ソイツは
「この場でテメエを血祭りに上げてやりたいのは山々だけどね。今すぐ出てくれば見逃してやるよ。」
……
それは腹を
俺が『不死身』のコイツを殺せなくとも、俺だってコイツに殺されたりなんかしない。それだけの実力の差は絶対にある。
それに、俺たちはコイツに姿を見られるよりも早く隠れた。「俺たち」だという
それなのに――――、
その
「仕方ない。」
彼までもが、女の「言葉」に負けを認め、俺を
……違う。
俺がこの手で殺した訳じゃない。それでもこの女の「
『不死』という女の不幸が「憎悪」という
「別にアンタらを追ってここまで来た訳じゃない。これは全くの別件さ。」
……だったら何だってんだ。
だけど、その意味を理解した彼が要約し確認する。
「協力しろ、ということか。」
「は?」
俺だけが、話についていけてなかった。
「不満かい?アタシはこの中のことは
……
「いいだろう。」
「……」
それに言いなりになる彼の姿も俺には信じられなかった。
その
「付いてきな。」
そして、シュウの返事を聞くなり女は何の打ち合わせもなく動き始めた。
やはり、俺たちの動きは悪魔たちに
マンホールを
そして、女はこれに何の疑問を抱くでもなくその照明に
今のこの状況も、この女の背景も知らねえ奴がこの場にいたらここでこの女を
俺にはとても、そんなことを聞く勇気なんてなかったし、おそらくこの女がシロだってのは間違いないと思っていた。
……親友を焼いた、あの
何が目的なのか。
彼も何も
歩きながら、俺はふと自分の言ったこと…いや、「回復したと思っていた記憶」に違和感を覚えていた。
水路には
「ゾンビー」や「
これもまた、悪魔野郎の
俺が自分の記憶と
「……この先にいるのはお前の仲間か?」
それでも女は立ち止まろうとせず、答えだけを投げて
「それは嫌味のつもりかい?それに、もしそんなものがいたとしても、こんな狂った女を相手にするようなバカはこっちから願い下げだね。」
女だってそれには気付いてはいた。周囲を
俺も、二人に遅れて近付いてくる足音に気付く。
「……止まれ。」
それは照明のない道の先からやって来た。
「……貴様ら、賞金稼ぎか?それともこの”家”の関係者か?後者であれば名前と理由を述べろ。」
現れた
ペブロ族は『呪術』に
だってのに、青髪の怖いもの知らずな行動は
「そのどちらでもないさ、クソ野郎。」
そして不思議と、彼はこの
ドンッ!
ドンッ、ドンッ!
答えと同時に女が
それはまさに、
そしてさらに恐ろしいことに、彼に撃たれた祈祷師は俺の視線の先にはいなかった。
「……あぁ。」
祈祷師は二度目の
ソイツは、俺が見ている場所から90度近くズレた場所にいた。
『
「どうやって?」
「……言っただろ?”
いち早く気付いた女は俺や祈祷師の気付かない形でサインを出していたらしい。
気付いたのはシュウただ一人。
「そうじゃねえよ。何でテメエには見えてんだって言ってんだよ。」
……そうだ。この女のサインを頼ったってことはシュウにも祈祷師の位置は
これも『不死』と関係してるってのか?そういやコイツ、あの”帰らずの森”を抜けてきたんだ。たった一人で。
どうやって?
「ハッ、テメエはいちいちそんなことにばっかり気を取られてるから色んなものを見逃すのさ。」
「なに?」
「止めろ、エルク。」
女に掴みかかろうとする俺を、彼が割って入る。
「次が来る。」
「え?」
二人は幻覚でない祈祷師が立っていた、明かりのない道の先を見ていた。
ガシャン…、ガシャン…、
ゆっくりと、
「……白骨兵か?」
まだ、だいぶ遠い。無視して進もうと思えば進める。それなのに二人はその場を動かず、敵を待ち構えている。
「それだけだと良いがな。」
彼の視線は「足音」よりも何倍もの速度で近付いてくるものを追っていた。
「エルクの『火』が一番手っ取り早いんだろうけど、多分
「……分かった。」
俺が女の忠告を理解するよりも早く、水路を走る水が不自然な波を立てた。かと思えば、そこから青いゲル状の
「”
「毒を吐く小さな沼」。
つまり、斬ったって叩いたって
その上、奴らは体内で特有の化学反応を起こし、『毒ガス』をつくる。切ったり叩いたり、合体したり分裂する時にこれを吐き出しては敵に
コイツらを手っ取り早く
その
数ヵ所から同時に現れた触手はシャンテを
「
ところがシャンテは
また『幻惑』か?
