この素晴らしい世界に祝福を! オラ隣町さ行くだ   作:Z-Laugh

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第七話

「エライオン!このアクア様が来てあげたわよ。サッサと出迎えなさい」

「・・・」

 いくら学校の後輩だからって今現在の魔王軍幹部相手に出迎えろって無茶ぶり過ぎだろ。呆れて言葉も出ないでいると礼拝堂の奥から勢いよくドアが開く音がして、そこからエライオンが全速力でこちらに走って来た。やっぱり未だに先輩面するアクアに怒りを感じて強襲しに来たのか?

「す、すみません先輩!出迎え遅くなりました!」

「ホントよ、本来ならドアの前で私を出迎えないとダメでしょ」

「すみません!すみません!」

「エライオン、あなた私にいつまで立ち話をさせておくつもり?」

「あっ!はい!こちらへどうぞ。すぐお茶を用意させていただきます」

 ・・・女神の学校って年功序列というより体育会系なんだな。エライオンは攻撃とか戦闘とか魔王軍幹部のプライドとかを全く考えている様子はなく腰を折り後頭部に手を当てながらペコペコ頭を下げアクアの事を礼拝堂の奥へと案内した。

「やっすいお茶飲んでるのね~」

「お口に合いませんでしたか!?申し訳ありません。近所の店は軒並み休んでいるもので」

「お前が休業に追い込んだんだろうが」

「全く~、本来ならお店まで新しい茶葉を買いに行かせるところだけど今日はこれで勘弁してあげるわ」

「あざーっす!」

「じゃあ座りなさい。このアクア様自らあなたに話があるからありがたく聞きなさい」

「はい!拝聴します」

 そう言ってエライオンはアクアの正面の席に背筋を伸ばして両手を膝の上に置いて緊張の面持ちで座ったのだが、横目でチラリと俺を恨みがましくにらんで来た。まさかこの二人の間にここまでの上下関係があるとは思わなかった。“悪かった”と一言エライオンに向かって謝ろうとした瞬間、

「エライオン!」

「は、はい!」

 アクアが声のトーンを落として

「・・・あなたいつから私の話をよそ見しながら聞くようになったの」

「い、いえ、そんな。よそ見なんてしません」

「そんな言い訳がこのアクア様に通ると思っているのかしら・・・随分偉くなったものね」

「すみません!以後気をつけますので勘弁して下さい」

「・・・正座」

「「は?」」

 アクアは自分の真横の床を指さしながらエライオンにそう言い付けた。あまりの態度と言葉にエライオンはもちろんだが俺まで声を上げてしまった。こいつ、エライオンに対してどんだけ高飛車なんだよ。流石のエライオンもアクアの言葉に戸惑っているとアクアが無言でアゴだけで床の方を差す。

「は、はい・・・今すぐ」

 エライオンは顔を伏せたままオズオズとアクアの横にやって来ると板の間の床の上の正座をした。白のキャミワンピ姿の小麦色の元気っ子がしょんぼりと正座をさせられてると、なんかこっちが悪者になった気分になってくる。

「大体あなたは学生時代から・・・」

 その一言から始まったアクアの説教は数時間に及び、その間エライオンは身じろぎ一つ許されず、一方的な話に只ひたすら相槌を打ち、時には土下座をしていた。

「じゃあ、そろそろ本題に入るけど、エライオン。この町での悪さをすぐに止めて魔王軍の幹部もすぐに引退しなさい。これは私からの命令よ」

「せ、先輩、それは勘弁して下さい。魔王軍の幹部を辞めたら私は食べて行けません」

「仕事なんていくらでもあるでしょ。選り好みしてるからダメなのよ。私なんて町の外壁拡張工事の建設現場、コロッケ売り、キャベツを捕まえたり、ジャイアント・トートを倒したり色々やったわよ」

「け、けど私力がなくて不器用だから力仕事は無理だし接客も苦手で大抵お店の人に叱られてクビになっちゃうんです」

「そんなのアンタの気合と根性が足りないからよ。もうちょっと意地を見せなさい」

「そ、そんな」

 もうエライオンが気の毒で・・・先輩から自分の適性について決め付けられて挙句の果てに気合だ!根性だ!と言われてしまってはもう、その人の人生を全否定している様なもんだ。天界の学校の先輩後輩の話し合いだから口出ししない様に黙っていたけど流石にこれは気の毒だと思い

「アクア、もう勘弁してやれよ。エライオンだって人間界に来てからかなり苦労してるみたいなんだし」

「カズマ、そんな事言ってエライオンを甘やかしちゃ駄目よ。私には先輩として駄目な後輩を導いてあげる義務があるのよ」

「なにが導いてあげるだ。お前だって人間界に来たばっかりの頃はすぐ金を無くして俺に借金申し込んだり酒場にツケを作ってただろ」

「ちょ、ちょっとカズマ。後輩の前でそういう話はしないでもらえる」

「い~や、いい機会だから言わせて貰うぞ。いいか、お前は俺がこの世界に転生するにあたって貰った特典なんだぞ。今のお前はミツルギの魔剣グラムやその他諸々の神器なみに役に立っているつもりなのか?」

