――――”無人の館”付近
町からここまで、岩場にさえ連中の
アタシを
それが、
もしくは「グルガ」って
何にしても、敵が一か所に集まってる状況は、今のアタシにとってあまり良い条件じゃない。
「おねーさん。」
「…なに。」
コイツの能力を
…まあ逆に考えてみれば、敵の
「ちょこ、おしっこ行きたくなっちゃったの。」
「……ハァ。」
このタイミングで呼ぶからてっきり「何か」見つけたのかと思ったじゃないか。
「その辺の草むらでコッソリしてきな。」
「はーい。……コソコソ。」
性格こそネジが外れてるけれど…。外れてるからこそ、聞くよりも見る方が早いと思ってたのだけれど。
それでも
だけど、どういった感じの『力』なのか分からない。
元が化け物の王女だというし、アクラ―――おそらくちょこの
それに、あの森の仕掛けだって、コイツが
なんせ、「白い家」の連中が
「……なあ、もしも悪いヤツが来たらアンタはどうやってやっつけるつもりなんだい?」
念のため…、念のために聞いてみた。
「うーんとね、グルグルーってしてポコポコーってするの。そしたらみんなヒエーってなるよ。」
…もしかしたら、
「火や水を自由に
「できるよ。ちょこがお願いすればみんなが手伝ってくれるの。」
精霊と会話できるタイプか。
それが分かっただけでも聞いてみる価値はあった。
「でもね、」
「ん?」
「ちょこ、みんなが嫌がることは絶対言わないよ。」
…精霊が嫌がること?
「
「キレイな花はみんな大好きだからイジめちゃダメなの。」
「あとは?」
「雨の日はあったかい子たちは眠そうにしてるから起こしちゃダメなの。」
『力』の
基本的に悪環境では精霊は
逆に、精霊との関係が
ちょこの場合、精霊との関係を重視する”友好派”ってことだ。
「オーケー、大体わかったわ。」
「でもね、楽しいことはみんな大好きだよ!」
「わかった、わかった。」
精霊が「戦闘」をどう
少なくとも「自然を破壊する
「キメラ化計画」だって十分に
まあ、精霊どもにそれが理解できるだけの知能があるのかどうかもわからないけれど。
むしろ、それが
「行かないの?」
アタシとちょこは今、犬の鼻でさえ見つけられないくらい館から離れた
アタシが
「まあ、待ちな。悪いヤツがお姫様をどこに隠してるかわからないと意味がないだろ?」
「悪い人にお姫さまはどこですかって聞いちゃいけないの?」
「…大人の悪いヤツはみんな
「ふーん。」
いかにも学ぶ幼児のような様子を見せちゃいるけれど、
でなきゃ何百年も「子ども」のままで
「進め」と「止まれ」、アタシの命令はやはりこの二つに
今頃、彼は賞金を手にしてエレナの待つ
宿に着いた彼は
理性を
すると奴らは必ずエレナを出してくる。
そうして
一番ベタだけど、連中にとってエレナの使い道は他にない。
だから、アタシはそうなる前に連中の切り札を
彼を
とはいえ、アタシ一人で10人以上の化け物を出し抜こうなんてバカげてる。
それでもアタシがやらなきゃ二人は
そのために、アタシは本当にしなきゃいけないことを後回しにしてまで、こんなことをしてるんだ。
「……いいかい、ちょこ。今から言うことをよく聞くんだよ。」
「うんうん。」
アタシは作戦の
コイツとの
「いいかい?今言った通りにするんだよ。」
「わかったの!」
アタシはちょこを茂みに残し、
館の周囲には数人の見張りがいるものの、それさえやり
分かりやすい罠だ。
館の中の20以上の
その息遣いは、
でも、だからこそ、たった一つの「
「…あそこか。」
わかったけれど、これ以上は近づけない。
連中の注意が何かに
だからアタシは「その時」が来るまで息を殺して待つことにした。
ところが―――、
『そんな所でコソコソとする必要はない。今、そちらに
…アタシを眠らせたヤツの声だ。
一秒たりとも茂みから離れなかったのに。
それなのに……、どうやって見つかったっての?
