この素晴らしい世界に祝福を! オラ隣町さ行くだ   作:Z-Laugh

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第三話

 そうして俺達はダクネスの親父さんがチャーターしてくれた馬車に乗り込み一路、クラッチの町を目指し始めた。馬車の御者の話では半日程度で着くらしく、以前に行った温泉や紅魔の里に比べるとグッと近いそうだ。すでに一年以上、この世界にいるけど旅行以外では町から出ようとしないなんて我ながら活動範囲が狭い事を痛感させられる。確かにこの世界は日本みたいに公共交通機関が整備されている訳じゃないし、そもそも町自体が一つの小さな国家の様な言うなれば都市国家の様な体裁が整っているので他の町に出掛ける必要がない。日本だったらアレを買いにあの町へ、コレを食べにこの町へ、と特化された情報に基づいて移動をするが、この世界は情報インフラすらも遅れているから隣町の情報などは積極的に集めようとしなければ知る事が出来なかったりする。

「クラッチの町は久しぶりだ」

「ダクネスはクラッチに行った事があるのか?」

「ああ、隣町だから簡単に行く事が出来るし」

 馬車での半日移動が簡単ね・・・この辺はまだまだ俺自身がこの世界に馴染み切れていない事を感じさせる。

「食べ物が美味しい町なんだ。のんのんバッファローの肉料理が有名でチーズやヨーグルトなんかの乳製品も品質が高い。アクセルで金を持っている人間はそう言った食材をわざわざ魔法使いに頼んでテレポートで買いに行って貰ったりする位だからな」

「へぇ、そう聞くとちょっと楽しみだな」

「おススメはのんのんバッファローのタンシチューだ。あれは一度食べたら忘れられない美味さだぞ」

 魔王の幹部の討伐と言うクエストに向かう最中であるというのに俺とダクネスがのんびりと馬車に揺られながら観光旅行の様な話に花を咲かせていたのだが、めぐみんが

「カズマ、なぜ馬車でクラッチに行くのですか?テレポートで行けばいいじゃないですか」

 うちのパーティーの唯一の魔法使いのめぐみんが実に魔法使いらしい事を言い出した。

「それは俺も考えたんだが、ギルドでクラッチへテレポート出来る魔法使いを探して交渉したけどOKして貰えなくてな」

「どうせ、カズマがセクハラめいた交渉をして断られたのでしょ。その時の光景が目に浮かびます。今度は一体何をスティールしたのですか?パンツですか?ブラですか?」

「・・・俺をクラッチの町までテレポートしろ、ついでにお前もついて来い。そうすればこのパンツは返してやる・・・カズマ、相変わらずの鬼畜ぶりだな」

「ダクネス、生唾を飲み込みながらそういう想像をするな。どうもテレポートでクラッチに行ける魔法使いは今の町の状況を良く知ってるみたいでな。みんな断るだけじゃなくて行くのは止めた方がいいって言い出す位なんだ」

「カズマカズマ、クラッチの町で何が起こっているの?」

「アクア、俺もそれが気になって聞いてみたんだがみんな怖がるというか気持ち悪がって話してくれないんだ。あんな町の事は思い出したくないってな」

「おかしな話ね。魔王軍の幹部が住み付いたというならこの町の冒険者たちの噂にもなる筈なのに、そんな様子はなくてクラッチの町の実情を知っている人間は口を閉ざしているなんて、どう考えてもおかしくない?」

「だから俺は断りたかったんだけどな。どっかの馬鹿どもがあっさり話を引き受けちまったから後に引けなくなっちまったんだろ」

「「「う!」」」

 

 何度目かの休憩や昼食を終え陽が頭の天辺からわずかに傾き始めた頃、遠くに高い塔が見えてきた。

「あれは?」

「あれがクラッチの町の象徴とも言えるエリス教会の鐘楼だ。大きな教会で、あれ程の大きさの教会はアクセルはもちろんだが、この近辺の町でも見たことがない」

「もう、なんでエリス教ばっかりなの。もうちょっと女神・アクア様を崇め・・・キャッ!」

 アクアが例によって後輩女神であるエリス様が神として好待遇受けている事に不満を漏らした時だった。突然、馬車を引く馬がいなないたと思ったら俺達の乗る馬車が大袈裟に揺れながらスピードを増していった。

