m(_ _)m
賞金稼ぎという仕事を覚えてから、色んな土地を歩いた。
緑と動物で
見える景色は様々で、そこに生きる人の顔も様々。聞いたことのない
色々あった。
世界は
けれど、俺の目でも
世界中の、皆みんなが心のどこかにカビのような根深い闇を
田畑を
町を
赤ん坊を抱きかかえる母親の顔にさえ、産んだ喜びと産んでしまった
みんな、「死」とはまったく別の
誰がそれを用意しているのか理解する努力さえも忘れ、ただただそれに
俺だって同じだ。
少し普通でない『力』を持っていて、
毎晩のように会っているのに、何一つ思い出せない。
俺だけが苦しい。俺だけが
でも、世界を見渡せば何十人、何百人と同じような人生を送っているヤツがいた。
俺だけじゃない。
そんな奴らの
だから俺も、
彼も、俺に初めて
その時の彼の目にも、この手の届かない影が落ちていた。
……視界のほとんどを
「2時の方角にコヨーテの群れだ。
あの頃の「恐怖」は間違いなくここに根付いている。それが俺の「終わり」を毎晩のように
夕日に
「恐怖」は俺をそこから遠ざける。
前へ出し続ける足は
俺はもう
俺はもう既にここの夕日に塗り潰されているのかもしれない。
――――分からない。
――――憶えてない。
5年前。あの時のことで憶えているのはこんな砂で満たされた情景じゃない。この赤い砂漠がどこかに隠した深く暗い森。血のように
小さく弱かった俺は、走っても走っても抜けられないその森を、これが世界の全てのようにも感じていた。
今だって、その印象は変わらない。森は広がる砂漠の一部分でしかないってのに、『
それを俺は5年かけても見つけることができない。
砂漠は、『
「……待て、人間だ。5人、近付いてくる。」
リーザと別れ、敵か味方かも分からない砂の上を歩くこと約1時間。周囲を
目を細めれば確かに、
「マリュ族だな。
「どうする。マリュ族ならヘタに
この砂漠を歩く上で、ここの人間のことを知っておくことは、
連中の中には好戦的なのもいれば、
正しく付き合えば
マリュ族はそんな中でも
そして、彼らには
「……そうだな。その価値はあるだろう。」
シュウに渡された銃を空に向けて一度撃つと、
それを確認し、俺は自分の
すると彼らもまた
その時、今まさに
あまり大きくはないが、タイミングが悪い。
ここの人間が
彼らも
俺は―――おそらくシュウも感じているだろうが―――、接触する彼らの様子が普通でないことに気付いた。
「受け入れる」と表明したにも
そして、その両方が間違いでないことを俺は知る。
「エルクコワラピュール。『命の悪魔』が呼んでいる。」
「!?」
見ず知らずの原住民の口から『悪夢』の名が出てきたことに驚き、俺は反射的に槍を
「落ち着け。ここまで来ればその名前を知っているヤツが現れても不思議じゃない。」
「ジェフリー・ガブル・ニエルだな?」
「……120万の”西の用心棒”か!?」
彼らのリーダーらしき男は、インディゴスギルドで指名手配中の魔道士だった。南にあるアミーグ国から西アルディアを
だが、俺たちにとっては
「我々は何もしていない。この地を
「それで人を殺してるんだ。礼儀もクソもあるかよ。」
「……この大地の命は今、悪魔の力によって
「何?」
「東の人間は
もともと、マリュ族は東に
さらに、その時の西は今よりも緑が
「……それが遺言でいいんだな?」
けれど、コイツらにどんな言い分があったって俺の知ったこっちゃない。
あの『
「悪魔とは誰だ。お前たちの目的は俺たちを殺すことか?」
そんな中、魔道士と同じように彼が淡々と尋ね返す。でも、今の話から悪魔の正体も、目的も分かり切ってる。
