――――スメリア国、トウヴィル村
しかし、村の
神殿は
しかし神殿には、
そこに、
――――神殿の
「……私ね、フォーレスのホルンっていう小さな村で育ったの。」
窓もない、石壁に
少女、リーザは
数年前まで、
「雪山に囲まれたところにある村でね、一年を通して寒い地域なの。
でもね、いつも気持ちいい風が吹いてたのよ。
風車のよく回る日は人も犬もみんな一日中、原っぱで
何も考えないで。土と草、おじいちゃんの作るスープの臭いと、羊たちの草を
村は基本的に
土地は
寒い時はみんなで
…そう、今思えば、みんなが一つの家族だったのかも……。」
少女は
そして、汗で顔に張り付いた彼の髪を指先でソッと払うと、少女は下唇を強く
「あの日…、あの人たちが来るまでは……。」
――――ある日、
「魔女狩り」
彼らはその
彼らは村人を
「連れて行かれる人たちは
その姿を見たら、あぁ、なるほど。私たちは化け物なんだなって、どうしてだか
長時間、
「村を、たくさん
残された人はみんな、みんな、泣いてた。
『
……
どんなことをされるか分からないのに、大人たちの『不安な声』が、「大人の世界」を知らない私をたくさん怖がらせたの。」
けれども彼らは、村を
村のおおよそ半数を
まるで、
「彼らはまたやって来る」
残された村人は連れていかれた仲間を助けることよりも、次の「狩り」を不安に感じ、村を捨てることを決意した。
ところが、兵士たちは
安全なつり橋は落とされ、
ホルンを囲む
魔女の力でもって脱出を
彼女たちへの
「……どうしてワシらをソッとしておいてくれないんだ」
村は抵抗を
――――そうしてやって来た二度目の「狩り」、そこで少女は彼らの目に
「私、抵抗しようとしたの。でも、私が
私、おじいちゃんを傷つけたくなくて…。
あの麻袋を被せられた時、私、
私は何をしてもこうなる運命だったんだって。」
少女は少年の額に手を当てる。
「ミ……。」
すると、少年は別の少女の名前を『口にした』。
「……」
少女の目尻から
「…そこは、私の
「……」
少女のそれも例外ではなく、少年の『声』を聞くことはできても、少女の『声』を彼の耳に
それでも、近付いてくる
目元を
「おはよう。少しは眠れたかしら?」
「……」
二人の前に現れたのは神殿の
であるにも
ククル・リル・ワイト。トウヴィル村の
「…そう。まだグズってるのね。」
用意した食事にも手を
「
ミリルのいない世界。
彼がそんな世界に帰ってくるわけがない。
こんなにも長い間、悪夢にうなされている少年の姿を見て、少女はそんな想いに
だから、彼の
眠気に
目を開けた瞬間、目の前から少年が消えてしまっている……。
そんな
今、少年を
「だから、アナタが
「……」
「何?」
多くの
「どうしたの?こんなことを言う私が
聖女は
「そうやって誰かを憎んでいれば、メソメソしていれば誰かが護ってくれると思っているんでしょ?」
「……」
「子どもね。そんなんじゃあ、
彼女は無意識に『力』で彼を
彼女の『無意識』は、自分を護る兵隊を欲している。
それに、彼は『人の心を
私なんか―――。
「そしてまた、彼の悪夢を増やすだけ。」
…そう。
この
名前や性格が違っても、彼は私を見てあの人を思い出す。
そんな私が、この『力』で化け物を
そんな姿が、彼の
どんなに彼が私を受け入れてくれたって、私は彼の助けにはなれない。
私が、「リーザ・フローラ・メルノ」である限り。
それでも私は――――、
「…私、何をすればいいんですか?」
「それを自分で考えることが大事なんじゃないの?…彼と、
聖女は少女の傍を
ソレは常に少女の
どれだけ邪魔だと言われようと。どれだけ『外』に追いやられようと。
……私、この子に
エルクがいなくなるのが怖くて。
エルクのことしか頭になくて。
…私、
ヤゴス島でも同じことをしたのに。
エルクを護りたくて、ボロボロのこの子に無茶をさせて
それなのに……。
―――リリー……。
狼は少女の小さな手を
「…パンディット。」
「私、逃げられないの?」
狼がなおも少女の手を舐め、なだめ続ける一方で、同じ人間である聖女はその
「今まで、
言いがかりのようにも聞こえた。
でも、それは
少女が強い心を持ってさえいれば、少なくとも少年が死線をさまようことはなかった。
ガルアーノ
ヤゴス島の
それができる『力』を、少女は持っていたにも拘わらず……。
「…だったら、アナタたちはどういう理由であの人たちと
「そんな風に見える?そうかもね。今のアナタの目はヒトの目をしていない。自分しか見えていないものね。私たちとアイツらの区別なんてつくはずないわ。」
私がオカシイの?…ううん。そんなの、
だって、そうじゃない。
私たちは何にもしてない。
あの人たちも、この人たちも何にもしなかったらこんな争いには巻き込まれなかったし、そもそも争い自体起きてない。
私たちはただの被害者じゃない。
「なんでハッキリ答えてくれないんですか?」
「アナタが子どもだからよ。」
…どうしてそんなことが言えるの?
