――――西アルディア、サルバ砂漠上空
そこに、小型飛行船の窓に顔を張り付け、
「……これ全部、岩と砂だけなの?」
”砂漠”を見たことがないリーザは開けた口を閉じるのも忘れるほど、茶色一色の枯れた風景に見入っていた。
「仕方ないじゃない。だって、初めて見るんだもん。」
「別に、何も言ってねえだろ。」
「……ふん。」
彼女のそのふてくされた顔も、今は見ていて安心する。
――――約一時間前、東アルディア、ヒエン停泊所
「よくあの
出発直前、シュウの用意した作戦の内容を聞いて俺は改めて、彼には
「お前はまだあの男のことを
それは、相手がシュウだからこそ、そうしていることだと彼は気付いていない。
「幼い頃に身内の不幸を
そういうことを本人の口から聞けるのも、シュウへの信頼があってこそだと俺は思っている。
「アイツは”警官”という名の”狂犬”だ。」
俺じゃ、ダメなんだ。
今回、俺たちがすることは「ミリアの
その他の救助は、目的に
つまり、全体的作戦の上で俺たちはあくまで「
「だからって、あのオッサンたちだけでなんとかなるとは思えねえけどな。」
そもそも、警察は国の
だからおそらくは無許可、つまり一種のクーデターを起こすつもりなんだ。
たかが個人的『悪夢』を解消するだけの話が、それだけ重大な事件になりつつある。
「問題ない。ギルドから十分な
「は?まさか、バスコフのオッサンまで首を縦に振ったってのか?」
「ああ。」
「マジかよ……、信じらんねえ。」
あのオッサンこそまさに「プロフェッショナル」が服を着て歩いてるようなヤツだ。冷静沈着で
「二人は
それも初耳だ。バスコフは一日中
「この作戦が成功すればアルディアは傾く。その被害を最小限に抑えるためには、どんな形であっても次の”
「リーダー…、あのオッサン連中がかよ。」
「ああ。ガルアーノよりも能力的に
「もし、失敗したら?」
「おそらく、その方が
「ガルアーノはこれまで以上に”市長”の地位を固める。それで
共犯である賞金稼ぎや警察関係者を
それは
「最後に確認する。」
それは、状況開始の号令を引き出そうとする声色だった。
今度はハッキリと、言葉を
「万が一の時、お前はミリアを殺せるか?」
リーザは俺に「必ず助ける」と言ってくれた。けれど――――、
万が一なんかじゃない。
俺は本当に、ただただこの『悪夢』を
「……ああ、問題ねえよ。」
――――現在、西アルディア、サルバ砂漠上空
「西アルディア」、「白い家」という情報しか持っていない俺たちは
今までも
念のため、情報を引き出せそうなマフィアがいないか。シュウは
それが原因で、町では小さな混乱が起こっていたらしい。
「この辺りに人は住んでないの?」
「まだ、いくつか少数民族が残ってるはずだぜ。あとはチラホラ追いはぎがいるくらいかな。」
東の人間にとって、大陸を真っ二つに割るアルデナ山脈を
西のほとんどはサルバ砂漠と呼ばれる岩石砂漠だ。
砂漠特有の気温差は言わずもがな。
それでも、昔からここに根付いている人間はいる。
「……これを着るの?」
その原住民たちが着る
すると、スカーフでつくった
「苦しい。……これ、本当に必要なの?」
「それがないと1時間と歩いてられないぜ?」
半日で
そもそも、この時期にこの辺りを
「じゃあ、パンディットにも同じもの着せるの?」
「いいや、しねえよ。なんで?」
「……なんでもないわ。」
頭を
「わシは?ワしは?」
シュウの
「お前は
「ナンじャ、詰マラん。」
……何を楽しもうとしてんだコイツは。
「この辺りで降りるぞ。」
目的地からそう離れてない岩場の
むしろ、「ここに隠してください」と言っているようにしか思えない。
「本当にここでイイのかよ?」
ヒエンは俺たちの大事な「足」だ。もしもコイツを連中に奪られでもしたなら、とてもじゃないがミリアを連れて逃げるなんてできない。
……それに、ビビガからの
それでも彼は俺の考え過ぎを注意した。
「この