『
シュウのガルアーノの
あそこの
シュウが完璧すぎたのか。それともアタシが無能すぎたのか。
なんにしても、まさかこんなに早く見つかるなんて予定外だ。
『彼がやって来るまで
ヤツの声に合わせて見張りがユックリとアタシに近づいてくる。
……これまでか。
「…まさか本当にいるとはな。」
「リーダーの
見張りたちは身動きの取れないアタシをあっさりと見つけ出し、アタシもまた、大人しく連中の「リーダー」の
館の中は思った以上に手入れが
広い天井に
そしてこの屋敷の「リーダー」は、中央広間の
「つまらない
「…好きにすればいいさ。」
直感、というか。なんというか。
この「リーダー」はおそらくアタシの『竜を殺した力』と似たような魔法が
だからこそ、アタシを見つけられたんだと思う。
「さて、まずは我々の
「…意味のない会話はしなんじゃなかったのかい?」
コイツらがアタシをあの森にぶち込んでおいて、グルナデよりも先にアタシがここに顔を出した意味を考えればその答えは
意図を理解したリーダーは
「ならば単刀直入に聞くが、彼女は今どこにいる。」
「…それも
取り出した紙タバコに火を
「ふむ、ならば私はなんと
「普通に言えばいいのさ。欲しいんだろ?魔王”アクラ”が。」
その名前を出すと、周囲の男たちは分かりやすく
「でも、アンタらにアイツは渡せないよ。アイツは今のアタシの切り札だからね。」
リーダーはアタシから視線を
「…
「そうでもないさ。」
連中にとってアタシからちょこを
奪うだけなら。
それじゃ意味がないからアイツは今、アタシのとっておきの「武器」なんだ。
「アタシだって一生アイツと付き合っていくつもりはないからね。アタシの用事さえすめばアンタらに
「…何をすればいい?」
「アタシをガルアーノの所まで連れていきな。」
するとリーダーは
「キサマのみならまだしも、あの怪物を連れてボスの所へ?我々がそれを許すと?」
「
リーダーはようやくタバコを
「交渉以前の問題だ。たかが戦力増強のためになぜ自分たちの首を
「たかが戦力増強?…そうじゃないだろ?」
20近い化け物に囲まれながらも、アタシは強気な
「どういう意味だ?」
アタシは「リーダー」から
「一つ、アンタらに彼を確実に捕まえられるほどの
そもそもコイツらの回りくどい
「それがどうした?我々が失敗しても、
だけど、コイツと
「そうかしら?いや、そうだろうね。だけどアタシが思うに、次の奴に
「…なぜそう思う。」
アタシはまた、
その時、
―――遠くで、
初め、彼はただの実験材料なんだろうと思ってた。
わざわざ武闘大会に彼を出場させるのも、彼という罠を使って出場者に何らかの交渉を持ち掛ける「
だけど、違う。コイツらの本当の狙いは、
「戦争の切っ掛けが欲しいんだろ?”ブラキアの
だって、彼を捕まえるだけならそれに見合う『力』を用意すればいい。
エレナを利用する必要はない。
わざわざ武闘大会に出場させる意味もない。
「……」
「今のロマリアは
アタシが言葉を
弓の
もう一つ、この男と話して覚えた違和感。
それは、
「二つ、アンタはガルアーノに
ちょこは
だけど上手く
連中にとってこれほど
結果的にグルナデはアタシが邪魔するまでもなく失敗しているけれど、コイツのしたことは一種の裏切り。
つまり、こういうことだ。
「アンタは思ったんだ。もしも自分の手でガルアーノを殺せるのだとしたなら、”
すると、リーダーはマママンさながらに感情の
その音は屋敷内に響き渡り、張りつめた空気をそのままに、ドス黒く
「なるほど、キサマは
―――地響きは近付き、
「おおよそ、キサマの言う通りだ。会場には
ここにきてやくアタシは気付いた。
リーダー、そしてアタシが吸っているこの煙は一種の
息をするほどに考え事が
でも、アタシの体質上、「
それはこの男も知ってるはず。
「そして愛する娘の命を奪った事実は彼をテロリストに変える。彼の実力は本物だ。我々が演出せずとも、彼の
…だったらどうして?
