この素晴らしい世界に祝福を! オラ隣町さ行くだ   作:Z-Laugh

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第四話

「・・・てよ。ねえってば」

「・・・んん」

 体を揺すられて意識が目覚めると俺は少しだけ目を開ける。目の前には俺の体を両手で揺する女の子。チャームポイントの短い銀髪、紫の瞳、控え目な胸、肌の露出が多い盗賊の服装と疑いようもない程の美しい顔立ちの・・・よし・・・準備完了。

「確保―――――――――っ!」

「キャッ!ちょ、ちょっと助手君!?」

「魔王軍の手先だな、こんな夜中に忍び込んでくるとは、なんとけしからん奴だ。コラ、大人しくしろ」

「わ、私だよ、クリス、クリスだってば・・・ちょっとドコ触ってるの?ダメ!ちょっと、本当にそこはダメ!」///

「クリスの名をかたるとは恐ろしい敵だ。けど冒険者・サトウカズマ様からは逃げられないぞ」

「ホントにいい加減にして、それ以上触ると嫌いになっちゃうよ」///

「え!そりゃマズいですね」

「ううう・・・もう何のためらいもなく抱き付く様になってきたね・・・ホントにもうお嫁に行けないよ」///

 両手で顔を隠すものの耳まで真っ赤になって全然、恥ずかしさを誤魔化し切れてないクリスことエリス様。

「なら俺が貰ってあげますよ」

「最低!最低だよ!こんなプロポーズ絶対ナシなんだからね」

「・・・じゃあ、どんなプロポーズが理想なんですか?」

「そ、それは・・・やっぱり、景色の良い所で二人きりになって、ちゃんとムードを盛り上げてくれて・・・って、そうじゃなくて、ほらサッサと出掛ける支度して!」

「どこ行くんですか・・・って決まってるか」

「もう、本当に余計な手間を掛けさせないで・・・キャッ!もう、レディの前なんだから少し遠慮してよ」///

「そんな事言ったってサッサとしろって言ったのはエリス様じゃないですか」

 俺は普段から着ている冒険者の服を脱ぎパンツ一丁になる。それにしてもエリス様って男に免疫ないな、着替え始めた俺に背を向ける様に正座する。そんな可愛い反応されちゃうとパンイチでオラオラオラ♪と股間をエリス様の顔の前に突き出したくなってくる。けど、幸運の女神であるエリス様にそんな事をしたら俺の唯一の取り柄である幸運のステータスが激減してしまうかもしれないので止めておき準備しておいた黒装束に着替える。

「準備できた?もう、出発前から疲れちゃったよ」

 そうして俺とクリスは逃走スキル、潜伏スキルなどを駆使しつつ領主・シルフィール卿の屋敷を脱出した。人の気配が全くない月に照らされた映画のセットの様な夜の町をクリスと二人で並んで走りながら

「どこに行くんですか?」

「教会!この町で一番大きなエリス教会。高い鐘楼があったでしょ」

「あれですか。あそこにエライオンがいるんですか」

「うん、あの教会はクラッチの町のほぼ中心にあるから彼女にとっても仕事がやり易い場所なのかも」

「それ!エライオンってこの町で何をやったんですか?」

「・・・眷属を使って町の人に嫌がらせをしてるんだよ」

「眷属?嫌がらせ?じゃあ人を傷つけたり物を壊したりはしてないんですか」

「そうなんだけど・・・だからこそ困りモンでね。とにかく助手君は私が頼んだ通りエライオンにこんな事を止めるように説得してよね」

「ああ、そう言えばエライオンが魔王軍に入った理由が分かりましたよ。バニルって奴が教えてくれたんですけど、堕天して人間界に来てから食っていけなくて魔王軍に就職したらしいです」

「ホントに!?もしそれが本当の理由なら天界の上層部はきっとカンカンになっちゃうよ」

「堕天だけでも問題なのに、魔王に魂を売って、その上その理由が食っていけなかったからじゃシャレになりませんもんね」

「そういう事。本当に早く止めさせないと」

 そんな話をしながら俺とクリスはこの町で一番大きなエリス教会、目の前に高くそびえる鐘楼がある建物の前にやって来た。クリスは建物の入り口のドアの前に立つと手を合わせてから目を瞑り祈り始めた。月の光を浴びてクリスの銀色の髪が一層キラキラと輝く。それだけでも充分に神聖なモノと感じる事が出来るのにクリスの祈る姿は外見なんて全く関係なしに正に女神だった。祈りを終えたクリスは両手で教会の両開きの扉を目一杯に開くと

