この素晴らしい世界に祝福を! オラ隣町さ行くだ   作:Z-Laugh

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第六話

「アンタ、このまま逃げられると思ってんの?アンタにはこの事をアクア先輩に話させる訳にいかないんだよ。それに魔王軍での私の地位を一層確実なモノにする為に冒険者・サトウカズマにはここで死んでもらうよ」

「待ってエライオン。それだけはダメ!」

 エリス様が俺の手を振り解いて俺の前に盾の様に立ち塞がる。しかしエライオンはそんなエリス様の行動に怯む事なく

「この地に宿りし我が眷属よ、ここへ集え。我が敵を打ち滅ぼさん為に見参せよ」

 眷属?何が来るんだ?ドラゴン?グリフォン?それともゴーレム?魔王軍幹部の眷属なんて強力な魔物に違いないと思って身構えると

 

  

 カサカサカサカサ・・・・

 

 

 周囲から幾重にも小さな音がし始めた。

「ちょ、ちょっとエライオン、ホントにそれだけはやめて」

 エリス様が怖がるというより慌てた感じでエライオンに話し掛けるが周囲の音はドンドンその数が増えて行く事を感じさせる様に大きくなっていった。

 

 

 カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ・・・

 

 

 何か小さなものが沢山集まって来た様な・・・

「げ!」

「エライオン、やめて!」

「二人共もう逃げられないよ」

 月明かりだけの管長室の壁、天井、そして俺とエリス様が立つ場所以外の床一面に黒光りするヤツが・・・脂ぎったツヤをまとった油虫・・・無数のゴキブリが集まって来ていた。

「てめぇ、女神のクセにゴキブリを眷属とか言ってんじゃねえよ」

「なんだと!私の可愛いゴキちゃんになんて事言うんだ」

「エライオンは昔から動物好きで良く世話をしてた優しい子なんだよ」

「エリス様、これは動物好きの範疇越えてますから。とにかく強行突破するから動かないで下さい」

「強行突破って、え!ちょっと助手君」

 俺はエリス様をお姫様だっこして窓に向かって走り出そうとしたが

「私の可愛い眷属を一匹でも踏みつぶしたらアンタとエリスの体はゴキブリだらけになるよ。アンタは特別に口の中にもゴキブリを侵入させてあげるけど、それでも逃げ出すつもり」

「そんなえげつない攻撃すんな」

「それなら・・・本気の攻撃を始めようか」

 そういうとエライオンは差し上げていた右手を肩の辺りまで下ろすと人差し指だけを立てた。するとその指先から水鉄砲の様に一筋の水が噴き出し、しばらくするとエライオンの方から油の匂いがし始める。あの指から噴き出しているのは油なのか?すると見る見る間にエライオンの体全部がまるでサンオイルを塗った様にテラテラと輝き出し、白いキャミワンピが所々、透け始めた。小麦色の豊満ボディが怪しいツヤを放ち、着ている白い服はスケスケになる。着エロかよ!

「私の油はよく燃える。これを浴びて火を付けられたら火傷や黒焦げになる程度じゃ済まない。骨まで灰になること請け合いだよ」

「やめてエライオン、そんな事をしたら」

「そうだよね、もしそうなったら・・・いくらアクア先輩でもアンタを復活させる事は出来ない。今度こそあんたは死ぬんだ、サトウカズマ」

「お前・・・かつての同級生も焼き殺す気かよ」

「それは私も気が進まないから・・・サトウカズマ、今すぐエリスを降ろしてエリスから離れな。そうしたら腕一本燃やすだけで勘弁してやるよ」

「ダメだよ助手君。絶対離しちゃダメ」

「エリス、格好つけてる場合じゃないだろ。今のアンタは女神の力が全く使えない只の人間なんだから、女神のままここに来た私にはどう頑張っても敵わない。このままじゃサトウカズマと一緒に灰になっちまうよ」

「・・・」

「ダメ!“カズマさん”エライオンの言う事を聞いてはいけません。私なら大丈夫ですから手を離さないで」

 俺は黙ってエリス様を床に下ろした。しかしエリス様は俺の首に両手を回したまま離れようとしなかった。だが俺がエリス様を床に下ろしたのはエライオンの言う事を聞いたからじゃない。俺は空いた両手を差し上げ

「『クリエイト・ウォーター』!」

 俺のちっぽけな全魔力を込めて俺とエリス様の真上の空間に大量の水を発生させた。

「キャッ!何すんの助手君?」

 当然、俺とエリス様の頭の上に発生した大量の水は俺達に向かって落下してきて俺達はズブ濡れになるが、そのまま床に落ちて広がった水は集まっていたゴキブリどもを押し除けた。

「なっ!」

 エライオンが俺の行動に驚いている間に俺はもう一度クリエイト・ウォーター唱え、俺とエリス様がいる場所から窓までの間のスペースを水浸しにする。するとその場にいたゴキブリどもは俺の狙い通りに水から逃げる様に道を開ける。俺はエリス様の手を引いてその道を走り出すと

