聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

138 / 235
赤い靴 その二

何度声をかけても、それ以上、墓地(ぼち)の男が振り向くことはなかった。

「おい…、」

ちょこを見失(みうしな)った今、アタシには森を出る手掛(てが)かりはこの男以外にないし、強引(ごういん)に振り向かせようかとも考えた。

けれど、一瞬、男の腕が()けて見えたのに気付いてその気も()せてしまった。

 

…そういうことなんだ。

この男は自分の意思でここにいるんじゃない。(しば)られてるんだ。望まない場所に。だからここで働くしかなく、森の出口を知る必要もない。

だけど、今のアタシには何の関係もないように思える。

男が()めようとしている死体の山以外には。

 

男は穴を掘り終えると、息絶(いきた)えた黒づくめたちを一人ずつ、丁寧(ていねい)埋葬(まいそう)していく。

「…そいつらがどんな奴か知ってんのかい?」

「……」

「他人の子どもを(さら)って化け物に改造しようって連中なんだよ?」

「……」

なんとなく。

男もまた、黒服たちの犠牲者(ぎせいしゃ)のように思えた。

埋葬する背中に(にく)しみは感じられないけれど。

なんとなく、そう思った。

 

アタシの声は聞こえていると思う。意思だってあると思う。

それでも男の動きは少しも(みだ)れない。

それが「縛った者」から()いられた仕事だから?もしくは、「戦士」だった男が過去に(おか)した罪への(つぐな)いをしているの?

なんにしても、やっぱりアタシには関係ない。

「アンタも難儀(なんぎ)だね。」

アタシは墓地を離れることにした。

ここは安全かもしれないけれど、それ以上に、男の姿を見ていて「良いこと」なんてないように思えた。

 

墓地を出るといっても、そこに「門」があるわけじゃない。

それなのに、アタシが墓地に()()れたであろう距離を進むと、(まばた)きを(さかい)に周囲の景色が一変した。

「…ホントに、この森はイカれてるね。」

さっきまで()の光の下で瑞々(みずみず)しい発色(はっしょく)を見せていた木々が、月でも星でもない明かりにボンヤリと照らされ、まるで(たむろ)する幽霊たちのような衣装にすり()わっていた。

アタシの『力』を鎮静(ちんせい)させる『力』も(まった)く通用しない。

あの悪魔の(ふところ)にいるようで胸糞(むなくそ)悪くなる。

 

「あ、おねーさん見ーつけた♪」

「キャアッ!」

 

……何年振りだろう。

本気で悲鳴を上げてしまった。

「ダメだよ、ちゃんとちょこに付いてこなくちゃなの。」

まだ、(おび)える心臓がアタシの胸を激しく叩いてるってのに、愛らしい怪物はご機嫌(きげん)(うかが)う猫のように首を(かし)げて甘い声で鳴いた。

「…アンタね。」

どこまで(とぼ)けた性格(キャラ)をしてるんだ。

腹が立つのを通り()して(あき)れてしまった。

「ちょこ、悪いんだけどさ、手を(つな)いで歩いてくれるかい?どうにも疲れててさ、アンタに付いていけないんだよ。」

「いいの。ちょこ、知らない人とは手を繋いじゃいけないけど、おねーさんはちょこのお友だちだから手を繋いでいいの。」

「そうかい、ありがとよ。」

 

少し勇気が()った。

手を(にぎ)(つぶ)されるかもしれない恐怖と、知識のない化け物に()れる恐怖。

 

だけどそんなアタシの躊躇(ためら)いも、ただただこの恍けた怪物にバカにされるだけに終わった。

「ちょこ、手を繋ぐの久しぶりなの!」

「……」

はしゃぐちょこの手は幼く(やわ)らかかった。

まるで生まれたての赤ん坊みたいに。

「シルバとは手を繋いだことがないの。」

「…それは、アンタの友だちかい?」

「そうなの!ちょこのとっても大切なお友だちなの!」

「…そうかい。」

できることならその「()()()」には会わない方がいい。

(こと)、ちょこの「友だち」において、それが人間でない可能性は往々(おうおう)にしてある。

それに、(たと)えちょこの前では大人しかったとしても、アタシの前でも同じだって保証(ほしょう)もない。

 

