……口の中が、血の味で
でも、これは私の”血”じゃない
……エルク、これは私じゃないの
分かって、エルク…………
「エルク……」
彼女の目が、また青白い光を放っていた。周囲に無数の白い
「ミリル……」
「……」
声を掛けても返事はない。ミリルは、そこにいない。
「!?」
さっきよりも
『白い風』、『氷の
攻撃することもなく、無抵抗に殺されることもなく。
……俺は心のどこかで、まだ彼女を助けられるような気がしていたんだ。
まだ、心のどこかで神様が何とかしてくれるんじゃないかって
神様なんかいない。
分かってる。
俺に、彼女を助けられるような”力”なんてないんだ。
分かってる。
それでも――――、
「ッツ!」
集中力を
……ゴメンよ、ミリル。お前の手で終われるのが唯一の救い、かもな。
俺は『風』の動きから目を
死ぬ前に見るのが彼女で、本当に良かった……。
「?!アアァァアアアァアァァァッ!!」
するとまた、何かを切っ掛けに彼女は
「ミリル!!」
俺には
「……クソッ、どうすりゃあいいんだよ。」
「エル、ク…、逃……げて……」
「…ミリル……」
どうして……、どうしてそこまでして俺を護ろうとするんだ。
俺はお前を護ることだってできない「弱い化け物」なのに――――。
――――”白い家”コントロールルーム
”白い家”の
ブタやトリの肉を食い、
「エ、”M”が命令を受け付けません。」
ところがどうだ!!
この
……まったく見事じゃないか。
美しいぞ、ミリル。お前こそ、ワシの理想だ。
だが…、まだだ。
お前ならば、分かるだろう?
理想は
ワシは完璧なお前が見たいのだ。
「……その手助けをしてやろう。」
悪魔は、「理想」という画家を探し求めていた。
帰る家さえも見失った彼は自らの手で「家」を生み出し、多くの子どもを産み続けた。
全ては彼の思い描く「理想」のために。
彼が追い求める”愛”のために。
「”M”を
「は?」
「聞こえんのか?”M”を壊せと言ったんだ。」
この極限の状態に追い込まれたお前はワシに何を
さあ、
「…よ、よろしいのですか?あの水準にまで
「
掴んだままの男の手は、痙攣する肉を
そこは決して救いの手の差し伸べられることのない、暗い暗い
魂たちの
「人形が人形らしく振る舞えないのであれば…、それはいったい何なのだろうな?」
一匹を喰い捨て、悪魔は隣の男に
彼の
「は、はい!」
そこには大人も子どももない。
彼の
悪魔が
「いいのか、
彼は悪魔の
なぜそこまで”複雑な
彼を”突き動かしている
”快楽”と”愛”の間には深い、深い
「川」と「海」の区別がつかない子どものように。
「壊してこそ、
無知な彼を捨て置き、悪魔は
「それに、サンプルならある。レプリカを造るだけならオリジナルを壊したとて何の
すると、研究員の一人が、恐るおそる悪魔に緊急事態を
「……なんだ。」
「四時方向より所属不明の戦艦が接近しています。」
聞くなり悪魔は
「……来たか。意外に早かったな。」
悪魔は彼の
「来ない訳がない」と確信していた。
「ソレが来る」と予告されていた死に神もまた、自分の目の前にまでやって来るであろう青年の
あの手この手で彼らのリンチを
「大した時間
「ここで迎え撃つつもりか?」
そのために自分をこの場に呼びつけたのかもしれない。悪魔の「
死に神は悪魔の
しかし、悪魔はそれを否定するように両手を上げ、軽く笑い飛ばした。
「まさか。この”家”の人間には予めアークの
「ここを
死に神は悪魔の思想が詰まった場所に
二匹のドブネズミの
ところが、
「必要なことをしているまでよ。勇者には最後まで
「……貴様、まさかあの方の所まであのゴミどもを引き込むつもりか。」
彼らには「ロマリア四将軍」という裏の
しかし、その「王」も今は訳あって城の中に身を隠している。そんな大事の時、