「役に立ってるじゃない。私はカズマの事を三回も生き返らせているし、魔王軍の幹部のデュラハンだって私のターンアンデッド昇天させたじゃない」

「お前はいつもオイシイ所だけ持って行くだけだろ。その途中経過でお前が努力したところなんか見た事ねえよ」

「あ~、カズマ。今、言っちゃいけない事言った」

「だから、いい機会だから言わせて貰うって言ってんだろ。運よくチャラになったとはいえ町の一部を損壊させた借金はお前が拵えたもんだし、せっかく大物幹部を倒して手に入れたスゲー金額の賞金も口先一つで騙されてニワトリの卵と交換して来ちまうし、俺が衣食住の環境を整えてやらなきゃお前は今頃ただの浮浪者だぞ。それが分かってんのか」

「そ、そんな事ないモン。私だって頑張ってるモン」

「大体、お前が今まで作って来た借金やツケについて考えてみろ。それをその時その時で返済出来てなかったら今頃どうなっていたと思ってんだ?」

「そ、それは・・・」

「アクア」

「はい」

「・・・正座」

「「は?」」

 俺は自分の真横の床を指さしながらアクアにそう言った。それにはアクア自身はもちろんだがアクアの真横で正座をさせられているエライオンも声を上げた。

「早くしろよ、早く済ませたいんだから」

「は、はい・・・」

 アクアは椅子から立ち上がり俺が指さした板の間の床に正座をした。

「お前とエライオンが先輩後輩の関係だからと思って黙ってりゃ調子に乗りやがって。お前の話はちっともエライオンの為になってねえじゃねえか。それにお前自身が人様の相談や世話をしてやれる立場の人間か?ひよこ一匹世話するのが精一杯の駄女神のクセに」

「うう・・・」

「あ、あの~~、ちょっとよろしいでしょうか」

 俺の説教に縮こまるアクアを見てエライオンが小さく手を上げて発言の許可を求めてきた。まあ、こいつにしたら絶対服従をしなければならない先輩がこんな風に説教されているのが信じられないんだろう。

「なんだよ、エライオン」

「カズマって、いやカズマさんってアクア先輩が人間界で暮らす為の世話を焼いてあげてたんですか?」

「俺としては転生したこの世界でアクアに世話を焼いて貰うつもりだったんだけど、こいつがちっとも役に立たないから結果としてそうなっただけだ」

「今ここでそこまで言う事ないじゃない。私にも先輩としてもプライドがあるのよ」

「ウルサイ!黙ってろ」

「ハイ」

「・・・カズマさん・・・モノは相談なんですけど」

「なんだよ?」

「アクア先輩って今はもう食べて行くのに困らない状態なんですよね」

「まあな、住む家はあるし金もある。冒険者なんて危なっかしい仕事をやらなくても食っていけるけど、それがどうした?」

「だったらアクア先輩のパーティーを抜けて私とパーティー組んでくれませんか」

「「はぁ?」」

 このエライオンの提案には俺とアクアが同時に驚きの声を上げた。

「俺が今いるパーティーを抜けてお前と組むのかよ」

「はい。それだったら私、魔王軍を抜けてもいいです。実は昨夜の話を聞いた時からアクア先輩が人間界で生活出来ている事が凄く不思議だったんですけど、今その理由がハッキリ分かりました。カズマさんの幸運のステータスがアクア先輩の生活を支えているんですね。だったら私がアクア先輩みたいに一人で生きていけるようになるまで私とパーティーを組んで下さい。お願いします」

「突然なに言い出すんだよ」

「私はこれでも女神だしアクア先輩ほどの力はないけど魔王軍を抜けて冒険者ギルドに登録すればすぐにでもアーク・プリーストになれるくらいの自信はあります」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよエライオン。私はカズマに魔王を倒して貰わないと天界に帰れないのよ」

「それって、アクア先輩がカズマさんと力を合わせて魔王を倒さないといけないんですか?もし魔王を倒す事だけがアクア先輩の天界復帰の条件なら私がカズマさんと組んで魔王を倒してきますから先輩はアクセルの町でのんびり暮らしていて下さい」

「な、なるほど・・・」

「アクア、お前なに納得しかかってるんだよ」

「けど、それなら私は危ない目に合わなくていいし、毎日ゼル帝と楽しく暮らしてればいいんでしょ」

「ほら、アクア先輩も乗り気ですし、お願いします」

「けど・・・そうなると俺がパーティーを抜けるというよりアクアがパーティーを抜ける事になると思うが」

「え、なんで?」

「だってダクネスとめぐみんは理由はどうあれ魔王討伐を望んでいるクルセイダーとアーク・ウィザードだぞ。だったら俺がパーティーを抜けて他の奴と魔王を倒しに行くのを放っておく訳ないだろ」