「ギイッ」
数発の
二人が引き金をひく
化け物たちのそれは
けれどもそれ以上の変化はなく、あとはいつもの「化け物退治」になった。
そこで気付いたことがあった。
白骨兵の足音もそうだけど、あらかじめ
その上、粘土で隙をつくり、コウモリでトドメを
5年前のあの時は―――俺の記憶に間違いがなけりゃ―――、子どもを
今回のそれには軍隊を相手にしているかのような
それと――――、
「お前、もしかして魔法か何か使ってんじゃねえか?」
戦闘中、女に近付くと急激に『炎』の声が遠くなることに気付いた。
そういやプロディアスでこの女と会った時も、リーザが『声』が聞こえにくいって言ってた気がする。
「今、言ったばかりだろ。テメエにゃそんな
「んだと?そりゃ一体どういう意味――――」
「エルク。」
また、彼が俺と女の間に割って入り、俺を
「俺たちは”ミリル”を助け出せさえすればそれでいい。
嘘だ。「ミリル」を助ける気なんかこれっぽっちもないくせに。
「この女を理解するのはお前にはまだ早い。だから今は手を着けるな。オマエは”ミリル”だけを見ていればいい。見えない所は俺がなんとかする。」
むしろ、
「いいな。」
「……ああ。」
そうして俺たちはまた歩き出した。
歩きながら俺は思った。
こんなに彼に
その視線が冷たいと感じていたあの頃、俺は彼が悪魔の
今はそうじゃないって分かってる。それなのに――――。
「これは……」
これだけはシュウも青髪も分からないに違いない。
……でも、俺には分かる。
「コイツが……」
『炎』が、親しげにそれに
中には
「どうだい、マイホームに帰ってきた気分は?」
事情を知っている青髪は、憎らしげに俺を睨んでいた。
「……クソッたれ。」
水路での一回っきり、俺たちは襲われることもなく順調に先に進んでいた。
すると女は突き当りの扉の前で立ち止まると、約束の「忠告」をし始める。しかも、今回は俺にも分かるようにハッキリと。
「ここに、デカいロボットがいる。先に進みたきゃヤるしかない。……分かるね?」
女は扉横にあるパネルに
「分からねえな。そんな厄介なヤツがいるなら通気ダクトやら何やら別ルートを探せばいいじゃねえか。」
「……フザケてんのかい?」
パネルが緑に
「あ?」
俺たちの行動を
それを
だけど
「ここを何処だと思ってんだ。コソコソ進んでりゃ裏を
「……」
ダメだ。
「その番犬の
この
「さあね。実際に動いてるとこを見た訳じゃないからね。ただ、ソイツ一機だけで一個
大隊っていや、おおよそ1000人単位のことだろ?
「それに、
「出口まではどう進めばいい。」
「
戦闘において、この歌姫を殺せる敵は一人としていない。だけど、「足止め」という限られた目的であれば、この
そういう意味で言っていた。
「いや、俺一人で入ろう。」
「お、おい、俺は?いくらなんでも、そりゃムチャだろ。」
すると、彼は驚くくらい
「言っただろう。お前の手に負えない所は俺に任せればいい。心配ない。俺はまだ死なないさ。」
……本気なんだ。
「……ク…クク、アッハハハ!」
敵の
でも、その気持ちは分からないでもない。
「悪いね。気にしないどくれよ。単に驚いちまったのさ。……でも、アンタのことだ。ハッタリじゃないってのは分かってるよ。だからこそビックリしてるのさ。思った以上のヤツだってね。」
そうだ。
俺も、想像の
「……いいや。もしかしたら、同情してるのかもしれないね。そういう場数を踏んでこなきゃならなかったことにさ。」
それでもこの女はまだ俺たちを殺す気でいる。顔は笑っていても、それだけはヒシヒシと伝わってくる。
「お前の知ったことじゃない。」
「……ククク、そうだね。その通りさ。じゃあ、
そう思うと、女の「忠告」の一つ一つが彼への
「敵はどうやら、ソレ一機だけじゃないみたいだね。」
「というと?」
「”足音”は聞こえないけど、
『音』?コイツ、もしかして『耳』で
……いやいや。
第一、この施設で運転中の機械は100や200じゃ下らないんだぜ?そんな中で、この扉の向こう側の様子だけを探るなんて
「……分かった。」
俺とは
返事もそこそこに、彼は一度として
扉は空気の
引き止めるなら今しかない。
でも、その引き止める手さえも俺には
「それができる」と言う彼が、かつてはそれ以上の
その妄想は、5年前の俺の感情を呼び戻す。
大切な恩人の顔が、黒く
※
帰らずの実=原作の妖樹のことです。”帰らずの森”は妖樹の群れを指しています。
白骨兵=原作のスケルトン類の総称です。
毒を吐く小さな沼、粘土=原作のスライム類の総称です。
無音の狩人=原作のバット類の総称です。
幽霊=原作のゴースト類、ファントム類の総称です。
ご勘弁くださいm(__)m
※粗末(ぞんざい)
当て字です。
※ペブロ族の祈祷師と魔法
ペブロ族、西アルディアに住む少数民族という設定は自作です。
ここでは祈祷師としていますが、原作のウィザードを指しています。
今回使った魔法は、エルクは「幻覚」と大まかに言っていますが、厳密には原作でいう「デトラクトレンジ」、距離感覚を麻痺させる魔法を使っています。
※大隊(だいたい)
2個中隊分の規模。500~1000人くらい。
軍隊におけるチームの規模を分隊(約10人)、小隊(約50人)、中隊(100~300人)、大隊(500~1000人)、連隊(1000~3000人)、旅団(6000~10000人)、師団(10000~30000人)、兵団(60000~100000人)、軍(それ以上)と表すそうです。……多分