この素晴らしい世界に祝福を! オラ隣町さ行くだ   作:Z-Laugh

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第五話

「何があったんだよ」

「・・・アクア先輩とサーラマ先輩が学校の先生と大喧嘩しちゃってね・・・それにエライオンが巻き込まれたの」

「あのバカ・・・どこまで行っても無自覚な加害者だな」

「最初はサーラマ先輩が得意の炎の魔法で職員室にある書類やテストを全部燃やしてやろうって言い出してさ、それに同調したアクア先輩が延焼しない様に水の魔法で炎を消すって事になったんだけど・・・」

 エライオンが事の真相を明らかにし始め、それにエリス様が続く

「出来るだけ短時間で済ます為にエライオンの油の魔法も合わせて使って一瞬で全部燃やしちゃおうって事になって・・・」

「・・・やったのか?」

「「・・・」」

 エリス様とエライオンが無言で頷く・・・馬鹿だ馬鹿だと思っていたがアクアの奴そこまで馬鹿だったとは・・・それにサーラマとか言う女神も何やってんだよ。

「私とサーラマ先輩は学校の校舎の西側に待機、アクア先輩は東側に待機して作戦を実行したんだけど・・・」

「もう聞きたくない、聞きたくない」

 俺は両手で耳を塞ぐがエライオンの言葉は俺の手を通り抜ける様に頭の中に響いてきた。

「私が油を職員室にまき散らしてからサーラマ先輩が着火、ここまでは計画通りだったんだけど・・・」

「・・・アクアが仕事をしなかった?」

「待機場所を逆にすれば良かった・・・校舎の東側は日当たりが良くてさ」

「あのバカ、居眠りしてたんだな」

「うん。それで燃え盛る炎は職員室から校舎全体に広がり始めて私とサーラマ先輩は慌てて校舎の東側に行ってアクア先輩を起こして水の魔法を使って貰ったんだけど、水の勢いが凄すぎて・・・」

「・・・校舎が半壊してしまったの」

「それでアクアとエライオンとサーラマとか言う女神はどうなったんだよ」

「・・・」

 俺の質問にエライオンが黙り込むが、その代わりにエリス様が答え始める。

「アクア先輩とサーラマ先輩は卒業寸前だったからお咎めナシになったんだけど、エライオンは停学、そのせいで出席日数が足りなくなって留年しちゃったの」

「ウソだろ、そんなひどい話があるのか」

「本当だよ。校舎を半壊させる程の力を見せつけたアクア先輩を下手に罰したりしたら今度は校舎はおろか学校全部が破壊されかねなかったから」

「ヒデェ話だ」

 俺がエリス様の話に呆れていると黙り込んでいたエライオンが

「・・・それ位アクア先輩の力って飛び抜けてたんだ。それに当時の私はそれで良かったと思ってたし」

「なんで?エライオンの事を留年に追い込んだんだろ」

「確かに恨みもあったけど、それ以上にアクア先輩は私の憧れの先輩だったからさ・・・先輩が無事ならって思ったし・・・正直あの頃の私の成績って進級出来るか出来ないかのギリギリだったからね」

