翌朝は、私にとって生れて初めてと言ってもいい気持ちの良い
「おや、もう起きたのかい。どう、よく眠れた?」
「ああ、お
朝食の
外に出ると潮の音と匂いは
それでも潮たちは
「最悪だね、ここは。」
なんだかここに来るまでの自分が別の生き物のように思えてしまう。
自分を
……それじゃあダメなのに。
町の入り口でバッタリ出くわした黒い大男に
「…おはよう。」
「おはよう。よく眠れたか?」
「そうだね。まるで天国にいる感じがしたよ。」
「そうだな。大会期間中は
自分のやったことを忘れてしまう
私たちだって、人殺しなんだ。それを忘れさせるこの島はやっぱり、最悪だ。
「何してたんだい?」
目の前に立つと、彼はもはや
のしかかられたら
「気持ちを落ち着けていた。」
彼の目は
戦争に向かう男の目をしている。
「…アンタは、本当にそれでいいと思ってるのかい?」
だけど、それはあの子から「グルガ」という父親を
あんな
他ならぬこの男が。
「……決めたことだ。それに、これ以上私があの子の
…言ってることはよく分かる。
人殺しに良いも悪いもない。
そして、殺した人数が多いほど、周りの人間が先に死んでいく。
「英雄」と呼ばれる
一番近い人間から
でもさ、違うだろ?
本当はアンタだってあの子と
どんなにあの子がアンタにとっての「
本物の親と子のように。
でなきゃそんな顔、できる
でも、どうあってもアンタはあの子の「光」を奪った自分が許せない。あの子に広い「
だから
……でもね、エレナだってそんなこと
あの子は今までのこと全部
だって、考えてもごらんよ。
いくら目が見えなくなったって、記憶がなくなってたって、子どもに産みの親と他人との
それに、あの子は
それでもアンタを「お父さん」って呼んでるんだからそれは…、そういうことなんだよ。
アンタは、あの子にとって誰にも
もしも「光」がアンタを奪うなら、あの子は「光」を望まない。
たとえ、それが
分かってる。
分かりきってることなのに、私はあの子の気持ちを彼に
その背中を押してあげることもできなかった。
……自信がないから。
今までの自分に。私を産んだ両親に。
エルクやリーザにはズケズケと言えた自分が嘘みたいだ。
この二人のこととなると、どうしてだか
一方的に
今さら?
幸せな
アタシの全てが「間違ってる」って正面から言われてしまうんじゃないかって。
これじゃあ、あのガキどもと変わらないじゃない。
……ううん。そうだ、そうなんだ。
あのゴキブリに似てるのは彼じゃない。アタシの方なんだ。
ゴキブリだけじゃない。あのガキどもも含めて、アタシは世の中の悪い部分の全てを持ってる。
その
ゴミみたいな親から産まれて、ゴミみたいな男たちに
「…すまない。なぜか君には
「余計なこと?」
「あ、いや。今のは私の言葉が悪かった。すまない。」
「……」
そうだよ。間違ってないさ。アタシには手も足も出せない「余計なこと」なんだよ。
そんなアタシが、あの子の
そんなの――――、
「でもさ…、もしもだよ――――」
………姉さん……
「どうした。」
「…ううん、なんでもない。…大会、
――――できない。アタシには。
「ああ、
彼の目は力強かった。
……でも、
どんなに傷付いても。どんなに恐くても。
彼は
まるで神様みたいに。
そんな彼にアタシは
………クソッたれ。
――――カジキ
「……お父さん、頑張ってね。」
「エレナ、大丈夫だ。私はきっと帰ってくる。」
大きな大きな神様が、小さな小さな女の子を抱きしめ、
親子の間にあるありふれた光景が、今のアタシには一枚の
「本当にこれっぽっちでいいのか?」
「大丈夫、ちょっと気分
エレナと一緒にグルガを見送り、エレナの歌の練習に付き合った後、アタシは仕事の手伝いと
数枚の
