――――
「なんじゃ、こんな所におったんかい。…少しは眠れたんか?」
チョンガラは会議室の中央に
「…どうしたんじゃ、もう
リーザは彼の声に耳を
「こんなに、戦ったんですか?」
「…そうじゃのう。全部が全部、勝利とはいかなんだが、それでもワシらはできるだけのことはしてきたな。」
「どうしてですか?」
「…さあのう、ワシらしか、戦う者がおらんかったからかのう。それに、ワシらが止めなんだら、今頃はとっくに”世界”は”ロマリア”っちゅう言葉で
「…誰か、
「
今、この船が
足元に
「助けられなかったんですか?」
撫でていた柔らかな手はゆっくりと閉じ、
「……」
「…ごめんなさい。私、少し頭がオカシクなってるんです。」
男に振り返り、少女は
「あの
「……」
「でも、それは我がままですよね?自分たちの問題を他人に解決してもらおうなんて、私、
「
チョンガラは金髪の少女を振り向かせ、その
「最強のワシらにだってできんことはある。それと同じように、嬢ちゃんにもどうしようもないことの一つや二つは必ずある。」
長い年月、砂漠の風に
撫でるでもなく、ただただ置かれた掌から、男がその目に焼き付けてきた死者たちの
けれども、語るその瞳は落ち着いていて、それでいて騎士を
「戦っている内に、戦うことに必死になって、ワシの心を
死者への想いはなく、
「ならば、ワシらは一体
「……」
「『聞こえとるんじゃろう』?それがワシの答えじゃ。そして、お前さんをここまで送ろうと決めた理由でもある。」
「…ありがとうございます。チョンガラさん。」
少女はソッと男から離れ、
「な、なに。
それはいつもの
「フフフ。」
「…嬢ちゃん、その笑顔はあんまり
男はその表情の裏で下品な感情を必死に追い払うことに
それを『知っていながら』、少女は彼を
「大丈夫ですよ。私はアナタが良い人だって『知ってますから』。」
「…その『耳』は少し
「ごめんなさい。なんだか、久しぶりに
少女は礼を言うと、やや軽い足取りで客室へと戻っていった。
彼女の足に合わせて
「
胸の内で天敵への
「チョンガラさん、聞こえてますよ。」
それを前にすると元商人は
「…
「フフフ。」
この時見せた少女の笑みはこの
もしかすると、こんな気持ちになったのは村を出てから初めてのことかもしれない。
エルクのことは好きだけど、この気持ちはその言葉じゃ届かないところにあるんだって初めて知った。
それくらい、あの人は「いい人」だと思えた。
会議室を後にすると、リーザは一歩後ろを歩く狼を静かに抱きしめた。
「……ごめんね。お前のことも大事だって思ってる。だけど、あの人が言ったみたいに、皆それぞれできることとできないことがあるんだと思うの。だから、許して。」
狼は甘えるようにピスピスと鼻を鳴らし、その鼻先を少女の
「もちろん、皆のことも
二人を
――――フォーレス南部、パルパスト
とても静かに、天使が雪の上に
四方八方を
けれど、ここに降りる直前、遠く遠くに薄っすらと、町明かりのようなものがあったのを目にした。
フォーレスは風習的に夜遅くまで起きている人は少ない。
だからあれだけ弱々しい光しか見えなくても、ここから大体10㎞くらいしか離れていないんだと思う。
「私どもが送れるのはここまでです。どうか
「無茶をするんじゃないぞい。」
二人は
やっぱり、
それでもなるべく私の
多くを語ってくれるような人たちじゃなかったけれど、化け物のような私にも優しさを
そんな人たちの乗る白銀の船体も、みるみる間に暗闇の中に溶けていく。
見送っているとなんだか取り残されたような
「キキィ」
「…そうだね、行こうか。」
…多分、こんな風に立ち止まりがちな私の背中を
人間って不思議だな。
――――愛する心を
私が彼を問い詰めた時、彼はそう『答えた』。
あの人たちは自分たちが「人間」であることを
心の底から感謝してた。
初めこそ、精霊や
それが
だけど、戦うにつれ、戦場を目にするにつれ、彼らも変わっていったんだ。
それは、「生まれてきた意味」を探す生き方とは少し違う。
皆、その先にある「光」を
「世界平和」はその道すがらに横たわっているだけで、それがゴールじゃない。
大人になるために、この人たちは
……だから私は、彼らが望んで私の村を見捨てたんじゃないってこともキチンと理解しなきゃいけない。
仕方ないことだったんだ。
いくら
それと同じこと。
そして、護れなかった彼らが悪いんじゃない。
自分の身を護ることができなかった私たちが悪い訳でもない。
全部、傷つけることでしか会話ができない化け物たちと、分かり合えない世界なろうとする「この
…だったら、
畑の麦を実らせるために虫を殺すように、私も勇者のための
…ううん、違う。
ならなきゃいけないんだ。
彼の命を護るために。
私が「幸せ」と呼べる
私たちが大人になるために。
今の『私』にならできる。
それを胸に
2、3時間は歩いたかもしれない。
真夜中よりも少し
「キキィ」
「…ごめんね。どうしても、気になっちゃって。」
チョンガラさんには先に
「ダメかな?」
「キキィ」
心の
この子たちはそれを隠すことなく否定した。
…
私の『力』に
ケラックとモフリーは私の『お願い』よりも、チョンガラさんの
「…そうだね。そうする。ごめんね、我がまま言って。」
少し
だけどそのお
それに―――これも心の何処かで―――、ほんの少し「喜び」のようなものも感じていた。
