「こっちこっちー!もうすぐ出口なの♪」
アタシ一人ではどうにもできなかった魔法の森も、ちょこに手を引かれるだけであっさりと抜けられた。
「なんでー?」
「なんででも。町に着いたら好きなものを買ってやるからさ。」
「ほんと!?」
あんなことがあった後だってのに、ちょこの感情に変化らしいものが見て取れないのは不思議なように思えた。
アタシにとっては今のままの方が
だけどその一方で、やりにくさもまた間違いなく感じている。
後ろめたさや
どこか自分自身にナイフを
本能的な
だけど、アタシはコレを「武器」にすると決めたんだ。
シュウやアークみたいな
そういう意味でコイツはアタシにとってこれ以上にないくらい
だから―――、
そこで、アタシの迷いを打ち払うような光が森の中に
木に
「まぶしい…。」
だけど、森の薄暗さに
「ほらね?着いたでしょ?」
「あぁ、助かったよ。」
本当に。
「ダメダメ、お礼はアイスなんだから。ちょこはそんなことでごまかされないの。」
「アイス…、あの町にあったかしら。」
「なかったらスイカでもいいの♪」
「…それこそないと思うけどね。アタシだって食べたことないよ。」
確か、アララトスかバルバラード方面の
…まさか、アタシをアララトスまで
「スイ
「……それでもダメならスズメ、かい?」
「そうなの!スズ
考えすぎか。
何にしてもあの森でおおよそ二日も
武闘大会はとっくに終わってるはず。
アタシは彼の
森が高台の上にあったお
数時間後、町
町の熱気が、祭りの後というより、祭りの
そしてその違和感はすぐに
「おい、聞いたか?グルガが優勝したんだってよ!」
「ガルバーンは?負けたのか?!」
「ああ、グルガを怒らせて再起不能にされたって話だぜ!」
「ちくしょう!仕事さえなきゃ俺だって会場に行ったのに!」
…決勝戦は黒服に
……あれから半日しか
「おねーさん、どうしたの?」
「…いいや、何でもない。」
いや、何でもなくない。
「……ちょこ。」
「なぁに?」
「アイスはきちんと買ってやるからさ。先にアタシの用事に付き合ってくれるかい?」
「いいよー。」
これは、クソ
もしも、まだ
――――カジキ
遠目からでも確認できるくらい、カジキ亭に
…少し遅かったか。
「どうしたのさ。」
少し
「いやな、なんでも黒いスーツを着た男たちがあの宿屋を
「それっていつ頃のこと?」
「俺も今来たばかりだから
「…そう、ありがとう。」
ウソのような話だけど、連中は現場に
アタシは再度注意深く確認してから
彼の怒りを
どうやら本当に事件直後というタイミングだったらしい。
アタシは気を
「ガーレッジ、大丈夫かい?おい、しっかりしなよ!」
全身に
おそらく
奥で手当てを受けているミレントは…、片足を落とされている。
今は
すると、彼女の様子を見守るアタシの
「死んでるの?」
「いいや、気を失っているだけさ。今はね。」
「残念だね。」
「は?」
「だって、死んだらお星さまになれるんでしょ?ちょこもお星さまになってみたいの。」
「…二度とそんなこと言うんじゃないよ。」
「どうして?」
「お前の言う通り死んだら、星になるかもしれない。だけど二度と帰ってこれないんだ。二度と。ラルゴみたいに。それでもアンタはまだ
「……イヤ。」
その反応は少し予想外でもあった。
ちょこは、ラルゴを「過去の人」として認めることができていた。
森の中ではひたすらに『過去』を
「いやだ。」
そう言ってちょこはアタシの腕をギュッと掴む。
「そうだろ?だったら今みたいなことは二度と口にするんじゃないよ。」
「…うん、わかったの。ちょこ、みんながお星さまにならないように護るの。」
…
だけど、アタシはこうやってコイツを
残された時間はそんなに多くない。
一つひとつ、
アタシの
そして、どうやら彼女の
……
アタシは落とされた彼女の足を見つけ、それを片手に彼らに近寄った。
「ちょっとそこを
ミレントの手当てをしてる連中は
「なんだいアンタ。見て分かるだろ!今こっちはそれどころじゃないんだよ!」