――――酒場「
「ラペシア様が負けてしまうなんて……。この世はどうかしているわ。」
「確かにどうかしとる。まさか、あのバグズが負けてしまうとはのう。」
「だから言ったんだ。優勝はジェスターだってな。」
「でもねお兄さん、クレイムだって
まだ朝も早い時間だってのに、酒場ではすでに試合初日の熱を
「この島は初めて?」
音量調節のできない
「うるさくてごめんなさいね。ここって
「別に
聞けば、酒場の主人でさえ仕事を娘に押し付け、客と一緒になって一日中
「ところでさ、今回の優勝
給仕は
「私はあんまり大会に
少し
てっきり、一番人気は彼だと思っていた。
アタシはまだ彼の実力を見てない。
だけど、経験を
そんな彼の名前を
そう思った。
今のアタシには関係ないけれど、ちょっとした好奇心に手を引かれ、酒を
「そのガルバーンってのはどんな奴なんだい?」
給仕はアタシを
「何でもね、彼自身いわくつきの賞金
……なんだ。そういうことか。
ちょっとした好奇心への、
「世界を
「……お姉さん、もしかしてそっち
もっと違う反応を
「まあね。」
「やっぱり。」
だったら、ここから先は
その
……さて、どうしたものか。
まさかこんなに早く
……
急に、あの二人が邪魔に思えてきた。
「ねえ、もっとその男のことで知ってることはないのかい?」
あの二人がいなきゃもっと自由に動けたはずなのに。
「……ここだけの話だよ。」
そしてアタシの思った通り、給仕はアタシが
給仕の子いわく、ガルバーンはニーデル国の裏
けれど、彼らが殺してきた連中は
…つまりソイツらは、
たかがいち
「そんな
それに、そんな目立ったことをしてるヤツらをアタシが知らないってのもなんだか
「皆、ガルバーンたちに感謝してるのよ。」
「そりゃあ、国のお
「そうだよ。むしろ、そのトップが
今のグローバル社会の中で、たかがいち国家のトップが動いたところで一面記事をそう何度も隠し通せる訳がない。
だからこそ、ヤツらが
「賞金稼ぎ」って
ついには、暗がりから
そして、その男は今、この島の東にある無人の
つまり、そこにヤツらがいる。
「ふぅん。」
「で、お姉さんは何関係の人なの?」
…まったく、平和ボケした
「
「あら、お姉さんだってまだまだ若いじゃない。」
「だからさ。こう見えても
「それって…、”女”としてってこと?」
「ハハッ。アンタ、週刊誌の読みすぎなんだよ。あんなのが通じるのはごくごく一部の頭の
アタシの言ってる意味がようやく理解できたのか。
給仕の「好奇心」は日常へと
「……もっと聞いてみたいけど、さすがにそっから先は危なそうだよね。」
「ようやく気付いたかい。分かったらホラ、アタシの飲み物も早く持ってきておくれよ。アンタのお陰で
「ああ、ごめんなさい!すぐに持ってくるわ。」
父親と同じように仕事を
……もう、この世に、
アイツらの臭いのしない場所なんてないんだ。
キンキンに冷えたエールで喉を
――――クレニア島、
広場から闘技場に続く道にはひと目、大会を見ようという
「うわっ!ジェスターだ!」
そんな中、出場者の一人らしい男が道の中央を歩いていた。
そして、私はその男の名前に
賞金稼ぎ、ジェナルド・エナ・バル・ブロンシア。
この男の通り名は、犯人を
だけど、
「あんま近寄るなよ。いつ斬り殺されるか分かったもんじゃねえからな。」
ジェスター自身、
その
それでも
「でもやっぱり準決勝に残るだけの
逆に、ジェスターほどの達人かつ狂人を呼び寄せてしまうくらい、この武闘大会の喉の
全部、大会側が
……あながち間違っちゃいないんだろうけれど。
お互いを押し合い、道を
……どいつもこいつも無害そうなツラを
島の
そして、こっちの空気の中にいる方がアタシの体は
――――闘技場内
