――――
ロマリアの定期船が島の沖を横切っていく。
それだけなら
だが、あれは一瞬、不自然な飛び方をした。
機体が
そして高度を下げた瞬間、船から
今日はあの子と浜で散歩する約束をしている。
……だが、場合によってはまた、嘘を
もう二度と、「戦争」があの子を傷つけさせないためにも。
二度と、俺があの子から「光」を
――――同日の昼、クレニア島、”カジキ”亭の一室
ザザァーン、ザザァーン……、
……波の音?…海?
……でも、私の知ってる音と、少し違う。
…どこか、温かい。
このままずっと…、浮かんでいたい……。
あんな、
……
「!!」
飛び起きると、そこは私の記憶のどれにも当てはまらない
…ここはどこ?
シュウは?
地中海風の、
そして、カーテンの向こう側にはまるで空を見ているかのようなスカイブルーの海が広がっている。
潮風に乗って、元気な子どもたちの遊ぶ声が私の耳をくすぐる。
……一瞬、私もとうとう死んだんじゃないかとさえ思った。
それだけ、眠る前と後の景色がひどく変わっていた。
手をグー、パー、グー、パーと動かしてみる。
とりあえず、ここが”
それと、当然のことだけれど私は生きてる。…残念ながら。
もしも、ここの住人が口を
……
それでもこの「地獄」は
私は、どこまでも「死ねない自分」に
それはそれとして……、
ここは本当にどこなんだろう。
「地獄」の中で見つけた小さな「オアシス」が、私を
「シャンテを捨ててもいいんだよ」と
……
でも、今は本当に、体が…、だるくて――――
「……お姉さん、」
そうして部屋の
景色にされるがまま、「シャンテ」が流されていくのを見守っていた。
……なんて
「もしかして、起きてます?」
そこにいたのは10歳そこそこ。白い
「……」
「…お姉さん、大丈夫ですか?起きてますよね?」
……この子、目が……。
女の子は登山用でない
「……とりあえず、お
「あ、ごめんなさい。私、エレナっていいます。」
不意に返ってきた私の声に驚いた女の子は、顔の向きを
「この家の子なの?」
「ううん、あ、い、いいえ。私のお家はもっと遠い所にあります。ここはガーレッジさんの
……まだ小さいのに無理に
そう、思ったけれど――――
「お父さんはどこ?」
別に深い意味はなく、自分の
「お父さんは今、大会の優勝に向けて特訓してるんです。だから今は、“
「大会?」
それに「鍛錬の岩場」なんて。その土地の人間が取って付けたような地名を口にするなんて。とんでもないド田舎に流れ着いたのかもしれない。
「男の人たちが戦って一番を決める大会ですよ。もしかしてお姉さん、知らないんですか?」
私の不安を
「ごめん、
女の子は自分の
「ごめんなさい。ここはクレニア島って言うニーデルの南にある島ですよ。」
クレニア島。彼女の口からその名前を聞いて、どうやら私もまだ運にまでは
クレニア島はロマリアのある大陸の目と鼻の先にある小さな島。
土地自体はニーデル
そして、彼女…、エレナの言う「大会」こそがその国際交流のための、三年に一度
「中立」、「非戦闘区域」という
これを利用しようと島の外から犯罪者がやってくるということで、大会期間中は基本的に島の出入りはできない決まりになっている。
このこと自体は私にとって不都合ではあるけれど、そもそも流れ着いたのがロマリア側のニーデル
ロマリアと
そのせいもあって、看病してくれるような「優しい人」なんて3割もいない。
それにクレニア島からなら、大会さえ終わってしまえば
ニーデルと
シュウと
そうでない
それもこれも全て、アタシが
「エレナのお父さんはその大会に出るの?」
ニーデルの
各部門で参加者の
「そうなんですよ。お父さん、その準決勝まで勝ち残ったんです。」
なるほど確かに、自慢の一つもしたくなるような話だ。
大会で準決勝まで残った
「へぇ、
私は気のない返事をしたのに、それはエレナをいたくご
「えへへ。」
それは仕事を初めて
「あ…、すみません。」
本物の
目が見えなくなった経験ならあるけれど、
でもどうやらこの子は音だけじゃなく、空気…というか、
黙って
「あぁ、ごめんごめん。
そういう顔ができて
親に恵まれたコイツが。
「ただ、エレナがあまりに
でも、エレナは何も悪くない。分かってる。
悪いのはアタシたちの方なんだ。
「でも、心配じゃないかい?」
「え?」
「お父さんのことさ。」
「大会」と
その
「大丈夫です。お父さんならきっと優勝して帰ってきてくれます。」
盲人の表情が