ただ、幼い手に感化(かんか)されたのか。

気付けばアタシは甘っちょろいことを口にしていた。

「友だちは、大切にするんだよ。」

「うん!」

でも、本心だ。

自分の口から「大切な」なんて言葉が出るような相手は特に。

「…ところで、そのシルバってのはどんな子なんだい?」

大した()()りじゃない。

親が子の近況(きんきょう)(たず)ねる程度(ていど)会話(スキンシップ)だ。

それなのに突然(とつぜん)、ちょこの顔は苦痛に(ゆが)み始めた。

「お、おい、大丈夫かい?」

やがて、浮かんでいた(しわ)がキレイに消えてなくなると、アタシの心配を余所(よそ)にちょこはこれまで通りの声色(こわいろ)で答えた。

「…シルバって(だぁれ)?」

「え?…いいや、何でもないよ。気にしないどくれ。」

「苦痛」はそれほど大袈裟(おおげさ)なものじゃなかった。

目に入ったゴミを(こす)()る。その程度。

だけど、その一瞬からアタシは確かに「危険なもの」を感じ取った。

それこそ導火線(どうかせん)引火(いんか)するかのような、「あわや」という瞬間が。

 

どういう理由か分からない。

だけど「ちょこ」というダイナマイトにとって「シルバ」は火なんだ。

それだけはハッキリと理解した。

 

それにしても、ちょこはいったい何者なの?

アタシに危害は加える気はないみたいだけど、化け物には違いない。

でも、どんな系統(けいとう)なのか見当(けんとう)もつかない。

こうやって触れ合ってるんだから、とりあえず墓地の男とは違うヤツだ。

体温だってある。

(さわ)った感じから、おそらく皮も(かぶ)ってないように思う。

だからってオークやゴブリンなんてレベルの化け物じゃない。

もしもこの「女の子」が本当の姿だってんなら、結局(けっきょく)”白い家”の子どもたちみたいな、アイツらの手で(つく)られた()()()()()()()()()って答えに落ち着いちまう。

…でも、ついさっき感じた「危険な(かお)り」のことを考えると、この無難(ぶなん)すぎる答えは逆に的外(まとはず)れなようにも思えた。

 

それでも「女の子(ちょこ)」は()()()()()じゃない。

「森の毒」や「諸々(もろもろ)推察(すいさつ)」を加味(かみ)した上でも、それだけは信じることができた。

そんなアタシの軽率(けいそつ)さを嘲笑(あざわら)うかのように、周りの景色は目まぐるしく変わる。

朝も昼も夜も関係ない。

(しお)(にお)いだけが「森」をクレニアに(とど)め続けている。

 

それからどれくらい歩いたのか正確な時間は分からない。

だけどまた前触れもなく、木々の目隠しの向こうから不自然な景色が顔を(のぞ)かせた。

「着いたの~。」

そこには村があった。村人もいる。明かりも煙突(えんとつ)から(のぼ)る煙もハッキリと見える。

ちゃんとした村だ。

「トココ村なの!ちょこの村なの!」

…ついさっき、ちょこは「家に帰りたい」と言ってた。

だけど、ここは「ちょこの村」。「ちょこの父親」もここにいる。それでも、ここに「ちょこの家」はない。

…どういうこと?

「家」……やっぱり、そういうことなの?

 

今、ここでそれを聞くの?

「シルバ」みたいに何が火なのかも分からない状況で?

…無理だ。

 

今はちょこの後を付いていくことしかできない。

そんなしかめっ(つら)余所者(よそもの)を気に()めることなく、村人はちょこに声をかけてきた。

「あら、ちょこじゃない。どこ行ってたの?」

「シジリーマさん、こんにちは!ちょこちょっとお散歩に行ってたの。」

「遅くまで出歩いてちゃダメじゃない。ラルゴさんも心配してたわよ。」

「お父様が?」

「そうよ、だから早くお家に帰りなさい。」

「はーいの!」

…ちょこの家。

あの時のちょこに嘘を言ってるような様子はなかった。

でも結局、ここに「ちょこの家」はあるんだ。

…ちょこの家は二つあるの?

 

ううん。よくよく考えれば「家」が二つあること自体は(たい)してオカシなことでもない。

…でも、だったら父親も二人いるってこと?