こんなアタシにでさえこれだけの
この男には
「そうすれば我々は
どうして自分から手の内を
「さらにロマリアは
まるでアタシじゃなく、連中が進んで負けを
「だが一つ、キサマは間違ている。」
今もまだ、「震える息遣い」の周りには数人の化け物が張り付いてる。
「キサマは言ったな。私が面白半分でボスを消そうとしていると。」
目の前にいる20以上の化け物どもの
さらに、20人が広間を満たす二酸化炭素は今にも
そして、リーダーは物言えぬ彼らの意思を
「違うな。我々は
その感情的なセリフは
「我々は人形だ。
リーダーは吸い込んだ煙を飲み込み、肺から血へ。血から心臓へと送る。
「そして、人形は主人に
…まさか……、
「初めから、殺されるつもり?彼の逃げ場を
それが結果的にあの悪魔の
それがコイツらの、
十分な備えも与えられず、それでも彼の怒りを買うような行動に出たのもそれが理由?
すると、リーダーは不意に大声を上げて笑い出した。
「理解されるということが、スムーズな会話という
「…気味悪い言い方をするんじゃないよ。」
「いや、すまない。だが、この感情は実に
逆にアタシは、コイツらの
「ボスがキサマを
コイツらは
与えられた運命に
殺すのはそれを満たす手段の一つにすぎない。
殺すことで自分に、他人に
例え、殺す対象が自分自身だったとしても。
「…一つ、聞きたいことがある。」
―――そして、断末魔は無言の
「なんだ。」
「どうして今の内にエレナを殺しておかないんだい?」
これが今、一番納得できない疑問だった。
もしも本当に彼を「復讐者」にしたいのなら、ガーレッジに伝言を残した時点でエレナに価値なんかない。
どうして彼を「復讐者」から遠ざけるような仕掛けを残しておくのか。
「そうだな。その
リーダーのタバコを持つ手が
それは歪んだ喜びを
…それとも、
そこまでは分からない。
「ボスの意に反し、苛立たせる。それもまた、ボスの遊びをより引き立たせるのかもしれないと。」
だけど、これだけはハッキリしている。
「我々はアレをガルアーノ様の元へ送る。
…そう。
数分後、アタシたちの足元にある百万の絨毯が呪われた
直後、バキバキと
「これから、彼は完全な怪物と化す。うっかり喰われぬようキサマも気をつけることだな。」
一本のタバコを吸い終わり、リーダーは立ち上がった。
造られた命を
―――エレナは……、どこだ
それは
※魔法と精霊の違い
魔法は環境を捻じ曲げて発現させる人工的な力。
精霊は周囲の環境に応じてその力の度合いが左右される超自然的力。
精霊自身に意思があるので彼らを尊重しない行使は力が半減する。
……みたいな設定にしていたと思います(笑)
ただ、(ネタバレなのか分かりませんが)ちょこは精霊使いじゃありません。
ちょこが自然を自分の中で擬人化しているだけです。
※漁夫の利(ぎょふのり)
他人が争っている隙に第三者が利益をかすめ取っていくこと。
※軍備(ぐんび)
兵員、各種兵器、施設、装備などの軍事に関わる全ての備えのこと。
※対戦車犬(または爆弾犬)
背中に爆薬を取り付け、敵戦車の下に潜り込んむ動作で起爆するように仕掛けた爆弾。またはそのように訓練した犬のこと。
シャンテはちょこの、敵兵の油断を誘う子ども子どもした容姿と、愛らしい犬をかけてこの表現を使ったみたいですね。
余談ですが、
ソ連がこれを起用した際、それなりの成果は上げたものの、動く敵戦車に怯えて自軍の陣営に戻ってきたり、訓練通り自軍の戦車の下に潜ったりと失敗も多くあったようです。
※志向(しこう)
考えや気持ちが目標に向けられること。
目標を実現しようとする考えや気持ち。
向上心に似た意味。
※あとがき
迷走しました(笑)