聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

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潮騒の家 その七

「こっちこっちー!もうすぐ出口なの♪」

アタシ一人ではどうにもできなかった魔法の森も、ちょこに手を引かれるだけであっさりと抜けられた。

途中(とちゅう)、ちょこはあの墓地(ぼち)()りたいと言ってきたけど、なんとなく止めておいた。

「なんでー?」

「なんででも。町に着いたら好きなものを買ってやるからさ。」

「ほんと!?」

あんなことがあった後だってのに、ちょこの感情に変化らしいものが見て取れないのは不思議なように思えた。

アタシにとっては今のままの方が(あやつ)りやすいとは思う。

だけどその一方で、やりにくさもまた間違いなく感じている。

(つか)みどころのない子ども子どもした性格にではなく、そうあろうとする「ちょこ」でない部分に。

後ろめたさや罪悪感(ざいあくかん)じゃない。

どこか自分自身にナイフを()きつけているような。

本能的な躊躇(ためら)いがアタシの復讐(もくてき)(にぶ)らせている…気がする。

 

だけど、アタシはコレを「武器」にすると決めたんだ。

シュウやアークみたいな主義(しゅぎ)思想(しそう)のあるヤツは必ずどこかでアタシの邪魔(じゃま)をする。

そういう意味でコイツはアタシにとってこれ以上にないくらい都合(つごう)のいい存在だから。

だから―――、

 

そこで、アタシの迷いを打ち払うような光が森の中に()()んできた。

 

木に(かこ)まれてない景色(けしき)を見るのは随分(ずいぶん)(ひさ)しぶりな気がした。

「まぶしい…。」

陽射(ひざ)しが波間(なみま)反射(はんしゃ)してギラギラとアタシの目を焼いた。

だけど、森の薄暗さに辟易(へきえき)してたアタシにとってはそれが心地好(ここちよ)かった。

「ほらね?着いたでしょ?」

「あぁ、助かったよ。」

本当に。

「ダメダメ、お礼はアイスなんだから。ちょこはそんなことでごまかされないの。」

「アイス…、あの町にあったかしら。」

「なかったらスイカでもいいの♪」

「…それこそないと思うけどね。アタシだって食べたことないよ。」

確か、アララトスかバルバラード方面の果物(くだもの)だったはずだけど。

…まさか、アタシをアララトスまで()()るためにわざと言ってんのか?

「スイ()がダメなら()ラスでもいいよ♪」

「……それでもダメならスズメ、かい?」

「そうなの!スズ()がダメなら()ダカなの♪メダ()がダメなら()ラスなの♪……あれ?」

考えすぎか。

 

何にしてもあの森でおおよそ二日も(ついや)やしてしまった。

武闘大会はとっくに終わってるはず。

アタシは彼の(かか)える問題を解決してあげられなかった……。

若干(じゃっかん)(くさ)りながらアタシは町を目指す。

 

森が高台の上にあったお(かげ)で、町まで迷うことはなかった。

 

数時間後、町付近(ふきん)まで来たアタシは(みょう)違和感(いわかん)を覚える。

町の熱気が、祭りの後というより、祭りの()最中(さいちゅう)というような感じがした。

そしてその違和感はすぐに証明(しょうめい)された。

「おい、聞いたか?グルガが優勝したんだってよ!」

「ガルバーンは?負けたのか?!」

「ああ、グルガを怒らせて再起不能にされたって話だぜ!」

「ちくしょう!仕事さえなきゃ俺だって会場に行ったのに!」

…決勝戦は黒服に拉致(らち)された翌日の昼に行われたはず。

……あれから半日しか()ってない?

「おねーさん、どうしたの?」

「…いいや、何でもない。」

いや、何でもなくない。

「……ちょこ。」

「なぁに?」

「アイスはきちんと買ってやるからさ。先にアタシの用事に付き合ってくれるかい?」

「いいよー。」

これは、クソ(まみ)れのアタシの人生における数少ない幸運(ラッキー)なのかもしれない。

もしも、まだ()()うなら…だけど。

 

 

――――カジキ(てい)

 