「エライオン、居るんでしょ」

 すると丁度、正面の祭壇にあるエリス様の像の方から声がした。

「やっぱり来たんだ・・・天界から覗かれてる感じがしてたから、もしやと思ったけど。上がって来なよ、私は二階の管長室にいるから」

 まるで正面のエリス像が喋ったかの如く澄んだ女性の声が響いてきた。これが問題のエライオンって奴の声?クリスはその言葉を聞くなり第一歩目を踏み出すが俺はクリスの肩を掴んで

「待てって。途中に奴の眷属がいたり罠が張ってあったりするかもしれないから慎重に行こう」

「・・・エライオンはそんな事する子じゃないよ」

「けど堕天した女神なんだし今は魔王軍の幹部なんだから、やっぱり気を付けないと」

「大丈夫、助手君は私の後ろをついて来て」

 俺の制止を聞かず歩を進めるクリス、俺は正直かなりおっかなかったのだけれど已む無くクリスの後を付いて行った。人のいない礼拝堂、明かりは窓からの月明かりだけ。礼拝者の為の沢山の長椅子、装飾を施した壁や天井、建物の中の全てが群青色に染まる中、クリスは礼拝堂の中央の道のど真ん中を堂々と歩いて行く。これって結婚式の時だったらバージンロードになる部分だよな、俺はそんな関心をしつつ周囲を警戒しているとクリスが歩くのを止めて礼拝堂の一番奥の高い所にある自分の姿をかたどった彫像を見上げ・・・その胸元と自分の胸元を見比べていた。俺もそれにつられて高い位置にあるエリス様の像を見上げると

「・・・そんなに変わらないよね」

 クリスがポツリと独り言を漏らしたので俺は、

「全然違う」

「そ、そんな!全然って事はないでしょ」

 俺の台詞が余程、予想外だったのだろうかクリスは両手で胸元を押さえながら必死の形相になる。そんな反応を横目で一通り楽しむと俺はクリスに向き直りエリス像を指さしながら

「アッチのエリス様の方が全然、髪が長いですよ」

「え! ・・・あ、ああ・・・そうだよね。アッチの方が全然髪が長いよね」

「他にどっか違う所があったんですか?」

「・・・もういいっ!やっぱり君はゲスマだよ」

 敵のアジトにいるというのに、この甘々な空気。コレだよコレ!俺がこの世界に求めていたモノは。適度な冒険心を満たす出来事、次々と出会う美女達とフラグを立てまくる異世界転生チーレム無双。これが剣と魔法の世界の醍醐味ってヤツだろ。照れているのか怒っているのか解らない態度のクリスが再び歩き出すと俺は何も言わずに、それについて行く。そうしてエリス様の像を中心に数々の装飾品が置かれた祭壇の横に辿り着くと、そこには正面から見えない位置にドアがあった。

「こんな所にドア?クリスはコレ、知ってたのか」

「礼拝堂なんてどこもそう変わらない作りだからね。聖職者っていうのは自分を偉く見せるのも仕事だから神様の背後から現れるって演出をしたがるんだよ」

「正に神頼みだな」

「ふふふ、そういう事だね」

 そうしてクリスは何の警戒もせずにドアを開けてしまう。俺はガチャ!とドアが開く音がした瞬間に反射的に身構えるが、当然の様になにも起らない。クリスはそんな俺を見てクスッと小さく笑ってからドアの中に入って行ってしまう。さっきの怒った様な顔も良かったけど、今みたいな笑顔もいいな。情けないやら恥ずかしいやらという気持ちは消し飛んでしまい俺もドアの中に入って行く。廊下、階段、廊下と途中にある部屋のドアを無視してどんどん歩いて行き教会の建物の一番奥のドアの前までやって来るとクリスは再び歩くのを止めて俺に振り返って来た。

