この素晴らしい世界に祝福を! オラ隣町さ行くだ   作:Z-Laugh

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pixivで投稿した作品をアップさせていただきます。お時間が許せばお読みください。


第一話

 はぁ~~、テレビもねえ、ラジオもねえ、車は全く走ってねえ。ディスコもねえバーもねえゲームにパソコン、ネットもねえ・・・あるのはどうでもいい事で忙し気な女三人だけ、

「アクア・・・お前何やってんの?」

「見ての通り、ゼル帝にゴハンあげてるのよ。見ればわかるでしょ」

「めぐみん、お前は?」

「ご覧の通り、ちょむすけにゴハンをあげています」

「・・・ダクネス、お前は何をやっているんだ?」

「うむ、父の仕事の手伝いだ。家でやっているだけでは片付かなくてな」

「カズマこそ何もやってないんでしょ。だったら、さっさとゼル帝の家でも作ってあげてよ」

「カズマはそんな事より私がちょむすけにゴハンをあげ終わったら一日一爆裂のお散歩に付き合って下さい」

「暇なら少し書類の整理を手伝ってくれないか。ああ、それともそれ位の仕事をするのにいつまでかかっているんだと口汚く罵ってくれても・・・ハァハァ」///

 今、俺達は冒険パーティーには程遠い状態になっている。まあ確かに二十億エリスをいう大金が手に入るし無茶な冒険なんかしなくても充分食っていける。それになにより俺自身が働かずに引き籠っていられるのだから決して今の状態が悪いと言っている訳ではない。

「そうじゃなくて、俺は退屈なんだよ」

「だったら、ゼル帝の家を作ってあげてよ。ホントさっきから本当に何を言っているの」

「全くカズマは我儘ですね。あと少しでお散歩に連れて行ってあげますから、もう少し我慢してて下さい」

「私が一人で書類仕事の残業をしているところに、この程度の仕事も出来ないのかと髪を掴んで皮肉を言い、私の顔に唾をする・・・ああ、考えただけで♪」///

「違う違う!そういう事じゃない。俺が言ってるのは金と時間があるのにやる事がなくて、つまんないって言ってんだよ」

 三人は俺の言葉を聞くと一斉に顔を見合わせてから小首をかしげ、三人を代表するようにアクアが口を開いた。

「だから、さっきからアレコレ提案してあげてるでしょ」

「俺が言ってるのはそういうんじゃなくて、娯楽的なモノ、レジャー的なモノの事を言ってるんだ。ここにはゲームやネットやテレビも無いからスゲー退屈なんだよ」

「ゲームならボードゲームがあるではないですか。爆裂散歩の後にやってあげてもいいですよ。ねっととてれびというのが何なのかは分かりませんが」

「書類の束で私の頬を叩き、胸ぐらを乱暴につかむとブラウスのボタンが弾けて飛んで私はあられも無い姿に・・・ううう・・・なんと言う燃えるシュチュエーション・・・カズマならこの手のセクハラは容易いモノだろう・・・」///

「俺にはその手の事をレジャー感覚でやる趣味はねえよ」

「じゃあカズマは何がしたいの?ここにはネットもゲームも無い事なんて最初から分かってたでしょ」

「それは分かってたが、だったらその代替品が必要だろ」

「代替品?」

「クエストだよ。ギルドに行って簡単なクエスト受けようぜ。適度に冒険心が満たせる程度の簡単なヤツでいいから」

 確かに俺はこの世界に転生するにあたってアクアからこの世界がゲームの様な剣と魔法の世界だと聞いていたし、モチロンその言葉からテレビやゲームが無い事は理解していた。けど、それに変わる冒険が待ち構えている世界だと思ったからこそ転生をしたんだ。紆余曲折はあったものの俺の幸運がものを言ったのだろうか金には困らない状況だ。だとしたら後は俺の遊び心を満足させるツールなり手段なりが俺の生活を充実したモノにする為に必要となってくる。しかし、この世界は日本に比べ機械文明が大幅に遅れているし、流石に鍛冶スキルや料理スキルだけでそれに変わる物を製作する事は出来ない。紅魔の里から持って来たゲーム機があるにはあるが、あんな古いソフト一本だけでは俺のゲーマー魂は満たされない。