遠目からでも確認できるくらい、カジキ亭に人集(ひとだか)りができていた。

…少し遅かったか。

「どうしたのさ。」

少し(はな)れたところで野次馬(やじうま)の一人に(たず)ねてみる。

「いやな、なんでも黒いスーツを着た男たちがあの宿屋を(おそ)ったらしいんだ。」

「それっていつ頃のこと?」

「俺も今来たばかりだから(くわ)しくは知らねえけど、ついさっきの話らしいぜ。」

「…そう、ありがとう。」

(あた)りに目を走らせても連中の仲間らしきものは見当(みあ)たらない。

ウソのような話だけど、連中は現場に監視(かんし)を残していかなかったらしい。

アタシは再度注意深く確認してから人垣(ひとがき)をかき分け、宿の中に入った。

 

彼の怒りを(あお)るためだろう。中はわざとらしく()らされていた。

近隣(きんりん)住民がバタバタと被害者の手当てに追われている。

どうやら本当に事件直後というタイミングだったらしい。

自警団(じけいだん)らよりも早く来れたのは不幸中の(さいわ)いだった。

アタシは気を(うしな)っている宿屋の主人を見つけ、足早(あしばや)()()る。

「ガーレッジ、大丈夫かい?おい、しっかりしなよ!」

全身に(あざ)があるものの、深刻(しんこく)外傷(がいしょう)は見当たらない。

おそらく伝言役(でんごんやく)として手加減(てかげん)されたんだろう。

奥で手当てを受けているミレントは…、片足を落とされている。

今は貧血(ひんけつ)失神(しっしん)しているらしく、周囲の呼び掛けにピクリとも反応しない。

 

すると、彼女の様子を見守るアタシの(となり)で、ちょこがまたいつもの調子(ちょうし)でズレたことを口にし始めた。

「死んでるの?」

「いいや、気を失っているだけさ。今はね。」

「残念だね。」

「は?」

「だって、死んだらお星さまになれるんでしょ?ちょこもお星さまになってみたいの。」

「…二度とそんなこと言うんじゃないよ。」

「どうして?」

「お前の言う通り死んだら、星になるかもしれない。だけど二度と帰ってこれないんだ。二度と。ラルゴみたいに。それでもアンタはまだ(うらや)ましいって言えるかい?」

「……イヤ。」

その反応は少し予想外でもあった。

ちょこは、ラルゴを「過去の人」として認めることができていた。

森の中ではひたすらに『過去』を拒絶(きょぜつ)し続けていたけれど、やっぱりあの『悲劇』を()()たりにして少しはちょこの中で変化が起こっているらしい。

 

「いやだ。」

そう言ってちょこはアタシの腕をギュッと掴む。

「そうだろ?だったら今みたいなことは二度と口にするんじゃないよ。」

「…うん、わかったの。ちょこ、みんながお星さまにならないように護るの。」

素直(すなお)すぎて反吐(へど)が出そうになる。

だけど、アタシはこうやってコイツを(しつ)けて(なつ)かせなきゃ。

残された時間はそんなに多くない。

一つひとつ、丁寧(ていねい)にしていかなきゃ。

アタシの忠実(ちゅうじつ)(きば)()ぐためにも。

 

そして、どうやら彼女の容体(ようだい)はあまり悠長(ゆうちょう)(かま)えてられない状況らしいことが分かった。

……仕方(しかた)がない。

アタシは落とされた彼女の足を見つけ、それを片手に彼らに近寄った。

「ちょっとそこを退()きな。」

ミレントの手当てをしてる連中は余所者(よそもの)のアタシの登場に一瞬(こわ)ばり、さらに彼女の足を持っているという状況に警戒(けいかい)の色を見せた。

「なんだいアンタ。見て分かるだろ!今こっちはそれどころじゃないんだよ!」

「だからさ。ここはアタシに任せろって言ってんのさ。」

何人かはアタシがここの客だって知っていたが、特にアタシの味方になる様子もない。

…まぁ、当然と言えば当然か。

「…魔法使いか?」

「そんなもんさ。ほら、分かったらさっさと退きな。手遅れになるかもしれないよ。」

世界公認(こうにん)の殺し合いに熱中するようなブッとんだ人間だからか。

「魔法使い」という人種の妄言(もうげん)まがいの言葉にもあまり抵抗(ていこう)がないように見えた。

むしろ、この局面(きょくめん)を大会と(かさ)ねて興奮(こうふん)する者までいる。

「…いいかい?今からアタシは(みょう)な行動をするけれど、絶対に邪魔するんじゃないよ。」

 

アタシの『力』を人前に(さら)すのは()けるべきなんだってのは分かってる。

だけど、抱き合って笑い合ったのは嘘じゃないから。

アタシにとってこの人は「大切な人」の一人だから。

グルガ(かれ)提案(ていあん)した時だって、アタシはこの人を犠牲(ぎせい)にするつもりなんかなかった。

 