だのに悪魔はそんな暗黙の了解を軽んじ、
「確かめねばなるまい?あの方の
「
口にしつつ、死に神にはこの
悪魔が匂い立つ声で囁くまでは――――。
「ワシの”影”が、そこに何か仕掛けていたとしてもか?」
「……」
ガルアーノ・ボリス・クライチェック、彼には万が一のために身代わりとなる「影」がいた。
彼に
彼の数少ない楽しみの一つとして。
「同じことだ。いいや、むしろ
「フハハハッ、意地を張るな。キサマももう気付いておるのだろう?自分がどうしようもなく”命ある存在”であると。」
「……」
「影」はこの世から消えた。つい先日、彼の舞台に上がり込んだもう一つの『影』の手によって。
「想像してみろ。万が一、万が一、我らが
しかし、死してなお「影」は自身と共に息づいている。この足元から伸びる黒いモノが、自分の首に手を伸ばすのではないかと悪魔は
そんな様に死に神は
「
悪魔の浮かべた得意の笑みは、死に神との
「ワシのオモチャが良いオモチャだからよ。」
やはり、ここで
理解の
――――”白い家”地下水路
「エルク…、ア、ア……」
パーツそのものは変わらないのに、それがつくる表情が
彼女の身体は
「どうした。すぐにでもミリアはお前を襲うぞ?殺すなら今の内だ。…もちろん、逃げるという選択肢もあるがな。まあ、お前の好きなようにするといい。」
悪魔の声が耳元で囁いている。
「ア…、アア……エル…アァ……」
「ミリルから聞いただろう?ソイツは手術中に何度も暴れたのだ。その
傷だらけの
「それでも奴は必死にミリルを
「……」
違う。逆だ。
俺はここでミリルに殺されなきゃいけないんだ。何かが
「オカシイとは思わんか?狂っているとは思わんか?」
俺が、どんな状態であっても悪魔の声は
そこに、いる。
「この世にはお前よりも
そうだ。
俺より不幸な人間は少なくない。
だけど、こんなにも他人を不幸にさせた人間はそう多くないはずだ。
だからこそ、俺はここで終わるんだ。
「もしもこの狂った運命を変えて欲しくばワシのモノになれ。ジーンはどうしてやることもできんが、今ならまだその女とキサマをこの地獄から救ってやらんでもない。」
「……あ?」
どうすればミリル助けられるってんだ。
どうすれば俺のやってきたことを
「
……全部、お前のせいだろうがよ。
「ワシは
……ここを捨てる?ここにいる彼女はどうするつもりなんだ。見捨てるのか?
――――”白い家”コントロールルーム
「仕上げだ。やれ。」
「ハッ。」
悪魔の
抗う彼女を奈落へと突き落すかのように、グングン、グングンと。
……時間が来てしまったのだ。
ワシはここから離れねばならん。
実に残念だ。
だから、ワシの愛する娘よ。これはワシからキサマに
だが…、もしも、お前がまだワシに抗えるというのなら……、
………いいや、何でもない。
……受け取れ。
悪魔の紅い手が爪を立て、小さな小さな
エルク、私、自由に、なりたかった……
「………イヤだ…、イヤだ、イヤだイヤだイヤだイヤだっ!!!」
包み込む「赤」は二人を、二度と出会わないように、二度と出会えない場所へ連れて行く。
遠く、遠く――――
遠く、遠くへと――――
※俗悪(ぞくあく)
低級で下品なこと。
※奸計(かんけい)
悪だくみ。
※細氷(さいひょう)
ダイヤモンドダストの和名です。
※小間使い(こまづかい)
召使いのようなものです。
※白無垢(しろむく)
本来なら「花嫁衣裳」もしくは「死に装束」といった礼服にあたる言葉ですが、今回は「純粋無垢」みたいな意味で使わせてもらっています。「死出の衣装」という意味では少し掛かっているかもしれませんが。
※お詫び
今回、一部、卑猥な表現を用いたこと。深く、お詫びさせていただきます。
納得のいく作品づくりのため、どうかご容赦ください。