「なるほど・・・じゃあ」

「要するにアクアとエライオンを交換する形になるな」

「それじゃあ、私が捨てられるみたいじゃない」

「けどエライオンの提案ってそういう事だろ」

「ダメよ、そんなの私のプライドが許さないわ。私を捨てて後輩女神とパーティーを組むなんて絶対許さない」

「ならエライオンを俺達のパーティーに加入させて五人パーティーになるか?」

「あ、あの~・・・出来れば・・・それは避ける方向でお願いします」

「何よエライオン、私と同じパーティーになるのが不満だっていうの」

「いや、けど・・・さっきから先輩無茶ばっかり言うし、学校にいた頃から先輩と組むとロクな事なかったし」

「何ですって。あれだけ面倒見てあげたのに」

「けど私の留年は先輩が学校の校舎を半壊させたからですよ。あれから私だってそれなりに苦労して頑張ったんです」

 半分涙目のエライオンが必死にアクアに自分の立場を主張する。まあ彼女からしたら初めてあこがれの先輩に逆らう様なモノなのだろうから彼女なりに必死なんだろう。しかし、二人の会話の様子を見る限りエライオンにアクアの我儘を止める事は出来なさそうだ。どうにか食い下がるエライオンをアクアが先輩風を吹かせて彼女の提案を切り捨てに掛かる。

「お願いです、アクア先輩。カズマさんを譲って下さい」

「ダメよ、カズマは私とめぐみんとダクネスの四人で魔王を倒すの。他にヤツになんかやらせないわ」

「けど、私は他に頼れる人がいないし、カズマさんならアクア先輩の生活のバックアップをした経験があるからきっと上手くやってくれると思うんです」

「カズマが必要なのは私も一緒よ。カズマがいなかったら大金を稼いで楽な生活が出来ないし、料理スキルもないから美味しいゴハンも食べられないじゃない」

「そんな・・・ちょっとくらい私にもいい思いをさせて下さいよ。お願いします先輩」

「ダメ。これは先輩命令よ」

「っ!・・・うわ―――――――っ!アクア先輩のバカ――――っ!」

 アクアの我儘を聞くのにとうとう限界が来たのだろう、エライオンは大きな声を上げて立ち上がると両手を高く差し上げた。そのポーズって・・・ま、まさか眷属を集めてるんじゃないだろうな?

「エライオン、落ち着け。眷属を呼ぶのやめろ」

「もういい!もうどうなろうと知ったこっちゃない!この町もアンタもアクア先輩もみんなゴキブリまみれにしてやる」

「おい、アクア。お前のせいだぞ、エライオンが逆切れしちまったじゃねえか。もうすぐここにゴキブリの集団がやって来るから魔法で水を出して押し流してくれ」

「イタタタ・・・カズマさ~ん、足がしびれて立てないんですけど~」

「こんな時に何なんだよ、お前は!」

 俺はアクアをおんぶすると大急ぎで管長室を出て教会の出口に向かった。しかし既に教会の一階の礼拝堂はその全てがゴキブリに覆われていた。

「くそっ!アクア、水を出して床のゴキブリどもを追い払ってくれ。そうしたら俺がお前をおんぶしたまま教会から脱出するから」

「わかったわ。『クリエイト・ウォーター』」

 おんぶをされたままのアクアがクリエイト・ウォーターを唱えると広い礼拝堂の床一面に膝の高さくらいまで水が発生してゴキブリどもが一気に礼拝堂の出口から流し出され始めた。俺は水が礼拝堂から流れ出したのを確認してから中央の通路を一気に駆け抜けようとするが背後から

「今度は逃がさないよ。お前たち、その男を止めな」

 エライオンの声がした。すると礼拝堂の天井に張り付いていた無数のゴキブリ達が黒い羽根をはためかせて俺達に向かって飛んできた。

「か、カズマ~、ご、ゴキブリ!あ!髪についた、いや~脚にも、何とかして~」

「お前をおんぶして走るのが精一杯だよ。うわ!口閉じてろ、こいつら俺達の口に入ろうとしてんぞ」

「ん~~~~っ!」

 どうにか教会の外に出るがゴキブリの追撃が止まらない。アクアは取り敢えず自分の口元の安全が確保出来たのだろう再びクリエイト・ウォーターを唱えて俺とアクア自身をびしょ濡れにしてゴキブリを洗い流すと

「世に在りし我がしもべよ、美しい水の粒たちよ。我が名はアクア、我の元に集い邪悪なる者どもを洗い流せ・・・『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!」

 アクアが洪水クラスの水を呼び寄せてしまった。また町がぶっ壊れる!俺がそう思った瞬間教会の中から

「『オイル・ウォール』!」

 エライオンの声がしたと思ったら教会をはじめとする周囲の建物が大量の透き通った油に包まれた。建物の寸前でぶつかり合う水と油、当然混ざる事なく押し合う様に別々の層を縦に作っているが、しばらくすると透明だった油の壁が白く固まり始めた。そっか、水で冷却された油が固まってるのか。そうなると教会の前から町の出口まで続く大通りは油の壁に囲まれた運河の様になり俺達はゴキブリと一緒に街の外まで押し流されてしまった。なんかこの状況だけ見るとエライオンが町を破壊しようとしたアクアから町を守った様に見えるな。

 

― 続く ―

 


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