「だからさ。ここはアタシに任せろって言ってんのさ。」
何人かはアタシがここの客だって知っていたが、特にアタシの味方になる様子もない。
…まぁ、当然と言えば当然か。
「…魔法使いか?」
「そんなもんさ。ほら、分かったらさっさと退きな。手遅れになるかもしれないよ。」
世界
「魔法使い」という人種の
むしろ、この
「…いいかい?今からアタシは
アタシの『力』を人前に
だけど、抱き合って笑い合ったのは嘘じゃないから。
アタシにとってこの人は「大切な人」の一人だから。
アタシは落とされた片足を彼女の傷口に
そうして数分後、
「……おぉ!」
どうやら
まだ完全にくっつていはいないものの、添えていた足が
血色も
さらに数分が
くっついた足に
むしろ、今ここで目を覚ましてしまったら今度は彼女がアタシたちの邪魔になるかもしれない。
アタシは野次馬に
すると、都合良く彼の意識も回復していた。
「う、うう……」
「おい、大丈夫かい?」
「お…、おぉ、シャンテか。」
その声に、アタシを
「…!?ミレは!?アイツは
「暴れるんじゃないよ。大丈夫。彼女も無事さ。まだ気を失ってるけど命に
押さえつけるアタシに、逆に掴みかかるガーレッジの目は理性を失いかけていた。
けれど、どうにかアタシの言葉を信じたらしく、ガーレッジは少しずつ冷静さを取り戻した。
それでも起こったことが目に焼き付いているガーレッジの声から重苦しい調子だけは取れない。
「……アイツの顔が見たい。頼む。」
「…ほら、肩
アタシはガーレッジを
「あぁ、ミレ…。すまねえ、俺が
するとガーレッジは彼女の
アタシだってこの二人に
「水を差して悪いんだけどね、ガーレッジ。アンタ、アタシらに急いで伝えることがあるんじゃないかい?」
「!?そうだ、エレナちゃんが…!」
おそらく、アタシらがこの
急に
「こんなにしたアタシらが
ガーレッジは
「……”無人の
その館はクレニア島の
異名の通り、その館に住む人間はいない。それは周囲の森に古くから
それならどうしてそこに館が
それを調べようとする人間は一般人、賞金稼ぎ問わずほとんどが行方不明になっている。
生きて帰って来た者も命からがらという
やがて島民たちはその館に”無人”という
同時に、大会出場者の
酒場の給仕もこの館の名前を口にしてた気がする。
大会の一番人気、暗殺集団のガルバーンが出入りしているって噂のある館だったはずだ。
その噂が本当なら、ヤツらの手で
大会出場者を岩場に
「他に?何か条件やら、要求やら言われなかったかい?」
「…グルガ一人で来るように言ってたよ。じゃなきゃ―――」
「エレナの命はない、か。」
「…あぁ。」
そんな
アタシは彼から聞き出すのを止め、「ありがとう」とだけ声を掛け背を向けた。
すると、立ち去ろうとするアタシをガーレッジが呼び止めた。
「行くのか?アンタもどちらかと言えば無関係なんだろ?」
「…連中、どうせエレナを返す気なんかないんだ。だったらアタシが
「……」
ガーレッジは妻もエレナも護れない自分に腹立たしさを覚えているのかもしれない。
俯き、眉間が割れるんじゃないかと思えるくらいに皺を寄せ、歯を食い縛っていた。
だからといって、アタシなんかの
それは、目を覚ました彼女の口から出て初めて意味があることなんだ。
だから、アタシはアタシが言うべきことしか言えない。
「無茶苦茶な話かもしれないけどさ、グルガを
「…
幸せにすると誓った女を見下ろし、ガーレッジはより
「…アイツらは何者なんだ。」
「バカなのかい?今、自分で言ったばかりじゃないか。これ以上、彼女を不幸にさせたいのかい?」
「…その子は?」
ガーレッジはアタシにピッタリくっつくちょこを指して言った
「言ってるだろ?首を突っ込むな。続きは戻ってから話すよ。…無事に戻れたらだけどね。」
アタシは
状況から
彼がまだこの
その間に、アタシはエレナを
彼が
「どこ行くの?」
話を理解していないちょこが