「それにしたって」

「まあ、どうにか学校を卒業はしたものの仕事は上手く行かなくて、周囲は事あるごとに留年の事や校舎を燃やした事をネチネチ言ってきたから・・・」

「それで天界を飛び出してきたのかよ」

「私は逃げ出したからいいけど・・・エリスは最後まで私達のした事の尻ぬぐいをしてくれたから、そっちの方が大変だったと思うよ」

「エライオン、あの事だったらもういいって言ったでしょ」

「エリス様、一体何をやらされたんですか?」

 俺の質問にエリス様は頬のキズをポリポリとかきながら、

「・・・校舎が半壊したでしょ。その修繕費が必要になったから幸運値の高い私が校舎再建資金の寄付を集めたの」

「なんでエリス様がそこまでやってあげたんですか。アクアの居眠りと魔法の力加減を間違ったのが原因でしょ。あいつの責任を取らせればよかったんですよ」

「・・・それが三人の退学処分取り消しの条件だったからさ」

 もう、三人とも黙るしかなかった。エリス様とエライオンにとってアクアとサーラマとか言う女神はかけがえのない憧れの先輩、多分無神経で考えの足りないアクアなりに二人には仲良く接していたのだろう。困った所はあるけどズバ抜けた能力や才能を持つ憧れの先輩を憎む事も出来ず、つい助けてしまう。エリス様もいい加減、寛大だよなと前から思っていたけど、このエライオンも我が身を呈してアクアを庇った様なモノだ。しかもそれが今回の事件の根っこだというのだから本当に呆れるわ、気の毒に思うわで言葉が出なかった。しかし、エライオンの事をこのままにしておく訳にもいかないし、少なくとも何らかの提案をしないとエライオンは今している事を止めない筈だ。

「なあ、エライオン。お前はもう天界に帰るつもりは無いのか」

「・・・ないよ。あんな所に戻る位なら今の方がずっといい」

「けどバニルに聞いたけどお前って人間界で食っていけなくて魔王軍に入ったんだろ。だったら食う心配がない様に俺が生活をサポートしてやるからこんな事止めて

魔王軍も辞めちまえよ」

「バニルに聞いたって?バニルはあんたに倒されたんだろ」

「バニルは生きてるよ。予備の仮面をかぶって今は魔王軍幹部のウィズの店で働いていて、すっかり町の一員だ。近所の奥さん方に評判がいい店員さんだぜ」

「そんな事になってたのかよ。けどアンタに私の生活を支えるなんて事が出来んの?冒険者って貧乏なんでしょ」

「魔王軍幹部とデストロイヤーの破壊で今の俺はすっかり金持ちだからな。一人くらいパーティーメンバーが増えたってどうって事ないし今住んでいる屋敷も広くて部屋は余ってるから何も問題ないぞ」

「エライオン、そうしなよ。無理に天界に帰る必要は無いけど魔王軍の幹部のままじゃ天界の上層部が放って置かないしさ」

「・・・けどアクア先輩がいるんだろ」

 俺の提案をエリス様も支持してくれてエライオンを説得しに掛かるが、当のエライオンはその表情を曇らせてアクアの名前を口にした。

「いるけど、いいじゃねえか。憧れの先輩と同じパーティーだから問題ないだろ」

「確かにアクア先輩は憧れの先輩だったけど、近づき過ぎるのはちょっと・・・」

「あ~~、なるほどね~。エライオンの言いたい事わかるよ」

「確かに俺もあいつが起こすトラブルに巻き込まれっ放し出しな」

「アンタが私に別の家を用意してくれて月々、生活費をくれる?」

「それって・・・なんか金持ちの成金が愛人囲ってるみたいで、ちょっとアレだな」

「確かに助手君がアクセルの町でそれをやったら、クズマの名前がまた一段と有名になっちゃうよね」

「アンタ、アクセルの町で何やったの?」

「いや別に・・・」

「初対面の私からスティールのスキルを教わって、私のパンティーを剥ぎ取ったのがクズマ伝説の始まりだったよね」

「ちょ、ちょっとエリス様。あれはエリス様の方から言ってきた勝負じゃないですか」

「私から言い出そうが、君から言い出そうが、私がパンティーを剥ぎ取られて、その結果、有り金全てを君に取り上げられたのは事実でしょ」

「それはその通りですけど・・・」

「エリス相手にスティールを仕掛けて成功するなんて大したモンじゃん。普通だったら髪の毛一本だって盗める訳ないのに」

「そんな褒められ方されても嬉しくねえよ」

「さて、どうしたもんかな・・・確かにエリスの言う通りこんな事を続けてたら天界から罰が下るかもしれないけど、人間界で食って行くには私は不器用すぎるし・・・やっぱりアンタの愛人にでもなるしかないのかな、カズマ」

