――――スメリア国、
トウヴィル。
そこは閉ざされた村。近代化という波に洗われた「精霊の国」スメリアの
一年前、たった7人の
そうして
男の
「軍事国家ロマリアの
そんな
大きな円形の台地が
そして、山は一切の『魔』を寄せ付けない『聖なる血』で護られていた。
標高2000mを
”トウヴィル”は世界にただ一つだけ残された”聖域”。
……そうならざる
俺たちのたった一度の敗北が村を世界を巻き込んだ
「あの娘、本当に大丈夫なんかいのう。船に乗ってから
「みたいだな。」
「それに、あの狼も少し様子がオカシイぞい。”
「そうだな。」
ポコに次いで気の小さい俺たちの艦長は、
だが、それも今回に関しては仕方がないのかもしれない。なにせ、相手はキメラ研究所で
俺自身、彼女の『力』を
あの『力』は異質だ。
今まで数百体と連中の部下を相手にしてきたが、この
森で、俺の腕からエルクを
「……」
加えてチョンガラの言うように、妙な距離を空けてついて来るあの狼もやはり普通とは違っている。
それだけの『力』を感じる。……
おそらく、『彼女』だ。
彼女の
それが彼女の意思なのかどうかまでは分からないが。
「事情が事情だ。今は放っておくしかない。」
その大まかな内容はシュウという男から聞いている。
危険な『力』を持っているには違いないが、「被害者」であることも事実、らしい。
その全てを
この二人はあくまでも「
そう、自分に言い聞かせた。
そしてもう一つ――――、
「そウじゃ、コいつらはコれッポッチも
「…分かってる。信じるさ。だけど今は――――、」
俺を
「ヂークベック」そう名乗った時はもはや、この出会いに”運命”さえ感じさせた。「俺たちは出会うべくして出会ったんだ」と。
ヂークベック。
ゴーゲンいわく、かつてアンデルたちを
その見た目こそ……、なんと言うか。
本人いわく『心臓』が
そのせいで記憶にも
だが今は――――、
「今はエルクの
可能な限り人命は優先する。それは俺の中でずっと変わらない
彼女の『力』を
「当タり前ジャ!」
そう言ってガシャガシャと飛び跳ねる姿は…、どう見てもガラクタにしか見えない。
――――トウヴィル
「お帰り、アーク。」
トウヴィルに
「村長、すまないが一人、急ぎでククルに治してもらいたい
「……分かった。馬を使うかい?」
「いいえ、歩いて行きます。少し
エルクの
振り返る俺の視線に合わせて
「もしや、例のキメラなのかい?」
「違います。ですが、その犠牲者であることは間違いないようです。」
とは言ってみたものの、彼女から
ここで
「大丈夫です。俺たちが危害を加えない限り彼女も大人しくしているでしょう。」
「……分かった。信じよう。」
幸い、彼女の『気配』を
それもこれも、ククルが村人に「俺たちへの理解」を必死に説得してくれたお
俺たちとは違う立場で
そして、村人もそれを理解してくれた。
その報告を聞いた時、俺は改めて「人のために闘う」決意を固めることができたんだ。
「俺たちがいない間に何か変わったことはありましたか?」
「いいや……、あれ
当然だが、村長は
「女官」とはいっても、元はただの村娘だ。身内が攫われてしまった
「分かってます。彼女たちの救出にはポコを当てています。少し時間は掛かるかもしれませんが、アイツならきっと皆を無事に連れ帰ってくれます。」
「ポコが……、そうだな。今ではアレも
とかく「ポコは頼りない」というのが皆の間で当たり前の認識になっている。できれば俺はそれも変えてやりたいと思っている。アイツの成長していく姿を皆の目にも
それが、この村のためにもなるような気がしているから。
「後で家に寄ってくれるといい。少ないが食料を用意しておくよ。」
「ありがとう。助かります。」
言い残すと、村長たちは治療の準備を
俺たちがそこに
――――トウヴィル、神殿前
そして、俺たちがその「新たな柱」になることを求められている。
中に入ると、すっかり
「……こっちよ。」