「逃がさないよ」

 エライオンが突き立てていた人差し指を俺に向けて来るが、俺は

「『クリエイト・アース』!『ウインドブレス』!」

「くっ!」

 エライオンに向かって目つぶしの砂つぶてを吹き掛ける。俺に向かって差し出していた人差し指を引っ込めて目をかばい一瞬怯んだエライオンの隙を突いて俺はエリス様の手を引いて窓に辿り着くと目で合図だけを送ってから教会の二階の窓から飛び降りて、一気に教会から走って逃げ出した。エライオンは俺達に対する追撃をしてくる事なく、俺達はゴキブリに邪魔される事なく月夜の町を一気に領主の屋敷まで走り抜けた。屋敷が見えてきて近くの木にもたれながら二人して荒くなった息を整えているとエリス様が

「君ってホント・・・強いんだか・・・弱いんだか・・・よく分かんないね」

 どうしても黙っていられないという感じで息を荒げたままに俺にそう言ってきたので俺も息が整わないままに

「いつもいつも・・・いっぱいいっぱいで・・・やれる事やってるだけですよ」

「それでいいんだよ・・・人は目の前の事に・・・一生懸命にならなくっちゃ」

「それは・・・エリス教の教えですか」

「うん、けど・・・アクシズ教の教えでもあるんだよ・・・もっとも信者の人達が・・・随分解釈をねじ曲げちゃってるけど」

「なるほど」

 徐々の二人の息が整ってくる。お互い大きく息を吐いて吸い直すと

「助手君、本当にエライオンと戦うの?」

「そうですね。魔王軍がクラッチまで進軍して来るとなれば放って置けませんし」

「そうだよね、流石のそれだけはなんとしても止めないと駄目だもんね」

「まあ、もう一手くらい打ってみるつもりですけど」

「まだ何かアイデアがあるの?」

「今夜の事をパーティーのみんなに話します。それでアクアをけしかけてエライオンと話しをさせてみますよ」

「そんな事して大丈夫?」

「アクアがエライオンを先輩らしく上手に説得できるとは思えませんけど、案外アクアの自分勝手な部分が上手く働いてエライオンが今している事を止めてくれるかもしれません」

「それって上手くいくかな~」

「上手く行けば儲け物ってくらいのつもりでやってみますよ。駄目なら駄目で・・・」

「そうだね、手が残っている内は最悪の状況を避ける努力はしないと駄目だよね」

 エリス様は小さく溜息をついてから夜空を見上げてそう言った。エリス様ももう今の時点では俺達の戦闘は避けられないと分かっている筈だ。しかし俺が戦闘を避ける為の最後の一手を打つ事を聞いてやれる事は全部やったと思えたのだろう。きっとさっきの溜息はその覚悟の表れだと思う。

「ただ、これだけは言っておくけど無茶はしちゃ駄目だよ。さっきエライオンの前で私から離れようとした時は本当に心配だったんだからね」

「うれしいな。エリス様にそんなに気にかけて貰えて」

「もう、茶化さないで」

「俺はいつも真剣ですよ。これが無事に済んだら結婚しましょう」

「だから茶化さないでって言ってるでしょ。本当に怒るよ」

「折角、綺麗な夜空の下、二人きりでそれなりにムードが盛り上がったから言ってみたのに」

「ダメダメ、全然ダメだよ。こんなプロポーズじゃ私は落とせないからね。とにかく私は戦闘になったら何も力を貸してあげられないんだから慎重に事を進めてよ」

「わかりました、心します」

「じゃあ、あとはよろしく」

「え?」

「・・・もう、ここで・・・私に出来る事は何も無いから」

 そう言ってエリス様は俺の前から走り去ってしまった。

 

 

 

 翌朝、領主さんは眠そうな顔をしたまま朝食の席で俺達四人に今の町の状況とエライオンがゴキブリを使って町から人を追い出してしまった事を話してくれた。

「ゴキブリを眷属として使う魔族とは・・・なるほど、ゴキブリが大量発生した町で作られた食べ物を食べようと思う人はいないだろうから、この町の畜産業が打撃を受けるのも当然だな」

