――――”白い家”
シャンテの身のこなしは、自分の基礎体力を
酒場で彼女を撃った時も、今のこの
だからこそ、今の彼女の姿は自分の能力、役割をよく心得た結果生まれたものとも言える。
よほど頭が切れるのか。今までの経験が彼女を今のように育ててしまったのか。
もしくは、その両方かもしれない。
……できることなら。
また、彼女は「
「アレと二人きりにして良かったのかい?」
特に敵の気配のない現状、彼女は俺の単調な指示に従いながら適当な話題を振ってきた。
「問題ない。エルクなら上手くやる。」
正直なところ、俺は彼女を「敵」か「味方」か
間接的ではあるが、彼女にはエルクを護る上で大事なことを教わっている。だが、そのエルクが―――これもまた関節的ではあるが―――彼女の
……そして個人的にも、俺は彼女に興味があった。
「そうかねぇ。アタシにはどうにもまた、トバッチリを受けそうな気がしてならないよ。」
彼女の示す敵意もまた
そして今、彼女がなぜこの話題を持ち出してきたのか。
「アンタも気付いてるんだろ?」
彼女のその言葉だけで通じる大きな「
「ああ。」
それでも
「だが、全て乗り越えてもらう。エルクならできる。」
そこに、俺という存在がいてはならない。
ミリルを
体温、
つまり、外部からの
そういった技術の存在は聞いたことがないが、ここがロマリアの
……エルクは既に護るべきものを
俺が掛けてやれる言葉は
この『現実』に呑まれ、『悪夢』に
「できないさ。アタシには分かる。」
「……」
「死ぬよ?」
そもそも『ミリル』はエルクにとって
それでも……、それでも、必要なことなんだ。
アイツが『人間』であるためには。
「できないはずがない。アレは俺が育てた男だ。」
俺は、信じて待つ他ない。
「……なんだ。」
「いいや、あの晩もこれくらい
そっと
「……俺からも一つ確認しておく。」
彼女に
そのためか。進んで話を
「アタシの目的かい?」
「……」
「弟の回収さ。」
「……どういう意味だ。」
シャンテは
「アイツらにとっちゃあ所詮
彼女いわく、ここで
どれもこれも、今の時代にはありえない
そういう未知数の敵であると知っていながら、彼女は愛する者への
「……ハハッ、言ってみるとバカらしいね。連中に人間の
勝てない敵を相手にしているからこそ、彼女はそこに「
だが彼女の言うように、それこそ無駄な
「だからこそアタシが、この手でヤるのさ。誰にも頼れないからね。」
「一人で、やるつもりだったのか。」
「できることならガルアーノだって殺してやろうと思ってたさ。」
「……
その
「ハハッ、そう言われて
「最後まで付き合ってもらうよ。もしも、万が一、
「……」
あの
その
だが、心の奥底で彼女はそれを否定しようと
彼女は
誰を
彼女を救ったはずの”愛”がそれを
俺は、彼女の浮かべる笑みに
――――”白い家”出口方面
ミリルを
「どうやって逃げるの?」
攻略してきた道だからだろうか。敵からの
「外に仲間がいるんだ。
つまり、今一番のネックは、シュウ抜きでいかに素早く”森”を抜けられるかだ。
「その人たちは私のこと、知ってるの?」
「あ?ああ、もちろん。」
「……」
背負っている彼女の表情は確認できない。けれど、彼女が何を心配しているのか、何とはなしに
「その人も、この施設の
「……女の人?」
「あ?」
彼女は俺の背中に鼻を
「エルクから、その人の匂いがする。……とてもイイ匂い。」
その返しは予想してなかった。そして――――、
「何が言いてえんだよ。」
そして、俺は今さらながらに、砂漠の
「……その人は私からエルクを
再会できた喜びからか。それとも、危険な状況に置かれ続けて感覚がマヒしているのか。彼女の言葉は今の状況とあまりにも
「変なこと言ってんなよ。今はここを出るのが
今は、それ以上、
「私、エルクが迎えに来てくれて本当に嬉しかった。」
……怖いんだ。
「もう、離れ離れはイヤだ。」
また、彼女を『あそこ』に置き去りにしてしまうのが。
「……エルクは、違うの?もう、私がいなくでも平気?」
「平気じゃねえよ。だけど……、」
「……だけど?」
俺の「理性」が言う通り、今、この場で言い合うことじゃないのかもしれない。でも、彼女は今、動けないんだ。
『森』の枝に足を取られて、転んだままなんだ。