「珍しい事もあるわね。カズマが自らクエストをやりたがるなんて」

「そういうことでしたか・・・それなら爆裂魔法が使える雑魚モンスターを大量虐殺出来るものにしましょう」

 アクアとめぐみんが俺の意見にほぼ了解と思える返事をしてくれたで安心したのも束の間、頬を赤らめてハァハァ言っていた痴女ネスがハッと我に帰り困り顔で

「カズマ・・・それはちょっと」

「ダクネス、俺がお前のして欲しがっているプレイに付き合わないからって、そんなに不機嫌そうな顔すんなよ」

「そ、そういう事じゃない!私はお前がこの町における自分の立場が分かっていないと言っているんだ」

「自分の立場?俺は見習い冒険者が集まる町・アクセルの駆け出し冒険者で最弱職だぞ」

 ダクネスはやっぱりか!と言わんばかりに溜息をついてから

「確かにカズマは最弱職の冒険者だ。しかし、この町でのお前の評判は、すでに変わって来ているんだ」

「なんだよ。また俺の事をカスマとかクズマとかゲスマだと罵りたいのか?」

「そうじゃない。お前が冒険者でありながら魔王軍幹部の撃退と大物賞金首の排除をやってのけたせいで町のみんなが冒険者というクラスの立場・あり方についての認識を改めつつあるんだ」

 なるほど、確かに俺がここに来たばかりの頃は冒険者というクラスは人に話せば馬鹿にされるばかりで初対面の人間にも見下されて上から目線でモノを言われたけど、今はそんな事はないもんな。

「そんな立場のカズマとそのパーティーが初心者向けのクエストを受けるというのは強者が弱者の仕事を取り上げている様なモノなのだ」

「ああ・・・そういう事か」

「そりゃ、ギルドの連中も周りの冒険者たちも私達が簡単なクエストを受ける事を駄目とは言わないだろうが、いい顔はしない筈だ。もっと自分のレベルに合ったクエストを受けろというのが皆の本音だと思う」

「しかし・・・強力なモンスターに殺されたりしたら」

「それなら私がリザレクションで蘇生してあげるから心配ないわよ、カズマ」

 俺は無理しないといけない様なクエストはやりたくないんだよ。いくら生き返れると言っても、やっぱり死ぬのは嫌だし、エリス様にガッカリ顔をされたくないし、クリスに嫌味を言われたくもない。あの女神さま・・・本当に一粒で二度オイシイよな・・・いろんな意味で。なのに、そんな俺の気持ちを全く解しないアクアが宴会芸並みに簡単に俺を生き返らせる宣言をする。どうして同じ女神なのに何でここまで空気を読まない事が言えるんだ。

「他人事だからって簡単に言ってんじゃねえよ。こんなにコロコロ死んでたんじゃ次は何度も生き返れる特例をエリス様に聞いて貰えないかもしれないし、俺自身が生き返るのを嫌になるかもしれないぞ」

「・・・カズマは今の生活に不満があるのですか?」

 めぐみんが唇と尖らせて抗議をしてくる。上目遣いのロリっ子というのは中々の攻撃力だな。これって立派なスキルだろ。まあ、確かに金と時間があって引き籠っていても文句を言う家族もいない。ある意味、最高の状況だからめぐみんの言う事には反論の余地もない。

「そ、そうだぞカズマ。これ程の美女三人と一緒に暮らせるというだけでも復活の意義はあるのではないか」///

「ダクネス・・・要するにお前は俺に高難易度のクエストを受けろって言いたいのか」

「まあクエストを受けるつもりがあるのであれば、という話だ。少なくともゴブリンやジャイアント・トードを狩る程度では困るぞ。領主の娘が所属するパーティーが不公平な行動を率先してする訳にいかないからな」

「・・・人間、偉くなるモンじゃないな」

 もう家にいるのが嫌になってきた。ちょっと気晴らしでもと思いながら玄関に向かうと

「ちょっと、カズマどこに行くの?ゼル帝のおうちはどうなるの」

「散歩に付き合ってくれないと街中で爆裂魔法が炸裂する事になりますよ」

「ゼル帝の小屋は自分で何とかしろ。それと散歩はアクアかダクネスにでも付き合って貰えよ」

「カズマ、勝手な事を言うな。父が領主になってから何かと忙しくて、まずは目の前の仕事を終わらせないと、とてもじゃないがめぐみんの散歩にはつき合えない」

 三人の不平不満を背に受けながら俺は家を出た。かと言ってどこか行く当てがある訳じゃない。それがある位だったら、あの三人にあんな愚痴をこぼしたりせずにサッサとそこに行っている。民家しかない通りから商店街に出ると既に多くの買い物客で賑わっていた。けど既にこの町に来て一年以上が経っているので特に目新しさも感じない。店先を冷かしてみたところで大した物がない事は分かり切っている。

