少女の『悪夢』を名乗る
老婆らによる少女のための
「追う?追うって、どうやって?」
少女に老婆の『声』を聞くことはできなかった。
影となって消えた老婆を狼の鼻で追えるはずもなく、少女に『悪夢』を
だが、その様子を待ちかねていた魔法使いがやんわりと手を
「心配しなさんな。アレには
「…じゃあ、早く追いかけましょう。」
「そう
老夫はドアノブへと手を掛ける少女の後ろ髪を
「どうして?あの姿を見て、どうやって落ち着けって言うんですか?あの人たちはこの戦争を楽しんでる。おじいさんだって気付いてるんでしょ?あの人が…。今も村の皆があんな風に…。」
そうして
そして老夫もまた、ボードゲームを楽しむ一人なんだと決めつけ、少女は
狼をけしかけ、その
「今のお前さんを見たらあのババアはこういうじゃろうな。」
けれども、少女にはそれを実行する勇気がなかった。
仮に老夫の口をズタズタにできたとしても、少女や獣たちの命が無事である
少女の
「飛んで火に入る夏の虫、とな。」
見せつけた。
そして、少女も自分が
頭では「もっともだ」と理解できていた。
それでも、言葉や文字を
「皆が助けを求めて
「ワシは落ち着けとしか言うておらんじゃろうに…。そんな
「だったらどうしろって言うんです!?皆が死んでいくのを受け入れろって言うんですか!?」
もはや
その上で、取り乱す少女のための
「坊や、そこに
「え?」
老夫に言われて初めて、少女は壁の向こうにある部外者の『声』に気付いた。
「リッツ…。」
「ごめんなさい。でも、全部見てたよ。」
初めこそ後ろめたさで声を
「やっぱりお姉ちゃんってスゴイんだね!あんなおっかない化け物も追い払っちゃうんだもん!…おじいちゃんは何もしてなかったけどね。」
「コレコレ、坊や。ワシは大魔法使いじゃぞ?こんな小さな部屋で
少年は
「だから、坊やじゃないって言ってるじゃん!」
少女の関心が二人の茶番のような
少年が「ここにいる」ことが、彼女は何よりも許せなかった。
何もかもが自分の希望の逆を進もうとする現実にムシャクシャし始めていた。
「リッツ、私には近づかないでって言わなかった?どうして私の言うことを聞いてくれないの?」
口ばかりの老夫相手に
「だって、お姉ちゃんはやっぱり悪くないもん。悪いのはさっきのお化けたちなんでしょ?」
「それは……」
「お父さんとお母さんのことでウソを言ってた時は嫌だったけど。だけど僕はやっぱりお姉ちゃんの味方だよ!」
……味方?
「だから、ダメだって言ってるじゃない。」
味方って何?
エルクは…、私の何?
「僕にだって何かできるよ?」
「ダメだったら!」
「ヒッ!?」
少年の肩を『
初めて、子どものケンカにない本物の『力』に
…そうよ。
私もいつかアナタの言う「お化け」になる。
だから、これでいいの。
そうして見せた少年の顔は、少女も良く知っている。
ここに来るまでに
「…本当にお願い。もう、近づかないで。今度は本当に殺すかもしれない。私がそうしたくなくたって、私は私を止められないかもしれない。今のアナタならわかるでしょう?」
「……」
「誰も、殺したくないの。」
……ウソつき。
「だから、
……ウソつき。
「…お願い。」
『魔女』への恐怖と好きな人の助けになりたいのにという我が儘がせめぎ合い、少年は動けなくなってしまった。
「行きなさい。でないと、
白い毛皮の
二人に人間の表情はなく、
「……!」
またも走り去る少年の背中を見送るはめになった少女にはもはや誰が悪いのかわからなくなっていた。
「安心しなさい。この麓の町に下るまであの子を護るよう『魔法』をかけておいたでのう。」
その嘘の優しさを皮切りに、老夫は少女を問い詰め始めた。
「どうして少年を追い返す必要がある。」
「そんなの、危ないからに決まってるじゃないですか。」
「どうしてそう言い切れる。」
「どうしてって、おじいさんはあの子が化け物たちと戦えると思うんですか?」
「
「だったら…」
「だったら、ワシがなぜお前さんを引き止めたのか。聞き分けが悪いのはどちらか。今のお前さんになら分かるな?」
…「してやられた」少女はそう思わずにはいられなかった。
まんまと老夫の台本の通りに
おじいさんが『魔法』か何かであの子をここまで連れてきたんでしょう?
私を
でなきゃ、とてもじゃないけどあの
「言っておるじゃろう?お前さんには
「わからんでもいい。ワシを
その「世界」に私の大切な人はどれだけ残っているの?
「あの坊やもお前さんの身内も、そこに”世界”があってこその話。そうは思わんか?」
今、助けに行かなきゃ、その人たちだっていなくなるのよ?
今なら、私一人の
「こんな所でお前さんを失う訳にはいかんのじゃ。」
アークだって、ククルだっているじゃない。
今まで散々、アナタたちだけで「世界」を
「それでもお前さんはワシの
どうしてアナタはそんなに私一人にこだわるの?