「きっと、ここに来る時に乗っていた馬車を引いていた馬もゴキブリにたかられて驚いて走り出したんでしょう。道理で魔法の痕跡も敵の気配もない筈です」

 ダクネスとめぐみんが状況に納得したのだがアクアだけは何やら考え込んでいる。やっぱりこれってエライオンの名前を聞いての反応なのだろう。

「アクア、魔王軍幹部のエライオンって堕天した女神らしいぞ」

「やっぱりそうなの。最初にその名前を聞いた時から変だと思ってたんだけど、あのエライオンが堕天してたなんて・・・」

 アクアが苦虫を潰したような顔をしながら爪を噛んでいたのだが話を聞いていためぐみんが

「カズマ、なぜエライオンが元・女神だと知っているのですか?」

「バニルに聞いたんだよ」

「それはおかしくありませんか。カズマはアクセルの町にいた時から敵の正体を知っていたのですか?」

「めぐみんの言う通りだ。カズマ貴様、私達に隠し事をしていたのか」

「カズマ、アンタ私に黙ってエライオンの事をストーカーしてたんじゃないでしょうね。あの子は私の可愛い後輩なのよ」

「何でそうなるんだよ。そうじゃなくて・・・昨夜エリス様が枕元に立って教えてくれたんだ」

「ますます嘘くさいですね。カズマの様なゲスの所にエリス様が降臨するなんて信じられません」

「その通りだ。私の様な敬虔なエリス教徒だってエリス様の宣託を聞いた事はない。この間の祭りにエリス様が降臨された時には感激を通り越して驚いたほどだったからな」

「けど、カズマはエリスと顔見知りだしね。あの子も大概、甘ちゃんよね」

「そうそう、俺は三回死んだせいで三回エリス様に会った事があるしな」

「そうか・・・死ぬとエリス様に会えるのか・・・アクアのリザレクションもある事だし一回くらいなら死んでみるか」

「ダクネス、そんな理由で死んじゃダメよ。それにエリスは私の後輩なんだから、こっちから会いに行かなくても私が呼び出してあげるわ」

「「あ~はいはい」」

「なんでダクネスもめぐみんも信じてくれないの!?」

 俺はダクネスとめぐみんに屋敷の周りの見回りを頼んでアクアだけを俺の部屋に呼び出す。

「なによカズマ、こんな部屋に私を連れ込んで何をするつもり?昨日の馬車の中での続きをするつもりなら容赦しないわよ」

「そうじゃねえよ。エライオンの事だ」

「エライオンの事?」

「エリス様から聞いたんだがお前ってエリス様とエライオンの学校の先輩なんだってな」

「そうよ、私ってば学校にいた頃は天才って言われてたんだから」

「らしいな。それで相談なんだがお前がエライオンにこんな事を止めるように説得してくれないか」

「私がエライオンを説得?冗談でしょ」

「けど、お前はエライオンの先輩で顔なじみなんだし」

「そうよ、私はエライオンの先輩よ。だから説得なんてする必要は無いわ。私がこんな事を辞める様に命令してあげる」

「説得じゃなくて命令!?」

「当然でしょ、私は先輩よ。天界じゃ先輩の言葉は神の言葉、先輩がカラスは白いと言ったらカラスは白い生き物なのよ」

 なるほど、こういう先輩が作った校風でエライオンは留年してあんな風にグレちまったんだな。やっぱり年功序列って行き過ぎると問題が多い制度だよな。

「じゃあ早速、エライオンに命令しに行きましょうか。私が言えばエライオンも涙を流して悔い改めるに違いないわ」

「・・・」

 この場にエリス様がいたらどんな顔をするか見てみたいぜ。とにかくアクアを一人でエライオンがいるあの教会に行かせる訳にもいかなく、俺はダクネスとめぐみんに屋敷の警備を任せてアクアと二人、昨夜の教会へと向かった。相も変わらず人気の無い町をアクアと二人町を歩いていると

「本当に人がいないわね。これならアクセルの町の私達の屋敷より大きな屋敷を建てても問題ないんじゃない」

「お前ドサクサ紛れにこの町の土地を取り上げるつもりかよ」

「それくらいはいいじゃない、なにしろ魔王軍の幹部をこの町から追い出すんだから相応の報酬は貰うのは当然でしょ」

「報酬ならダクネスの親父さんから貰えるだろ」

「馬鹿ねカズマ。貰える報酬は片っ端から貰っておくのが冒険者なんて不安定な生活をしている人間の常識よ」

「まさかお前に馬鹿呼ばわりされる日が来るとは思わなかったよ」

「それに・・・そうすればエライオンが一緒に住んでも問題ないでしょ」

「エライオン込みの話かよ」

「あの子、いい子だけど要領の悪い子だから放っておくと悪い奴に騙されちゃうし、しっかりするまで誰かが見ててあげないとダメなのよ」

「・・・ふ~ん、お前って案外ちゃんと先輩をしてるんだな」

「当然でしょ、エライオンもエリスも私の可愛い後輩よ。だから私の言う事はなんでも聞かないといけないの」

「お前のそういう部分がエライオンをこんな風にしたとは思わないのか」

「そんな事どうでもいいから、サッサとエライオンのとこに行きましょう。お昼までには戻りたいんだから」

 もう討伐するべき敵は誰なのか分からなくなりながら教会を目指した。そうして高い鐘楼がある教会の前までやって来るとアクアは何のためらいもなく昨夜クリスが開けた両開きのドアをバンと音を立てて勢いよく開けると礼拝堂に響き渡る大声で

「エライオン!このアクア様が来てあげたわよ。サッサと出迎えなさい」

「・・・」

 

― 続く ―

 


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