彼はただ、
俺を無事に『
「悪魔は、悪魔だ。奴らも、貴様らも違いはない。」
そう言って魔道士が丨放《ほう》ったのは、「
「悪魔が貴様らを案内するように、私たちを呼んだ。私たちはそれを引き受けた。それだけだ。」
俺は投げ捨てられた右腕に見とれていた。
気付けば俺は両腕を彼に固められていた。俺の腕を
「すまなかった。こちらの
「……シュウ。」
マリュ族が剣を下げ、歩き始めたのを確認すると、彼は振り返り
「いい
「……だってよ、これは、仕方ねえだろ。」
彼は答えず魔道士たちの後をついて歩き始める。
俺だけが、しばらくの間、砂に埋もれていく黒い右腕を見詰めていた。
不思議と、奴らの歩く道は安全だった。
怪物に出くわすこともなければ、ついさっきまで近付いていた砂嵐も気づけば
これもまた、この魔道士の『力』なのか。それとも、あの悪魔の用意した
「あとどれくらい掛かる。」
「
その後も、俺たちはただ黙々と歩き続けた。そうして砂の上に横たわる影が少し伸びる頃、前を歩く魔道士たちが足を止める。
「止まれ。」
言われずとも、俺たちの目にも明らかなゴールが見えていた。
「あの森の何処かに悪魔たちの巣がある。」
「何処か?」
「中は
距離にして約1㎞先。赤い大地に、あるはずのない
「分かった。」
彼がそう返し、マリュ族
一行が
「”止まれ”と言ったはず――――」
パラララララララッ!!
男の言葉が
それでも彼は魔導士たちを「敵」だと断定した。だったら俺もそれに
弾丸が巻き上げる
けれどもそこに奴らの姿はない。
不意打ちを回避するため、『炎の壁』を張る。
同時に、敵を
「
その指示に
俺たちの
俺はほんの少し右手を上げて彼に合図を送り、矢の雨の中へと走り出す。
俺を取り囲むように岩陰へと身を
俺はそれを全部無視し、ただ11時の方向へと突き進む。
やがて、砂煙の先にある岩壁にぶち当たると俺は逆に少し距離を取って、ありったけの『炎』を
岩は
『炎』を叩き込んだお
俺は
足元には岩場を飲み込もうと
岩場を登り切るとそこには必死に『炎』を追い払おうとするジェフリーがいた。
俺の姿を認めると覚悟を決めたのか。杖を振りかざし必殺の気を込め始める。
「エルクコワラピュール!炎の
……彼が俺をコイツに差し向けた理由が分かった気がした。
「……グフッ」
男はとんでもない「役不足」だった。
男の魔法が完成するよりも俺の突進の方が何倍も速く、男はそれを避けることができなかった。
「……
男の胸に突き立てた短剣を抜きながら、
「そういうのはもう間に合ってんだよ。」
手を掛けることに少しの
こんな気持ちは久しぶりだった。
俺は、今まで『赤い
それで終わりだと気を許した
チュンッ
「!?」
銃弾が岩壁を削る音を合図に、俺はその場を飛び
「クケェェェ」
「
視線の先には、日の光に
その
しかし、体長5m、翼を広げれば10mを
「
「アルディアの呪い」だとかなんとか言っていたのはこれのことか。
その巨体が高速で駆け抜ければ、嵐のような
「クソッ、やっぱりダメか!」
『炎』をぶつけようとするが、奴との距離が開くほど何かの―――おそらくはあの魔道士の残した―――『壁』が邪魔をして火が届かない。
「クケェェェェッ!!」
「!?」
鳥が二度目の
一瞬、何が起こったのか理解できなかったが、体は反射的にその緑の翼を『
「クケェェェェッ!!」
よく見ると鳥の片目が潰れていた。
彼が、あの距離、あの速度の小さな
燃える
「クソッ…」
そのまま転がり落ちれば崩れた岩の
「…たれっ!!」
腕と胸の皮がもっていかれるのも構わず伸びる岩に
すると、運が良かったのか。