「助手君、ここが管長室だよ」

「じゃあここに」

「うん。エライオンがいる。だから私から離れないで・・・と言っても抱き付けって事じゃないからね」

「チッ!先手を打たれたか」

「ふふ・・・私もやられっ放しじゃないよ・・・じゃあ行こうか」

「・・・はい」

 コンコンコン!とクリスがドアをノックすると

「どうぞ」

 木のドア越しのくぐもった響きの返事があった。さっきと同じ声、エライオンが本当にここにいる。俺は息を飲んでクリスと一緒に部屋に入って行った。

「エライオン、久しぶりだね」

「久しぶりエリス・・・それとも今はクリスっていった方がいいのかな」

「どっちでも、エライオンの呼び易い方で呼んで」

「じゃあエリス、そこに座って。助手君も座りなよ」

 クリスはエライオンの言葉の通りに部屋の中にある応接セットの椅子に腰を掛けるので、俺もそれに続いてクリスの隣座ると窓際に立っていたエライオンは部屋の窓とそのカーテンを全部開けてから俺達の正面に腰掛けた。沢山の月明かりが部屋に差し込んで来て千里眼スキルを使わなくても十分にエライオンの姿が確認できた。褐色と呼ぶには薄い肌の色、そうツヤのある小麦色の健康的な肌にボブカットの黒髪、パッチリと見開かれた目は強い意志を感じるいかにも健康的な雰囲気のクリスと同じ年頃の女の子だ。しかし・・・その体はクリスはもちろんだがダクネスすらも凌駕せんばかりのはち切れっぷり♪プリプリ♪出るところが出過ぎていて引っ込むところが引っ込み過ぎている体でしかも着ている服がミニ丈の真っ白なキャミワンピなので胸の谷間や、タップリの肉感でありながら決して太いという印象を与えない脚線美を惜しげもなく晒しているし、その上・・・胸元の白い生地には二つの小さな突起がハッキリ浮かび上がっている。オイオイ、こんだけのモノを持っててノーブラかよ・・・ありがとうございます!アリガトウゴザイマス♪有難う御座います♡。いつの間にか心の中で魔王軍の幹部に感謝の気持ちを捧げてしまっていた。クソッ、なんて恐ろしい罠だ。

「助手君・・・どこ見てるのかな?」

「エリス、助っ人の人選を間違ってない♪」

 クリスは唇を尖らせながら背中を丸める様に胸元を押さえ、エライオンは反対に一層誇らし気に胸を張る。なるほど、さっき礼拝堂で自分の像をマジマジと見ていたのは昔の同級生に会うに為に現在の自分の成長ぶりを確認していたのか。クラス会とか同窓会に出席する時ってそういう感覚あるよな。エリス様、申し訳ありません。今この瞬間だけ俺はエリス教の背教者です。

「エリス、わざわざ人の姿に身をやつしてまで何しに来たの」

「わかってるでしょ」

「さあ?私のみたいな落ちこぼれには幸運の女神様の気持ちなんて分らないよ」

「エライオンは落ちこぼれなんかじゃない」

「アンタがそう言ってくれるのは嬉しいけど、天界じゃ誰もがそう思ってた。だから私は堕天したんだ。あんな所はもう、うんざりだよ」

「ねえ、こんな馬鹿な事は止めて一緒に天界に帰ろう。上層部には私が説明するから」

「いい子ちゃんなトコロは学校にいた頃と変わらないね。けど私はもうあの頃の私じゃない・・・今更、天界には戻れないし、戻ろうとも思わない」

 かつての同級生の説得を試みるエリス様、そしてそんな優しい同級生の提案を拒否するエライオン・・・なんか俺が日本で引き籠り始めた頃を思い出す。親や先生が俺に学校に来る様に説教をする。そして、クラスメート達が代わる代わる家にやって来て学校に来なよと言ってくれた事を思い出す。嬉しい反面、照れ臭くて、みっともなくて、クラスメート達が帰った後にスゲー落ち込んだのをよく覚えている。

「昔、学校で何かあったのか?」

 俺はエリス様に断る事なくエライオンに話し掛けた。

「アンタには関係ないよ」

「そう言われちまうと何も言えないが・・・俺も少なからず嫌な思いをして居場所を追われた経験があるから気になったんだよ」

「へえ、だからか・・・アンタからも私同様、どうしよう様もないくらい落ちこぼれの匂いがするよ」

「そりゃそうだ。前にいた世界で居場所を無くして、事故で死んでからこの世界に転生しても俺の周囲はどうしようもない落ちこぼればっかりだしな」

「・・・アンタ名前は?」

「俺の名前は佐藤和真。冒険者をやってて・・・アンタを退治しに来たんだ」

「アンタがあの噂の・・・けど本当にアンタがあの四人を倒したの。ちょっと信じらんないんだけど」

「だろうな。なにしろ、それを一番信じられないのは俺自身だからな」

「けどまあ、流石はエリスが助っ人に頼んだだけの事はあると思うよ。アンタの幸運のステータスって並じゃないし・・・なんかエリス以外にも神聖な力の痕跡を感じる。アンタ一体何者なの?」