アタシは落とされた片足を彼女の傷口に()えながら、彼女にキスをした。

外野(がいや)(ざわ)めく中、アタシはそれを無視して行為(こうい)に集中した。

そうして数分後、

「……おぉ!」

どうやら上手(うま)くいったらしい。

まだ完全にくっつていはいないものの、添えていた足が(かす)かに脈打(みゃくう)ち始めた。

血色も随分(ずいぶん)と良くなっている。

さらに数分が経過(けいか)し、アタシは彼女が全快(ぜんかい)する前に行為を止めた。

処置(しょち)が早かったし、このまま安静(あんせい)にしていれば問題なく回復するはず。

くっついた足に後遺症(こういしょう)も残らないと思う。

むしろ、今ここで目を覚ましてしまったら今度は彼女がアタシたちの邪魔になるかもしれない。

アタシは野次馬に()()がった彼女の知人らを()退()け、(ふたた)びガーレッジの(もと)へと戻った。

 

すると、都合良く彼の意識も回復していた。

「う、うう……」

「おい、大丈夫かい?」

「お…、おぉ、シャンテか。」

その声に、アタシを看病(かんびょう)した時の(たよ)りがいのある男の面影(おもかげ)はない。

「…!?ミレは!?アイツは無事(ぶじ)か!?」

「暴れるんじゃないよ。大丈夫。彼女も無事さ。まだ気を失ってるけど命に別状(べつじょう)はないよ。」

押さえつけるアタシに、逆に掴みかかるガーレッジの目は理性を失いかけていた。

けれど、どうにかアタシの言葉を信じたらしく、ガーレッジは少しずつ冷静さを取り戻した。

それでも起こったことが目に焼き付いているガーレッジの声から重苦しい調子だけは取れない。

「……アイツの顔が見たい。頼む。」

「…ほら、肩()してやるよ。」

アタシはガーレッジを(ささ)え、彼女の隣に()ろした。

「あぁ、ミレ…。すまねえ、俺が不甲斐(ふがい)ないばっかりに!」

するとガーレッジは彼女の(ひたい)に額を押し当て、人目も(はばか)らずに泣き崩れた。

 

()()める二人の姿は外野を完全に締め出してしまった。

アタシだってこの二人に野暮(やぼ)なことはしたくない。だけど今は少しでも時間が()しいから。

 

「水を差して悪いんだけどね、ガーレッジ。アンタ、アタシらに急いで伝えることがあるんじゃないかい?」

「!?そうだ、エレナちゃんが…!」

おそらく、アタシらがこの騒動(そうどう)元凶(げんきょう)だと思い出したのかもしれない。

急に眉間(みけん)(しわ)を寄せ、言葉を()まらせた。

「こんなにしたアタシらが(にく)いかもしれないよ。でも、少なくともそれはエレナを助けた後でも良いんじゃないかい?」

ガーレッジは(うつむ)き歯を()(しば)ると、表を上げ、(いど)むような目付きでアタシを(にら)んだ。

「……”無人の(やかた)”だ。あの子はそこにいる。」

 

 

その館はクレニア島の西端(せいたん)、”鍛錬(たんれん)の岩場”の先にある。

異名の通り、その館に住む人間はいない。それは周囲の森に古くから生息(せいそく)する怪物たちのせいらしい。

それならどうしてそこに館が()っているのか。

それを調べようとする人間は一般人、賞金稼ぎ問わずほとんどが行方不明になっている。

生きて帰って来た者も命からがらという(てい)で、ろくな調査もできていない。

やがて島民たちはその館に”無人”という(かんむり)を添え、町の西側へ足を向けることすらしなくなった。

同時に、大会出場者の肝試(きもだめ)し的な意味合いで”鍛錬の岩場”も名付けられたらしい。

 

酒場の給仕もこの館の名前を口にしてた気がする。

大会の一番人気、暗殺集団のガルバーンが出入りしているって噂のある館だったはずだ。

 

その噂が本当なら、ヤツらの手で(ととの)えられた環境でまず間違いない。

大会出場者を岩場に誘導(ゆうどう)し、取り引きしやすいように。

「他に?何か条件やら、要求やら言われなかったかい?」

「…グルガ一人で来るように言ってたよ。じゃなきゃ―――」

「エレナの命はない、か。」

「…あぁ。」

そんな常套句(じょうとうく)()(さき)に出てくるなら、アタシがここで把握(はあく)しておくべきことは特になさそうだね。

アタシは彼から聞き出すのを止め、「ありがとう」とだけ声を掛け背を向けた。

 