手を
「俺は、ミリルの
「……ちゃんとって?」
「色んな人がいるんだ。気のイイ奴、悪いヤツ。色んな場所があるんだ。見晴らしの良いところ、ゴミだらけのところ。俺はたくさん、見てきたんだ。…俺、犬飼ってるんだぜ?ミリルにもたくさん見て欲しいんだよ。色んなもの。色んな人。」
5年前、砂漠に投げ出された俺にとって、シュウに見せてもらった外の世界は何もかもが
出会ったものの数だけ何かを感じさせてくれた。
目を
大事なんだ。俺たちみたいな“
「エルクは、傍にいてくれる?」
彼女の心音が、背中を通して俺の心臓を叩く。俺も、上手く返さなきゃいけない。
「当たり前だろ。」
すると、彼女はごく自然に俺の
「エルク、私とずっと
毎晩、『悪魔』の中で俺を「弱い」と
「エルクが傍にいてくれるなら私はどこにでも行くよ。」
だからこそ、俺をオカシクさせるには十分だった。
そのことに感じるべき
「あ、待って、エルク。」
のぼせた頭で出口を
「な、なんだよ。」
「ジーンを連れて行かなきゃ。」
「……」
……聞かなきゃ、良かった。
唇が、糸で
「どうしたの、エルク?早く行ってあげなきゃ。ジーンだって、エルクが来てくれるのをずっと待ってたのよ?」
彼女は
…………俺が、言わなきゃダメなのか?
「ジーンはもう……」
彼女に聞こえないように言うのが精一杯だった。
それを知ってか知らずか。彼女はこの「運命の日」への喜びをますます、ますます大きく
「きっと喜ぶわ!エルクだってそうでしょ?」
彼女の心臓が俺の背中を打つたびに、
何度も、何度も。
「ジーンはもう…、いねえ。」
虫の息だった。
「え?なに?聞こえないわ。…エルク、さっきから変よ。どうしちゃったの?」
俺が言わなきゃ、彼女はこれからもずっとアイツの名前を口にし続ける。……寝ても
そんなの、今までの『
「もしかして、忘れちゃったの?ジーンよ。私たちいっつも一緒にいたじゃない。」
「違うんだ!!」
これ以上、
もう、『
「ど、どうしたの?エルク、私、何かいけないこと言った?」
どこかで誰かが言わなきゃならないなら……。
「ジーンはもう、いねえんだ。」
やっと、俺の言葉は彼女の耳に届いたらしい。彼女の心の声がピタリと聞こえなくなった。
「……何、言ってるの?分からないわ。」
だんだん、彼女の身体が冷たくなっていく。
どんどん、遠くなっていく。
「……ミリル、違うんだ。」
違わねえ。なに言ってんだ。ビビッてんじゃねえ。彼女に、嘘を…、
「ミリル、ジーンはいねえんだ。もう、どこにも……。」
そして、彼女はとうとう全てを察してしまう。
「……エルクが、殺したの?」
その声色は低く、「もう後戻りはできない」と俺に
「……」
「そう。エルクがここに来たのは、私たちを殺すためだったのね。」
「違う!俺はミリルを助けに来たんだ!」
「私、だけ?他のみんなは殺すの?」
「違う!」
……本当に?
……俺は何のためにここに来たんだ?
「俺は、みんなを助けにきたんだ。」
「……エルク、それは嘘だわ。」
そうだ。これは嘘だ。こんなの、嘘に決まってる。
ミリルに言われるまで、
「俺は……」
ミリルを――――、
「ここに来るまでに何人殺したの?」
ミリルを――――、
「……嘘つき…、嘘つき、嘘つき……」
首が、どんどんどんどん、強く強く絞まっていく。
「また会えるって信じてたから。たくさん
5年間、彼女は何回あの手術台に乗せられてきたんだろうか。
「……知らないでしょ?……すごく怖かったのよ?」
5年間、彼女はどれだけあの『
「……知らないでしょ?……すごく、……すごく…、すごく……、」
そして……、彼女はその
「痛かったのよっ!」
大きな大きな
それでも
「この、裏切り者っ!!」
その瞬間、背中の皮が焼け落ちたかのような激痛が走った。
不意の痛みに
「ミリルっ!?」
「よくも、みんなを――――」
彼女はまた、その宝石のような瞳を輝かせていた。ギラギラと。
その瞬間、俺は確信した。
あの女の言っていたことは現実になる。
俺はどう
俺はこの『悪夢』から
※場面(シーン)の切り替え
どう表記するのが見栄えがいいのか。なかなか良いものが思いつきません。ちょっとダサい文面になっているとは思いますがご勘弁くださいm(__)m