しがみ付く岩山をよじ登り見渡すと、
流れ出す真っ赤な血が、
「……さすがにこれで終わりだよな。」
辺りに敵の影はなく、地上からの警告もない。
簡単な
「
合流するなり彼は俺の
「紙一重だったな。」
「完全に敵の
「そうだな。」
手袋を
「リーザだったならもっと
俺は自分の耳を
彼の口から彼女の名前が出てくるとは思わなかった。
「聞きたかったんだけどよ、リーザの何がそんなに気に喰わねえんだ?」
「……そう見えるか。」
「遠ざけてるだろ。……あの子の『力』か?そりゃ俺だって初めはそうだったけどよ、近付かねえとあの子の良さは分かんねえよ。」
手早く
「アレと一緒にいるようになってから、俺はお前が遠くに感じる。」
そんな彼の背中から響く声は、俺さえも遠ざけようとしていた。
その声に俺は
「自分でも変わったってのは感じてるさ。でも、イイ方向に変わってると思うんだ。あの子が俺を強くしてくれてる気がするんだよ。だから、
どうにか分かってもらいたかった。他ならぬ俺を拾ってくれた彼だからこそ。
けれど、分かってなかったのは俺も
「俺が言いたいのはそんなことじゃない。」
彼女のことで頭が一杯になってた。今さら、彼のことで理解することなんかないと
「……じゃあ、なんだよ。」
「アレを護るお前が、本物の『化け物』になっていくようで俺は怖いんだ。」
「……あの子のせいだって言いてえのかよ。」
「お前は、違うと言い切れるのか?」
「……」
「もしもお前が、それでもアレを信じるというのなら、俺ももう少し努力しよう。だがもしも――――、」
チラリと
「アレがお前を
彼は、迷ってるんだ。
他ならない俺のために……。
※コヨーテ
北アメリカから中央アメリカまで広く棲息する狼のようなイヌ科の動物です。
群れることは稀みたいですが、時には仲間と連携して狩りをすることもあるそうです。
※緑の鳳(みどりのおおとり)(ケツァール)
原作のロック(鳥型のモンスター)のことです。
そもそも「ロック鳥」というのは中東・インド洋地域に伝承される巨大な
そして誠に勝手ながら、今回、それを「ロック」とは呼ばず、「ケツァール」と呼ばせてもらっています。
中南米ではケツァールという綺麗な緑の羽を持った鳥が実在します。
体長は35cm程度ですが、オスは長い飾り羽を持っていて、これを含めると全長は90~120cmにもなります。
そして、その地域ではかつて
原作の「ロック」も基本色が緑だし、アルド大陸(アルディア)がアメリカ設定だと仮定すると、「ロック鳥」よりも「ケツァール(ケツァルコアトル)」寄りの設定なんじゃないかと思ったんです。
(とうとう原作設定を無視し始めましたがどうか、どうかお付き合いくださいm(__)m)
ちなみに、瀕死のケツァールが使った魔法は原作の「アースクエイク」のつもりです。
※マリュ族
西アルディアに生きる少数民族の一つです。
また勝手に作りましたm(__)m
※ジェフリー・ガブル・ニエル
いつも通り、「ジェフリー」以外は自作です。
原作では「指名手配犯」ではなく、野盗たちに雇われたただの魔法使いの「用心棒」ということになっています。
原作で、リーザの口から、かの有名な「ロリコンってなに?」を引き出したアークザラッド界きっての重要人物です。
このお話では既に「ロリコン」の下りは回収済みなので容赦なく省きましたが(笑)
※早贄(はやにえ)
モズ(鳥)が捕まえた獲物を木の枝などに突き刺す行動をさして生まれた言葉です。
その奇異な行動を見た昔の人は、「”秋”に初めて捕った獲物を生け贄にしている」と捉えられて生まれた言葉らしいです。