「言いたいことは分かるわ。私も他人に
無茶苦茶だわ。
身を護ってる私たちが子どもで、殺し合いをしてるこの人たちが大人。
この人はそう言ってるの?
それが正しいと思ってるの?
「全てはアナタの受け取り方しだいよ。」
「……」
…でも、私も
”白い家”でエルクを護ってあげられなかった。
ヤゴス島でパンディットに無茶をさせた。
おじいちゃんや、みんなを助けてあげられなかった。
それなのに、たくさん、殺した。
…でも、だから私は「子ども」なの?
「自分で答えを見つけない子どもはいつかアナタの嫌いな大人になる。
聖女は同じような人種を多く見てきた。彼らの
そして、自分もその一人だということも自覚していた。
「私がもっと理性的だったら、こんなにも
「私がもっと周りの声を
「こんなことには……」
全ては自分の中の
もちろん、全ての人間が同じような性格をしているとも思っていない。
けれども、少なくとも、目の前の少女は自分と同じ…いや、もっとひどい
「私が?あの人たちみたいに?」
しかし少女もまた、
エゴイストの
それでも自分自身がそうである自覚は少しもなかった。
……無視、してきたのかもしれない。
自分の中の「
そんな醜い自分を隠すために、
無意識に…、そうしてきたのかもしれない。
それが、この人の言いたいこと?
私を「子ども」だって言う理由?
「私は、違う。みんなを傷つけたりしない。」
「そのために、アナタは何をするの?何ができるの?」
「……殺します。あの人たちを。…だって、それしか方法はないんですよね?」
「そう。それが今のアナタの答えなのね。」
聖女は溜め息を吐き、
「教えてください。私、何がいけないんですか?」
どうして私はこんなにもこの人に食い下がっているんだろう。
他人なのに。
犯罪者の仲間なのに。
殺してしまったって、私は何も悪くない。
…でも、エルクを助けてくれた。
私が間違えてしまったことを、正してくれた。
だから、わからない。
「本当は、アナタたちも、あの人たちも仲間じゃないんですか?」
「……」
「こうやって、私たちを”子ども”呼ばわりして。
こんなにも返しやすく、返さなきゃいけない疑問を投げかけてるのに。
彼女は
「沢山、
私たちを苦しめることしかしない。
「だけど、悩んで
それじゃあ、エルクは?
こんなにあの人のことでうなされている彼はいつか、幸せになれるの?
「少なくとも、私はそうなると信じてる。」
本当に?
「私もアークの隣で戦うと決めた時、たくさん、たくさん悩んで。あの人の横顔をたくさん見て、決心したわ。」
本当に?
「どんなに
…本当に?
「それを、信じても良いんですか?」
「言ったでしょ?悩みなさい。アタシの言葉も、アナタの心も。」
…わからない。
自分のことも、彼のことも。
この人のことも、世界のことも。
どうしてこんなに考えなきゃいけないの?
どうしてそんなに人を傷つけたがるの?
悩む少女を残し、巫女は部屋を後にする。
「もう一つ、教えてあげるわ。」
そう言って振り返るククルは、リーザに対して初めての笑顔を向けた。
「勇気ある行動は、人を変えるのよ。」
※深雪(みゆき)
深く、降り積もった雪。
※認める(したためる)
手紙や書類に書き記すこと。
昔は偉い人が何かを書く時は家来に書かせて、本人は書いたものを確認して「認める(みとめる)」「サインする」というのが主流だったそうです。
※名家(めいか)
その道に優れた家系。家柄。名門。
※シャーマン
超自然的な力を使って、病人や様々な悩みを抱えた人の問題を解決する人(役職)のこと。
※朝廷(ちょうてい)
日本の場合、天皇・貴族が政治を取り仕切る場所のこと。
ちなみに、武士が政治を行う場所を「幕府」と言います。
※あとがき
……う~ん、何を書いているんだろう(^_^;)(笑)