「であるならワシもワシの『力』を護ることのために使わねばならなくなる。」
その時、少女は思った。
それなら、アナタが皆を助けてくれればいいのに。
その時、少女の中の
老夫は老婆とその仲間たちを
もしかしたら何らかの
けれど少女は老夫に、それを
「……どうするね?」
それでも、私は…
「行かなきゃ、みんなが…死んじゃうもの。」
私は死を
だって、私は間違ってないもの。
皆が助けを求めてるのは「今」なんだもの。「世界」は皆を助けた後だっていいじゃない。
皆のいない「世界」を助けたって、私に意味なんかない。
「私の世界」は、そこにしかないんだもの…。
みすみす言いなりになんてならない。
そんな私の無知と
「まったく、世話の焼ける…。」
トントン
直後、私の足元から白く
「待って!こ…れは…?み、んな……」
そこで、私の意識は
皆…、おじいさんの側に立っていた。
……目が覚めた時、そこにある
あの時のままなのに。花が
そこが自分の部屋だってわからなくなってた。
『寝息』に気付いて顔を倒すと、ベッドに
「…どうして?」
私は味方になってくれなかった彼を問い詰めた。
「エルクだったら……。」
言いかけて、自分が救いようのない恩知らずだってことに気付いた。
この子が
私がリッツに
私だけが正しいように思えて…。
「…ごめん。」
彼は私を
おじいさんの魔法から護らなかったことを
おじいさんの言う通り、今なら私の
誰よりも私の
それだけこの子は、いつだって
私の
本当に私が望む先を見てるのはエルクでもおじいさんでも、
この子、ただ一人だけなのかもしれない。
それでも私は、
私の考えがどんなに間違っていても。
エルクだったら……
目覚めて数分、私は弟の頭を
ドアまで近づくと、
物音はなく、おじいさんの
「……」
パンディットは少しも
それでも私は
するとそこに、私の知らない世界があった。
部屋の壁が、タンスが
老夫は部屋の中心で、木の枝で眠る
杖は「空気」という波に乗る
そして、部屋中で発光する蒼い光たちは銀河をつくる
蒼い光は、まるで
光に
そもそも、彼ほどに
ともすれば、「光」が本体で、「老夫」という
そう
「銀河」を知らない少女はそこに「沈没した神殿」を見ていた。老夫は神殿を守るように永い時を
すると、踏み入れた少女の一歩を中心に広がる
光が消えると、そこは少女の
「……おお、目が覚めたか。」
眉に隠れ、
「…いつも今みたいな眠り方なんですか?」
少女の疑問は
「いやいや、ワシもここ最近、大きく動き回っておってな。疲れが
老夫が答えても少女は
「少しばかり
少女は出会ったばかりの時、彼を悪人だと感じていた。
戦争を好む悪魔と同じ
けれど―――、
「……おじいさんは…」
「ん?」
「…いいえ、なんでもありません。」
けれども、蒼い光に包まれる姿を見た今、彼に抱いていた確信的印象は大きく変わろうとしていた。
「大丈夫か?」
「え?」
「気持ちは、落ち着いたか?」
「あ、はい。すみませんでした。」
「なに、
少女自身、どうして謝っているのかわからなかった。
本音を言えば、今すぐにでも
ただ、そうさせてもらえない
彼女を
だから大人しくしているだけなのだ。
その気付きの切っ掛けもまた、老夫を包んでいたあの蒼い光だった。
「どれ、
「昔話?」
「そうじゃ。この村の女たちが『魔女』と呼ばれるようになった、たった一日の出来事をな。」
そんなこと、今さら教えてくれなくたって、この国に生まれた人なら誰だって知ってる。
「神様」の大切さを知るんだもの。
おじいさんにそう伝えるけれど、おじいちゃんは話を
「彼らはその日、そこに
おじいさんは、まるで「
「出来事は、間に人を
…おじいさんは、そこにいたの?
それはいつの話なの?
「…それを知って、私は何か変わりますか?」
おじいさんは流れる
「人は、長い時間をかけ、積み重ねて成長していくものじゃ。たった一つ何かを知ったからといって簡単に変われるものではないよ。」
それは、「不幸」の多い私にとって救いになるのかどうかわからない。
だけど少なくとも、彼の力になるために「変わりたい私」にとって喜ばしくないことだっていうのは間違いなかった。
「ただ一つ言えるのは、お前さんは今ここで知りえる限りのことを知っておくべき、ということぐらいじゃな。」
全部?『伝説』は
「どうして?」
「世の中には色んな人間がおる。」
急に、おじいさんは思い出したくない記憶を
「無邪気であり続けるもの。人を
おじいさんが何歳なのかわからない。
だけど、こんなになるまで生きてきたおじいさんを、こんなにも『力』に護られてるおじいさんを
「お前さんがどんな人間になるのか。ワシにそこまで決める
…私が?どんな人間になるのか?
エルクみたいに?
…それとも、おじいさんみたいに?
「そんな大切な
誰のために?
何のために?
「だからこそ、お前さんがここに居る間にワシが教えられることは教えておくべきかと、な。つまりはワシの一方的かつ身勝手な人情というだけのことよ。」
…
「前置きが長くてすまんのう。ジジイ、ババアは次の世代に残すことに必死で身勝手な生き物なんじゃよ。」
そう言って、私のための「昔話」は始まった。
※白い毛皮の甲虫→原作のモフリーのことです。
※ピンクの大男→原作のヘモジーのことです。
※銀河
銀河の形態には大きく分けて4種類あるらしいです。
この中で今回採用したのは「渦巻銀河」です。
某忍者漫画「ナ○ト」の必殺技「螺旋丸」の生成時の様子を想像していただければわかりやすいかと。
簡単に言えば、中心にボール(実際には一定距離にある星の集団)があり、これに渦を巻いて吸い込まれるような形で存在する水(若い星であったり、その材料だったり)全体を指して一つの「渦巻銀河」を意味します。
※ゴーゲンの数珠
原作の「魔力の数珠」(ゴーゲンの専用装備)です。
アーク1ではラマダ寺(2への引き継ぎ可)。アーク2では初期装備になっています。
※メルノの家
リーザのフルネームは「リーザ・フローラ・メルノ(公式)」なので、「メルノ」は彼女の苗字に…なるはずです(^_^;)