「な、なんだ?」

「一体どうしたのですか?」

「みんな、とにかく何かにつかまれ。この揺れ方は只事じゃない」

 ダクネスの言葉に従って俺達は窓枠や座っている背もたれにつかまる等して不安定な体を固定すると馬車の外から御者の馬たちを制しようとする大きな声が繰り返し聞こえてくる。

「何があったのだ?」

 ダクネスが御者に怒鳴る様な大声で尋ねると

「多分、魔王幹部のせいです。チクショー、やっぱりこんな仕事引き受けるんじゃなかった」

「ダクネス、コレって魔王幹部のせいなのか?特に敵らしいヤツは周りにいないが」

「それは分からんが、とにかく今は馬を落ち着かせないと下手をすれば馬車が横転して幹部討伐どころではなくなるぞ」

「アクア、興奮した馬たちを魔法で落ち着かせる事出来るか?」

「まっかせなさい!この気高きアーク・プリーストのアクア様に不可能はないわ」

 そういうとアクアは馬車の窓から身を乗り出して馬に向かって呪文を唱えようとした。しかし舗装されていない剥き出しの地面を猛スピードで走る馬車が大きく揺れてアクアが窓から落ちそうになる。

「ちょっ、あぶ、あぶ、あぶない!落ちる、落ちちゃう!助けてカズマ~~っ」

「大丈夫か、俺が捕まえててやるから早く魔法を!」

「わかったわ。しっかり捕まえててよね・・・『リラクゼーション』!」

 アクアが暴走する馬に向かって両手を差し出しながら呪文を唱えるとアクアの両手が白く輝き出し、暴走する馬たちが淡いピンク色の光に包まれる。すると興奮して力の限り走っていた馬たちが徐々にその速度を落とし始めて、ようやく御者の指図通りその脚を止めた。

「助かりましたね。流石はアクアです」

 めぐみんがホッと息を吐いて俺達の無事に安心すると

「ウム!アクアは魔法だけはホントに超が付くほど一流だな」

 貶してんだか信頼の裏返しなんだが良く分からない言葉を漏らす安心顔のダクネス。

「ホントだな。アクアすげぇぞ」

 俺もそれに便乗してアクアを褒めたのだが

「・・・カズマさん・・・何がスゴイのかしら?」

 アクアが落ち着いたというより冷めきった声で俺に話し掛けてきた。

「そりゃ、当然、今の魔法の・・・」

「もう、馬車は揺れてないんですが・・・クズマさん」

 へ?アクアの奴、なに怒ってんだ?と思っていたら

「相変わらずのゲスっぷりですね。ドサクサ紛れに痴漢行為だなんて」

「カズマ・・・そんな事だからカスマとかクズマとか言われるのだぞ」

 めぐみんとダクネスもドン引きの表情で俺にいちゃもんをつけてきた。だから俺が何をしたって言うんだよ?俺はアクアが揺れる馬車の窓から落ちない様にアクアの体を捕まえていただけで、いわばアクアのファインプレーを支えた影の功労者だろ・・・あ!・・・必死だった俺の両手はアクアの二つのオッパイを鷲づかみにしていた。

「いつまで触ってんの!さっさとこの手を離しなさい。じゃないと本当に天罰が下るわよ!」

「わ、ワリィ、けどこれは不幸な事故であって決してワザとじゃない」

「そんな言い訳が通る訳ないでしょ、カズマ、アンタ自分が何をしたか分かってるの?神聖なる女神・アクア様のオッパイを揉んだのよ。これは万死に値する罪だわ」

「まあアクアが女神かどうかは置いておくとして、このゲスには何らかの罰が必要ですね」

 めぐみんが自分とアクアの胸元を何度もチラチラ見ながら不満そうな顔をする。めぐみん、そんなに心配するな。未来は無限大!成長の可能性だってまだまだある!めぐみんはまだ十四歳なんだからこれからだぞ!無論声に出して言おうものならめぐみんが怒りに任せてこの場で俺に向かって爆裂魔法を放つのはミエミエなので黙っているとダクネスが