「…悪いヤツからお姫様を取り返しに行くのさ。手伝ってくれるかい?」
コイツを使うのに全てを語る必要はない。
要点だけを伝えればいい。
「わかったの!じゃあ、ちょこ、勇者様になるの!」
やることを理解させればコイツはそこへ突き進むことしか考えない。
「…あれ?でも、ちょこ女の子だから…、ちょこがお姫様なの?あれれ?」
あとはいかにそのことに集中させるかだ。
「覚えときな。男は時に役立たずな時があるのさ。女だって勇者にならなきゃ”家庭”ってもんは守れないんだよ。」
「知ってる。村でもちょこが一番強かったんだよ!」
「だろ?だからアンタが勇者だってなんもオカシクないんだよ。」
納得すると、ちょこはアタシの周りを
…さて、連中はコイツを見てどう動くかね。
コイツの存在自体は把握してるはずだ。
だから
なんせ、コイツはアタシにとって
「一応、聞いてみるんだけどさ。アンタ、あのお
「ちょこ?うん、行ったことあるよ。」
「誰かに
「だーーれもいなかったよ。」
繋いだアタシの手をブラブラと振りながら、ツマラナイとばかりにちょこは答えた。
「ちょこが”お邪魔します”って言っても誰も”いらっしゃいませ”って言ってくれなかったの。」
「…中に入ったのかい?」
「ううん。だって、
「…それ、いつの話?」
「うーん、うーん、忘れちゃったの!」
まあ、数百年も生きてるちょこに、あんな
アタシ一人ならなんとでもなるかもしれないけれど。
「いいかい?アタシが”いい”って言うまでアタシの
「分かったの!」
…アタシの経験上、こういう無駄にいい返事をする奴は8割方話を理解してない。
ずっと手を繋いでるわけにもいかないし。
…失敗したな。首輪でも買っておくべきだった。
どうしてアタシはこんなにも彼の肩を持とうとしてるんだろう。
ガーレッジの前で言った「恩返し」というのは
もっと別に、アタシにとって重要な理由があるからアタシはこんな無駄なことをしてるんだろ?
とそれっぽく
アタシは自分の「心」に
アタシは彼に
だけどそれは単純な「男女」としての恋心じゃないと思う。
彼に力強い「父親」を見た時から、アタシは今さら「家族」を取り戻したい気持ちに駆られてるんだ。
―――やり直したい
―――護って欲しい
今さら、アタシはそんなことを考えちまってるんだ。
そこにあの子はいないのに。
あの子の
自分さえ
こんなにも、こんなになってもあの子を愛してるのに。
この感情は他の誰かじゃ
だってのに……。
あの子のために歌えた歌も、今じゃ
それを言い始めたら彼だって
自分の手でエレナを不幸せにしておいて、今はその「不幸せ」をなかったことにしようと
そんなこと、あの子は頼んでないのに。
結局それも、彼が自分の「罪」に
あの子を
…だからって、今ここで引き返したって何の意味もない。
やる気になってるちょこを
だけど…、ここで引き返したって……。
「おねーさん、どうしたの?」
「え?」
「お腹、痛いの?」
ちょこがアタシの顔を
多分、アタシが思い詰めた顔をしてたんだと思う。
「…何でもないさ。ただ、どうやって悪者を倒すか考えてたんだよ。」
「心配しないで!ちょこ、強いんだから!」
「ハハ、そうだね。知ってるよ。でもね、」
計算してやったことじゃないけど、
アタシはここでコイツを軽く教育することにした。
「悪者はお姫様を傷つけるかもしれないんだ。
「そうだった。ちょこ、お姫様を助ける勇者様だったの。」
難しい命令は
だけど、どんな時でも
アタシの「命令」を聞くことを
「どうすればいいかアタシが教えてやるから。アンタはアタシの言うことをよく聞くんだよ。」
「わかったの。ちょこ、おねーさんも護るんだから。」
「…お前は本当に良い子だね。」
頭を
「えへへ。」
「……」
※スイカ
スイカの原産地はアフリカ大陸。
なので、雰囲気的に近い(砂漠、乾燥みたいな印象から)アララトス、バルバラードの特産物にしてみました。
※後書き
ちょっと中途半端ですが、長くなりそうなのでここで切りましたm(__)m