 

そうなのかも。

例えば、「家」と「怪物」を結びつけないで考えたなら、ちょこがそういう複雑な家庭環境で育ったのだとしたら?

この無駄に明るい性格もごくごく自然なことのように思えた。

 

だけど…、何かが間違ってる気がする。

さっきの「危険な香り」が気にかかる。

何か、見落としてる気がする。

 

道中、村人たちは誰ひとり「怪物」にも「余所者」にも警戒の色を見せることなく声を掛けてきた。

「なかなかの人気者じゃないか。」

「そうなの。ちょこ良い子なんだから!村のみんなもとっても良い人なのよ!」

「……」

この何気ないちょこの発言と、不自然なまでにちょこを気に掛ける村人たちのお(かげ)で、アタシにはなんだかこの村の絡繰(からく)りが、違和感の元凶(もと)が見えてきた気がする。

それでも依然(いぜん)として、黒づくめたちの(ねら)いは分からない。

というよりも、グルナデたちが死んでる時点で連中の(わな)だって可能性も否定しなきゃいけなくなってきた。ううん、()()()()って言った方がいいのかもしれない。

連中の予想さえ超えてしまった『何か』が、ここに(うごめ)いてるように思えた。

 

…アタシは今、それを(となり)に置いているのかもしれない。

 

 

「おや、ちょこじゃないか。お帰り。」

何の変哲(へんてつ)もない、ごくごく平凡(へいぼん)な家。そこにちょこの父親はいた。

「お父様、心配掛けてごめんなさいなの。」

「いいんだよ。それだけちょこが元気だということなんだからね。」

「えへへ。」

「……」

(かた)まで()びる黒い長髪。堅気(かたぎ)じゃない肩幅(かたはば)の、初老(しょろう)の男。

「それで、そちらの方は?」

疲れた顔こそしていないけれど、アタシは間違いなくこの男を知っていた。

「シャンテって言うの。どうにも森で迷っちまってね。ちょこに案内(あんない)してもらってたとこなのさ。」

「そうですか。夜の森はよくよく人を(まど)わせますから。貴女(あなた)さえ良ければ、今夜はここに()まってください。」

「…そうだね。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうことにするよ。」

どうやら向こうは完全にアタシのことを忘れてる。

ううん。もしかするとコイツは瓜二(うりふた)つの別人…、「複製品(ふくせいひん)」なのかもしれない。

 

男はラルゴと名乗った。

「あいにく妻には先立たれてしまい、私も人を()()せるような器用(きよう)な人間ではないので、何か粗相(そそう)があれば遠慮(えんりょ)なく言ってください。」

愛想(あいそ)が良く、部屋を見渡(みわた)す限り家事も()(とど)いてる。

「良い父親」に見えた。

とても墓地にいた「戦士」と同じ人間だとは思えない。

「お父様、シルバは?どこなの?」

「……」

「シルバ?それは誰のことだい?」

「シルバはシルバなの。」

「…悪いね、ちょこ。私には誰のことだか分からないみたいだ。」

…また、ほんの少しちょこの表情が(かた)くなった。

「ちょこ、ちょっと探してくるの。」

「待ちなさい、ちょこ。今日はもう夜も遅い。また明日にしなさい。」

「…わかったの。ちょこ、明日にするの。」

……

 

ちょこを()()()()()ラルゴは、彼女に機嫌を直してもらうため、食卓に贅沢(ぜいたく)な食事を(なら)べた。

「わーい、ハンバーグなの!ちょこ、大好物なの!!」

「こら、ちょこ。お客様の前なのだよ。お行儀(ぎょうぎ)良くなさい。」

「はーいなの!」

こうした家庭の姿を見せられると、ラルゴが墓地の男よりも一回り小さく見えてくる。

美味(おい)しいね。」

「そう言ってもらえると(うれ)しいですね。男の手料理なんて()ずかしい気もしますが。」

笑う男の顔は、エレナの父親にも負けないくらい魅力的(みりょくてき)な「優しい父親」だった。

「気にすることないよ。良い料理は良い人間にしか作れないんだから。」

「ハハハ、お上手ですね。それでは私も、もう少し調子に乗ってみましょうか。」

そう言ってラルゴは奥のワインセラーから上等なワインを持ってきた。

「酒好きの村長の目からも(のが)れてきた上物(じょうもの)です。お口に合えば良いのですが。」

「良い人間が育てたワインにアタシがケチをつけると思うかい?」

「ハハハ、これは(まい)りましたね。これ以上は何も出ないのですが。」

「十分だよ。久しぶりに良い食卓に着けた気がするよ。」

そうしてアタシはラルゴと小気味良(こきみい)い会話を()わし、寝床(ねどこ)()いた。

 