 俺の隣に座るエライオンが、その豊満な胸を俺の二の腕に押し付けてきた。ああ、コレが本当の女神の誘惑♪ノーブラのオパーイってやーらかいんだ、こ・ん・な・に♪それに二の腕に感じる感触って掌や指とは違う感じ方だ。ホントにコイツの事を囲っちゃおうかな。俺がエライオンの術中にはまりそうになると反対側に座るエリス様が俺の腕を掴んで俺の体をエライオンから引き剥がし

「ちょっとエライオン、そんなの魔王軍の幹部になるよりヤバいって。助手君のスケベ心って並じゃないんだよ」

「エリス様、その言い方は本当に勘弁して下さい」

「けど同じパーティーに入ってアクア先輩の傍にいるのはもっとヤバい事になりそうだし」

「それは分かるけど・・・」

「人間界で暮らして行くには私は頭が悪過ぎるんだよ。農夫や商売人や職人、それに冒険者をするにしても世渡りの知恵みたいなもんが足りないんだよ。だから悪い人間に出会ったらすぐに騙されて一文無しになっちまう」

「けど、私だって盗賊としてそこそこ人間界で暮らせてるよ」

「それはエリスには天界っていう場所があるからだよ。何かマズい事があっても天界に戻ってほとぼりを覚ませばいいんだから今の私とは元々の前提条件が違うじゃん。エリスが私より頭が良くて人間界で暮らして行く上での知恵を私より持ってる事は認めるけど、アンタだって悪い男にパンツと有り金全部をむしり取られたんでしょ?」

「・・・まあ確かに・・・駆け出し冒険者の町のアクセルですら、そういう悪い男はいるからね~、他の町ならなおさらだよねぇ~、そうでしょ助手君?」

 エライオンは面白半分、エリス様はジト目でが俺をやり玉にあげ始める。いかんいかん、このまま話が逸れて行くとまとまる話もまとまらなくなる。

「じゃあ、信用できる人間を紹介するって言うのはどうだ?それならそんな心配はいらないし俺の紹介なんだからこの世界で俺との縁が切れる心配もないだろ」

「昔の同級生の下着を剥ぎ取る男を信用しろって言うの。アンタ、それはいくらなんでもムシが良すぎない?エリスがいるからこうやって話をしているけど本来ならアンタと私は敵同士なんだよ」

「そうだよね・・・それに助手君との縁が切れないって事はアクア先輩が近くにいるのと変わらないもんね」

「けど、今のままじゃマズいんだろ。なにか行動を起こさないとダメなんじゃないか」

「堕天した時、魔王軍に入った時、何かを決断する時っていうのは理由とか言い訳とかキッカケが必要なんだよ。今の話だけじゃとてもじゃないけど思い切れないね」

「私が説得に来たのはそれにならないの?」

「ゴメン、エリスの気持ちは有難いけど、それは無理。いっそカズマと戦って負かされたらバニルみたいに魔王軍にいる事を辞めらるのかもね」

「戦いは避ける方向で考えないか。大なり小なり被害が出ちまうだろ」

「それくらい大袈裟な演出をした結果が欲しいんだからダメ!それと・・・アンタのパーティーと戦うならアクア先輩は抜きにして貰えるかな」

「なんで?俺達は四人のパーティーで、それで今までの実績を作って来たんだぞ」

「やっぱりアクア先輩と事を構える様な事はしたくないんだよ。それこそ魔王軍を辞めるのに先輩にだけは貸し借りを作りたくないって感じ?」

 エライオンの言う事は分かる。俺だって今でこそ冒険者としてちゃんと食っていけているが今の生活を始めるキッカケは日本での事故死というこれ以上ないキッカケがあったからなのだし今のエライオンの迷いは当然だと思う。しかしアクア抜きでエライオンと戦って勝てる見込みがあるのか?領主の話ではエライオン自身か、はたまたエライオンの眷属は水が苦手だという。だとしたら戦闘プランを考える上で水の女神であるアクアを外す事は出来ない。俺の初球魔法のクリエイト・ウォーターでは、それこそ焼け石に水だろう。めぐみんの一発だけの爆裂魔法、ダクネスの守備、それと俺のスキルと知恵、コレだけで堕天した女神に勝てるのか?いや・・・そもそもアクア抜きで戦う事など出来るのだろうか?あの空気が読めない事にかけては定評のあるアクアが指を咥えて大人しく俺達の戦闘を見ているだけで事を済ます事が出来るのか?そんな訳ない、あいつは戦闘に参加しようがしまいが必ず周囲に迷惑を掛ける奴だ。だとしたらエライオンの要求通りアクア抜きで戦うとなるとアクアだけをアクセルの町に帰らせなくてはダメだし、それをする為にはこの事をアクアに話さなくてはならない・・・あいつの性格からして後輩からのリクエストを素直に聞くとはとても思えない。