 なるほど、腐っても堕天しても女神って事か。目の前のエリス様はともかくアクアの存在の影に気付くとは流石だなと思っていると

「エライオン、助手君のパーティーにはあのアクア先輩がいるんだよ」

「え!」

 今まで余裕の態度だったエライオンが驚きの声と共に椅子から立ち上がって俺を見下ろしてきた。

「う、ウソだろ。アクア先輩がこんな男のパーティーなんかにいる訳ない・・・けど、このオーラの残骸は・・・」

「今、天界ではこの世界に現れた魔王を倒す為に異世界の人間を転生させている事をエライオンも知っているでしょ」

「ああ、あのバカげた移民政策な。確か、転生の時に何か一つ能力とか武器が貰えるってヤツだろ」

「そう、詳しい事は私も知らないんだけど、助手君は転生の特典としてアクア先輩を貰って、この世界に来ちゃったらしいの」

「はぁ?女神を転生の特典だって。そんなのアリなのかよ」

「アリもナシも、ここにいる助手君は前の世界で一度、この世界では三度死んでいるんだよ」

「ナニその反則技、復活は一度きりって言うのが天界のルールだろ」

「だから・・・アクア先輩が助手君に制限なしでリザレクションをかけちゃうんだよ」

「・・・あっきれた」

 エライオンはドカッと倒れ込むように椅子に腰を落とすと手を額にやって天井を見つめていた。やっぱり俺の死からの復活って女神から見ても異常なのね。

「じゃあアクア先輩も人間界で暮らしてるのか?」

「その辺は助手君の方が詳しいから」

「どうなんだよ?」

「ああ、人間界で人間と何一つ変わらずに暮らしてるぞ。働いて金を稼いで飯を食って酒を飲んで気が向いたら周囲の人間に宴会芸を見せて、そうそう!何度となく借金やツケを背負っていた事もあった」

「・・・アクア先輩らしいよ」

「・・・ホントだよね」

「エリス様、それにエライオン、二人にこんな状況でこんな事を聞くのは変かもしれないがアクアってそんなに凄い女神なのか?ぶっちゃけ俺の前ではほとんど役に立たない馬鹿なんだけど」

「それこそがアクア先輩なんだよ」

「はぁ?」

「助手君、アクア先輩が私達が学校にいた頃の二台巨頭の一人で天才と言われていたって話したでしょ」

「それも信じられないんですけど・・・」

「・・・天才アクアって言う異名はさ・・・」

 俺の質問にエリス様じゃなくてエライオンが答え始める。

「あの人のズバ抜けた能力から来てんだよ」

「ズバ抜けた能力?」

「まあ天界の学校も人間の世界の学校もそう差はなくてさ。生徒は先生に成績をつけられて順位付けされるワケよ」

「アクアの成績が良かったとはとても思えないんだが」

「確かにね。アクア先輩は学科の成績は最悪だったけど、実技はサーラマ先輩はおろか既に仕事に着いていた卒業生や先生でも敵わない位の能力者だったんだ」

「その力が余りに圧倒的だったから先生方もアクア先輩を落第扱いできなくて・・・」

「そんなに凄いのか、あいつの力って?」

「私たち女神は地上に降りてくると、その力が大きく損なわれるからアンタはまだアクア先輩の本当の実力を見た事が無いんだろ」

「そうだね、リザレクションなんて何度も使ってると体に異常が出るモノなのに助手君は何とも無いもんね」

「それって当たり前の事じゃないんですか、エリス様」

「そんな訳ないだろ。死んだ生物を生き返らせるなんて魔法に無理がない筈がない。ちょっと考えればわかるだろ、下手したら只のアンデッドになっちまうんだよ」

「あ!」

「それに体が破損していた場合だって完全に元通りって訳にはいかないんだ。必ず傷が残ったり不具合が出たりするモンなんだよ」

「そういう事、私のコレもその結果だからさ」

 エライオンの説明を聞いたエリス様が自分の頬の傷を指さした。そっか・・・魔法が完璧だったらエリス様の顔にキズが残ったままの訳がない。俺は思わず以前、冬将軍に斬られた首をさするとエリス様は自分の頬に当てていた指先を俺の首筋に当てて

「やっぱりアクア先輩ってスゴイ。助手君の首には毛の先ほどのキズも残ってないもんね」

「なに、アンタ首に大怪我でもしたの?」

「・・・大ケガって言うか、一度あり得ない方向に曲がって、あと一度首チョンパされてる」

「え――っ!」

 エライオンが再び座っていた椅子から立ち上がって俺の真横にやって来てエリス様と同じく俺の首筋を触ったりジロジロ見たりし始めた。スリムな可愛いエリス様とエロエロボディの元気っ子・エライオンに挟まれながら二人から首筋をいたずらされるとは・・・なんのご褒美だよ。二人の成すがままになっていると

「ホントに全くキズが無い・・・さっすがアクア先輩」

「ホントに・・・能力だけならダントツなのにね。あの時の事だってアクア先輩とサーラマ先輩があんな事を言い出さなければ」

「まあ・・・確かに」

 不意にエリス様とエライオンが表情を曇らせた。

 

― 続く ―

 


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