中の空気はもっと
「おい、次、どいつが死ぬと思う?」
「
「ジェスターの
「おいおい。グルガの奴、何にも持ってねえけどまさか
「ダハハハ、バカだな。アレはしょせんクソ
酒場で感じたそれとはまるで違う、
一方の、この大会の
そして、彼らの実力が分かるからこそ、場内に不自然に
「出場者以外の方は線より内側に入らないようお願いします。」
ガイドポール前に立つ係員が、身を乗り出す客に
ここでは彼らの言葉がルールであり、それを無視した時点で何が起きても自己責任になる。
客同士で
その中にグルガの姿はあった。だけど、声はかけられなかった。
時間になり、
「それではご
まだ、選手はリングに立ってもいないのに、それを待ち望んでいた観客たちは
「準決勝第一試合、グルガ・ヴェイド・ブラキール選手、ジェナルド・エナ・バル・ブロンシア選手。リングへとお進みください!」
係員が声を
「初めに言っておくぜ。」
グルガに引けをとらない大男が正面から彼を
「必ずテメエを殺してやる。」
そして彼はこう答える。
「…好きにすればいい。これはそういう大会だ。」
※自作自演のQ&Aコーナー【お目々の治療費】
Q:世界規模の闘技大会の優勝賞金がないとエレナの目は治せないの?
A:そんなことはありません。
一部を除き、ちゃんとした国籍を持っていれば国からの保険が多少出ますし、ちゃんとした病院で診てもらえば一般人でもなんとかなります。
ただ、「ブラキアの英雄」である彼には「敵国の娘」を養子にする手段がなく、エレナの国籍は空白になっています。
だから、エレナのために何かをするのならそれを専門にする裏稼業の人たちに頼むしかないのです。
クレニア島への渡航も、お目々の手術も。
だから高額な費用が必要になりますし、グルガは自分にできる方法で一刻も早くエレナの目を治そうとしているのでどうしても剣闘士のような生死に関わる稼ぎ方をするしかないのです。
(加えて、エレナの目が見えるようになった後の生活費、養育費も含まれているのでお金はあるにこしたことはありません。)
※沽券(こけん)
そもそもの意味は土地や家屋を売る際の
それが人や組織の値打ち(体面や品格)という意味に派生しました。
「沽券に関わる」とは人や組織の面目、品位が損なわれるかもしれないという意味です。
※エール
ビールの一種です。
大きく分けてビールにはラガー(淡麗辛口)とエール(芳醇旨口)という2種類があります。
味的にはラガーは「さっぱり」、エールは「こってり」というような感じでしょうか。さらに言えば、ラガーよりもエールの方がフルーティな香りがあるようです。
※ジェスター(ジェナルド・エナ・バル・ブロンシア)
ジェスターは原作でも使われているキャラ名です。(原作ではモンスター”ソードマン”のグラフィックで登場します)
「振り下ろす剣を~」は彼の特殊能力「天の裁き」と「振り下ろし」をモチーフにしています。
一応、魔法剣士みたいなクラスにしようと思っています。
※ガルバーン
これも原作で使われています。(グラフィックなモンスター”スーパーシノビ”です)
ジェスター同様、詳しい設定はありませんが私的には、2007年にユービーアイソフトさんから発売された「アサシンクリード(一番最初に出たやつ)」のアルタイルみたいなイメージで書こうと思っています。
※ハヤブサ
通常の水平飛行で時速96㎞のハヤブサは、眼下に獲物を見つけ急降下する際、時速300㎞すら優に超えてしまうらしいです。
※警杖(けいじょう)
警察官や機動隊の使用する硬質な棒のこと。警棒よりも長く、犯人逮捕や遺留品の捜索、担架(二本の警杖と布を組み合わせて)として利用されているみたいです。
門番の人がエラそうにして持ってるイメージが強いですよね。