すると、立ち去ろうとするアタシをガーレッジが呼び止めた。

「行くのか?アンタもどちらかと言えば無関係なんだろ?」

「…連中、どうせエレナを返す気なんかないんだ。だったらアタシが(うば)いに行くしかないだろ?グルガにそれができるほど器用(きよう)なヤツだとも思えないしね。それが”恩返し”ってもんだろ?」

「……」

ガーレッジは妻もエレナも護れない自分に腹立たしさを覚えているのかもしれない。

俯き、眉間が割れるんじゃないかと思えるくらいに皺を寄せ、歯を食い縛っていた。

だからといって、アタシなんかの(なぐさ)めを彼が受け入れることはないと思う。

それは、目を覚ました彼女の口から出て初めて意味があることなんだ。

 

だから、アタシはアタシが言うべきことしか言えない。

「無茶苦茶な話かもしれないけどさ、グルガを(うら)まないでやっておくれよ。アイツも必死なんだ。自分のしでかしたことを(つぐな)うために。」

「…覚悟(かくご)はしてたさ。武闘大会に出ようって奴らは皆、何かしらヤバい連中と(つな)がってる。()めた俺たちにも責任がある。分かってたさ。だけどな……」

幸せにすると誓った女を見下ろし、ガーレッジはより(するど)く眉間を()った。

「…アイツらは何者なんだ。」

「バカなのかい?今、自分で言ったばかりじゃないか。これ以上、彼女を不幸にさせたいのかい?」

「…その子は?」

ガーレッジはアタシにピッタリくっつくちょこを指して言った

「言ってるだろ?首を突っ込むな。続きは戻ってから話すよ。…無事に戻れたらだけどね。」

アタシは(なか)ば無理やりに話を打ち切り、ちょこを連れて足早にその場を去った。

 

 

状況から(さっ)するに、今、武闘大会は決勝戦が終わった直後。表彰式(ひょうしょうしき)が行われている辺りだと思う。

彼がまだこの事態(じたい)を把握してなければ、アタシとの行動の差は1、2時間くらいか。

その間に、アタシはエレナを奪還(だっかん)する手筈(てはず)を整えなきゃならない。

彼が面倒(めんどう)な方へと進む前に。

「どこ行くの?」

話を理解していないちょこが無垢(むく)な表情でアタシを見上げた。

 

「…悪いヤツからお姫様を取り返しに行くのさ。手伝ってくれるかい?」

コイツを使うのに全てを語る必要はない。

要点だけを伝えればいい。

「わかったの!じゃあ、ちょこ、勇者様になるの!」

やることを理解させればコイツはそこへ突き進むことしか考えない。

単純明快(たんじゅんめいかい)だ。

「…あれ?でも、ちょこ女の子だから…、ちょこがお姫様なの?あれれ?」

あとはいかにそのことに集中させるかだ。

「覚えときな。男は時に役立たずな時があるのさ。女だって勇者にならなきゃ”家庭”ってもんは守れないんだよ。」

「知ってる。村でもちょこが一番強かったんだよ!」

「だろ?だからアンタが勇者だってなんもオカシクないんだよ。」

納得すると、ちょこはアタシの周りを()(まわ)り、自分の役所(やくどころ)に満足していた。

 

…さて、連中はコイツを見てどう動くかね。

コイツの存在自体は把握してるはずだ。

だから万全(ばんぜん)対策(たいさく)をしてるかもしれない。その辺りは慎重(しんちょう)に動かないとね。

なんせ、コイツはアタシにとって貴重(きちょう)な戦力なんだから。

 

 

 