俺たちの背後に
「……」
寝台の前に来ても、少女は
「安心して。彼を助けたいだけだから。」
少女の目を
そうして連れてきた女官の手を借りてエルクを寝かせると、ククルは息も
彼女の手を通じて、
少女もまた、彼女の『力』が「危険でない」と感じ取っているようで、黙ってそれを見守っている。
「……彼の手を、
それが少年を
とにかく、そうすることで少しだけ少女の表情が
少女は森の中で青髪の女と言い合った後から一言も口を
二人だけの世界に
そこへ追いやったのは青髪なのかもしれない。だが、その原因は変わり
もしもこのまま少年が目を覚ましたとしても、彼もまたそこに引き込まれてしまうだろう。良くない
今の時代を
数分後、ククルは集中を
治癒に
「怪我はほぼ
「……それって、どういう意味?」
少女が、ここにきて重い唇を開いた。『力』を使う
「心が、
「……助けて、くれないの?助けてくれるって言ったじゃない。」
リーザの声色が……、少し変わった。
「たとえ、私が無理やり引き戻しても、彼はまた死のうとするわ。”心”は、それだけ大事なもう一つの”心臓”なの。」
今の彼女に自分を
ただ、伝えなければならないことを伝えていた。
少女のために。
「私が……、私は……。」
言葉を
「一、二日、ゆっくり考えるといいわ。食事はあまり
そして、エルクの顔、握りしめた手へゆっくりと視線は落ちていき、一度だけ、首を縦に振った。
「ベッドはここにあるものならどれを使っても構わないわ。私はいつでもこの神殿の
「……」
「…ほら、私たちも今は席を外しましょう。」
俺と女官を促し、
「ククル、あれで良かったのか?」
女官は彼らへの食事の用意を言い付かり、そそくさと神殿の奥へと引っ込んでいく。チョンガラは
広い神殿で二人きりなのに、彼女を頼ったのは俺なのに、俺は彼女に責任を
けれど、俺の性格をよく知っている彼女は普段通りといった声で
「
「そうなんだろうけど、俺はあの
「…そうね。確かに、そうなのかもしれない。」
影響こそなかったものの、『声』と正面から向き合った彼女は俺よりも深いところまで『声』が
「それでもやっぱり、今はあの二人を信じて待つ他ないわ。」
「……そうだな。」
彼女の言う通り、エルクの身体はもう
リーザも同じだ。
能力に見合わない『力』があることで、心との釣り合いが取れていない。
どちらも、俺たちの手では触れられないところにある。
「ただ…、」
「ただ?」
「二人とも、本当に弱い子だわ。多分、私たちよりもよっぽど酷い目に
少なくとも、俺たちが幸せな人生を送っているとは思っていない。けれど、あの二人を見ていると、それも
抗うことも許されていない幼い頃から、数えられないほどの
誰もが経験するものじゃない。彼らが『特別』だから
「できれば、
あの娘にしても、本心では俺たちと関わりたくもなかっただろう。ただ、恋人を助けたいがために付いてきたに過ぎない。
世界を救えるかもしれないその大きな『力』を持っていながら――――。
「それは目を覚ました二人に聞いてみるまで答えを出すのは早いんじゃない?」
「受け入れてくれると思うか?」
あの姿を見た瞬間、なんとなく、彼女はもう二度と首を縦に振ってくれない気がした。
正直、彼女だけは、群がる『闇』を
彼女の『力』が異質過ぎるんだ。
「……アーク、アナタはヒトを信じることができる人。それがアナタの一番近くで支えてくれる力。…知ってるでしょ?」
鼻先が触れ合う距離、彼女の唇が動く度に俺の唇に彼女の
「アナタのために動かない人もいる。
彼女の瞳には「力」があった。
「アナタに愛された私は知ってるわ。」
あの少女とは
「そんなことに意味なんてあるのか?」
俺たちは真っ直ぐに見つめ合う。お
「そんなものいらない。満たされた命は幸せを生んでくれる。それがどんなものか。今のアナタなら分かるでしょ?」
目を
それでも全てを語ることのない彼女の言葉が、胸に深く染み込む。