「馬車から身を乗り出しつつ背後から胸を鷲づかみにされるだなんて・・・カズマ、お前は天才か!?」

「そんな訳ないだろ!ソフト・オン・●マンドの人達に謝れ」

「あの~、すみません。お客さん方・・・」

 喧々諤々と言い合っている俺達に向かって馬や馬車の状態を確認し終わった御者が話し掛けてきた。

「クラッチの町までお送りするって話でしたが、もう勘弁して貰えませんか。これ以上進むとまた同じ目に合っちまいますよ」

「え~、カズマにオッパイ揉まれて、その上クラッチまで歩けって言うの。どんだけ罰ゲームなのよ」

「よせアクア!彼は御者であって冒険者ではないのだ。我々は彼に無理を言って良い立場の人間じゃない」

「ダクネスの言う通りですね。クラッチの町まではあとどれくらいなんですか?」

「ここからなら歩きで三・四時間ってとこです。もちろん領主さまから先にいただいた運賃はお返ししておきますので、申し訳ありませんがここで勘弁して下さい」

「そこまでする事はない、よくここまで送ってくれた。父には私から言っておくので受け取った金は返さなくていい」

 そう言ってダクネスが馬車から降りると俺を含めた三人も馬車から降りてアクセルの町に引き返していく馬車を見送った。

「魔王軍の幹部は一体何をしたんだ?」

「結界でも張っていたのでしょうか、それなら周りに敵の気配を感じさせずに済みます」

「けど、そんな邪悪な結界が張ってあれば私が気付かない筈はないわ。魔法の力を使ったものじゃない事だけは確かよ」

「魔法じゃない、けど敵の気配もない・・・カズマ、何か思い付かないか?」

「そうですね、カズマなら卑怯な手を魔王の手先以上に思い付くでしょうから考えてみて下さい」

「まさが馬のオッパイにフリーズをかけたんじゃないでしょうね」

「なんで俺がそんな命がけのイタズラをしなくちゃいけないんだよ。全く無茶苦茶言いやがって・・・けど俺の敵感知にも何も引っ掛からなかったし、どう考えても周囲に敵がいた様には思えないんだが」

「やはりクラッチに行ってみないと解らない様ですね」

 めぐみんの言葉を合図に俺達四人はクラッチに向かって歩き出した・・・アクアって案外、着やせするタイプだったんだな・・・俺は三人から見えない様に手をワキワキさせながら歩いていた。

 

 

「ここがクラッチの町でいいのか?」

「あ、ああ・・・間違いない・・・外壁の入り口にそう書いてあるだろ」

「確かに書いてはありますが・・・これは一体?」

「なんで?なんで、こんなに人がいないの?」

 俺達がクラッチの町に到着した時にはすっかり陽が傾いていてクラッチの町の外壁や中の建物が夕日に赤く染まっていたのだが不思議なくらい、不自然過ぎるくらいに人っ気が無い。そもそも人が暮らす上で発する音そのものがしなくて吹き抜ける風の音が一番大きく響いている状態だった。四人揃ってクラッチの町の中に入り街中を歩いていても本当に物音一つしない。更の驚いたのが俺達はクラッチの町が魔王軍の幹部に占領されつつある事から街中で相応の戦闘があったのではないかと想像をしていたのだが、その痕跡が全く無い。例えば窓の格子戸に突き刺さった矢、例えば破損して捨て置かれた武器や防具、例えば焼け焦げたり壊れたりした建物、そして例えば・・・戦闘で命を落とした人やモンスターの遺体。そんなモノが全く無く只々、町から人が消えてしまった様な感じだった。

「魔王軍の幹部はどうやって、この町をこんな風にしてしまったのだ?」

「大がかりな魔法を使った余韻すらありませんね」

「俺の敵感知は全く反応がないがアクアは何か感じるか?」

「全然!魔法はモチロンだけどアンデッドや悪魔の類の存在も感じないわ」

「これじゃあ話を聞く事も出来ないし、下手したら宿も見つけられないかもしれないぞ」

「それは困りましたね。敵の真っただ中で野宿をする訳にもいきませんし」

「ゴハンは?お酒は?どうしようカズマ」

「とにかくこの町の領主のところへ行ってみようぜ。ダクネス、お前は領主の屋敷の場所知ってるよな」

「ああ、ここからそれほど離れていない。まずは領主に話を聞こう」

 

 人がいない夕焼けの町を四人並んで歩いていても建物から人が出てくるのはおろか、外の様子を見る為に窓を少しだけ開ける音すらしない。本当にどうなってんだ?そうしてダクネスの案内で小高い丘の上にある領主の屋敷に辿り着いたのだが