他にも似たようなポイントはあったが、目的地から離れれば離れる程、俺たちに
「そのための番犬もいる。」
シュウはポンコツを
「本当にあてになるのかよ。」
そもそも俺は彼の計画に乗り気じゃなかった。計画そのものにじゃなく、彼がこのポンコツを信用しきっていることにだ。
「バかタレ。わシハ最強じャゾ。ドんと頼レ。」
潜入する俺たちの位置情報を
つまり、俺たちの命の半分をこの「ドラム
「トこロで……」
見た目も
「あん?どうした。」
「留守番ハワし、一人カ?」
「当たり前だろ?」
「……サみしイ。」
……そして、嫌な予感は早くも
「は?何言ってやがんだよ。そのためにお前を連れてきたんだろ?」
「一人ハ、イヤジゃ。」
「ふざけんなよ。コッチはコッチでギリギリの人数で行くんだ。お前の
「わシハデリけートナんじャ。」
「それくらいは何とかしろ」と言わんばかりにアッサリと俺を見捨てて。
そんな俺を見かねたのか。彼女が
「エルク、私が残るわ。」
どうしようもなくなったらそれしかないとは思っていた。それでも俺はまだ
「バカ言うな。こんな危険な場所でリーザにこんなポンコツと二人っきりにさせられるかよ。」
「……大丈夫。多分、その方が上手くいくわ。それに、忍び込むなんて私、経験ないから。迷惑をかけると思うの。」
心なしか、彼女の声色は
「心配しないで。パンディットだっているもの。大丈夫よ。」
「オいコりゃ、ワシは最強じャト言ウトるじゃロうが。」
「フフフ……、そうね。」
「……」
気付けば船内に狼の姿はない。
いつの間にか船から抜け出したらしく、砂漠に
「…って、おいっ!そりゃ
飛び出そうとする俺の腕を彼女が
「大丈夫。それはあの子も分かってる。」
「分かってるって……あのサボテンにゃ毒があるんだぜ?」
狼の食べているそれは「ロフォフォラ」という幻覚作用を持つサボテンだった。ものにも
「
「……」
「私だって…、エルクのためなら
……特に彼女の場合、『敵』がいればいるほど『悪夢』に
分かっていた。分かっていたけれど、俺は彼女の『体質』を無視してでも
「ここまで来ておいてこんなこと言うのはズルいと思うけれど、シュウだってその方がやり
もしかしたらとは思っていたが、どうやらリーザはシュウと上手くいっていないらしい。
彼女に限って足手まといになるなんてことはないとは思うけれど、どんな作戦でも
……分かってる。これはただのこじ付けだ。どんな理由だって納得なんかいかない。
それでも、彼女にこれ以上無駄な「不幸」を押し付けるなんてこと、俺がしちゃいけないんだ。
ジレンマは残るが、俺はどうにか決断しなきゃならないんだ。
「……分かったよ。俺こそ悪かったな。自分のことばっかで。」
「ううん。私はただ、エルクと
知らない内に俺の身体は彼女の
「すぐに、帰ってくるよ。」
「……待ってる。」
そうして俺は、俺の先に立つ『影』に
※状況開始
「作戦開始」と同じ意味です。
※多肉植物(たにくしょくぶつ)
サボテンなどの体組織のどこかに水を貯めることができる植物の総称です。
※砂嵐(ハブーブ)
ハブーブは「強い風」を意味するアラビア語です。
アメリカはアリゾナ州、乾燥地帯で起こる砂嵐のことをこう言うそうです。
西アルディアのイメージになっているであろうコロラド高原近隣の州です。
ひどい日は10m先も見えなくなってしまうらしいです。
人に対する影響は主に呼吸困難や視界不良で、本文で書いたのは僕の
※ロフォフォラ
大きさは5~10cm程度でアメリカ南西部、メキシコ北部を原生とするサボテンです。
これ、実はこのマップで入手できる「バイパーファング」の回収のつもりです(笑)
※緋色(ひいろ)
赤色の一種です。やや黄色みがあって、明るい赤です。
※岩山(メサ)
スペイン語で「テーブル」という意味。
地層が風による侵食でできたテーブル状の台地。上部に硬い地層、下部に柔らかい地層があることで出来るそうです。
「卓状台地」とも言います。