「……そろそろかな。」

寝静まったのを確認し、アタシは寝床を静かに()()る。

「…もう食べられないの~。」

隣のベッドで眠るちょこにも起きる気配はない。

手を付ける箇所(かしょ)()()()()()()におおよそ(しぼ)っておいた。

アタシは気配を殺して目的の場所まで進んだ。

 

この家の一番奥の扉。

そこだけ他の扉と(くら)べて(よご)れが目立った。あまり使われてないから、使()()()()()()()()()()()()()()だとアタシは踏んだ。

「…チッ、鍵が掛かってやがる。」

その扉の向こうは外のはずなのに、なぜか外側から鍵が掛けられていた。

でも、鍵穴を見るにそう難しい仕組(しく)みでもない。

専用のイヤリングを分解し、()()げてこじ開けに掛かる。

その時、

「何を、しているのですか?」

「!?」

振り返るけれど、そこに人の気配はない。

声は奥の、寝室の方から聞こえてきた。

アタシは物陰(ものかげ)を利用してやって来る人影をやり()ごそうとした。

 

けれど、やはり男は間違いなく歴戦(れきせん)の「戦士」だった。

そこに人影はあるのに気配はひどく薄い。

気配を(さぐ)るのに定評(ていひょう)のあるアタシでさえ、注意しないと見失いそうになる。

それに、スパイの訓練を受けたアタシが、その目から逃げることができなかった。

「…シャンテさん。どうぞ、警戒(けいかい)しないでください。貴女をどうこうするつもりはありませんから。」

男の声は(おだ)やかだった。

食卓に着いていた時と同じように。

…ただ一つ違うのは、そこに(うれ)いのような色が()じっていることくらい。

何に対して?

私?それとも……、

 

「少し、お話をしませんか?」

「…その前にアタシからいくつか聞きたいことがある。」

「どうぞ。」

ラルゴは卓上の燭台(しょくだい)に火を(とも)すと椅子(いす)を引いてアタシを(さそ)った。

「ちょこは、何者なんだい?」

アタシが(たず)ねると、男はちょこの前では見せなかった重苦しい表情を浮かべた。

「やはり、気付いていましたか。」

アタシが椅子に座るのを待って、男は話を続けた。

「ですが、そのことを誤解(ごかい)なく理解していただくにはやはり私からいくつか先に話しをさせていただきたいのです。」

 

――――男は、ちょこの父親ではなかった。

 

男の打ち明ける内容はあらかた予想通りだった。

男に、初めから全てを(かた)る気がないことも。

「お(さっ)しの通り、ちょこは私の実の子ではありません。ヒトでもありません。」

重苦しい表情のまま、淡々(たんたん)と話すラルゴは、微動(びどう)だにしないロウソクの火を見詰(みつ)めていた。

「ですが、間違いなく私の娘でもあるのです。」

それは、人種さえ違う盲目(もうもく)の少女を娘だと言い張る彼と同じような心情なのだろうけれど、目の前の男と彼とではその表情も声もまるで()つかない。

だから、彼が侮辱(ぶじょく)されたようでアタシは少し腹が立ってしまったんだ。

「だけど、その娘が原因(げんいん)でこの村はオカシクなっちまったんだろ?」

「…どうか、それ以上は口にしないでください。」

アタシは自分から余計(よけい)なことに首を突っ込もうとしていた。

 

―――ここにいる村人たちの声はどれも死んでいた。

「歌」と「スパイごっこ」を生業(なりわい)にする人間なら誰もが気付いただろう。

ここの人間の声には「意思」がない。

抑揚(よくよう)句読点(くとうてん)もよくできていた。初めはアタシも(だま)されてた。それくらい、よくできてた。

だけど、村の空気に()れ始めた頃、気付いたんだ。あれは全部偽物(にせもの)

誰かに造られた人形なんだ。

 