私の『声』に反発する存在が増えてくれることに対して。
…そう、少しずつでいい。
変わらなきゃ。
周りの人たちの言葉を頼りに。
何か少しでも私が変われば、もしかしたら、この『力』も良い方向に働くかもしれない。
怖がってたって『悪夢』は消えてくれない。
立ち向かっていかなきゃ、永遠に私は夢の中を
本当に幸せを
1、2回の短い
ここに来るまでに
だから多分、シルバーノアのことはバレていないし、私が
町の向こう
同時に、それは私の胸を
黒い船が空を
力も勇気もなく「運命」に押し流されてしまったあの日。
――――フォーレス国、ラムール町
「お早うございます、旅の方。旅の疲れを
朝日が町の川底を泳ぐ魚の目に届く頃、少女たちは町に辿りついた。
資源に
フォーレスには
さらに、国を取り囲む白い
そのため、東アルディアやロマリアのような
つまり、
他国はこれを注意するものの、未だ目立った問題を
「お早うございます。あの…、私、ちょっと歩き疲れてて。この近くに
不法入国を隠す少女は不自然に声を震わせながら
「あら、そうなの?もちろん知ってるわ。」
けれども花売りの少女にそれを気にする様子はなく、少し大き過ぎる大型犬を連れた少女の問いに
「ところで、アナタ、どこから来たの?」
「…え?」
「その…、アルディアの方から……」
「アルディア?確かに
花売りの娘は、少し大きめのモップを片手にやって来た少女に初めて
フォーレスは
オルトアもフェルアムールもその村々の内の一つ。
そもそもフォーレスの国民はその半数以上がラムールに
さらに、箱庭のように国の
ここ数日、
あまつさえ、「私は
ところが―――、
「…まあ、別にいいんだけどね。」
「え?」
「それよりさ、お花、買ってくれない?私たちの出会いの記念にと思ってさ。」
「あ、うん。じゃあ、この花を。」
リーザは彼女もよく知る
「この花を選ぶなんて、アナタやっぱりフォーレスの人間よね。」
彼女が選んだのはフォーレスの
花言葉は「祈りを
宗教国家として有名なフォーレスは何よりも国に根ざす「神」への祈りを重んじる。
そんな彼らにとって「祈り」は
その後は無難な対応で花屋と別れることのできたリーザは真っ直ぐに宿屋へと向かった。
「…さっきはありがとね。助かったわ。」
彼女は数歩後ろを歩く
「ヘモォ~?」
「そうよ。お陰で変に言い合わなくてすんだわ。」
ピンク色の大男が無意識にもたらした『混乱』は、
主人のピンチだけでなく、彼女に
リーザはただ、彼らの元主人の言葉を信じ、言われるままにしただけだった。
だからこそ彼らが
だが―――、
「でも、どこかでアナタの『力』を
リーザやチョンガラはその化け物と『力』で繋がっているからこそ、その
リーザのように「連れ」を隠せない魔女にとって、その『力』は都合が良い一方で、今後、協力し合えるかもしれない相手との関係を悪化させるという
「…でも、チョンガラさんといた時はどうしてたの?」
「ヘンモォ~」
ピンクの大男
彼らの『力』は呪いに近く、もちろんその対処法も存在していた。
この世には、彼らの呪いを
「もしかしてなんだけど、その石、チョンガラさんは持っていたりしないの?」
「…ヘモォ~」
「……そう。」
彼と出会って初めて、リーザは彼の
―――ラムール町、宿屋「
「……不思議。」
窓の外に広がる
この町は私たちを「魔女」呼ばわりしてきた人たちの町なのに。
どうしてだか、
おじいちゃんが嫌ってた人たちのはずなのに……。
「なんでだろうね。」
私は窓の
明日こそ、私は村に帰る。
でもそれは本当の意味の帰郷じゃない。
エルクの助けになるために。私が強くなるために。私は「
その日は、今までの危険な日々が嘘のように
※パルパスト平原
原作にはありません。勝手につくりました(笑)
※形骸化
その事柄、物質がそもそも持っているはずの機能、性質がほとんど失われている状態。
上辺だけを見繕っている状態。
※オルトアかフェルアムール
フォーレスに存在する村の名前です。
原作にはありません。勝手につくりましたパート2(笑)
※国花(こっか)
国の象徴となる花。
一例を挙げるなら、日本では桜、イギリスならバラ。
※フォーリア(花)
原作にはありま……す!勝手につくってません♪
「祈りを捧げます」という花言葉も原作のままです。
※ヘモジーの『混乱』対策
原作では「アンチヘモジー」というアクセサリーで「ヘモジー化」という状態異常を回避することができます。
(もしくは「やる気ゼリー」という消費アイテムで回復)
このアクセサリーをアイテム鑑定すると、「ヘモタイト」という宝石(つまり鉱石ですよね?)をアミュレットの材料にしたものという説明があったので流用させていただきました。
「アミュレット」→ラテン語で「保護」や「加護」を意味する。要するにお守りですね。
※宿「喜劇の裏側」
ほんの少しネタバレになってしまうかもしれませんが、
原作中、ハンターの仕事の中に「ベリンガル笑劇場」という施設が登場します。
フランスのパリで歌劇場を指す「オペラ座」付近のホテルはこれをもじった名前のホテルが多くあるみたいで、今回はそれに倣ってみました。
ちなみに私の感覚でフォーレスは、アルプス山脈を抱えるフランスからオーストリア辺りのヨーロッパのイメージで書いています。
※あとがき
チョンガラの喋り方がわからない(笑)