「こ、これは?」

「何故、屋敷が板塀で囲まれているのだ?」

 ダクネスの実家とそれほど変わらない大きな屋敷であり、その周囲には鉄棒でできた立派な柵もある。だが、その立派な柵を更に取り囲む様に隙間なく木の板の塀が立っていた。

「普通に考えれば魔王軍の攻撃から屋敷を守っているのでしょうが・・・板塀なんかより元々ある柵の方が頑丈だと思うのですが」

「それにこの板塀、全然攻撃を受けた様子がないわよ。凄くキレイなまま」

「このままじゃラチが開かないな。ごめんくださーい!」

 俺は板塀の切れ間という感じの門に向かって大声を掛けると中から

「だ、誰だ?もう、この町には誰もいない筈だぞ」

 ひっ迫し、怯える様な男の声がしてきたので

「いや、俺達はアクセルの町から来た冒険者なんですけど」

「アクセルから?ひょっとしてサトウカズマさんですか?」

「あ、はい。そうですけど」

「なら仲間の三人、特にダスティネス家の令嬢もいらっしゃるのですね」

「ああ、ダスティネス・フォード・ララティーナはここにいるぞ。父からの依頼でここまで来たのだ、領主殿に会わせていただきたい」

「お、おい、みんな助けが来てくれたぞ。領主さまにすぐ報告しろ。少しお待ちください、すぐ門を開けますから」

 板塀の中がにわかに騒がしくなる。どうやら随分と追い詰められた状態の様だ。板塀の門が少しだけ開くとその隙間から先程の声の主と思われる人間が俺達の様子を観察する。どこまで警戒し切ってんだよ?しかし、その疑わしい視線がダクネスに辿り着くと門は一気に開いて中からうれし泣きをしながら男が飛び出してきた。

「ダスティネス卿、お久しぶりでございます。執事のハーメルンです」

「ハーメルン殿、お久しぶりです・・・しかし随分とやつれた様子で」

「・・・それもこれも全てあの忌まわしい魔王軍の幹部、エライオンのせいでなのです。どうぞ、お入りください。領主様が皆様をお待ちです」

 そうして俺達四人は板塀の中に入れて貰えたのだが、門を閉めるなり他の使用人なのだろうか、数人の人がスコップを使って門扉の下の隙間の部分に土を盛り始めた。そこまで外界とこの中を遮断する必要があるのか?それに周りを見回してみると長く続く板塀の近くには水が入った桶や食器、更にはヤカンや鍋に至るまでが沢山並べられていた。あんなモンどうするんだ?屋敷の中に入っても使用人とは思えない人間、それこそ町で暮らす普通の人達が疲れた様子で廊下に座り込んでいて、まるで昔、映画で見た野戦病院の様な感じだった。しかしそんな疲れた様子の人達は俺達を見るなり、膝をついて手を合わせて期待の視線を送ってくる。

「――サトウカズマ様、どうか、どうかクラッチの町をお救い下さい」

「――もう、あなた達だけが頼りなんです」

「――お願いします、エライオンを倒して下さい」

 熱烈歓迎というより祈る様な懇願があちこちから聞こえてくる。俺達はそのまま屋敷の二階にある部屋に通されたのだがそこは天蓋付きのベッドがある寝室・・・なぜ寝室?これだけ広い屋敷なら応接間などの部屋は沢山ある筈なのに?すると部屋の奥、窓際に座っていた男が立ち上がり、こちらに振り向いた。

「おお!ダスティネス卿。よくぞお出で下さいました」

「シルフィール卿、お久しぶりです。みんな、こちらの方がこのクラッチの領主であるシルフィール卿だ」

 見れば少々太り気味だがダクネスの親父さん同様に口ひげを蓄え、その肩書に相応しい貫禄の持ち主なのだが、やはり疲れ切った様子でダクネスとの挨拶や握手を済ませるとヨロヨロと言った感じでめぐみん、アクアと握手をしていき最後に俺と握手すると

「あなたがサトウカズマ様、魔王軍の幹部を四人も倒し、あのデストロイヤーまで破壊したという人物ですな」

「はぁ。まあ、どれもこれも俺一人の力じゃないんですけどね」

「しかし噂ではサトウカズマ様の力がなければ勝利はあり得なかったと聞き及んでおります。どうか・・・どうか何卒、この町を蹂躙する魔王軍幹部・エライオンを倒して下さい」

 俺と握手する手がいつの間にか両手になり領主は俺に向かって頭を下げ、痛い程に手を握って来た。領主というこの町で一番偉い人間が一介の冒険者風情にこんな風に頭を下げるなんて本当に何が起こっているんだ?