それは、アンデルとの対決で感じたモノよりもずっと強い力で満ちている。
俺を、満たしていく。
熱く、熱く――――
静かに、俺は彼女を抱き寄せる。
「……そうだな。」
俺の『剣』は腰にある「鉄くれ」だけじゃない。あの、どうしようもない
皆が熱い想いを求めて生きている。
俺は、皆を
例え、俺に世界を護る力がなくても。
「だから、あの二人のこともアナタだけは
「……」
俺の
想い合うだけが全てでなく、
「運命」を支え合うからこそ俺たちは愛し合える。たとえ、
たとえ、その先に俺たちの
「ちょっと、聞いてるの?」
ただただ
「……あぁ、愛してるよ。ククル。」
「……私もよ。アーク。」
俺は彼女の手を引いて進んでいく。
それが俺の生き方なんだと、彼女が教えてくれたから。
――――スメリア
ククルの神殿にリーザたちを
神殿の姿はもう
「本当に良かったんか?」
「何がだ?」
「お姫さんのとこにあの子たちを置いてきて。」
どうやらまだ「キメラの暴走」を
俺たちが敵対している相手は、そんなに簡単に付け入る隙を与えてくれるような連中じゃない。これもまた、奴らの仕掛けた罠の一つかもしれないと
「ククルが大丈夫だと言ったんだ。信じよう。」
「……あまり
「……運命、か。」
「いけ好かん響きじゃがな。ヤツらの顔色を窺うのもワシらの仕事の一つじゃぞい。」
そうかもしれない。大切なことなのかもしれない。だけど、
「チョンガラ、」
”運命”に押し流されるだけの闘いなのであれば、俺がここにいる必要はない。だからといって「選ばれた人間」と
ただ、俺は、俺たちは今、そういう悲劇を打ち消すための闘いをしているんだ。
「人は”運命”にも負けない。ククルも、エルクも……、リーザも。
確かに俺はアンデルに遠く
だから今は、言葉でしか言い表す
「……お前さんは本当に、父親に似とる。」
説得を諦めた彼は、一つ溜め息を
俺は、遠ざかるその背中にとても
「……父親…か……。」
――――父さんは強くて優しかった
あの時、
俺や母さんを置いて何処かへ消えた父さん。
俺は強くて優しい父さんが好きだった。だけど、「父さんは死んだ」と言い続けなきゃいけない母さんの苦しむ姿を見ているだけに、俺は父さんが許せなかった。
あの男の、エルクを想う姿が本物なだけに、
チョンガラはアララトス国で父さんに会っている。
なぜそんな所にいるのか。俺には理解できなかった。父さんが居れば
………違う!そうじゃないだろ!
父さんが、俺の父さんが考えなしに俺たちを捨てる訳がない。
父さんも俺たちを護るために何かと闘っているんだ。たった一人、世界を駆けまわって。
そうだろ?父さん――――
俺は懐にしまった首飾りを服の上から握りしめ、沢山の人を想った。
※北西端(ほくせいたん)
読みが合っているか分かりませんm(__)m
※残滓(ざんし)
食べ残し。転じて、何かの後に残った価値のないもの。残りクズ。
※標高2000m
比較の一例として、富士山は標高3776mです。
ギリギリ小麦、トウモロコシが栽培できる高度で、ジャガイモは問題なく栽培できます。
さらに、標高が高いほど紫外線量が増え、2000m以上になると「高山病」の発症率も高くなるそうです。
ククル、神殿に
※馬
「馬」と一言にいっても、競馬場などで見かける馬ではありません。
この時のトウヴィルは山岳地帯に近い環境なので、ウシ科ヒツジ属のビッグホーンという動物に近いものだと思ってください。
もっと分かりやすく言えば、「もの●け姫」の「ヤックル」だと思ってください。
※トウヴィルの村長
原作のアークⅠではちょっとした悪役でした。
このお話では、彼はその後アンデルを頼って村を捨てていることにします。なので、この村長はまた別の村長なのであしからずー。
※鉄くれ
「鉄の塊」という意味。……ですが、そんな言葉はありません。
「石のかたまり」「石っころ」という意味の「石塊(いしくれ)」を文字った造語です。
※老獪(ろうかい)
経験豊富でずる賢いこと。