属さない不規則銀河。
この中で今回採用したのは「渦巻銀河」です。
某忍者漫画「ナ○ト」の必殺技「螺旋丸」の生成時の様子を想像していただければわかりやすいかと。

簡単に言えば、中心にボール(実際には一定距離にある星の集団)があり、これに渦を巻いて吸い込まれるような形で存在する水(若い星であったり、その材料だったり)全体を指して一つの「渦巻銀河」を意味します。

※ゴーゲンの数珠
原作の「魔力の数珠」(ゴーゲンの専用装備)です。
アーク1ではラマダ寺(2への引き継ぎ可)。アーク2では初期装備になっています。

※メルノの家
リーザのフルネームは「リーザ・フローラ・メルノ(公式)」なので、「メルノ」は彼女の苗字に…なるはずです(^_^;)

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