「それで、空の人質は何人いるんだ?」
「ざっと700人程度だ。だがその中には隣国の要人が何人か同乗してるって話だ。依頼人は人質全員の救出を強調していたらしいが、本音は見え見えだな。まあ、こっちはそのお
700人というと現存で一番大きい、それも最新型の黒い大型客船だ。そしてアルディア空港でそれを所有している数はそう多くない。
だとするなら空港としても、アルディアとしても信用問題の点は軽視しちゃいないはずだ。そして、事件の
たとえ漏れたとしても、「アルディアはテロに屈しません。」ってところか。
「まあ、否定はしねえけど、
こき使われる分、俺は精一杯の皮肉を言ったつもりだったが、ビビガは気にせずにゲラゲラと笑いながら
「品性なんか気にしてたらあっという間に便所掃除の依頼しか来なくなっちまわーな。便所にいる女なんてのはヨボヨボの
「金チラつかせて寄ってくる女もどうかと思うけどな。」
だが5年前、下水道の掃除ばかりやらされていた10歳のガキが、今や単独のハイジャック犯確保。
普通じゃ考えられないが、それが
「そのうち俺の子どもでも抱かせてやるよ。そしたらそんな
するとビビガはことさらデカイ声で笑いやがった。
「よく言うぜ。同じ穴のムジナのくせによ。」
ムカつくが、まったくこのジジイの言う通りだ。
「それより、取り分はどうするよ。俺の方で決めちまってイイのか?ジャンケンはなしだぜ。こんだけの
「報酬額は?」
下品な顔にさらに
「なんと、5000万よ!しかも、こっちの手際次第で上乗せしても構わないとよ。」
「外交、運営、単独、そして緊急……、確かにまだまだとれるな。」
上手くすれば倍の額をふんだくれる。どう転んでも、ビビガの言う通り年に一回あるかないかの額になる。どおりでしつこく説得してきた訳だ。
「加えて今、その船ん中で妊婦が
「マジか?」
「そりゃウソだ。」
「8:2だ。」
「どっちが?」
「俺が8。」
ヒゲ面は運転中にも関わらず、顔をしかめて
「悪かった。だけどよ、そういう冗談は酒の席だけにしてくれよ。6:4だ。俺が4。文句ねえだろ?」
俺はそんなに金に不自由していない。皆が言うようにガキってのもあるが、それを差し引いても金の使い道がない。男一人と仔犬が一匹。生活費だってたかが知れてる。
だから口で言うほど報酬に執着しない。もちろんビビガもそれを知っている。
逆にオッサンはというと、『金の
よくアパート経営なんてやってられるなと、感心するくらいだ。
「なんで俺を選んだのか、だんだん分かってきたぜ。」
「人聞きが悪いぜ。俺は純粋にお前の腕を見込んでるんだよ。」
「どうだかな。」
「一応注意しておくが、無闇に火は使うなよ。いざって時までとっとけ。なんてったって現場は飛行場だしな。能力の打ち合いになって、まかり間違って飛行船にでも引火したら一巻の
「オッサン、財政難だからな。」
「あんまりバカ言ってっと、船賃叩き付けてその血の気の多い頭ごとガスタンクん中、ぶち込むぞ。」
「一瞬で夢の中だな。」
「……ったく。さっきまでグッスリと眠ってた奴がよく言うぜ。」
バカなジョークを飛ばし合っている
完全に無意識に出た自分の言葉だった。それでも、『夢』という
トラウマってやつはどうも、目ざとく
ビビガとは永い付き合いになる。多少、俺が演技をしていたって、俺が気分を悪くしたらしいことくらいすぐに気づいてしまうらしい。
「心配すんな。無事に帰ってきたら文字通り天国を見せてやるよ。」
だが、俺もこんな生き方をしているからか、そうそう素直に親切を受け入れられない
「遠慮しとくよ。オッサンの趣味の悪い天国に付き合ってたら胸焼けしちまいそうだ。」
「チッ、愛想のねえ奴だぜ。まったく。」
だがこれでも俺たちの間では、それなりに言いたいことは伝わっているのだ。