「さて、(こま)りましたね。」

…ラルゴがそう言うと、嫌な臭いが周囲に(ただ)い始めた。

「どうやら貴女は(かん)が良過ぎたようです。」

「…アタシを殺す気かい?」

その臭いには間違いなく殺意がこもってた。

それなのに私の目の前にいる男は難しい表情でアタシを見詰めるばかりで、椅子から腰を持ち上げようともしない。

「私たちにその権限(けんげん)はありません。全ては貴女の言動(げんどう)が決めるのです。」

「回りくどいね。それに、ガイドラインもなしにその警告はあんまりじゃないか?」

「…()()()()()()()()()()()()。貴女ならこれで十分ではないですか?」

臭いの(もと)が、不穏(ふおん)な気配が窓の外に(むら)がり始めていた。

でも、アタシの直感が言っていた。

「外の連中は大したことない」

だからやろうと思えばアタシはもっと強気で()()()()と対話することができた。

でも今は―――

「わかったよ。」

 

今、アタシの優先すべきことは、一刻(いっこく)も早くロマリアに向かうこと。

「私たちはただ、貴女を無事(ぶじ)に森の外にお送りしたいだけなのです。」

「……」

この(わずら)わしい森から出してくれるってんなら、アタシにとっちゃあ願ったり(かな)ったりだ。

そもそも、この村がどうなろうとアタシの知ったこっちゃない。

首を突っ込むつもりなんか毛ほどもなかったんだ。

ちょこだって、「化け物」って分類(ぶんるい)で言えばアタシの敵なんだ。

もしもこのまま話が(こじ)れて森を抜けられなくなるなんてことになったら、間抜(まぬ)けもいいところだ。

それこそ、実験容器に閉じ込められたモルモットと何も変わらない。

今まで散々(さんざん)経験してきたことだ。

それは、アタシ以外のヤツらが得をするクソみたいな光景なんだ。

 

「何にしても今日はもう大人しくベッドに戻ることにするよ。そうして欲しいんだろ?」

ラルゴの目にはどうにも、外に群がる殺気たちを一度(しず)めておきたい様子が窺えた。

そして、どうやらそれは間違っていなかったらしい。

小さく頭を下げ、ラルゴは席を立った。

「そうですね。明日(あす)(あら)めてお話ししましょう。」

「どうでもいいさ。アタシをこの()()めみたいな場所から出してくれるってんならね。」

「約束しましょう。」

「……」

約束。

その言葉が、どうしてだか耳に付いて離れなかった。

 

アタシはなかなか寝付くことができなかった。

身の危険を感じてるからじゃない。

出会う誰も彼もが悲劇を背負(せお)ってるこの世界に、腹立たしさを通り越して飽き飽きしていたからだ。

こんなクソみたいな人生、アタシ一人で十分じゃないか。

アタシは本当の敵が誰なのか。分からなくなっていた。

そんな不快感(ふかいかん)の中でさえ気付けばアタシは眠っていて、当然のように翌日はやって来た。

 

あの子にとって、「最悪」ともいえる夜明けが。

 

「ちょこ、私はシャンテさんと大事なお話をするから。彼女を外に送るまでの間、少しお外で遊んでおいで。」

…結局、森の外までの案内役は変わらないらしい。

もっと、魔法か何かでポンと送ってくれるものだと期待(きたい)していたのに。

「はーいの!」

アタシたちの気持ちなんか(つゆ)ほども知らない返事だけが、キラキラ光る陽の光に似合っていた。

「…さて、ではお話ししましょう。ちょこと、彼女のためにあるこの村のことを。」

似合わないアタシたちが、顔を突き合わせて彼女の不幸を語り始めるまでは。




※殊(こと)
異質なさま。他と比べて特別な様子。

※オーク
ファンタジーの世界では邪悪な種族として描かれている。
背格好はほぼ人間に近いが、容姿は醜く知能も低い。

※ゴブリン
ノームやドワーフといった精霊の一種で、悪意を持っていることが多いが、決して邪悪な存在に限定されている訳ではない。

※シジリーマ
原作でもトココ村の住人として名前だけ出てきました。
ただ、「シジリーマ」というのはちょこの勘違いで、本当は「シジリー」と言います。
気になる方はぜひ原作をプレイしてみてください←手抜きm(__)m

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。