(くだん)の館は町の出口からハッキリと見てとれた。

「一応、聞いてみるんだけどさ。アンタ、あのお屋敷(やしき)に行ったことがあるかい?」

「ちょこ?うん、行ったことあるよ。」

「誰かに(おそ)われたりしなかったかい?」

「だーーれもいなかったよ。」

繋いだアタシの手をブラブラと振りながら、ツマラナイとばかりにちょこは答えた。

「ちょこが”お邪魔します”って言っても誰も”いらっしゃいませ”って言ってくれなかったの。」

「…中に入ったのかい?」

「ううん。だって、他人(ひと)の家に勝手に入っちゃいけないんだよ。」

「…それ、いつの話?」

「うーん、うーん、忘れちゃったの!」

まあ、数百年も生きてるちょこに、あんな()()()()()()()の記憶を鮮明(せんめい)に思い出せというのも無理な話なのかもしれない。

結局(けっきょく)、ほとんど情報のないまま手探(てさぐ)りでいかなきゃならないわけだ。

アタシ一人ならなんとでもなるかもしれないけれど。

「いいかい?アタシが”いい”って言うまでアタシの(そば)を離れるんじゃないよ。」

「分かったの!」

…アタシの経験上、こういう無駄にいい返事をする奴は8割方話を理解してない。

ずっと手を繋いでるわけにもいかないし。

…失敗したな。首輪でも買っておくべきだった。

後悔(こうかい)しながらアタシたちは無人の館を目指した。

 

道中(どうちゅう)、ふと「彼」のことを考えた。

どうしてアタシはこんなにも彼の肩を持とうとしてるんだろう。

ガーレッジの前で言った「恩返し」というのは方便(ほうべん)だ。

もっと別に、アタシにとって重要な理由があるからアタシはこんな無駄なことをしてるんだろ?

 

とそれっぽく自問(じもん)してみたものの、おおよその見当はついていた。

アタシは自分の「心」に(うと)くはない。

アタシは彼に()かれてる。そんなこと、分かりきってる。

だけどそれは単純な「男女」としての恋心じゃないと思う。

彼に力強い「父親」を見た時から、アタシは今さら「家族」を取り戻したい気持ちに駆られてるんだ。

―――やり直したい

―――護って欲しい

今さら、アタシはそんなことを考えちまってるんだ。

そこにあの子はいないのに。

あの子の(かたき)()とうって時に。

 

薄情(はくじょう)な女じゃないか。

所詮(しょせん)、アタシもラルゴと変わらない。

自分さえ()たされればそれでいい。そんなことを心の何処(どこ)かでは考えてる。

こんなにも、こんなになってもあの子を愛してるのに。

この感情は他の誰かじゃ(おぎ)えない。

だってのに……。

あの子のために歌えた歌も、今じゃ詐欺師(さぎし)(うた)文句(もんく)にしか聞こえない。

 

それを言い始めたら彼だって(おんな)じじゃないの?

自分の手でエレナを不幸せにしておいて、今はその「不幸せ」をなかったことにしようと躍起(やっき)になってる。

そんなこと、あの子は頼んでないのに。

結局それも、彼が自分の「罪」に()えられないから。

あの子を()()()()()ことで、少しでも自分を―――。

…だからって、今ここで引き返したって何の意味もない。

やる気になってるちょこを(だま)すのは難しくない。

だけど…、ここで引き返したって……。

 

「おねーさん、どうしたの?」

「え?」

「お腹、痛いの?」

ちょこがアタシの顔を(のぞ)き込んでいた。

多分、アタシが思い詰めた顔をしてたんだと思う。

「…何でもないさ。ただ、どうやって悪者を倒すか考えてたんだよ。」

「心配しないで!ちょこ、強いんだから!」

「ハハ、そうだね。知ってるよ。でもね、」

 

計算してやったことじゃないけど、丁度(ちょうど)いい機会(きかい)だ。

アタシはここでコイツを軽く教育することにした。

「悪者はお姫様を傷つけるかもしれないんだ。無暗(むやみ)に暴れるんじゃないよ。いいね。」

「そうだった。ちょこ、お姫様を助ける勇者様だったの。」

難しい命令は期待(きたい)できない。

だけど、どんな時でも有効(ゆうこう)な「進め」と「止まれ」くらいは最低限教えておかなきゃ使い物にならない。

アタシの「命令」を聞くことを()まえ、「母親」のような口調でちょこにこれらを言い聞かせた。

「どうすればいいかアタシが教えてやるから。アンタはアタシの言うことをよく聞くんだよ。」

「わかったの。ちょこ、おねーさんも護るんだから。」

「…お前は本当に良い子だね。」

頭を()でてやると、ちょこは子どもらしい無邪気な笑顔を浮かべて見せた。

「えへへ。」

「……」




※スイカ
スイカの原産地はアフリカ大陸。

なので、雰囲気的に近い(砂漠、乾燥みたいな印象から)アララトス、バルバラードの特産物にしてみました。

※後書き
ちょっと中途半端ですが、長くなりそうなのでここで切りましたm(__)m

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