「エライオン、それはどう考えても無理だ」

「なに、怖気づいたの?」

「そうじゃなくて、アクア抜きで戦うとなれば少なくともアクアをこの町から追い出さないとダメだろ。アイツは余計な事をする天才なんだぞ。絶対なんかの形で俺達に迷惑を掛ける」

「だったら、アクア先輩にアクセルの町に戻って貰ってから戦えばいいじゃん」

「それをするにはアクアに今の事情を話さないといけなくなる。今の話を聞いてアクアが大人しく引っ込むと思うか?」

「・・・交渉決裂だね」

「ちょっとエライオン、落ち着いて」

「アクア先輩がこの町に来てるんじゃ、遅かれ早かれ私の存在に気付いちゃうだろ。だったら、こんなまどろっこしい話なんてしてる場合じゃない」

「なら、この町からさっさと出て行け。じゃないとうちの狂犬女神をけしかけるぞ」

「クズマのあだ名は伊達じゃないみたいだね。けどそれはお断り!この町はあたしが貰う。それで幹部四人を倒したアクセルの町を攻める為の基地にして、それが済んだら王都を背後から攻撃してやるんだ。そもそも私がこの町に来たのはその為だからね」

「アクセルの町に攻め込むだと」

「ああ、魔王の奴が幹部が四人もいなくなるなんて放って置けないってね。だから確実にアクセルの町を落とす為に隣町のクラッチを占領したのさ。町が本当に空っぽになったら魔王軍の兵士が沢山この町に住み付いて、それからアクセルに大挙して攻め込む事になる。アクセルの駆け出し冒険者だけでそれが防げるかな」

「エライオン、そんな事するのはやめて。あの町には冒険者じゃない普通の人だって沢山暮らしてるんだよ」

「エリス、そんな事言われなくたって分かってる。だから私はクラッチの町の人間を傷つけずに追い出す事にしたんだ。けど魔王軍の兵士はそんな手加減はしないよ。命令云々じゃなくて本能の赴くままに暴れまわって町や人を傷つけるだろうね。それは魔王軍幹部の私でも止められない。それを止めるのは眠るな!食事をとるな!飢えて死ね!と言ってるのと同じだからね」

 魔王軍の兵士っていうと王都に攻め込んできた連中みたいな奴らだろ。王都の騎士や兵士、それに腕ききの冒険者がやっとの思いでその攻撃を防いで押し返したのに、アクセルの町の駆け出し冒険者ではそんな事が出来る訳ない。町はあっという間に滅ぼされてしまうだろう。だとすれば魔王軍の兵士達がこのクラッチに来る前にエライオンを倒さなくてはならない。もう手段を選んでいられないな。俺は立ち上がってエライオンと距離を取る。

「なら、もう話す事はないな」

「助手君、それにエライオンもお願い、考え直して」

「エリス、わざわざこんな所まで来てくれたのに申し訳ないけど話はこれまでだよ」

「そういう事だ。これから領主の屋敷に戻ってアクアたちにこの事を話してから戦闘開始だ」

「そ、そんな・・・」

 エリス様が悲しそうな顔をする。出来ればそんな顔をさせたくないんだけど流石にアクセルの町が滅ぼされるとなれば放ってはおけない。俺は教会から脱出する為にエリス様の腕を掴んで引き寄せると、それを見たエライオンが右手を高々と差し上げた。

 

― 続く ―

 


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