「そうかい。」
それ以上、言葉は出なかった。
なんだか、
「あの…、お姉さんの名前を聞いてもいいですか?」
「あぁ、そっか。そう言えばまだだったわね。ごめん。」
そういやまだ、
「……」
「どうかしました?」
…どうしてだか、本名を名乗っていいものかどうか迷った。
一瞬、この島から嫌な臭いを感じたような気がした。
アタシがここに
もしかしたら、この家族も巻き込んでしまうかもしれない。そんな
「ううん、なんでもないわ。アタシの名前はシャンテよ。よろしく。」
それをハッキリと
「…エレナ、教えてくれない?アタシ、どうしてここにいるの?」
やってしまったことは
もしも、それを少しでも
「お姉さん、
「シャンテでいいよ。あと、敬語もいらないから。どうにも、アタシは
それに、その方が話しやすいし、聞き出しやすい。
「……うん。」
できるだけ
「それで?エレナのお父さんがアタシをここまで運んでくれたの?」
「そうだよ。」
敬語はとれても、元々の育ちがいいのか。エレナの口調は優しく、
「お医者さんは?」
「お医者さんは来てないよ。ミレントさんが大丈夫だろうって言ってたから。」
ミレントはこの宿屋の主人ガーレッジの妻。
「エレナがずっと
「…うん。」
「そう、ありがとう。」
頭をなでるとその頭は思ったよりも小さく、
「そういや、エレナ。アンタのお母さんは?」
「……お母さんはいないよ。」
ここまでの会話で出てこなかったからなんとなく察していたのに……。
だけど…、
確認する必要なんかなかったのに…、アタシは確認してしまった。
「そうなの。…ごめんよ。」
その「ごめん」に気持ちなんか
父親が死ぬかもしれないって話も、母親のことも、結局はただの「意地悪」なんだ。
エレナがアタシにあんな笑顔を見せたから……。
「ううん。私は大丈夫だよ。お父さんがずっと傍にいてくれるから。」
それでもエレナは取り戻した笑顔を
私たちとは違う。
いつかきっと幸せになれるし、誰かを幸せにすることもできる人間なんだ。
ヒトを殺さなくても――――
「アタシさ、
エレナに当たらないようにソッとベッドから抜け出ると、エレナは必死になって私をベッドに押し戻そうとした。
「ダメだよ。まだ起きちゃ。まだ休んでた方が良いってミレントさんが言ってたもの。」
「……」
世の中には知らない方がいいことってのは山のようにあるけれど、少なくとも今のこの子にアタシの『
それは
この子に対する意地悪な気持ちが少しだけ
「わかったわ。エレナの言う通りに休んでる。だからアタシの
「うん。」
コロコロと笑いながらエレナは出ていった。
「……」
でも、今のあの子の背中には不満も不自由もない。幸せいっぱいの
…ああ、アタシたちはどうしてこんなに
エレナの笑顔に気付かされた。
私の周りに悪魔がいるんじゃない。
私も、悪魔なんだ。
私とガルアーノ。私たちはただ、
そう思うとスッキリする。
一方で、誰かを殺してしまいたいくらいにムカつく。
……アル、お願いだから…、まだアタシの傍を離れないでおくれよ……アンタだけは……
※”カジキ”亭
原作では固有の名前はありませんでしたが、グルガたちがお世話になっていた宿屋のことです。
特に深い意味はありませんが、確かこのマップのアイテム屋の壁にカジキが飾られていたようなおぼえがあるのでそこから拾ってみました。
ちなみに、主人の名前はロステル・ガルデルナ(愛称ガーレッジ)、奥さんはロステル・ミレナスタ(通称ミレント)、長男はロステル・ランジット(通称ランジー)
ただ名前を付けるのが趣味の人なので気にしないでください(笑)
アーク3で「ハンス」とかいう馬の骨がエレナをかどわかそうとしているみたいですが、そんなこと、グルガ共々許しません!!ハァッ!(グルガタックル)(笑)
※地中海風
「地中海」はユーラシア大陸(ヨーロッパ側)とアフリカ大陸で挟まれた海のことを指します。
私の中での「クレニア島」のイメージは「ギリシャのサントリーニ島」なので、この言葉を使いました。
サントリーニ島は青と白のコントラストがキレイな家々が有名な観光地です。
野良猫もたくさんいて、キレイな背景も相まって猫の写真集でもたびたびこの土地を起用されています(ただの猫好きww)。
※漆喰(しっくい)
消石灰を主成分とした白い塗料です。
※ニーデル
首都が「ミスロ」、クレニア島が「ニーデル領」という公式設定はありません。
お話を書きやすくするために勝手にそうさせてもらいましたm(__)m