「あ!」

 商店街を歩いていると横にそれる路地の先に人間のふりをしてこの町で暮らしているサキュバスが経営する店が見えた。そう言えば、あれ以来あの店はご無沙汰だな。男の精気を糧にする悪魔・サキュバスがムラムラの溜まった貧乏冒険者を相手にお手頃価格でいい夢を見させてくれると共に冒険に支障が出ないレベルで少々の精気を吸い取ってくれる、この町の性的犯罪抑止の安全装置と言っても過言じゃない店。せっかく金もあるんだし・・・と考えてみるものの、ああいう店って退屈しのぎで使うモンじゃないんだよな。まして朝っぱらから利用する気分にもなれない。

「結局、ここしかないのか」

 一人寂しくそう漏らしながら俺は冒険者ギルドの建物の前に立っていた。扉を開くと朝っぱらから酒をかっ食らう者、受付カウンターで何やら話している者、そして・・・募集中のクエストが数多く貼ってある掲示板前には明日の一攫千金を夢見つつも今日の生活費を堅実に稼ごうという者が大勢群がっていた。折角来たんだからと思いながら掲示板に近づいてみると

「お!カズマじゃねえか」

「ダストか、クエストはどんな感じだ?」

「ボチボチって感じかな。結構いいのが揃ってるぞ」

 下はお約束のジャイアント・トードやゴブリンの討伐に始まって上は失敗の履歴を表すドクロマークが多数並ぶ難易度の高いモノまで、中々の数のクエストが掲示板に貼り出されていた。けど、よくよく考えてみると俺ってクエストを受けてちゃんと達成した経験が凄く少ないんだよな。流れで大物を討伐してしまったが実は着実に冒険者としての経験を積み重ねてレベルアップをしている訳ではない。だから掲示板を見てても今一つ自分に合ったレベルのクエストというモノがピンと来なかったりする。そんな気持ちで掲示板を見ているとダストが一枚のクエストを掲示板から剥がし取る。

「ま、取り敢えずはジャイアント・トードで食いつなぐか」

「いいのか?テイラーたちが簡単すぎるって文句言うんじゃないのか」

「いいんだって。このところ祭やなんやで浮かれてすっかり体が鈍っちまったからな。勘を取り戻すにはこれ位がいいのさ」

「なるほどな」

「カズマはどれにするんだよ?お前のパーティーだったらかなり上のクエストも受けられるだろ」

「そんな訳あるかよ。あのメンツだぞ」

「けどよ、なんだかんだ言ってカズマがいるとあの三人もちゃんと噛み合って動けるしもうカエルや小鬼なんて相手にしなくていいじゃねえか」

「・・・やっぱり、そう見えるのか」

「なに悩んでんだか知らねえけど、サッサと決めないと祭の後でみんなフトコロが寂しいし手頃なクエストなんかすぐ無くなっちまうぞ」

 そう言いながらダストはクエストの書かれた紙を持って受付に歩いて行ってしまった。俺はと言えばもう掲示板を見る気もしなくて結局、ギルド内にある酒場で飲んだくれてしまったのである。チクショー、これじゃアクアが言っていた天国と変わらねえじゃねえか。退屈を紛らす方法も無い世界に俺はうんざりしながら盃を重ねてしまった。

 

 

「・・・てよ。ねえってば」

「・・・んん」

「起きてってば!こんな所で寝てるとオサイフ盗まれちゃうよ」

「ん~~~、誰だよ」

「私だよ、クリス。どうしたの?こんな陽の高い内からデキ上がっちゃって」

 机に突っ伏して寝ていた俺をゆすって起こしたのは銀髪のショートカット、紫の瞳、控え目な胸が目印のクリスこと女神エリス様だった。呆れた様な表情で両手を腰に置いて溜息を一つつくとクリスは俺の正面に座る。