「この町で一体何が起こっているんですか?戦闘の跡もない、魔法を使った様子もない、敵の存在も感じない、そして町はもぬけの殻。エライオンって奴は何をしたんですか?」

「驚かれるのも当然でしょうな。私とて貴族の端くれ、魔物との戦闘については一通りの事を知っているつもりでしたが・・・あのエライオンは今まで見た事もない力を使うのです」

「見た事ない力?魔法やスキルではなくて?」

「奴のあの力のせいで町の主産業である畜産業は壊滅的な打撃を受け、その上、流通に必要な馬たちが町から逃げ出してしまい。挙句に私が守り切れなかった街の住人たちは奴の力に嫌気がさして町から逃げ出してしまいました。今、この町は孤立無援状態なのです」

「詳しく話を聞かせて下さい。じゃないと対策を考える事も出来ません」

「一刻も早くエライオンを倒していただきたいのは山々ですが、長旅でお疲れでしょうし、今宵は私自身も屋敷周りの番をしなくてはならないので今夜は食事を摂ったらお休み下さい」

「え!領主自ら屋敷の周りの番をするんですか?」

「エライオンは夜襲をかけて来る事が多いので今、屋敷にいる人間たち皆で交代の寝ずの番をしているのですが・・・流石に人数が足りなく、領主自らこのような事をしている次第でございます」

「どんな攻撃を仕掛けてくるんですか」

「身の毛もよだつ、それこそ口にする事さえはばかられる様なえげつない攻撃で・・・その上、相手には剣や弓などが一切効かず、魔法での攻撃も大きな成果を出せておりません」

「じゃあ、どうやって防御をしているんですか」

「水です。奴らは水が苦手なので板塀の外側に水をかけておくと近寄れなくなります」

「だから、あんなに沢山の桶とか鍋が出てたんですね」

「しかし井戸の水も残りが少なく・・・今まさに万策が付き様としていたのです」

「じゃあ、せめて水だけでも。アクア、お前の魔法で井戸の水を一杯にして、屋敷の周りの板塀とその周辺を水浸しに出来るか。言っておくけど全部が流されたり壊れたりする程の水は出すなよ」

「簡単よ、じゃあ取り敢えず今夜はそれだけやって休むとしましょうか」

「本当でございますか?アクサ様と申されましたな、アーク・プリーストの水ならば、きっと皆を元気づけられるでしょうし、敵も怯む事でしょう。ではアクア様は私と一緒においで下さい。他の方々はハーメルンが案内をさせていただきます。ただ、今は屋敷の近辺に住む住民たちが避難してきている為に十分なもてなしは出来ません。では明日の朝、状況を説明させていただきます」

 そうして領主さんはアクアを連れて部屋を出て行き、俺、めぐみん、ダクネスの三人はそれぞれ小さな部屋に案内された。部屋の広さは六畳間程度、ベッドはなく毛布が二枚と枕があるだけで他には何も無いガランとした部屋、少し驚いて部屋を見ていると執事さんが

「この様なもてなししか出来なくて誠に申し訳ございません。しかしながら現状ではおいで下さった皆様に個室を用意するだけで精一杯で・・・何卒ご容赦下さい」

「いえ、気にしないで下さい。俺は冒険者になったばかりの頃は馬小屋で寝泊まりしてましたから」

「ありがとうございます。では何かご用があれば一階にいる人間なら誰でも構いませんので、お申し付け下さい。皆には領主様から四人に対して出来るだけの事をする様にと

言ってあります」

 そう言い残して執事さんは部屋から出て行ってしまった。俺は一枚の毛布を敷布団代わりにもう一枚の毛布を掛け布団代わりにして横になった。

「思ったよりヘビーな状況だな」

 事態を早く解決しなくてはと思うものの状況が把握できなければアレコレ考える事も出来ないので俺は目と思考を閉じて眠りについた。

 

― 続く ―

 


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