「ホントにどうしたの?何か嫌な事でもあった」

「・・・クリスに会えなくって寂しかったから、つい飲み過ぎちゃったんだよ」

「! ・・・き、君って本当にためらいなくそういう事を言えちゃう人間だよね」

「そりゃそうだよ。極めて本気だもん」

「もう・・・そういう事を何度も言うと本当にダクネスとめぐみんにプロポーズの事と一緒に今の事も話しちゃうよ」///

「別にいいよ、そんなドタバタもいい暇つぶしになりそうだし」

「ホントにどうしたの?」///

 俺は頬を染めながらも俺の事を心配してくれるクリスに今の自分の悩みを正直に打ち明けてみた。まあ、贅沢な悩みって事で優しく諭されるに決まってるんだけど、クリスの話を聞く態度が余りに真摯であった為に俺はグチグチと話を続けてしまった。流石は本職、コレだけでも癒しになるな。

「ふ~ん、そういう事か。なるほどね、日本から転生した君にとってはかなりつらい事なんだろうね」

「分かってくれます。こんな事ならこの世界じゃなくて天国に生まれ変わった方が良かったかもしれませんよ」

「コラコラ、そういう事を言うもんじゃないよ。人はまず自分の目の前の事に一生懸命にならないと駄目。神様はちゃんと見てるんだからね」

「はい、それは今、痛い位に自覚してます」

「それに・・・君がこの世界に転生してなきゃ私は君に会えなかったんだよ」

「・・・嬉しい事を言ってくれますね、エリス様。やっぱり俺と結婚しませんか」

「酔っぱらってのプロポーズなんて最低だよ。それより、そんなに退屈だったらいい話があるんだけど」

「・・・お断りします」

「まだ、何も話てないじゃん」

「どうせ、また神器の回収の事でしょ。俺は今、無茶をする気にはなれないんですよ」

「けど退屈って無茶じゃない事じゃ紛らせないよ」

「・・・」

 そりゃ確かに自分の想定の範囲内の事なんかで退屈は紛らせないだろう。何が起こるか分からないからドキドキするんだしワクワクもする。日本にいた頃にやっていたネトゲだって実はリスキーなほど面白かったしクリアした時に一層、感激したりしたもんな。

「隣町に行ってみない?」

「隣町?」

「うん、今回は神器絡みじゃなくてね。ちょっと確認したい事があってさ。もし暇だったら隣町のクラッチまで付き合ってくれない」

「隣町ってクラッチって名前なんですか。俺、初めて知りましたよ」

「見聞を広げるだけでも退屈は紛れるよ。それに今回の調査は私一人じゃかなり危険なんで力を貸して欲しいんだよ」

「一体何なんですか?」

「引き受けてくれるなら話すけど・・・どうかな?」

「それはいくらエリス様でもズルいですよ。それじゃ話を聞いたら断れないじゃないですか」

「・・・実はさ・・・」

「いやいや、俺はまだ引き受けると言ってませんよ」

「・・・昔の同級生が住み付いたらしんだよね」

「は!?」

「私と同じ位の力を持ってる子だから、その力に邪魔されて天界から様子を見るだけじゃ、よく解らなくてさ」

「ちょ、ちょっと待って下さいよ、エリス様。エリス様の昔の同級生って・・・それって、やっぱり・・・」

「うん、女神」

「なんで女神が隣町に? ・・・あ!ひょっとして俺みたいにこの世界に転生した奴がその時の特典として女神を貰ってきちゃったとか」

「君ってアクア先輩をそんな理由でこの世界に連れて来ちゃったの!?」

「まあ、色々ありまして」

「・・・けど今回はそうじゃないみたいなんだよね。だからお願い!力を貸してくれないかな」

 いつになく必死な様子で俺に頼み事をしてくるクリス。けどエリス様の同級生の女神がなんでまた隣町なんかに?しかも、その理由がハッキリ分からないもののエリス様にはどうやら大よその見当はついている様だ。どうやら、あまり良くない理由で女神が隣町に住み付いたみたいだ・・・どう考えてもロクな事じゃないな。

「前向きに検討しますので後日返事をさせて下さい」

「それって断るための決まり文句だよね。いいじゃん、今、暇なんでしょ」

「暇だからって隣町のトラブルに首を突っ込む気はありませんよ。いっそ神器の回収の手伝いの方が気楽に引き受けられる位です」

「どうしてもダメ?」

「・・・少し考えさせて下さい」

 俺はそう言って席を立った。申し訳ないけど今のクリス、いやエリス様は何やら必死過ぎて話を詳しく聞くのが怖い気がする。

「もし、引き受けてくれる気になったらここか教会に来て。待ってるよ」

 そんなクリスの必死の声を背中に受けながら俺はギルドを後にして夕焼けに染まったアクセルの町を家に向かってトボトボ歩いた。

 

― 続く ―

 


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